第ニ章 覚醒のとき~鮮烈の稲妻~
目覚めると壬斗は自分の部屋のベッドに横たわっていた。
どうやらあの男に助けられたようだった。
「うっ……いててて」
いまいち意識がハッキリしない……ただ……
そのハッキリしない中でも『あれ』だけは鮮明に憶えている。
そうあの黒尽くめの美青年の手から発現していた『蒼白の炎』の事だ。
そして何より気に食わなかったのはあの一言。
―――――リビューター?冗談にしては笑えん……。
自身の夢を貶されたようで壬斗は苛立ちを隠せなかった。
「あの野郎、今度会ったら色々聞かせて貰おうじゃねぇか!」
とベッドの中で意気込んでいると、ノックもなしにドアが開く
「ったく、怪我人が何騒いでんだ?」
部屋に入ってきたのは赤毛で目付きの悪いヤクザ風な男
だがこれでも歴とした俺の親父だ。
「ノックもなしに入ってくんなよ!バカ親父。」
「てめぇは思春期の女の子か!だまって寝てろ!」
親父は平然とタバコを吸っている。
「親父、仕事サボリに来たんだろ?」
親父はバツが悪そうな顔で答える。
「あ?あ?ち、ちげーよ!息子が心配だから見に来たんだよ!」
どう見ても焦っている。親父は昔から単純だ。
「早く戻んないと母ちゃんに言うぞ」
「どうせ暇だから大丈夫だよ」
俺はいつもどおり大声を張る素振り見せる。
「ああ!わかったよ!戻るよ!だから黙って寝てろ」
実家は宿を細々と経営している。
書き入れ時は休日なのは鉄則で、平日は今のように親父がほっつき歩いている程暇だ。
――――と気づいたらまだ背を向けた親父はいた。
「親父、なんだよ?」
「無茶はいいが、死ぬような真似はすんな……母さんが悲しむからな」
そう言い残すと仕事場に戻っていった。
「……確かに今回はやばかったな」
あれはラッキーとしか言いようがない。
ムカつくがあいつが居なければ今頃、あの生物に潰されていたことだろう。
それと同時に寒気を感じた、あの死のイメージを思い出して……
「今日はもう休もう、明日も学校だ!」
まだ痛みも疲れも取れない体を寝かせて、眠りについた。
翌朝の教室で早速傷のことを椎菜に怒られた。
「だから言ったのに!心配させないでよ!バカ!」
涙目で言われてしまうともうかないようがない、直ぐ様謝る。
「すまん、あんな危険だとは思わなかった……」
「だったら今度は俺も連れてけよ!」
後ろから鎧の声がする。
「もうダメ!宇佐先生に報告して立ち入り禁止にしてもらうわ!」
そんなぁと鎧が嘆く、だが俺もそのほうが得策だろうと思った。
俺みたいな愉快犯が勝手に入っていいほど野放しにできる場所ではない。
「…?」
ふと、教室内の異変に気づく。
少しいつもより騒がしい、こんな時は試験か転校生が来るかのどちらかだ。
「なあ椎菜、なんかあるのか?騒がしいけど」
「壬斗、昨日宇佐先生言ってたでしょ?聞いてないんだ……」
鎧が身を乗り出して伝えてくる。
「転校生だよ!しかも3人もくるらしいぞ!」
思えばそんなことを言っていた気もする。
「ていうか3人?!変な時期にたくさん来るな……」
そんな会話をしていたところで宇佐先生が入ってくる。
「ほらほら、席に着くんだよ~!」
いそいそと皆席に着いた。
宇佐先生は見た目は温厚そうだが怒ると別人になるため皆黙って指示を聞く。
「さて、今日は昨日伝えていた転校生が来ているから皆元気に出迎えること!」
この瞬間はもちろん皆ワクワクしている。
絶世の美少女か!?イケメン男子か!?
転校生にとってはいい迷惑である。
「壬斗、かわいい子だったらいいな!」
「さぁな、まあ男が増えるよりかはマシか」
そんな会話をしているとゆっくりと扉が開く。
どうやら一人づつ入ってくるようだ。
1人目はなんと美少女だった!男子たちはざわつき始める。
髪の色は青色で目は赤と青のオッドアイ、とても清楚な顔立ちをしている。
続いて長身の線の細い男子。髪の毛はブロンド、キザッぽい感じが否めない外国人。
美少女が存在するためか男子の半数は彼が視界にすら入らない。
そして最後に全身黒で黒い長髪の美青年が入ってきた。
これには今度は女子が歓喜。皆実にわかりやすい。
「……ん?」
一瞬3度見ぐらいしたが間違いない。
「ああっ!!!お前!」
勢い良く立ち上がり指をさす。
皆、壬斗の大声に振り返る。
空気が騒然とし、さらにざわつき始める。
しかしその反応に昨日会ったはずの彼は無反応。
まるで初対面かのような振る舞いである。
(ていうかこの転校生との鉄板パターンをなぜこんなムカつく奴と!男だし)
冷静になると浮いてることに気づき、空気を読み静かに着席した。
「コホン、では気を取り直して彼らに自己紹介していただきましょう」
宇佐先生は美少女へどうぞどうぞと促している。
そして美少女が口を開く。
「皆様初めまして私、燐 白と申します。呼び名は白で構いませんので仲良くしてくださいね。」
イメージを崩さない白さんに皆男子は感動していた。
男子はすごい速度で首を縦に振っていた。
さながら狂信者の如く。女子はドン引き。
次に今回一番印象が薄い男が口を開く。
「俺はジュダス・カーミルだ!カーミルでいいぜ!ヨロシクな!」
元気で活発そうな外国人カーミルだが今回は不憫だ。
なぜなら、ほとんどはもう次の美青年に視線が集中しているからだ。
そしてその美青年は口を開く。
「私は黒条 狼牙だ、別に憶えなくていい」
女子何人かは軽く卒倒している。
見るからに美青年だ、男子も何人か見入っている。
だが俺は無論いけ好かない。
一通り自己紹介が終わったあと宇佐先生が周りをなだめて一言。
「実はな、驚くとは思うがカーミル君と黒条君はリビューターなんだ!」
皆その瞬間、耳を疑った。
リビューターは前後継者から引き継がれなければなることが出来ない。
そんな奇跡の産物が目の前にいるなんて想像もつかないのに2人も今目前に存在している。
全員、あっけにとられている。
「あ・・・・唐突過ぎたね、先生嘘ついてないよ!」
ここで鎧が飛び出す。
「じゃあ、何か見せてもらっていいすか?何のリビューターか知りたいし」
宇佐先生もうなずく。
「そうだね勉強にもなるし……黒条君、カーミル君披露してあげてよ!」
2人はうなづきカーミルが前に出る。
カーミルは手を前に出し人差し指を上に向けた。
その瞬間指先から水泡が現出する。
水の属性ということがすぐにわかる。
それと同時に、皆の目が輝く。
壬斗のように皆、叫んではいないが憧れには変わりないのだ。
そして拍手と共にカーミルが下がり次に黒条 狼牙の番だ。
狼牙はおもむろに手の平を上方に向ける。
その瞬間発火音と共に炎が現出した。
『蒼白の炎』が。
教室全体にまたざわつきが生まれる。
それは何故か?
教科書で見る炎属性リビューターの炎は
原則では真紅であり、蒼白であるはずがないためである。
聞いてもいいものか戸惑っている中、壬斗は迷わず質問を切り出す。
「なあなんで炎が青くなってんだ?なんかあるのか?」
狼牙は造作もなく答える。
「リビューターにはなってからわかる特性というのもある。それがただ炎色に反映しただけだ。」
なるほどと皆納得。
確かに実際なってみないとわからないだろう。
そのことについては彼と同じ立場にならなければわからない。
わからないが、壬斗は何かが引っ掛かる。
「まあ悩んでも確かめようがないしな」
無理やり自身を納得させた。
空気を切り替えようと宇佐先生が切り出す。
「さて、ちょっと時間取っちゃったね!転校生諸君は後ろに席用意してあるから着席しちゃってね!」
そしてざわつく教室の中
転校生も全員席に付き授業が始まった。
そして放課後、全ての学科が終わり帰り支度を始めていた。
壬斗は視線を転校生に向ける。
「って!あれ?あいつら居ねぇ!!」
椎菜は呆れ顔で答える。
「いやいや、HR終わったら三人ともすぐに出ていったでしょ!」
鎧もすぐに帰ったのでそちらに気を取られていた。
「ちくしょう!ダメだ!ちょっと追ってくる!」
そういうと壬斗は駆け出す。
「ちょっと!壬斗ってば!」
「すまん椎菜!あの狼牙ってやつに話があんだ!」
椎菜の声に反応しつつ走る。
「もうっ!喧嘩とかしないでよ!!」
また昨日と同じ構図、忠言する椎菜に手を振りその場を後にした。
走ること数分、驚くことにまたあの空洞に来ていた。
「なんでここかなぁ……」
しかし、なんとか追いついた狼牙は確実にここに入っていった。
よくよく考えても昨日、彼と出くわしたのもこの空洞だ。
「まあ確実にいるよなぁ」
ため息をつくが足を踏み入れる。
ふと椎菜の泣き顔が浮かんだ。
踏み止まることもできる。
だが彼には決意がある。
「今回はあいつを探すだけだ!無理しねぇよ」
そう言い聞かせ足を進めた。
程なく簡単に狼牙を見つけた。
「おい!黒条 狼牙!」
狼牙はゆっくりと振り返る。
「また貴様か……」
「貴様ってなんだよ!俺には桜井 壬斗って名前があんだよ!このキザ男め!」
反撃をしてみる、慣れない言葉で。
「愚かしい奴め」
効果はないようだ……。
「第一何をしに来た?昨日あれだけ危険な思いをしておきながら」
うっ…と唸ってしまう。
「だが、俺の夢について貶したのは撤回しろ!!」
しかし狼牙は詫びるどころかあざ笑うかのように
「それも含め愚かだといってるんだ」
「お前は知っているか?リビューターなど最早、家系で成り立っているものだ……お前なんぞになれるチャンスは微塵も無い」
核心を突かれた壬斗は押し黙ってしまう。
「くっ、それは……」
「貴様だって分かっているのではないか?なることなど到底無理だと」
やっぱりこの狼牙という男、気に入らない。見下し感が満載だ。
そして何より貴様だの、お前だの名前を言ってるのに聞こうとしないのも苛立つ。
「わかったのならさっさと去れ、落ちこぼれと話している暇などないのでな」
今の一言でさすがに俺はプッツンした。
一気に間合いを詰めようと駆け出す。
「狼牙!取り敢えず名前を呼べぇぇぇぇ!!」
そこ?!そこにキレるの?!と誰かに突っ込まれてる気がしなくもないが、気にせず駆ける。
刹那、発火音が空洞内にこだまする。
その瞬間自分の頬に蒼白いものが擦る、熱い。
今日も死の危険を感じてしまった。
冷や汗がすごい、何より駆け出していた足は硬直して動けない。
殺気を放つ狼牙が口を開く
「次は当てるぞ?」
この男ヤバイ感性の持ち主かもしれない。
間違いなく殺す気だ。
震える体を押さえつつ壬斗は
「い、一体何様だ!いくら権限があるリビューターだからと言って人を殺していい権限は無い!」
そうだ、ハッタリかもしれない。
教科書でも見たが宿泊施設や移動手段はタダになったりと色々な優遇があるのは知っている。
だがリビューターでも殺人は御法度だ。
捕らえるのは困難だが都市にも他のリビューターが存在する。
確保は間違いなくされるだろう。
そんなリスクが高くメリットがない事をこの男がやるとは到底思えない。
「確かにリビューターとしては無いな、貴様を殺す理由など」
「だが俺がもし何かの組織に属していたとしたら?」
さらにゾッとする言葉を吐く。
この男は底がしれない……。
「貴様など殺してもその件は闇の中に葬り去られるだけだ」
確証はない、だが本気なのは目を見ればわかる。
殺気に満ちた目。
逃げてもあいつに一生嘲笑われながら生きていくのか?
馬鹿にされて……。
何よりあんな危険な奴を学校に戻したくねぇ!
敢えて俺は賭けに出る
「おい狼牙、その炎偽もんじゃあねぇよな?」
狼牙の顔が変わる、やはり聞いてはいけない質問なのだろう。
教室の時も似たような質問をしたが、顔は引きつっている感じがした。
そこに引っかかりを感じ改めて核心に振れた質問をした。
「殺すつもりはなかったが……死を選ぶか、本当に愚かだ」
そう言い放つと蒼白の火球を壬斗に向けて放った。
(さあ、震えてる場合じゃねぇぞ!動け!動けぇ!!)
何度も言い聞かせ、やっとのことで体が動き出す。
幸い火球のスピードは早くはない。大きさも無い。
上体を素早くずらし火球をよける。
しかし発火音は連続して空洞内に響く!
5発くらいだろうか?火球が壬斗にめがけ向かってくる。
2発は火球が重なり避けるのは容易だった。
3発4発と来るがしゃがみ、飛び込むことでこれも回避。
しかし完全に体制を崩してしまう。
5発目は避けられる体制ではない。
とっさに持っていた訓練用の長剣を防御に用いる。
火球が長剣に当たった瞬間爆発。
凄まじい炸裂音とともに壬斗は爆発の衝撃で吹き飛ばされる。
意識は飛んでいない、しかし手にもっていた長剣は見事に折れて使い物にならない。
「こりゃマジでヤバイな」
昨日助けてくれた狼牙に襲われている。
最早成す術なし。
「ま、媚び諂って生きるよりはマシっつってね!」
明るく言い放つが絶望感は十分なほどだ。
気づくと狼牙はそこに居た。
手には火球が用意されていた。
「さあプライドを取り死んでいったことを後悔するといい、あの世でな」
(こういうとき走馬灯がとか、時間がゆっくりになるとかあるんだろうが
なんにも感じねぇ)
(死ぬのか俺ーー!生きてー!!)
(生きてリビューターになりてぇ!!)
(ちくしょぉぉぉぉぉぉぉぉ!!)
(あれ?まだ死んでない……)
(さっきからなんか眩しいな)
―――――――汝、生きたいか?
どこからか声が聞こえる。
(え?なんだこの声)
―――――――もう一度問う。汝、生きたいか?
繰り返し声が聞こえる。
(あたりめーだ!俺には夢がある!)
―――――――成程、夢……生きる原動力の一つか、いいだろう。
(この声は……あんたは一体)
―――――――我が名はスサノオ、初代属性師の一人だ。今から私の力をさずける。
『この力、活きるために使え!!』
「これは一体、どういうことだ?!」
狼牙は信じがたいものを目にしていた……
気を失っているが桜井 壬斗から電磁壁が創り出されている。
火球の効果は無し。
「そんなばかな!有り得るはずがない!なぜこいつから雷が!」
桜井 壬斗は目を覚まし、ゆっくり壬斗は上体を起こす。
「狼牙認めろよ……」
そして立ち上がる。
「俺から溢れ出るこいつは完璧に……」
狼牙の目をまっすぐ見据え言い放つ。
「雷のアトリビュートだ!!」
狼牙は愕然とし膝を落とす。
「馬鹿げている・・・・こんなことがあっていいはずがない!」
壬斗は繰り返す、雷があふれる拳を握り締め
「立てよ狼牙、これからが闘いだ!!」