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民謡は語られる
この風は何処に吹くのか。
何処に向かって吹いているのか。
それは何人も知りはせず。
吹くままに野を駆け、河を昇り、丘を飛び越え、山を滑り降りていく。
その先に誰が待つとも知らず。
風は自由に吹く。
時に泣く子の頬を撫で、時に居眠りをする青年を擽り、時に長話をする老婆の肩を叩く。
誰もが空を見上げ、誰もが振り返る。
けれどそこに風は居なく、誰とも気づかないまま。
風は吹く。
行き先を誰にも告げずに。
人を掻き分け、民家を掠め、馬車をからかい、鷹を追い越す。
止まりのない旅は延々と続く。
野を駆け抜けたことも、小魚と戯れたことも、芝の香りを嗅いだことも、木々をすり抜けたことも風は覚えている。
幾重も繰り返す旅路に終わりも、同じも無い。
この風は何処に吹くのか。
何処に行き、何処に運ばれるのか。
この風はそれは知らない。
行きたいところに好きなように、ただただ吹くのだ。