表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

カンスト聖女、転生したら『ヨジョドル(物理)』でした。~命がけのファンサで伝説になる~

前世の記憶を持つ私は、今猛烈に後悔している。

「はぁっ、はぁっ……! まだ、だ。まだ、右手の小指しか動かしてないのに……!」


前世の私は、世界を救う大聖女であった。

魔王を討伐し、飢饉を救い、無数の人々を癒やし続けた結果、神様から膨大な「徳ポイント」を付与された。

そして寿命を迎える直前、私――かな嬢は、その徳ポイントを全ツッパして神様に願ったのだ。

『来世は絶対に働きたくない! 息してるだけでチヤホヤされて、お菓子を無限に食べられる甘々な人生がいいです!!』と。


神様は「おう、任せとけ」と親指を立てた。

そして転生した結果が、これである。


「かなちゃん! 次の曲、イントロ始動まであと十秒だよ! 予備の酸素ボンベは開栓してるね!?」

「……くっ、手首の、サポーターを、もう一枚……!」


私は今、熱狂の渦に包まれる巨大ドームのバックステージにいた。

そう、チヤホヤされる究極の職業『アイドル』――それも、幼女アイドルたる「ヨジョドル」としてデビューしてしまったのだ。


だが、大問題が一つある。

前世で莫大な徳を「チヤホヤされること」と「強制労働からの解放(働かないこと)」に極振りした代償としてーー私の初期ステータスは、HP1、防御力0、筋力0という「究極の虚弱体質」になっていたのだ。


「ステージ衣装(総重量200グラム)が重すぎて、肩が脱臼しそう……ッ!」


ちょっと深呼吸しただけで肺が筋肉痛になる。

歩くだけで足の指が複雑骨折の危機に瀕する。

そのあまりの儚さ(物理)と、常に命がけで生きている必死さが、なぜか敏腕プロデューサーの目に留まってしまった。

『この極限の脆さ! 存在そのものが消え入りそうな儚さ! これぞ現代人に欠けている真の尊さだ!』と謎の勘違いをされ、強引にステージへ引きずり出されたのである。

(ちなみにボイストレーニングの初日で腹式呼吸をした瞬間に肋骨にヒビが入り、ダンスレッスンは屈伸運動で両膝の軟骨が砕けかけたため、私のパフォーマンスの大半は「立っているだけ」で構成されている)


「かなちゃん、出番だ! 限界まで輝いてこい!」

「……逝って、きます……ッ!」


私は酸素ボンベを吸い込み、気合と共にステージへと飛び出した。

五万人の観客から、割れんばかりの歓声がうねる。


ドームの最前列。VIP席のど真ん中。

神をも恐れぬその席には、見慣れない奇妙な二人組? が陣取っていた。

空気以下まで存在感が希薄で、なぜか満身創痍の病弱そうな青年と、その隣でペンライトを二刀流(?)している「亀の子タワシ」だ。


「おい、健太! 人の波に押されて俺の肋骨が折れた! 折れたぞォーッ!」

『気合いだもやし!! お前の命よりヨジョドルの輝きの方が万倍大事だ!! 見ろよかなちゃんを! 彼女のステージはいつだって命がけなんだ!! 俺のカンストした防御力を分けてやりてぇ!!』

「うるせぇタワシ! 俺にヒールかけてから言え!!」


謎の怒号が響く最前列だが、もはやツッコむ余裕もない。

私はプロである。観客に最高の笑顔を届けるのが使命なのだ。


「みんなー! かなだょー!」

ピシィッ!!

マイク(軽量化特注品・50グラム)を握りしめた瞬間、私の細腕から嫌な音が鳴った。

痛い。手首がヒビ割れた気がする。しかし、私はプロである。痛みを堪え、満面の笑みでファンに手を振った。


ボキッ!!

「がああああっ!?」

手を振った反動による遠心力で、右肩が盛大に脱臼した。


「おおおおおおっ!! かなちゃんが、今日も俺たちのために命を削ってくれてるぞぉぉぉ!!」

『すげぇ!! 俺なんて窪みに引っかかっただけで凱の手首粉砕させたのに、あの子は自力で脱臼するなんて! プロ魂パネェ!!』

「タワシぃぃぃ! あの子は文字通り命を削ってんだよ! 俺と一緒にすんな! がはっ(吐血)」


熱狂するタワシと吐血する青年を中心として、観客席から怒号のような熱狂が巻き起こる。

ちがう、パフォーマンスじゃない。真の物理ダメージだ。

私は脱臼した右腕をだらんと下げたまま、必死に歌い、踊った(※私の主観では激しいダンスだが、客観的にはお遊戯以下の運動量である)。

ステップを踏むたびに膝の軟骨がすり減り、ターンをするだけで三半規管が崩壊して吐血しそうになる。


「さいごに、みんなへ……愛をこめて……っ!」


私は最後の力を振り絞り、渾身の投げキッス&ウインクを決めた。


ブチィッ!!

「――ッ!」

ウインクの反動で首が鞭打ちになり、投げキッスをした唇が乾燥して裂け、鮮血が舞い散る。

私はそのまま、美しい弧を描いてステージに倒れ込んだ。完全なHPゼロ、気絶である。


「かなちゃぁぁぁぁぁぁん!!!」

『なんて尊ぇんだ……ッ! 俺の繊維こころが震え上がって石畳を磨きてぇ気分だぜぇぇぇっ!』

「うおおおお! 俺もあのプロ魂を見習って、呼吸するだけで骨折する体質を克服……無理だ痛ぇぇえええ!」


五万人の観客と、最前列のタワシと青年は、感動の涙を流しながらサイリウムを振り乱していた。


――こうして。

ライブ終了後、即座に集中治療室(ICU)へブチ込まれ、高度回復魔法漬けにされるのが私の日常となった。

「息してるだけでチヤホヤされる」という願いは叶ったが、まさか「息をするのが物理的にしんどい」体になるとは思わなかった。


伝説の命がけヨジョドル、かな嬢の過酷なアイドルライフは、まだ始まったばかりである。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ