五・舜兵VS月見 其之弐
(ここは・・・・何処だ?)
辺り一面漆黒で、それが縄のように蜷局を巻いていた。
(気持ち悪い、何だか深層心理を見透かされるような感じだ。)
この空間に対する舜兵の第一印象がこれであった。
まるでボールの『核』のような場所に縛り付けられ、周囲全方位から見つめられている、または体中を何か腐った縄のような物が這いずり回っているような感じだ。
(身動き出来ないっ、クソッ何でなんだ!)
縛り付けられているような感覚は有るが、実際は体中を縛り上げられているわけでもないのに体はピクリとも動かなかった。まるで何か別の意志に行動を封じられているかのように・・・・・
刹那、舜兵の目の前の蜷局が消滅し、巨大な梵字が顕れた。
その梵字の輝きは、じわじわと蜷局を侵食し、光が全てを包み込んで行く中、舜兵は気を失っていった・・・・
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「医務室長、彼の様子は?」
一人の青年が白髪混じりの初老の男性に尋ねる。
「初心者にしては神力の量が桁外れな少年ですな。その神力のお陰かは知りませんが、通常よりはるかに早く回復しましたよ。」
「そうですか、良かった・・・・」
ほっ、っと吐息を洩らす青年、ベッドで昏々と眠り続ける少年がかなり気がかりだったことがよく分かる。
「それにしても、あなたが人のことを懸念するとは珍しいですな、時枝殿、この様子だと明日には台風が上陸しそうですな。」
初老の男性・・・医務室長は朗らかに笑いながらそう青年・・・時枝揖基に話しかけた。
「まだ台風情報は地デジでもみれませんよ?一体どこに台風があるんですか?」
時枝も負けじと皮肉たっぷりに医務室長に言葉を返す。
「ほっほっほ、私のすぐ目の前に台風26号ぐらいがいると思ったのだが、違うのかね?」
随分と秋頃に来る台風である。
「私はあまり騒ぎを起こすのは好きではありませんが?
それに26号って・・・・まだ4月ですよ?」
時枝も遅めの台風にツッコミを入れる。さりげなく時枝が言ったが、この話はまだ春も盛りな頃の話である。
「いやいやいやいやいやいや、台風とはこの少年だよ。まだ時期尚早だが、いずれ秋頃にもなれば鬼闘士の世界に大きな嵐を起こすのでは、と思ってね。」
『いや』がかなり多いのはツッコムべきだろうか?
「そう・・・・・ですか。
では私はこれで、代わりに可愛いお嬢さんが外で待ちぼうけを食らっています。私が入室を許可しなかったので。」
入れてやれよ・・・・キトクじゃあるまいし。
「そうですか。では頑張ってくださいね。」
「まぁやれるだけはやりますよ。」
ギィ バタン
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「ねぇ時枝、舜クンの具合は!?」
時枝は医務室から出た瞬間に月見に噛みつかれた。
「離していただけませんか?首が締まっては話せる話も話せなくなりますから。」
噛みつかれたと言うよりも首を絞められたらしい。月見が手を離した時枝の首に少し赤い絞められた痕がある。
「で、どうなの?舜クンの容態は!」
今度こそ噛みつく月見、その剣幕は時枝が少し後退するほど。
「え、えぇそうでしたね。どうやら無事のようですよ、詳しくは中で医務室長に聞いてくださ・・・・・・」
月見がいない、気付いた直後『バタン!!』とドアが壊れそうなほど強力な音がして医務室のドアのチョウツガイが外れていた。
「まさか・・・・・・・本当?」
それは時枝揖基が伏葉月見の『恋』を予感した瞬間だった。だが、
「いや、考えすぎですね。彼女は少し事務に感情を入れすぎますし、『新しい同僚』に対するつきあい方かもしれません。」
と、即否定していたが。
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これから先の話は以上の出来事が起こる1時間程前の話。
力を暴走させた少年と、力を開放させた少女がお互い刃を持って向かい合った話。
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「一体どうするのです?主よ。」
自分達の約25メートル先、今回の『標的』がいる。おそらく『空間の歪み』とは標的の足下、徹底的に黒く、鈍く光った物体を指すのだろう。
そして自らの主は『呪獄』を用いて何かする様子である。
これが焔烏に入ってくる情報のほぼ全てである。
「ねぇ焔烏、憑依の準備、良い?」
ぽつり、と言葉を落とす焔烏の主、月見。
「は、は!いつでも可能です!」
焔烏は一瞬ハテナマークを頭に浮かべたが主の命令は絶対、従わねばならない。
「じゃあ早速、行くよ。」
「承知!」
このやりとりの行われた直後、月見の周囲に演出か定かではないが、一陣の風が舞った。
「我は求めん、迦楼羅の如き神火の力。
出で座せ!焔烏!」
「御意!」
一陣の風が過ぎ去った直後の大音声、焔烏は天に飛び立ったかと思うと急降下で月見の脇差に飛び込み、吸い込まれていった。
まばたきする間もなく、月見の脇差が炎のように赤みを帯び、曲折し、伸びた。
その長さは通常の日本刀程あり、その幾たびも刃の向きを変えた姿はまさにフランベルジュであった。
「行くよ!」
足踏み、腰を下げ、足に力を入れる、その場から消滅。
直後、刃と刃がぶつかる音。
金属音が連なり、響く。イカれた奏鳴曲のように。
「ハァァァァァァ!!」
大上段からの一振り、もとより友人を断ち切る気はない。わざと浅く入れる。
それに呼応するようにわずかに身を後ろにずらし、一撃を避ける。今度は刀身以外がほとんどが黒い刃が切り刻むために身を下から上へ上昇する。
紅き刃は振り降ろされた我が身を利用して、黒き刃を受け止める。
その全ての動きに要する時間は2秒に満たない。
「ハァッ!」
また紅き刃が消えた。
程なく金属音、また紅き刃は消える。
消滅し、現れて刃を振るえばまた、消滅する。
やがて黒き刃の周りには紅き刃の残像が取り巻き、時折刃のぶつかる音が聞こえてくるになる。
「神道 木印の参、鬼縛り!」
突如として動きを止めた紅き刃の声が響き渡る、その言霊はアスファルト舗装の地面に根付く塊根を引きずり出し、黒き刃の四肢を縛り付ける。
「さぁ、そろそろ姿を現しても良いんじゃないかしら?」
おもむろに口を開いた紅き刃・・・伏葉月見の言葉は彼女の新しい友人、黒き刃・・・各務舜兵にかける言葉としてはかなり異質だった。
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