夢の記憶
いつ見た夢だろうか?
それは、私と父がともに電車に乗っていた時のことだった。
それは、どこかバブル時代の首都圏を走っていたような古めかしい車両で――
天井には、幅を利かせた等間隔に扇風機が設置されている。
稼働はしておらず、首を振る様子もない。夏ではない事だけはすぐに分かった。
「かなめは、俺と一緒の駅で降りるのか?」
ヘーゼルの瞳を向けた父が向かい側、腰かけた状態で私にきく。
その時の父の服装は… ぼんやりとしていて、あまりよく覚えていないけど、確かブルーグレーのシャツに、ライトベージュのズボンだった気がする。
まるで、これから自然豊かな避暑地へ向かう様ないで立ちだ。少し早めの、定年退職世代の旅行といったところか。
「一応は」
私は、そう答えた気がする。
そんな私と父、二人以外誰もいない、その車両で。
電車は、山を削ってできたであろう薄暗いトンネルを、徐々にスピードを緩めて次の駅に停車した。
「がはは! そうなんだよ、もうあの時は大変だったからなぁ!」
「あぁ。いやぁ、やっとかって感じだ」
ドアが開いた。
軍服を着た年老いた男性が二人、私と父がいる車両へ乗車してきた。
彼らは屈託のない笑みで喋っていた。
彼らは… 退役軍人だろうか?
背中には使い古したのか、少し艶が失われていたライフルを背負っていて、ともに丸刈りした頭に帽子を深く被っている。だけど、カモフラージュの迷彩柄が色味から彩度から全く異なる事から、彼らは違う国の軍に所属していた事が窺える見た目だった。
彼らはそれぞれ、私と父の隣に座ってきた。
父の所には淡い色合いの軍服を着た痩せ型の男性が、私の所には高彩色の軍服を着た図体のよい男性が、それぞれ左隣に座る。
こんなにガラ空きの車両で、普通だったら嫌がられるのではと気を遣うものだが、私は何故か嫌な気持ちにならなかった。
父も、表情からしておそらく同じ気持ちだろう。
「元気にしてるかぁ?」
と、私の隣に座っている男性が笑顔できいてきた。
「はい。一応は」
と、この時の私はそう答えていた気がする。
その時の父と、痩せ型の男性は… 何を話していたかな。
よく分からないけど、共通の楽しい話題だったのか、共にアハハと困り笑顔に肩が上がっていたのが印象的だった。
電車は、いよいよトンネルを抜け、陽の光が差し込む次の駅へと停車した。
減速し、停車。ドアが開く。
軍服の男性二人がゆっくり立ち上がった。
彼らとはここでお別れだ。
私と父は、まだ乗車を続ける。
「じゃあな」
「達者での」
そういって、男性二人は軽く手を振り、車両を降りていった。
私は立ち上がった。ちょっとだけ、二人が去っていく姿を見届けたかったのかもしれない。
もちろん、その駅で降りる事はない。父を置いていくわけにはいかないのと、彼にそうでなくても、なんとなく降りてはいけない様な気がしたから。
「きれいだなぁ」
ドアが閉まり、再び走り出した電車は、トンネルを出た快晴の空の下に晒される。
その明るい場所は―― 線路を除き、一面に広大な花畑。
その奥には、僅かに海の地平線も見える。
ピンクやオレンジの、無数の花が、きらきらと輝くように揺らめいた。
地平線は、少しばかり眩しい。
私と父は車両の中、立ち上がり、その地平線が見える車窓を静かに眺めた。
陽の光に、心が浄化されていくように。
【解説】
こちらは私ハイカが、実際に寝ている間に見た夢の内容を、短編小説風に書き綴ったエピソードとなります。
この物語に、続きはありません。あそこで目が覚めたためです(笑)。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。




