王都の花屋は今日も花を売る
メリッサ・スー魔法古物店へようこそ ~魔法古物の査定、鑑定、買取、販売いたします~
の外伝というか補完になります。
「花を売る」とありますが本当に花屋の話です。
エロはありません。
ただだらだら花の業界の流れを追っているので本編を読んでいる方も飛ばしてしまって問題ありません。
私は王都で花屋を開いているケイティという。
今年30歳になった。20歳のころに年の近い旦那を婿に貰い、子供は居ないが店は順調で夫婦二人、不遇に見舞われることもなくそこそこ幸せに過ごしている。王都の中流街にある店の隣には『魔法古物店』というちょっと珍しい店が入っている。
その店の店主メリッサさんはうちのお客さんでもありよく花を購入してくれる。うちもお付き合いで何か買おうと見てみたが、店に並んでいる『魔法古物』は値段が解らず、値段を聞くのも怖くて聞けなかった。
小さな鉢にマーガレットやチューリップなどの造花が植えてあり、手をかざすとその周りに妖精が飛び回るという『幻影鉢』という魔法小物がお値段も他と比べれば高くなかったので頑張って一つ買った。
店に置いておいたら一部の裕福なご婦人たちの目に留まり、うちでも卸して貰って売るようになった。
それから彼女がケーキとかを入れていた『保存庫』は庫内の温度を水が凍る寸前の所まで落とし、庫内の湿度を上げて飽和状態を保てる魔法大物でこれもうちの花の保管に適しているので無理をして大型の物を一台購入した。
とにかく、彼女の店には魔法の不思議なものが溢れているようである。
彼女は仕事で店を留守にすることもあり、部屋の換気や鉢植えの水やり、小人さん?への貢物?の補充を頼まれており、鍵を預かっている。
今回の案件では申し訳ないがその鍵を使い、彼女の店を倉庫代わりに使わせてもらった。本当に申し訳ないと思っているが緊急でどうしようもなかったと言ったら、笑って「困ったときはお互い様」と許してくれた。
さてその今回の「スプリングリリィ」案件だが王都の花き業界のここ一年の話題の案件であった。
例年、収穫後に掘り返して涼しい場所で保管している分だけでは球根が足りないため、1年前から種苗業者は「スプリングリリィ」の球根の鱗片挿しを始め、球根の数の確保に全力を注いだ。ユリの球根は「鱗茎」と呼ばれ、タマネギのように重なり合った葉(鱗片)の間に栄養が詰まっている。これを1枚ずつ剥がして植える「鱗片挿し」という方法で、球根を増やし大量受注に対応した。
生産者は種苗業者から仕入れた球根を秋には植え付ける。球根は冬の間は土の中で根を張る期間になり、春には芽が出てから3ヶ月ほどで花が咲くことになる。
そして蕾が膨らんできたものからまだ堅いうちに順次刈り取り、柔らかい紙でふんわり包み、乾燥を防ぎ、木箱に納めて出荷する作業を10日間ほど続ける。
集荷業者は御者、馬やロバ、荷馬車、ロープなどの備品を用意し、早朝からの出荷に合わせて王都周辺の生産業者の畑に朝一番、もしくは前日から出かけて用意をして、一日で畑と王都の卸売市場を何往復も作業を10日間ほど続ける。
卸売市場は通常、セリにより仲卸業者等に販売されるが今回の「スプリングリリィ」は全て、予約販売により数量・価格が事前に取り決めされている。よってセリに掛けられることなく卸売市場で仕分けされ各仲卸業者の倉庫に移送されることになる。ものによっては生産者の畑から直接、仲卸業者の倉庫に行くものもある。
仲卸業者は卸売市場もしくは各生産者から届いたものを木箱のまま水を与えず「乾いたまま」地下の氷室や冷蔵設備のある倉庫で凍る直前の温度で管理し、ユリの呼吸を最小限に抑え、老化を押さえる。
湿度は庫内が乾燥すると花がミイラ化してしまうため、噴霧器で水を散布したり、床に水を撒いたりして、高湿度を保つようにする。
この時、湿気が花に行き渡るためと、花自体が出す老化のガスが木箱内に溜まらないように木箱には随所に隙間が空いている。
販売業者は王宮内や晩餐会、夜会、その他のいくつものお茶会はそれぞれ日付や時間が違うため、その日付や数量により王宮の温室への納品の細かい調整を王宮庭園局と行う。
王宮の花の保管場所である温室も広さは限られているため、その日その日の必要数に応じての納品スケジュールが綿密に組まれる。
王宮庭園局に納められたものは木箱から丁寧に取り出され、蕾が軽くつまんで中身が詰まっているか、葉の色つやが悪くないかなどの品質のチェックが行われる。
その後、切り戻しを行う。茎の下から数センチを、鋭利なナイフで斜めに切り落とし新しい吸水口を出すことで導管に入り込んだ気泡を取り除き、水が上まで繋がるようにする。また、斜めに切ることで水を吸う面積を広げられる。
また、萎れているときなどは湯揚げが行われる。茎の切り口を数秒間だけ熱湯に浸し、茎の中の空気を抜き、水の通り道を広げて、水揚げを一気に促す。
水揚げをする際には必ず「水に浸かる部分の葉」は手で取り除く、葉が水に浸かると、そこから腐敗が始まり、水の中に毒素が爆発的に増え、これが花の劣化を早めることが知られている。
その後、深いバケツにたっぷりの水を入れ、茎の長さの半分以上が浸かるように縦にしてつけておく、水が深いほど「水圧」がかかり、茎の奥まで水が押し込まれ、他の花より頭の重いユリのつぼみの先まで水分が行き渡り、シャンと立ち上がらせることができる。
これらの作業は王宮内の内部がいくつもの温度帯に区切られた巨大な温室で行われ、必要に応じて出庫して行くことになる。
なお「スプリングリリィ」以外の花は全て王宮内で栽培し温室に用意されている。
メインの晩餐会や夜会では王宮庭園局が直接花を生けることになるが、それ以外の王宮の多くの場所では実際に花を飾るのはそれぞれの場所の担当メイドや侍女、侍従たちになる。
メイドたちは飾る花瓶の中に「木炭」の欠片を入れ浄化作用により水が腐るのを防ぎ、「銀貨」を入れその殺菌効果で、ユリの茎がぬめるのを防ぎ長持ちさせる。
また、ユリの花が開き始めたら、「葯」と呼ばれる雄しべの先の花粉が粉を吹く前にピンセットで摘み取る。花粉が花びらを汚してしまうのを防ぎ、早めに取ることで受粉にエネルギーを使わなくさせ花自体の持ちを良くする。
なお、王宮には王宮庭園局専属の『花の精霊』と親交がある精霊使いが雇われていると業界では実しやかに噂されている。
『花の精霊』と親交のある精霊使いは王宮内の花の品質をすべて把握し、その咲き頃を調整しているという話である。
というように王都の花きに関わる全ての者が事前に打ち合わせ、その日に向けて準備していたのである。
そこに納品日の変更が告げられたのが今日の正午、四の鐘の音と共にであった。
花き業界激震である。
生産者は既にここ10日間分の収穫は終わり、集荷業者は卸売市場へ、卸売市場は仲卸業者へ納品済みである。販売業者は王宮庭園局と綿密な納品スケジュールを組み終わっている。
まず、晩餐会などの延期で問題が発生したのが王宮の温室である。
「スプリングリリィ」以外の大ぶりなユリなどの日持ちのする花から順次、宮廷内に飾っていって温室の空いた場所に「スプリングリリィ」を順次、置いてゆく事になっていたものが温室からの出庫がすべて止まったのである。温室の花は全て傷つかないようにバケツに立てて保管されている。木箱で積み重ねられていた時と比べると何倍ものスペースを取ってしまっている。今回の歓迎のため目一杯の花を準備していたため、すでに温室は最低限の人が通るスペースしかない状態であった。
これによって王宮の温室の花の入荷の受け入れが停止した。
販売業者はその連絡にスケジュール調整は効かず、やむなく仲卸業者へ王宮への出荷を止めるよう連絡を入れた。
仲卸業者も今日の王宮への出荷分で空いたスペースに今日の入荷分を入れる予定であった。こちらも満杯である。
やむなく、卸売市場へ仲卸業者への出荷を止めるよう連絡を入れた。
が、すべてが止まることもない。
卸売市場では基本的に大きな保管スペースは無い。一時保管場所はあるがその日に入ってきたものはその日に出荷される動きで仕事が回っているし場所もそう作られている。
入荷したものが出ていかないと次の日の入荷が出来ずセリを行うことが出来なくなる。
やむなく集荷業者へ卸売市場への持ち込みを止めるよう連絡を入れた。
が、すべてが止まることもない。
困ったのは集荷業者である。
卸売市場の事務所には受け取りを拒否られたと御者が詰め掛け、事務所の前には降ろす場所がない木箱を積んだ馬車が列をなした。
そんな混乱の一場面がうちの店の前の溢れた木箱であった。
うちの親である仲卸業者は出荷を止めるよう卸売市場へ連絡を入れたはずであったが、連絡がいく前に出てしまっていた馬車があったのでその分は受け入れてくれと頼まれた。自分のところのスペースはもう一杯だったため、馬車一台分くらいうちで受け入れてくれと親から頼まれて承諾した。
しかし、来た馬車は一台ではなかった。そして二台目以降の馬車を断ることができなかった。御者たちも本当に困っていることが解ってしまったから。
そしてあの惨状である。
情報番組とかでよく関東の太田市場が開かれる情報が流れます。
切花(バラ、菊など): 月・水・金
鉢物(観葉植物、苗など): 火・木・土
なので新鮮な切花が欲しければ 月・水・金 の午後に花屋さんに行くのがいいといわれます。
が、月曜の午後に店に行っても前の金曜日に仕入れた花がまだ在庫である場合があります。
新鮮な花を求めていったのに前の金曜日の仕入れの花を買ったのでは意味がありません。
ではどうするか、花屋さんで段ボール箱にお花が入っているのを見たことありませんか?
それが入荷したばかりの花です。
念のため箱の日付とかも確認しましょう。




