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第7話 ミージュの話③

 ミージュは胸元にある、わずかにピンクがかった、けれどまだ白い石を握り締めた。

 この石が完全に色が変わった時。

 その時、この石はメルリー王国を、あの世界を変える力を持つ。

 ミージュははっきりとはわからなかったが、その力が恐らく「世界の終わり」に対抗する何かになるのだろうと思っていた。

 メルリー王国を完全に救うためには、世界の終わりから逃げ続けるだけでは、きっと解決しない。それでは以前と同じで、世界の終わりに怯える暮らしは変わらないからだ。

 ミージュは変えたかった。

 あの世界、逃げ続ける日々を。



 ミージュは以前のことを思い出していた。

 メルリー王国の「ガーデン」の近くに、突如生えた赤黒い薔薇のような花。

 この国に自生するすべての植物を知るはずのミージュたちですら、知らなかったその花を、切り倒した夜。

 けたたましい鳴き声が響いた。

 何事かと一斉に起き出し、人々はガーデンへと向かった。

 そこには、巨大な鳥と、それに乗った見知らぬ民族の姿があった。

 突然現れた巨大な鳥たちと大勢の謎の民族は、ガーデンの水を飲み、ガーデンに植えられた植物を貪っていた。荒らされつくしたガーデンを見て、メルリー王国の人々は怒り、武器を振るった。

 ミージュは家で待っているよう言われたが、居ても立っても居られず、赤黒い薔薇の花を持って、神殿へと向かった。

 これは何かの天罰だ。この花を切ってしまった罰だ。

 暗闇の中、よく見えもしない中を、記憶を頼りに必死に進んだ。

 途中何度か転びながらも、ミージュは神殿へとたどり着いた。

 真っ暗な通路の先に、神殿の広間はあった。

 白い発光する巨大な石があるその場所。

 そこにはすでに、レモヒラがいた。

「レモヒラ」

 レモヒラは立ち上がり、ミージュを見た。

「ミージュ、それは……」

 レモヒラはミージュから切った赤黒い花を受け取ると、じっとそれを見つめた。

「何をしているの?」

「会話しているんだよ」

 レモヒラの言葉に、ミージュは驚いた。

 レモヒラたち樹祈禱師は、植物と話ができると言われていた。けれど誰もそのことを信じてはいなかった。ミージュも半信半疑だった。

「その花は、何を言ってる?」

 ミージュが尋ねると、レモヒラはしばし黙ってから答えた。

「この花は、ガーデンのてっぺんに生えていたと言ってます」

「そう」

 話してもいないのに、レモヒラはそのことを言い当てた。もしかしたら見に行ったのかもしれないけれど、レモヒラは続ける。

「この花の強い香りを、嫌う生き物がいるらしいです。特に鳥類はこの花の匂いを嫌うと、この花は話してます」

 鳥類。

 今、この国を襲いに来た民族は、巨大な鳥に乗って来ていたと聞いた。

 その鳥を追い払うために、この植物は現れたのだ。

 なのに、切ってしまった。

 自らの手で。

 確かにガーデンの水は、少し減ったかもしれない。

 けれど戦になることを思えば、そんなことなど大したことではなかったに違いない。

「この花は、何か他にも言っている?」

「ううん。もう話せないみたいだ……」

 レモヒラは悲しそうにそう言った。花はぐったりと力をなくし、花びらがはらりと落ちた。



 一晩明け、戦いは何とかメルリー王国の勝利に終わった。

 しかし、負傷者を多く出し、水は減り、ガーデンも荒れてしまった。

 人々はまた襲撃があるのではと怯え、ファイランたちは襲撃への備えで忙しくなった。

 ミージュは父に、レモヒラから聞いた花のことを話した。父は確かに、そのことはあり得るかもしれないと言った。

 けれど。

「そのことを、他の人には決して話してはいけないよ」

 父はそう言った。

 だからミージュは、それ以上は誰かに言うことはなかった。

 謎の民族との戦いは、まだ序章に過ぎなかった。

 この後更なる困難が彼らを待ち構えていることなど、この時のミージュは知る由もなかった。



<次の話へ続く>




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