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自称・絶対防御アザラシールド

掲載日:2026/09/27

 どうも、海月まったりです。


 今回は、ふと思いついた「絶対に自分しか守らない盾」の話です。


 盾なのに持ち主を守らない。

 しかもアザラシ。


 そんな理不尽なアザラシと冒険者のお話です。


 よかったら、ゆるっと読んでいってください。

挿絵(By みてみん)

 剣と魔法が存在する世界。


 武器や防具にはそれぞれ属性が宿り、使い手の魔力によって特殊な能力を発揮する。


 炎、水、雷、氷、光、闇。


 さらには、時間や空間といった特殊な属性まで存在していた。


 そんな世界の、とある海辺の町。


 町の外れにあるダンジョンの最深部には、古びた祠があった。


 冒険者シャルル・チアーは、その祠の前に立っていた。


「……何もないな」


 祠の中央。


 台座の上に置かれているのは、白くモフモフした丸い物体だった。


 盾……に見える。


 しかし。


 丸い。


 白い。


 妙に柔らかそう。


 そして――


 つぶらな瞳がある。


「……アザラシ?」


「そうだよ」


「喋った!?」


 シャルルが一歩後ずさる。


 台座の上のアザラシは、ぺたんと寝そべったまま動かない。


「君、誰?」


「アザラシールドだよ」


「……盾?」


「そうだよ」


「アザラシなのに?」


「そうだね」


「盾なの?」


「そうだよ」


「どう見てもアザラシだけど」


「よく言われるよ」


 あまりにも普通に返された。


「……動けるのか?」


「動けないよ」


「アザラシとして致命的じゃないか?」


「動けたらこんな場所にいないよ」


 シャルルは頭を抱えた。


 しかし、祠の台座に刻まれた文字を見つける。


『命属性』


「命属性……?」


「うん」


「どんな能力なんだ?」


「生きてるよ」


「……」


「僕、生きてるんだ」


「いや、それは見れば分かる」


 どうやら特殊な装備品らしい。


 しかも、台座に置かれているということは、何か特別な力を持っている可能性が高い。


 シャルルは少し考えた。


「……装備してみるか」


「おすすめしないよ」


「なんで?」


「僕、君のこと嫌いだから」


「初対面だぞ!?」


「そうだね」


「なんで嫌いなんだよ!」


「君、シャルル・チアーでしょ?」


「ああ、何で知ってるんだ?」


「シャチって呼ばれてるよね」


「……まあ」


「嫌いだよ」


「理不尽すぎるだろ!!」


「ごめんね」


「絶対悪いと思ってないだろ!」


「うん」


 それでもシャルルは、その盾を手に取った。


「……よし」


「やめたほうがいいよ」


「冒険者として、こういう怪しい装備を見つけたら試すだろ」


「そうなんだ」


 シャルルが腕に装備する。


 その瞬間。


 ――カチッ。


 何かが嵌まったような音がした。


「……?」


「呪いだよ」


「は?」


「もう外せないよ」


「…………」


 シャルルは慌てて外そうとする。


 外れない。


 引っ張っても。


 捻っても。


 魔力を流しても。


 外れない。


「おい!」


「そういう呪いだからね」


「先に言え!!」


「言ったよ」


「装備する前に言え!!」


「聞かれなかったから」


「お前ぇぇぇ!!」


 こうして。


 冒険者シャルル・チアーは、アザラシールドを装備することになった。



 ◆



「なあ、アザラシールド」


「なに?」


「お前、何ができるんだ?」


「今は何もできないよ」


「……は?」


「まだ子供だから」


 シャルルは眉をひそめた。


「子供?」


「うん」


「じゃあ大人になったら?」


「強くなるよ」


「どのくらい?」


「たぶん、絶対防御くらい」


「……それ、本当か?」


「自称だけどね」


「自称なのかよ」


「あと三レベルだよ」


「何が?」


「進化まで」


「三レベル!?」


「うん」


「それなら頑張って育てるか……」


「魚くれる?」


「レベルが上がるのか?」


「上がらないよ、でもお腹がすいたから」


「……なんなんだよ」


 シャルルはため息をついた。


 それから、アザラシールドを連れての冒険が始まった。



 しかし。


 幼体アザラシールドには、何の耐性もなかった。


 炎魔法。


「熱いよ」


「普通に熱いんだな!?」


「うん」


 雷魔法。


「痛いよ」


「お前、盾だろ!?」


「まだ子供だからね」


 氷魔法。


「寒いよ」


「アザラシなのに!?」


「うん」


 毒。


「お腹痛いよ」


「お前が毒を受けるな!!」


「僕に言われても」


 さらには。


「おい、風で飛ばされるぞ!」


「そうだね」


「掴まれ!」


「外れないよ?」


「そうだった!!」


 アザラシールドは、ほぼ完全な役立たずだった。


 唯一の特徴は、喋ること。


 そして。


「シャルル」


「なんだ?」


「魚ほしい」


「今ない」


「そうなんだ」


「我慢しろ」


「分かったよ」


「素直だな」


「じゃあ帰ったらちょうだい」


「……結局食うのかよ」



 そんな日々を繰り返し。


 シャルルの努力の甲斐あって。


 アザラシールドは、ついに――



「レベルが上がったよ」


「おお!」


「あと二つ」


「まだかよ!!」



 さらに数日。


「レベルが上がったよ」


「あと一つ!」


「うん」


「もう少しだな!」


「魚」


「今食べるのかよ!!」



 そして。


 最後のレベルが上がった。



 ――ピカッ。



「……?」


 アザラシールドの身体が光に包まれる。


「お、おい……」


「進化するみたいだね」


「おおお……!」


 光が収束していく。


 そして。


 そこにいたのは――


 体毛だけ変化したアザラシだった。



「……」


「……」


「……変わった?」


「成体になったよ」


「見た目、ほとんど同じだぞ」


「凛々しくなったよ?」


「能力は?」


「増えたよ」


「何ができる?」


「魔法にも強くなったよ」


「おお!」


「炎は、ちょっと湿ってるから平気」


「それ耐性なのか?」


「そうだよ」


「雷は?」


「分厚い脂肪があるから、芯まで届かないよ」


「……なるほど」


「氷の寒さに耐えられるようになったよ」


「成体アザラシだから?」


「そうだね」


「水は?」


「得意だよ」


「おお!」


「アザラシ泳げるからね」


「盾のお前は……?」


「風は?」


「我慢するよ」


「それ耐性か!?」


「たぶんね」


「土魔法は?」


「盾じゃ防げないから、最初から諦めてるよ」


「それ耐性ですらないだろ!!」


「そうかな?」


「そうだよ!!」


「魅了魔法は?」


「逆に魅了するよ」


「なんで!?」


「僕、かわいいから」


「自分で言うな!!」


「光魔法は?」


「僕の方が輝いてるから無効だよ」


「どういう理屈だよ!!」


「闇魔法は?」


「夜目が利くから平気だよ」


「それ、闇魔法への耐性なのか!?」


「そうなんじゃないかな」


「あと、時間魔法も効かないよ」


「時間魔法まで!?」


「時間は止まらないからね」


「……いや、魔法で止められるだろ」


「止まらないよ」


「いや、魔法なんだから止められるだろ!」


「へ〜そうなんだ」


「納得するなよ!!」


「でも僕には効かないよ」


「なんでだよ……」


「時間は進むものだからね」


「理屈になってねぇ!!」


「自称・絶対防御だからね」


「そこだけ自信満々なのかよ!!」



 その翌日。


 シャルルはコロシアムに立っていた。



「さあ、始まりました!」


 観客の歓声が響く。


「本日の注目カード!」


 向かいには、大剣を構えた屈強な魔剣士。


 シャルルは剣を構え。


 そして。


 腕に装着されたアザラシールドを見る。


「……本当に大丈夫なんだろうな?」


「大丈夫だよ」


「俺を守れるんだな?」


「守らないよ」


「即答!?」


「僕を守るからね」


「盾の意味!!」


 試合開始。


 魔剣士が大剣を振り下ろす。


 シャルルは盾を構えた。


 ――にゅるん……


 斬撃が滑る。


「えっ!!」


「何で僕を盾にするのさ」


「盾だからだよ!!」


「僕が流線型ボデーじゃなかったら危なかったよ」


 次の瞬間。


 魔剣士が炎魔法を放つ。


 巨大な炎がシャルルを包み込む。


「うわああああ!!」


「ちょっと湿ってるから僕は平気」


「俺は燃えてるんだが!?」


「そうなんだ」


「そうなんだじゃねぇ!!」


 雷魔法。


「――ッ!!」


 シャルルの身体を雷が走る。


「痛ぇぇぇ!!」


「僕は分厚い脂肪があるから平気だよ」


「羨ましくねぇ!!」


 氷魔法。


 シャルルが凍りつく。


「寒い!!」


「僕は寒さにも耐性がついたよ」


「俺にもその耐性を分けろ!!」


「嫌だよ」


「なんでだよ!!」


「僕のだから」


 そして。


 今度は魔剣士が拳を放つ。


 強力な拳が、アザラシールドへ打ち込まれた。


 ――ぽにょん……


 拳が弾かれる。


 アザラシールドは。


 無傷。


「……すげぇ」


 観客がざわめく。


 シャルルも目を輝かせた。


「これが……絶対防御……!」


「うん」


「じゃあ、俺もこれで――」


「守らないよ」


「……」


「僕は僕を守るよ」


「俺は!?」


「知らないよ」


「盾ぇぇぇぇぇ!!」



 その後。


 シャルルはなんとか勝利した。


 ほとんどが盾にされたアザラシールドのおかげだった。


 ただし。


 シャルル自身はボロボロだった。



「……なあ」


「なに?」


「お前、本当に俺を守らないんだな」


「うん」


「少しくらい守ってくれてもいいんじゃないか?」


「どうして?」


「お前、俺の盾だろ?」


「違うよ」


「違うの!?」


「僕は僕の盾だよ」


「……」


 シャルルは空を見上げた。


「なんで俺はこんなの装備してるんだ……」


「あんなにレベル上げ頑張ったのにね」


「お前が言うな……」


「ごめんね」


「……絶対思ってないだろ」


「うん」



 しばらくして。


 アザラシールドが、ぽつりと言った。



「シャルル」


「なんだ?」


「魚、持ってる?」


「……」


「お腹すいたよ」


「……分かったよ」


「ありがとう」


「……お前のために買ってある」


「そうなんだ」


「少しは感謝しろよ」


「してるよ」


「本当か?」


「うん」


「……ならいいか」


「あと、僕の名前」


「なんだ?」


「アザラシールドだからね」


「分かってるよ」


「盾って呼ばないでね」


「……根に持ってるのかよ」


「うん」


「そこも絶対防御なんだな」


「そうだよ」


 海辺の町に。


 一人の冒険者と。


 自称・絶対防御のアザラシがいる。


 彼らの冒険は、まだ始まったばかり――。



「シャルル」


「今度はなんだ?」


「魚、二匹がいいな」


「調子に乗るな!!」


「ごめんね」


「絶対思ってないだろ!!」


「うん」


 一人と一匹の旅は続く。

 最後まで読んでいただき、ありがとうございました!


 「絶対防御なのに、自分しか守らない盾って面白くない?」


 そんなところから生まれた今回のアザラシールド。


 シャルルには申し訳ないですが、たぶんこれからも魚を要求され続けます。


 アザラシールドは強い。

 でも、持ち主には優しくない。


 そんな二人の旅でした。


 楽しんでいただけたなら嬉しいです。


 ――海月まったり

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