自称・絶対防御アザラシールド
どうも、海月まったりです。
今回は、ふと思いついた「絶対に自分しか守らない盾」の話です。
盾なのに持ち主を守らない。
しかもアザラシ。
そんな理不尽なアザラシと冒険者のお話です。
よかったら、ゆるっと読んでいってください。
剣と魔法が存在する世界。
武器や防具にはそれぞれ属性が宿り、使い手の魔力によって特殊な能力を発揮する。
炎、水、雷、氷、光、闇。
さらには、時間や空間といった特殊な属性まで存在していた。
そんな世界の、とある海辺の町。
町の外れにあるダンジョンの最深部には、古びた祠があった。
冒険者シャルル・チアーは、その祠の前に立っていた。
「……何もないな」
祠の中央。
台座の上に置かれているのは、白くモフモフした丸い物体だった。
盾……に見える。
しかし。
丸い。
白い。
妙に柔らかそう。
そして――
つぶらな瞳がある。
「……アザラシ?」
「そうだよ」
「喋った!?」
シャルルが一歩後ずさる。
台座の上のアザラシは、ぺたんと寝そべったまま動かない。
「君、誰?」
「アザラシールドだよ」
「……盾?」
「そうだよ」
「アザラシなのに?」
「そうだね」
「盾なの?」
「そうだよ」
「どう見てもアザラシだけど」
「よく言われるよ」
あまりにも普通に返された。
「……動けるのか?」
「動けないよ」
「アザラシとして致命的じゃないか?」
「動けたらこんな場所にいないよ」
シャルルは頭を抱えた。
しかし、祠の台座に刻まれた文字を見つける。
『命属性』
「命属性……?」
「うん」
「どんな能力なんだ?」
「生きてるよ」
「……」
「僕、生きてるんだ」
「いや、それは見れば分かる」
どうやら特殊な装備品らしい。
しかも、台座に置かれているということは、何か特別な力を持っている可能性が高い。
シャルルは少し考えた。
「……装備してみるか」
「おすすめしないよ」
「なんで?」
「僕、君のこと嫌いだから」
「初対面だぞ!?」
「そうだね」
「なんで嫌いなんだよ!」
「君、シャルル・チアーでしょ?」
「ああ、何で知ってるんだ?」
「シャチって呼ばれてるよね」
「……まあ」
「嫌いだよ」
「理不尽すぎるだろ!!」
「ごめんね」
「絶対悪いと思ってないだろ!」
「うん」
それでもシャルルは、その盾を手に取った。
「……よし」
「やめたほうがいいよ」
「冒険者として、こういう怪しい装備を見つけたら試すだろ」
「そうなんだ」
シャルルが腕に装備する。
その瞬間。
――カチッ。
何かが嵌まったような音がした。
「……?」
「呪いだよ」
「は?」
「もう外せないよ」
「…………」
シャルルは慌てて外そうとする。
外れない。
引っ張っても。
捻っても。
魔力を流しても。
外れない。
「おい!」
「そういう呪いだからね」
「先に言え!!」
「言ったよ」
「装備する前に言え!!」
「聞かれなかったから」
「お前ぇぇぇ!!」
こうして。
冒険者シャルル・チアーは、アザラシールドを装備することになった。
◆
「なあ、アザラシールド」
「なに?」
「お前、何ができるんだ?」
「今は何もできないよ」
「……は?」
「まだ子供だから」
シャルルは眉をひそめた。
「子供?」
「うん」
「じゃあ大人になったら?」
「強くなるよ」
「どのくらい?」
「たぶん、絶対防御くらい」
「……それ、本当か?」
「自称だけどね」
「自称なのかよ」
「あと三レベルだよ」
「何が?」
「進化まで」
「三レベル!?」
「うん」
「それなら頑張って育てるか……」
「魚くれる?」
「レベルが上がるのか?」
「上がらないよ、でもお腹がすいたから」
「……なんなんだよ」
シャルルはため息をついた。
それから、アザラシールドを連れての冒険が始まった。
しかし。
幼体アザラシールドには、何の耐性もなかった。
炎魔法。
「熱いよ」
「普通に熱いんだな!?」
「うん」
雷魔法。
「痛いよ」
「お前、盾だろ!?」
「まだ子供だからね」
氷魔法。
「寒いよ」
「アザラシなのに!?」
「うん」
毒。
「お腹痛いよ」
「お前が毒を受けるな!!」
「僕に言われても」
さらには。
「おい、風で飛ばされるぞ!」
「そうだね」
「掴まれ!」
「外れないよ?」
「そうだった!!」
アザラシールドは、ほぼ完全な役立たずだった。
唯一の特徴は、喋ること。
そして。
「シャルル」
「なんだ?」
「魚ほしい」
「今ない」
「そうなんだ」
「我慢しろ」
「分かったよ」
「素直だな」
「じゃあ帰ったらちょうだい」
「……結局食うのかよ」
そんな日々を繰り返し。
シャルルの努力の甲斐あって。
アザラシールドは、ついに――
「レベルが上がったよ」
「おお!」
「あと二つ」
「まだかよ!!」
さらに数日。
「レベルが上がったよ」
「あと一つ!」
「うん」
「もう少しだな!」
「魚」
「今食べるのかよ!!」
そして。
最後のレベルが上がった。
――ピカッ。
「……?」
アザラシールドの身体が光に包まれる。
「お、おい……」
「進化するみたいだね」
「おおお……!」
光が収束していく。
そして。
そこにいたのは――
体毛だけ変化したアザラシだった。
「……」
「……」
「……変わった?」
「成体になったよ」
「見た目、ほとんど同じだぞ」
「凛々しくなったよ?」
「能力は?」
「増えたよ」
「何ができる?」
「魔法にも強くなったよ」
「おお!」
「炎は、ちょっと湿ってるから平気」
「それ耐性なのか?」
「そうだよ」
「雷は?」
「分厚い脂肪があるから、芯まで届かないよ」
「……なるほど」
「氷の寒さに耐えられるようになったよ」
「成体アザラシだから?」
「そうだね」
「水は?」
「得意だよ」
「おお!」
「アザラシ泳げるからね」
「盾のお前は……?」
「風は?」
「我慢するよ」
「それ耐性か!?」
「たぶんね」
「土魔法は?」
「盾じゃ防げないから、最初から諦めてるよ」
「それ耐性ですらないだろ!!」
「そうかな?」
「そうだよ!!」
「魅了魔法は?」
「逆に魅了するよ」
「なんで!?」
「僕、かわいいから」
「自分で言うな!!」
「光魔法は?」
「僕の方が輝いてるから無効だよ」
「どういう理屈だよ!!」
「闇魔法は?」
「夜目が利くから平気だよ」
「それ、闇魔法への耐性なのか!?」
「そうなんじゃないかな」
「あと、時間魔法も効かないよ」
「時間魔法まで!?」
「時間は止まらないからね」
「……いや、魔法で止められるだろ」
「止まらないよ」
「いや、魔法なんだから止められるだろ!」
「へ〜そうなんだ」
「納得するなよ!!」
「でも僕には効かないよ」
「なんでだよ……」
「時間は進むものだからね」
「理屈になってねぇ!!」
「自称・絶対防御だからね」
「そこだけ自信満々なのかよ!!」
その翌日。
シャルルはコロシアムに立っていた。
「さあ、始まりました!」
観客の歓声が響く。
「本日の注目カード!」
向かいには、大剣を構えた屈強な魔剣士。
シャルルは剣を構え。
そして。
腕に装着されたアザラシールドを見る。
「……本当に大丈夫なんだろうな?」
「大丈夫だよ」
「俺を守れるんだな?」
「守らないよ」
「即答!?」
「僕を守るからね」
「盾の意味!!」
試合開始。
魔剣士が大剣を振り下ろす。
シャルルは盾を構えた。
――にゅるん……
斬撃が滑る。
「えっ!!」
「何で僕を盾にするのさ」
「盾だからだよ!!」
「僕が流線型ボデーじゃなかったら危なかったよ」
次の瞬間。
魔剣士が炎魔法を放つ。
巨大な炎がシャルルを包み込む。
「うわああああ!!」
「ちょっと湿ってるから僕は平気」
「俺は燃えてるんだが!?」
「そうなんだ」
「そうなんだじゃねぇ!!」
雷魔法。
「――ッ!!」
シャルルの身体を雷が走る。
「痛ぇぇぇ!!」
「僕は分厚い脂肪があるから平気だよ」
「羨ましくねぇ!!」
氷魔法。
シャルルが凍りつく。
「寒い!!」
「僕は寒さにも耐性がついたよ」
「俺にもその耐性を分けろ!!」
「嫌だよ」
「なんでだよ!!」
「僕のだから」
そして。
今度は魔剣士が拳を放つ。
強力な拳が、アザラシールドへ打ち込まれた。
――ぽにょん……
拳が弾かれる。
アザラシールドは。
無傷。
「……すげぇ」
観客がざわめく。
シャルルも目を輝かせた。
「これが……絶対防御……!」
「うん」
「じゃあ、俺もこれで――」
「守らないよ」
「……」
「僕は僕を守るよ」
「俺は!?」
「知らないよ」
「盾ぇぇぇぇぇ!!」
その後。
シャルルはなんとか勝利した。
ほとんどが盾にされたアザラシールドのおかげだった。
ただし。
シャルル自身はボロボロだった。
「……なあ」
「なに?」
「お前、本当に俺を守らないんだな」
「うん」
「少しくらい守ってくれてもいいんじゃないか?」
「どうして?」
「お前、俺の盾だろ?」
「違うよ」
「違うの!?」
「僕は僕の盾だよ」
「……」
シャルルは空を見上げた。
「なんで俺はこんなの装備してるんだ……」
「あんなにレベル上げ頑張ったのにね」
「お前が言うな……」
「ごめんね」
「……絶対思ってないだろ」
「うん」
しばらくして。
アザラシールドが、ぽつりと言った。
「シャルル」
「なんだ?」
「魚、持ってる?」
「……」
「お腹すいたよ」
「……分かったよ」
「ありがとう」
「……お前のために買ってある」
「そうなんだ」
「少しは感謝しろよ」
「してるよ」
「本当か?」
「うん」
「……ならいいか」
「あと、僕の名前」
「なんだ?」
「アザラシールドだからね」
「分かってるよ」
「盾って呼ばないでね」
「……根に持ってるのかよ」
「うん」
「そこも絶対防御なんだな」
「そうだよ」
海辺の町に。
一人の冒険者と。
自称・絶対防御のアザラシがいる。
彼らの冒険は、まだ始まったばかり――。
「シャルル」
「今度はなんだ?」
「魚、二匹がいいな」
「調子に乗るな!!」
「ごめんね」
「絶対思ってないだろ!!」
「うん」
一人と一匹の旅は続く。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
「絶対防御なのに、自分しか守らない盾って面白くない?」
そんなところから生まれた今回のアザラシールド。
シャルルには申し訳ないですが、たぶんこれからも魚を要求され続けます。
アザラシールドは強い。
でも、持ち主には優しくない。
そんな二人の旅でした。
楽しんでいただけたなら嬉しいです。
――海月まったり




