壱・運命の転機 其之弐
美しい者には棘がある。
だが、彼女の場合、棘の中に美しい者があると言うのが正しいだろう。
伏葉月見転校初日、各務のクラスはすさまじかった。
普段授業中は隠れて居眠りをしている男子達の起床率は95パーセント、このクラス初の快挙であった。
休みともなれば各務がわざわざ席を離れる必要があるほど月見の周りに女子の山ができていたのである。
「スゴイ人気だね、伏葉さん。」
「ホントね。あんな光景をまさか現実で見ることになるとはね。」
クラスの窓際に居る二人。各務と菊地であった。
二人とも自分の席の近くにできた黒山の人だかりを遠い目で見ている。
「男子達もまぁ貴方以外は授業中に寝ることもなくなったし、良い発破なんじゃない?」
「にしても女子ってホント良く笑うし話のネタが尽きないね。感心するよ。」
「箸が転げても笑う年頃とはよく言ったものね。」
「菊地さんはどうなの?」
「へ?何が?」
「おぉーー、とっさの質問に顔を赤らめる梓ッチ、青春やねーー。」
「なっ!?葵ちゃんバカ言わないで!」
「まぁまぁ、そう否定せんの、素直になろーよ梓ッチ♪」
「・・・・・・・・・・」
「で、どうしたの。渡会さん?」
渡会 葵、各務の後ろの席の女子である。
「あっ、そうそう、なんかね、月見ちゃん各務クンに放課後付き合ってくれんか、やって。ラッキーやねー、美少女転校生を転校初日にしてゲッチュ!
なんやから。」
多分『ゲッチュ』はもう死語だと思うのだが、彼女は一切お構いなしのようである。
「にしても何で俺なんだろ、何か知ってる?渡会さんは。」
「さぁ?ただアタシは月見ちゃんにそう伝えるようにって言われただけやから。」
「あっ、そうなんだ。」
「でね、各務クン、次教室移動だよ?」
「ちょっと早く言ってよそれー!!」
キーンコーンカーンコーン
「マズいよ各務クン、急いで・・・って
各務クンの薄情者ーーー!!!」
各務、教室移動にギリギリセーフ。
渡会、教室移動で遅刻、後で教師にたっぷりしぼられたそうな。
めでたしめでたし
『めでたくなーーーい!!』
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「えー、明日からは連休になるので、しっかり遊ぶように。では起立気を付け礼サヨウナラ。」
一息で用件を終えるとそそくさと去っていく担任。何気に遊ぶことを奨励しています。
それから蜘蛛の子を散らすように去っていく生徒達。
これから部活へ行くもの、遊びながら帰る人、様々である。
「で、付き合って欲しいことって何?伏葉さん?」
「私のことは月見って呼んでくれる?」
「それで月見さん用事って何?」
「ねぇ各務君、この学校、怪談ってある?」
「へ?階段なら3階建てだから当然あるけど?」
「そっちの階段じゃなくて、コワーイ話の怪談。」
「あぁ、一つだけなら・・・ね。」
「じゃ、そこに案内してくれる?」
「へ?今なんて仰いました?」
「そこに案内してくれる?」
「なんで?」
「付いてから話すわ。さ、行きましょう?」
「ちょっ・・・・・・ハァ、しょうがないなぁ。」
さあ、運命の歯車は軋み、動き始めた。後は彼ら次第である。