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壱・運命の転機 其之壱

運命の糸は紡がれた。


その糸は絶対だ、逃げることはできない。

ぽたっ ぽたっ ぽたっ


何か液体が滴り落ちる音。

静寂の中でその音は一際伝わりやすかった。













「騒がしいわ。一々叫ばないでくれる?」


長い黒髪を一本の三つ編みにした少女が説く。


その手には朱に染まった脇差が握られていた。




























その少女が『何に』騒がしいと説いたのか。


静寂の中で何故少女が『騒がしい』と説いたのか。


その手に握られた脇差の朱は『何なのか』。


その場にそれを知るものはいなかった。






〜〜〜〜〜〜〜〜〜






「・・・・い、・・ろ、し・・・い。」


意識を無理矢理覚醒させる誰かの声。


いや、正確には煩わしい朝の恒例行事と言う方が正しいか。


どちらにしろ、少年はこの瞬間が訪れる度に『こんな家嫌だ』と思うのだが、悲しいかな少年は寝付いた瞬間にその事を忘却の彼方に追いやってしまっているのだった。


「なら、いっちょいつものをやるか!」


毎朝覚醒したての大脳が警鐘を鳴らすのだが、体はその意志に反して全く動こうとしなかった。


「食らえ!我が愛息!ファーイーナールー、ブロー!」


















「なんだ、この一撃で沈んだのか。相変わらずの脆弱息子だ。」


愛息ならば何故寝起きの息子の腹に一発グーを入れるのだろう。


「仕方ない。この父上様が直々に引きずり出してやろう。」


この少年、相当な苦労を生まれた瞬間背負わされたようだ。


合掌










〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「何で俺の父さんってば毎朝毎朝腹に一発グーを入れるかなぁ。」


腹をさすりながら学校の机に俯く少年、各務かがみ 舜兵しゅんぺい内府高校ないふこうこうの二年生である。


彼女いない歴=年齢だが全く告白されない訳ではない。むしろ多い方だ。


おそらく彼の前に美人が現れ告白しようが、

巨乳娘が現れ告白しようが、

アイドルが現れ告白しようが、

結果は皆同じ。


玉砕である。


理由はただ一つ。


『面倒だから。』


端から見れば最悪の男だろう。しかし、最悪なのは彼ではない、彼の父親である。


極度の女誑おんなたらしでその上アレが絶倫である。


もし彼女が『舜兵君の家に行きたい』と言って、父親に遭遇すれば最悪なパターンは免れない。


その事が面倒だから断っているのである。


あくまで彼の想像だが、『父親ならやりかねない』という考えがある。


「毎朝毎朝大変ね。舜兵君。」


「あぁ、菊地さんおはよう。」


彼女は菊地きくち あずさ、舜兵が家に呼べるただ一人の女性である。


というのも、舜兵の父、各務かがみ 則行のりゆきと梓の父、菊地きくち じんは同じ職業、小学校の教師で、しかも同じ学校で教えているのである。


さらに、彼女は身長が140cm前半と、17才にしてはずいぶん小柄であるが眼光の冷たさは氷のそれより冷たい。


そんな目で睨まれれば多分父親も怯むだろう、と舜兵は考えている。


「『舜兵君が毎朝毎朝君(則行)のせいで苦労してる』っていうようにお父さんにお願いしてるけど、一向に変化無しね。」


「うん、お陰で毎朝毎朝『早く一人暮らしがしたい』って思うよ。」


「あと少なくて2年なんだから我慢しなさい、そうすれば天国だから。」


「・・・・・その前に父さんのグーで昇天しそうだけどね。」


「おーい、お前ら席着けー。今日はちょっとどころじゃないお知らせがあるぞー。」


よれたスーツに身を包んだ初老の教師が教壇に立つ。


まぁ、『担任』なのだが詳しい説明は必要ないだろう。


なぜなら正直話に関わってこないからである。


「おい、各務、お前の席の前、後ろ、右、左には誰が居る?」


「え?えーと前に山野さん、後ろに渡会さん、右に菊地さん、左に・・・いません。」


この内府高校の席は男子と女子で市松模様を描くように席が置かれる。


だから各務の前後左右には女子ばかりなのである。


「その空いた机に座る子を紹介するぞ。」


つまる所転校生である。内府高校のセオリーで行くとおそらく女子だろう。


「さ、入ってきなさい。」


初老教師が手招きをすると、教室の前の扉が開き、転校生が入ってくる。


その瞬間、教室から音が消えた。




絶世の美女だ。


教室中の意見が一致した。


「えーと、じゃあ自己紹介をしてくれるかな。」


「はい、伏葉ふしば 月見つきみです。」




鈴みたいな声だ・・・


また教室中の意見が一致した。


いや、正確には1人だけ違う考えを持っていた。


それも間違っている。何も考えていないと言う方が正しいか。




勿論各務であった。前述の通り彼は最悪なパターンを極力避けるために付き合いをしないでいるのである。


そんな彼にはどんな転校生が入ってこようと関係はない

























筈だった・・・・


この伏葉月見と言う転校生が入ってきた時、彼に巨大な災厄が降り懸かることになるとは、誰も知る由がなかった・・・・・





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