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ハイファンタジー

権力? 魔獣? なんであろうと私の"神権スキル"でねじ伏せます! 〜異世界にはザマァが付きものです〜

作者: 早川冬哉

 気がつくと私は、上も下もない世界に漂っていた。


「あれ? 確かさっきまでは友達と校舎の屋上にいて……白いカラスに食べてたパンを取られて追いかけてたら、屋上の柵を超えてて……」


 ああ私、死んだのか。


 大した感慨も抱かず、私はあの退屈な世界から弾き出されたことを理解すると、目の前が急に輝き出した。


「木下茜音さん、初めまして。わたくしは天使カーミラでございます」


 煌めく金の髪と背中に生える純白の翼、それに頭上に浮かぶ光輪。顔は少しあどけないが、それは間違いなく天使だった。


 この、死後に天使とか神様に話しかけられる展開! もしかしてこの流れは……


「まず最初に一つ、あなたに申し上げたいことがございます」


 唾を飲み期待の眼差しを向けると、カーミラと名乗った天使の口が動きだす。


「すいませんでしたぁぁ!」


 見事と言う他ない完璧な土下座。その姿には、先ほどまでの神々しさは微塵も感じられなかった。


「えっ? あの、何が?」


「茜音さんが食べてたパン。おいしそうだなぁって思ってカラスに変身して、……パンを取ったせいであなたを死なせてしまいました。本当にもう、弁解しようもございませぇぇん!」


 何度もおでこを見えない床に擦りつけるカーミラが哀れに思えて、私は声をかける。


「その、大丈夫ですよ。誰にだってミスはありますし、あれは私の不注意も原因の一つですから」


「そお……許して、くれる?」


 私が頷くと、天使は予想通り、異世界転移をしないかと提案してきた。


「茜音さんのお身体はそのままで、『神権スキル』を全て使用可能にした状態で、剣と魔法とスキルの異世界に送ります」


「神権スキル?」


 聞き慣れない単語に首を傾げた私を見て、カーミラは説明を始める。


「神権スキルとは、神の代行足りうるとされる強力なスキルです。数百年に一人しか扱うことができる人が生まれてこないくらい、すごいスキルなんですよ」


「それを私は全種類使えるの?」


 頷く天使。


 それってもう、その異世界には私の敵になりうる存在はいないってことじゃない? すごっ!


 それから私は、最低限の資金と一般常識を貰い、異世界へと転移した。


 ……今思えば、地球は本当に窮屈だった。周りの空気を読んでばっかりで好きなこともできず、息苦しかった。


 だから今度は自由に生きる。誰にも、空気にも縛られず、やりたいように生きてみせる!


 そんな希望を抱き目を開けると、遥か下方に大地が見えた。


「あの天然バカ天使いぃぃ!」


 空気を切り裂き、加速しながら落ちていく中、私は与えられた神権スキルの中から使えそうなものを必死で探す。


 ……あった!


「天使の翼!」


 地面の森が眼前に迫る中、私の背中から、一対の翼が生えてくる。


 そして落下速度を落とすため、その純白の翼を目一杯羽ばたかせる。


 ドゴオォォン!


 その瞬間、凄まじい轟音とともに、辺り一体の木は消し飛び、更地となった。


「うそ……まじで?」


 神権スキルのデタラメ度合いを理解した私は、今度はゆっくりと翼を上下させる。


 うん。このくらいの力加減か……もう周りを吹き飛ばすことはなさそう。


「気を取り直して町でも探すか」


 靡く黒髪を押さえて車よりも速く飛行し、下方を流れる景色を見ていると、自分が異世界に来たことを実感する。


 そうだ! まずは冒険者になろう。なんだかゲームっぽくて面白そうだし、それにチートスキルを与えられているからほとんど危険もないだろうからね。


 そして冒険者として稼ぎまくって、その後はダラダラ好きなことだけして生きよう。


 それと、文明レベル的に権力やらを振りかざしてくるやつもいるかもしれないけど、そう言うやつは片っ端からぶん殴ろ。ムカついたらだけど……。


***


「一体、何が起きたって言うんだ……?」


 突如目の前の森が消滅した。──その夢としか思えない光景に、エルクの町随一のAランク冒険者パーティー一行はただ呆然とするばかり。


 しかし、リーダーのカイルだけは、その爽やかな灰色の瞳に、空を駆ける天使の如き茜音の姿を見つけていた。


***


 私は大した時間もかからず、町を見つけることができた。


 少し手前で、目立たないように着地してから門に行くと、気さくそうな顔をした門番が話しかけてきた。


「そこの黒い髪の嬢ちゃん。エルクの街へ入るためには、銅貨三枚必要だよ」


 銅貨三枚、日本円にして約三百円か。


 異世界転移の時に天使のカーミラから渡された財布を覗くと、そこには銅貨が十枚と、銀貨、金貨が二枚ずつ入っていた。


 これって約三万一千円……。あの天然天使、結構ケチじゃん。


「どうぞ」


 私は銅貨を差し出す。


「確かに、銅貨三枚受け取った。それじゃ、エルクの街楽しんでくれ!」


 冒険者ギルドと宿の場所を聞いてから、私は門番に手を振り、力強い歩調で大きな門をくぐった。


「私の異世界ライフ、スタートだ!」


***


「とはいったけど、今日はもういろいろありすぎて疲れた。さっさと宿にいって休も……」


 死んで、天然天使に土下座されて、異世界転移して、空から落ちて、森を吹き飛ばして……。


 私の精神は既に疲弊しきっていた。だんだんと歩みが遅くなる。


 それでもようやく宿が見えてきたその時、


「きゃあっ……!」


 すぐ横から、女性の甲高い悲鳴が上がった。


「騒ぐな! ライフォン公爵家の長男であるこのボクに逆らうのかっ!?」


 見ると、コルク色のサラサラとしたロングヘアが映える綺麗なお姉さんが、偉そうなデブに手首を掴まれ馬車に乗せられそうになっていた。


「そういう展開、見てるだけでムカつくんだけど!」


 私は瞬時に二人の間に立ち、デブ貴族を睨みつける。


「なんだおまえ。おまえもこのボクに逆らうって言うのか!」


 デブ貴族が拳を振り上げた瞬間、私は「神の意向」というスキルを発動させ、


「ひれ伏しなさい!」


 デブ貴族を指差し命令した。


 すると、デブのライフォン公爵家長男は、拳を下げ、土下座した。


「ぐぅ……このっ」


「何が、起こったの?」


「私のスキルです」


 神の意向──字面から想像できるかもしれないが、どんな命令でも相手に強制するスキルだ。


 このスキルはあまり乱用しないでおこう。下手したら私が独裁者になりかねないし。


 そう心に決め、私はうんうんと頷き、一発デブ貴族の顔面に蹴りを入れる。


「ヒギャッ」


「お姉さんも一発どうです?」


 一瞬の間があって、襲われていたお姉さんはぶんぶんと首を横に振った。


 そうして、デブ貴族へのスキル効果を解除すると、ライフォン家長男はすぐさま立ち上がり、その丸々とした指で私を指す。


「き、貴様ァ! タダで済むと思うなよ!」


 怒りを募らせた彼はしかし、すぐさま馬車に乗り込み、去っていった。


「父上に言いつけてやるぅ!」


 なんだったんだあいつ。


 ジト目で馬車を見送ると、突如として周囲から歓声が巻き上がった。


「あの領主様のドラ息子を追い返すなんて……」


「スカッとしたぜ!」


「あなた最高よ!」


 これ以上は恥ずかしい。


 私はお姉さんを連れて路地に入る。


「権力を振りかざすだけのクズでしたね。お姉さん大丈夫でしたか?」


「え、ええ。助けてくれてありがとう」


 お姉さんの清楚な微笑みは、カーミラよりも天使っぽいもので、思わず見とれてしまった。


 すごい美人だなぁ……っていうかもう日が暮れかけてる! 早く宿にいかないと。


「いえいえ、あれは私があの貴族にムカついただけですから」


「ねえあなた、この街の住民じゃなさそうだけど、今夜泊まるところはもうあるの?」


「あ、いえ。これからそこの宿に入ろうかと思っていたところです」


「じゃあまだ決まっていないのね。なら、わたしの家に泊まらない? わたしの家、ここからすぐだからお礼をさせて欲しいの」


 私の手を両手で包み込むお姉さんに、私は首を左右に振る。


「いえそんな! お礼なんて大丈夫ですよ」


「遠慮しないで。わたしが、お礼をしたいの」


 まあ、この人は折れそうもないし、さっきの貴族がお姉さんの家に報復に来ないとも限らない。


 勝手に首を突っ込んだ以上、最後まで責任持たなきゃね。


「わかりました。お言葉に甘えてお邪魔させていただきます」


「うん。……あ、そうそう、わたしはユナっていうの。敬語なんて使わなくていいのよ」


 なんだかユナさんは包容力があって、本当の姉みたい。


「私は茜音。よろしくね」


***


「ここがわたしの借りてる部屋。狭いけど、のんびりしていってね」


 案内されたユナの部屋は、十二畳ほどの広さで、シングルベットや二人用のテーブルと椅子、小さなキッチンがあるだけの質素なものだった。


「なんというか、部屋綺麗だね」


「お世辞はいいのよ。今ご飯にするから、好きに座って待ってて」


***


「ご馳走様。すっごく美味しかった!」


「そう、よかった」


 ラフな麻色のTシャツに、同じく麻色の、足首がちらりと見えるスカートに着替えたユナは、ベージュ色の瞳を細めて微笑む。


 夕食を摂り終えると、私たちの間には、気まずい沈黙が訪れる。


 こういう時ってなに話したらいいの? 何か話題は……。


「えっと、今日は大変だったね」


 いやこれダメなやつだ。嫌な記憶をほじくり返してどうする!


「あ、ごめんっ! 今のは忘れて」


 しかし私の不安は取り越し苦労だったようで、ユナはゆっくりと首を横に振った。


「いいよ。わたしはもう気にしてない。……この街ではさ、よくあることだから」


 それから私はユナに、この街ではよく、容姿の優れた町娘が、ライフォン家長男──エルドバルドによって公爵邸に連れ去らるということを聞いた。その娘たちは飽きられるまで街に戻ってこられず……。


「けど、戻ってきた子たちはみんな心を病んで、家に閉じこもってしまっているの」


 俯いて話すユナの顔は、だんだんと青ざめていく。


「それで、連れ去られた子の家族や友人たちがライフォン公爵様や国王様に訴えたんだけど、侮辱罪で処刑されてしまって……」


「それで、誰も何もできなかったんだ」


 話を聞くに、この国の国王は平民に重い税を課すくせになんの安全保障もしない──平民を数でしか見ていない独裁者のようだ。


 この国の上層部にはクズしかいないのか? だったらまず、冒険者になって遊ぶ前に、そいつらをぶん殴ってこの国を住みやすくしてやる!


 私はユナの手を握り、ベージュ色の瞳を覗き込む。


「ユナさん、その件私に任せて! 明日国王とやら、ぶん殴ってくるから」


 ユナは私を見て目を点にした。


「……えっ?」


***


 次の日、ユナに王都までの地図をかいてもらうと、私は天使の翼で空を飛び、王城の城門上空にたどり着いた。


 確かエルクから王都までの道のりは、馬車だと一週間以上かかるって聞いたけど、飛んできたら一時間もかからなかった。


 天使の羽、便利すぎる。


「神格化」


 神格化──詰まるところの身体強化。ただその効果は絶大で、神殺しと呼ばれる有数の武具でないと、私の体に傷一つつかなくなるらしい。


 トンッ!


 私は、天使の羽を解除し、門番二人の間に降り立つ。


「貴様は誰だ! 空から現れるとは怪しい奴め」


 槍を向けてくる二人の兵士。だがただの門番に私の相手など務まるはずもなく……。


 パキンッ!


 二つの槍先を(つま)んで折ると、


「通してもらいますね」


 唖然とする兵士を横目に、重厚な門を殴り開けた。


「……バ、バケモノ」


 ん? まあそう言われるのも無理ないか。だって神の力だもんな。


 むしろ人外の力を制御して使いこなせてる私って凄いのでは?!


「……ありがとう。私にとっては褒め言葉かも」


 私は兵士に微笑み、ウインクしながら敬礼した。


***


「今の音は何事か?」


 謁見の間に鎮座するこのリーヴェント王国の王── オーウェン・フォン・リーヴェントは、平然とした様子で、隣に控える王国騎士団団長のクライスに問う。


「どうやら、城門が何者かの手によって破壊されたようです。その上、近衛兵たちが次々と気絶されられていると……」


「ふざけるな! 役立たずは今すぐクビだ。おまえもクビにされたくなければさっさと侵入者の首を持って来い!」


 オーウェンに頬を殴られたクライスは、それでもなお、国王を守るために的確な提案をする。


「しかし、この城の戦力を結集させなければ、あの少女を止めるのは無理です」


 煮え切らない言い合いに、オーウェンは怒りを滲ませ、王座の肘おきを叩く。


「少女だと! おまえたちは女一人にも対処できないのか? ふざけるな! やはり平民なんぞに城の警備を任せたワシがバカだった」


 立ち上がり、王座に据え付けられた飾太刀(かざりたち)を手に取り、乱暴な太刀筋で、クライスに振り下ろ……。


「止まりなさい」


 切先がクライスの額に到達する直前、謁見の間に響いた声が、国王の動きを止めた。


***


 この王は、自分の部下であろうとムカつけば平然と殺すのか?


 ふざけるな! こいつは人の命をなんだと思っているんだ?


「喋れるようにはしてあげます。あなたがこれから、貴族と平民が平等に暮らせるように尽力すると誓うんなら、私はあなたを解放してあげる」


「クライス! 何をやっておるのだ。早くそいつを殺せ! ワシを守って死ぬことだけが、おまえたち平民にとっての幸福であろう」


 とことん平民を見下すオーウェンの姿は呆れる他ない。


 そんな態度じゃ、誰もあんたを守んないでしょ。


 だが私の予想に反して、壁際に整列していた兵士たちが、私を取り囲む。


「えっ? 何考えてんですかみなさん。あんなクソみたいな国王のどこがいいんですかっ!」


「許せ。我々はみな、家族や友人を人質に取られているのだ……」


 この独裁国王はそこまでやるのか。


 攻撃を始めた兵士たちを交わしながら私は、


「神の息吹」


 スキルを使用する。


 すると、私から発せられた風が、優しく兵士たちにまとわりつく。


 バタバタと眠りにつく兵士たち。私のスキルによる眠気に耐えられた兵士は、騎士団長と呼ばれたクライスだけだった。


「クライス! 早く奴を殺せ。できなければおまえの家族の命はないと思え!」


「……承知いたしました」


 クライスはどこか投げやりに剣を抜き、私の前に立った。そのままクライスは剣を正眼に構え、私の出方を伺っている。


 その構えは素人目にも美しく思え、精錬された技術を感じ取れる。


 そんなクライスに、私は無防備にゆっくりと歩み寄る。


 ブオッ!


 当然、私が彼の間合いに入った瞬間に床を蹴り剣を振り下ろすクライス。


 瞬きにも満たない速さで行われた一連の動作。並大抵の人間では、彼の動きを認知する前に切られていただろう。


 だが、神格化によって動体視力を極限まで底上げされた私には、クライスの動きが亀の歩みよりも遅く見えた。


「大丈夫です。あなたの家族もこの国も、悪いようにはしませんから」


 振り下ろされる剣をヒラリとかわし、クライスの肩をポンと叩くと、私は瞬間移動のような速さで、王座にふんぞり返るオーウェンの前に立つ。


「わ、ワシは国王だぞ! ワシを殺せば貴様は国中──いや、同盟国までもが総力を上げて貴様を殺しに行くぞ!」


 皺や、短い白い髭が目立つ顔を真っ青にし、全身震えが止まらない様子のオーウェン。


「それで、何が言いたいの?」


 私は冷ややかな目でオーウェンを見おろす。


「い、今ならまだ許してやる。……それだけじゃない。金が欲しいのならいくらでも払うし、貴様を貴族にしてやってもいい。どうだ? 悪い話ではなかろう」


 数秒の沈黙。


 私が欲望に靡いたと勘違いしたオーウェンは、震えながらも口角を上げ、握手しようと手を差し出し……。


「ギィャあぁ!」


 差し出された皺だらけの手を、私は手刀で切り落とした。


「そんな提案、却下に決まってるでしょ! だってそんなものどうだっていい。なんせ私が本気で望めば、なんだって──この国を滅ぼすことだってできるんだよ」


「貴様は何を言っておるのだ! そんなこと、なんの権力も持たぬ貴様に、できるはずなかろう」


「そう思う? じゃあ証拠を見せてあげるよ」


「なんだっ?」


「ひぃぃ……」


 そういうと私は、オーウェンと……ついでにクライスも抱えて、王城の一番高い屋根に飛んだ。


「いくよ。しっかり目に焼き付けなさい。私の全力を!」


 右腕を空高く上げ、指を弾く。


「天雷!」


 次の瞬間、空を覆う分厚い雲を突き破り、無数の雷が、王都周辺の森に降り注ぐ。


 鳴り止まない雷鳴に、クライスは呆然と目を見張り、オーウェンは耳を塞いで頭を抱え込んだ。


「これは……まさか、神権スキル……か?」


 雷が降り止むと、空は雲ひとつない快晴となり、日差しが荒野と成り果てた森を照らす。


「驚いてるとこ悪いんだけど、まだ終わらないよ」


 私は控えめな胸に手を当てて、祈るように目を閉じる。


「クロノス」


 遠くに見える王都の時計台、その針が巻き戻ると、それに合わせて森が再生してゆく。


「時空間スキル……だと? そんなもの、人間に許されたスキルではない、ないはずだ……」


 森が再生を終え、空がまた雲に覆われたのを見届けて、私は恐怖に身をやつしたオーウェンと、驚愕したクライスをつれて謁見の間へと戻った。


「ねえ国王様、一つ取り引きをしない?」


 意識して明るくした声でオーウェンに話しかける。しかしオーウェンの金色の瞳に映る私の顔は、全く笑えていなかった。


「ひえぇっ……。わ、わかった。なんでもする! なんでもするから頼む……殺さないでくれぇ……」


 私を悪魔でも見るような目で見つめて怯えるオーウェンの姿には、独裁者らしき傲慢さはもう、微塵も残っていなかった。


「つまりは交渉成立ですね! ではさっそく始めましょう。……あなたを殺さないという要望を飲むにあたって、私が要求することは三つです」


 私は三本の指を立て、そのひとつを折る。


「一つ、身分に関係なく、全ての人に社会権を与えること。これに関しては私が直々に監修するから、法案できたらまず、施行する前に見せてね。抜け穴がないか確認するので」


 これで貴族が平民を攫うことも、オーウェンがやっているように身内を人質にして言う事聞かせることもできなくなる。


 私は一度オーウェンから目を逸らし、クライスを見やる。


「クライスさん、これでご家族は解放されますよ」


「本当……ですか?」


 現実感が湧かないのか、クライスは上手く状況を飲み込めていない。


「本当です。あなたはもう、家族を盾に理不尽な要求を突きつけられるなんてことはありません」


「これで……解放される? ……ありがとうございます!」


 溢れ出しそうな涙を堪えて頭を下げるクライス。彼の目元は、垂れ下がった青髪で見えなかった。


 私はただ単に国王にムカついたからやっただけなんだけど……。


 真っ直ぐな感謝の気持ちを向けられ、むず痒さを感じた私は首をかいた。


「……あと、よければ法案を確認するときは手伝って貰えませんか? 私一人だと何か見落とすかもしれませんし」


「もちろんです! この国のため、自分にできることがあるのなら、全力で取り組ませていただきます」


 クライスに頷いてから、私はオーウェンに向き直る。


「二つ、全ての人を、罪を犯した時には平等に裁くこと。貴族だからと罪をもみ消すことは私が許しません」


 冷や汗を垂らしながらうんうんと必死に頷くオーウェンに、最後の要求を突きつける。


「最後。ライフォン公爵家のエルドバルドに、ユナに誠心誠意謝罪するよう伝達してください!」


 ああすっきりした! ……これでやっと、冒険者始められるな。

「面白かった!」

「続きを見てみたい!」


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