壱・運命の転機 其之四
さぁひとまずお膳は整った、どの料理から手を着けるかは男次第。
「きとうし・・・・・何それ?」
「詳しい説明は後、それより今はさっきの奴を!」
「さっきの奴ってあの火が出た・・・」
グォォォォォォォォォォォ!!
襲いかかる凶牙、狙いは素人当然の各務であるのに間違い無かった。
「しょうがないわ!
神道 火印の五
火牢!」
言の葉は火となり鬼を包み込み、やがて炎の牢屋となる。
「・・・・・すげぇ・・・」
「暴れている鬼にこの術は時間稼ぎにしかならないわ。
よく聞いて、あなた、霊感は強い?」
「さっぱり、有るわけ無いよ。」
「ふぅ。よく考えて、あなた現にこの鬼が見えてるでしょう?
つまりあなたには霊感はおろか、鬼闘士の力『神力』が備わっているの。」
いきなりの宣告、霊感なんて今まで無かった。なのに今鬼が見えている。理解出来る方がおかしい。
「鬼闘士の力は先天的な物と遺伝的な物の2つが有るわ、私は後者だけどあなたは前者のようね。
しかも今まで微睡んでいた。
力もちゃんと有る。神道なんてあなたなら簡単よ。」
「そんな事言われたって・・・・」
「論より証拠、さ、やってみるやってみる。」
「ハァァァァ、しょうがないなぁ。
えっと、
しんどうかいんのじゅうさん、れんかそう。」
いつまでたっても火はおろか煙すら起きない。
「はぁ、私が放った連火鎗をイメージして、ほら、もう一回。」
「ハイハイ、えー・・・・」
想像、あの月見が放った連火鎗を。
具現、想像をこの世に創り出す。
各務の手に光が宿る。
紛れもなくそれは炎の光であった。
「神道火印の拾参
連火鎗!」
射出、飛翔、接近、命中、悲鳴、消滅。
終わった。
鬼は消滅し音楽室は静寂に包まれた。
「き、消えた・・・・・」
へたり込む各務、術を放った脱力感と疲労に襲われたのだ。
「無事昇華、成仏の完了ね。お疲れ様。」
月見が各務に笑みを向ける。それは見た者の時を止めるような笑みであった。
「ねぇ月見さん・・・」
聞きたいことは山ほど有る。今聞かねば何時聞けるのだろうか。
「私の事は月見って呼べって言ったでしょ?」
「つ、つ、月見、こ、こ、この事は・・・」
「モチロン他言無用よ。
言ったら連火鎗があなたを襲うはずよ。舜クン♪」
意識はそこで消えた。
各務の自我は深淵に沈んでいくような感覚に陥り、やがて何も感じなくなった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ガバッ!
何かがはねのけられる音と一緒に各務が跳ね起きた。
「あれ、ここ・・・」
「おはよ、舜クン。」
「あぁ、おはよ・・・・って月見さん!?」
「結構狭いのね。アナタの部屋。」
「えーと、何で月見さんが俺の部屋に?」
「明日からは三連休よね?だから舜クンにはミッチリ鬼闘士の特訓をして貰うわ。」
「人の話聞いてます?
何で月見さんが俺の部屋に居るの?」
「この三連休はこの家に泊めさせて貰うことになったの。アナタのお父さんのたっての希望で。」
「あのエロオヤジ・・・・」
怒りが徐々にこみ上げてくる。極度の女誑しなのは重々承知しているがよもや転校したての子にその毒牙を向けるのは腹の虫が収まらなくなるほど腹立たしい。
「安心して、アナタのお父さんはアナタの思ってるほど莫迦じゃないわ。
変なことはしないって念書書いてくれたし。」
「で、どこで寝るの?この家一軒家だけどあんまし部屋無いよ?」
「御心配無く、アナタのお父さんの書斎を貸して貰ったから。」
「そう、じゃ早速隠しカメラ探そうか。」
「・・・・・よっぽど信じてないのね、お父さんの事。」
「トーゼン。あんな女誑しが親だなんて時々信じたくなくなるよ。」
《それにしても、神道をぶっつけ本番で射出できるだなんて・・・。
私だって拾参番までを会得するのに10年もかかってるのに。彼・・・何者?》
まだ話は始まったばかり、月見の疑問の答えが判明するのはまだ先の話。