参・序曲『コン‐ブリオ』 其之壱
草木も眠る丑三つ時・・・よりも若干、いやかなり早い8時頃にアベック・・・もとい舜兵と月見は火金山を降りた。
さすがの舜兵も6時頃には月見のプレゼントである名刀、龍之鱗のお陰も有ってか、手と腕で作った輪ぐらいの太さの木の半分ぐらいまでは斬れるようになっていた。
『半分ぐらいまでは』とは言ったが、刀でこれなのだからかなりスゴイことである。
「さぁ舜クン、今日の特訓の成果を見せてもらうわよ。」
「でも鬼ってどこにいるのさ。」
「鬼の居場所は上層部からのメールで確認するの。GPS付きで。」
「・・・・・・なかなか現代的だね。
って、鬼闘士に上層部なんてあるの?」
「ええ、陰陽寮からの指示が受けれなくなった鬼闘士は自分達で鬼の居場所を知るしかなくなった。
そこで鬼闘士のみで運営される組織、鬼闘幇団が設立されたの。」
「で、その鬼闘幇団ってのはどうやって鬼の居場所を?」
「お父様の話だと特別な神道を利用するらしいわ、神道全300種類に含まれていない神道をね。」
「ふ〜ん。」
プルルルルルルルル プルルルルルルルル
「どうやら、お出ましのようね。」
そう言うと月見はケータイを取り出し、メールを確認し始めた。
「近いわね、ここから50メートル西、井崎総合運動公園に出現よ。」
井崎総合運動公園とは、月見や舜兵の住んでいる井崎市にある運動公園である。
「走っていくの?」
「さて、もう一つ舜クンに教える事があります。
それは移動術『虚の廻廊』よ。」
「とみてのかいろう?」
「そう、時間が無いから早速始めるわ。
まずは自分の足下に意識を集中させて、そこに神力を集中させるの。」
「はーい。」
「神力が集まったら自分が浮いているイメージを描くの。
そしたらほら、こんな風に。」
すると月見の体は宙に浮き始めた。
「そうそう、キチンとどれだけ浮上するかもイメージしないと宇宙まで飛んでっちゃうわよ〜。」
「へ〜い。」
月見は本当に『何でもない』ように宙に浮いて見せたが、正直とんでもない事だ。
ただ、鬼闘士にとっては当然の事らしい、その後を追うように舜兵もフワフワと浮き始めた。
「おぉ、浮いてる浮いてる〜。」
子供のようにハシャぐ舜兵。
「浮くのが楽しいのは分かったから、早く行くわよ。」
それをたしなめる月見。
「あ、虚の廻廊がきちんとできたらあとは陸の上みたいに普通に走ったり歩いたりできるわ。一々イメージしなくてもOKよ。」
「はいはーい。」
「じゃあ行くわ、死なないでよね。」
「了解。」
かくして二人は井崎総合運動公園に向かった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
運動場の真ん中あたりにそれは居た。
ただ、音楽室の時と違うのは鬼がまるでトカゲのような姿で、体長は3メートル程である。
「あんなのも鬼なの?」
「鬼の姿は多種多様よ。あんなのもいればお、女の人のあ、あ、アソコみたいなのも居るらしいわ。」
なんなとなく普段より声がうわずって、顔を赤らめている月見。
まぁ、内容が内容なので仕方ないと言えば仕方ないだろう。
「ふーん。さ、早く刀出して。」
一向にそんなことには意を介さない舜兵、鈍い・・のだろう。
「・・・・・・・はい。」
ちょっと不機嫌な月見。顔を真っ赤にして声をうわずらせながら言ったことを無視されたのが少しきたのだろう。
「よし、戦闘開始だ。」
「今日は思いっきり全力を出しなさい。鬼の胃袋はまた明日でも十分だし。」
「了解。」
鬼に一直線に向かう舜兵。刀を鞘から抜き、戦闘体制に入る。
「まずは、小手調べ!」
大上段に刀を構えて接近し、思いっきり振り下ろす。
「食らえぇぇ!!」
が鬼はとっさに反応し、舜兵の一撃を避ける。
「まだまだぁ!
神道火印の拾参、連火鎗!!」
とっさに避けた方向に素早く向き直り、連火鎗を放つ。
炎の鎗は容赦なくトカゲを襲う。外れた鎗が地面に当たると地面が爆発し、土埃で周囲の視界を遮る。
「やっべ、アイツが見えなくなっちまった。」
グオォォォォォォ!!
叫びと共に現れたのは鬼の巨大な口。舜兵一人は簡単に飲み込めるだろう。
「げ・・・・・
なーんちゃって!千載一遇の大チャンス到来!」
鬼の口が舜兵を飲み込む瞬間、舜兵が消える。
現れた場所は鬼の上空。刀を逆手に持って落下する。
「おぉぉりゃぁぁぁ!」
鬼は視界から消え、上空に現れた舜兵に気づいていない。まさに千載一遇の大チャンスである。
ドグサッ
肉に刃物が突き刺さる感触、手応えはある。
しかし舜兵が突き刺したのは鬼の尻尾。
この鬼はトカゲの姿をしている。
鬼の本体は舜兵からやや距離をとった場所に居る。
舜兵は見事に外した。
千載一遇の大チャンスは失敗に終わった。