四・明くる日、次なる裁きの者 其之弐
大吾と別れた二人はエレベーターに乗り込み地下へ向かう。
「ねぇ、なんで違うエレベーターに乗ったの?別に同じのでも良いんじゃ・・・・」
「ここのエレベーターって階ごとに行くエレベーターが決まってて、地下6階行きは地下7階には行かないの。」
「ふーん。」
なんだか不便なエレベーターだ。
「さ、着いたわよ。」
その声の後、チーンとドアの開く音がし、舜兵の目の前に何かの秘密結社のモニタールームのような部屋が広がっていた。
「何ここ。」
「メインコンピュータールーム及びシュミレーションルーム。鬼闘士としての実力を測って鬼闘士のランクを決めるの。」
「ランク?」
「非常事態において普段は個人行動をしている鬼闘士はチームで行動するようになるの、そのとき決められたランクによってそのチームでの階級が決まるわけ。
大吾は今日そのランクを上げに来たみたいね。」
「ふーん。」
さっきからまともに話していない舜兵。まぁ、無理無いか。
『おや、誰かと思えば。お久しぶりですね、伏葉のお嬢さん。』
「げ・・・」
思わず顔に似合わ無い事を言ってしまう月見。その目の前には白衣の男が微笑みをたたえて立っていた。
「会って早々『げ・・・』とは、ヒドいものですねぇ。」
「よりによってここで最初に会うのがアンタか・・・・時枝ぁ・・・」
「これはこれは、光栄の限りです。」
「全然誉めてなんか無いわよぉ。」
「失礼、根っからのプラス思考ですので。」
「ぅぅぅぅぅぅぅ。」
大吾をやりこめた月見が全くかなわない。所謂天敵と言うところか。
「? ところで伏葉のお嬢さん、後ろにいるのはボーイフレンドですか?
また何とも意志の弱そうなところがあなたと正反対ですが。」
「違う(わよ)!!」
「そうですか、これは非常に残念だ。ようやく伏葉のお嬢さんに春が来たものかと思いましたが・・・
失礼、自己紹介がまだでしたね。
私はこのコンピュータールームの副室長を勤めさせていただいている時枝 揖基と言います。以後お見知り置きを。」
浅く首を垂れる時枝。
「あ、どうも、各務舜兵です。」
こちらは深く首を垂れる舜兵。
「さて、お二人は今日はどのようなご用件で?まぁ新しい鬼闘士の紹介だと思いますが。」
「な、なんで分かったんですか?」
「見たところ各務君でしたね。あなたはここに登録されている鬼闘士の名簿に記載されていないとお見受けしましたが。」
「あ、はい。そうです。」
「それなら話は早い。早速入団手続きをしましょう。
各務君、あなたはこのカプセルの中に入ってください。」
時枝が指さした先には成る程確かに人一人入れそうなカプセルがある。
「あ、そうだ。ちゃんと武器を持って入ってくださいね。死にますから。」
「はい、がんばってね。」
いつ取り出したのか、月見の手には龍之鱗が握られていた。
「あ、ありがと。」
刀を受け取った舜兵は一人が立って入るようなカプセルの中に入った。
「では、これよりランク認定シュミレート試験を開始します。
幻想空間への転送、開始!」
その声が聞こえたのを最後に、舜兵は自らの意識を手放した。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
意識を取り戻し、まぶたを開けた舜兵が見たのは人っ子一人いない銀座のホコ天ような街並みのビル街だった。
『舜クン、聞こえる?』
脳に直接響くように月見の声が聞こえてくる。
『今舜クンが居るのが幻想空間。普通に虚の廻廊や神道が使えるから安心してね?
それと、昨日の一対一と違って今回は複数の鬼が一気に襲ってくるから気をつけて。
あと、関係ないけど私や時枝の声には頭で考えるだけで返事が出来るから一々独り言みたいにしなくてOKだからね。
それでシュミレーションの終了は舜クンが戦闘不能になるか鬼の百対撃破。撃破数だけじゃなくて色んな要素を総合的に見てランクを決めるからね。』
『了解。』
『各務君、聞こえますか?時枝です。これより10秒後にシュミレートを開始します。
10
9
8
7
6
5
4
3
2
1
スタート!』
スタートと同時に前方に昨日戦闘した裏切者が三体現れた。
「シュミレーションと言っても楽じゃないみたいだね、やっぱり。」
そう言いながら抜刀し、中断に構える舜兵。戦いはまだ始まったばかり。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「ふぅ。」
最初に居た場所から少しはなれた裏路地で舜兵は一息ついた。
トレイターを撃破後、次から次へと攻めかかる鬼を斃し、小休止を入れるために裏路地に入り、現在に至る。
『各務君、君は今29体を撃破している。後71体だよ。』
『分かった。』
『それにしても君が戦闘している間に伏葉のお嬢さんに聞いたけどものすごい成長率らしいですね。もう昨日には鉄砂掌が使えたそうじゃないですか。いやはや、近頃の若人は何かとせっかちですねぇ。』
『アンタいくつだよ・・・』
『花も恥らう28歳です。』
『恥らわないよ。』
『そうですかー、個人的には今青春真っ盛りなのですがねえ。』
『勝手に盛っといてよ・・・・』
『ほらほらぁ、油断してるとやられちゃいますよぉ?』
『はいはい・・・』
渋々腰を上げる舜兵。握り直した刀の刀身からは強い血の臭いが漂ってくる、この幻想空間はやけにリアルである。
一歩踏み出すその感触、それすら舜兵が感じることができる。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
こちらは舜兵を幻想空間に送り込んだコンピュータールームである。
「もし、あなたが言った事が本当なら、まさに異例の事態ですね。伏葉のお嬢さん。」
「だけどこの事は内密にね。門閥主義の輩が舜クンにどんな攻撃を仕掛けてくるか・・・・」
「ええ、分かってますよ。
私も叩き上げの研究者、として随分辛酸を嘗めましたから。」
普通研究者は叩き上げで当たり前だと思うが。
「鬼闘士としては中流家の時枝家。そのボンボンが気でも狂わせたかって随分後ろ指を指されたみたいだしね。」
「今は表立って言う奴も居なくなりましたが、まだ私を陥れようと躍起になる研究者も居ますからね。
その情熱を研究に回してほしいですよ、私の研究は特に大変なんですから。」
ところで鬼闘士の研究者って何を研究するのだろう?
「・・・ところで、何の話だったっけ?」
「そうそう、各務君の異常な成長率の事です。ココだけの話、実はこれだけ一気に成長する方法に心当たりがあるんですが・・・」
「え、それって何?」
「推測を語るのは研究者としてはしたくありません。ですからシュミレーションレベルを通常よりかなり上げているんですがね。
論より証拠・・・それを彼自身が見せてくれるといいのですがね・・・・・・」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「ふぅ、ふぅ、ふぅ、クソッ、強過ぎだろ、こいつら・・・」
舜兵の目の前にはゴリラのような姿をした巨体の鬼が10体舜兵をにらみつけていた。
「性質わるいなぁ、これだけ強いのに群れで襲い掛かって来るなんて。」
実際目の前に居る10体以外に地面に倒れているのが5体いる。正面衝突は自殺行為である。
「こーゆー時は、
神道土印の弐拾六、鉄砂掌!
神道火印の拾三、連火鎗!」
とっさに刀をズボンのベルトを通す所に通し、両手で同時に神道を放つ。
砂の拳は一体の腸を霧散させ、炎の鎗はまた一体をビルに串刺しにする。
『弐重詠唱ですか、やはり只者ではありませんねぇ。』
そんな時枝の間延びした声は今の舜兵には聞こえない。直接脳に響くように聞こえるだけで、実際はそうではないらしい。
舜兵は無意識のうちに聴覚をシャットダウンしているようであった。
「創造よ、具現しろ!
神道火印の五、火牢拡張バージョン!」
両手を地に叩きつけ、詫びるような体勢をとる舜兵、鬼にとっては絶好のチャンスだが攻撃できない、なぜなら、炎の檻に閉じ込められたからである。
「もう一丁!
神道火印の拾三、連火鎗両手バージョン!」
地面から離れ、今度は鬼に対して向けられた両手は炎を纏い、鎗を射出する。
壱発 弐発 参発 四発 五発 六発 七発 八発・・・
一つ一つの鎗が的確に鬼の心臓を射抜く。まるで射手の息子の上に乗ったりんごを射落とす正確無比な矢のように。
『どちらかと言うと今のは【連火箭】とでも名付けた方が良い気がしますが?』
「・・・・・・・・・・・」
『どうやら聞こえないようですね。無理もない、完全な戦闘モードの貴方に・・・』
そこまで言って時枝は口を閉じた。無駄だと分かっていて喋るのが愚かしくなったのだろう。
どうやら時枝は今の彼はあまりに『危険』であると悟ったらしい。
なんか伏線張りまくりですが大丈夫かなぁ、自分。
まぁ、大まかなプロットはあるんで大丈夫だとは思うんですがね。
あ、そうそう『門閥主義』ってのは家柄や生まれを重視する人のことを言います。今も時々居ますね、戯れで、でも『俺の家は昔武士だった』とか言う人。(実は作者も戯れでそんな事いった記憶があるんですがねw)
そんなもんっす、今風の門閥主義って。