エピローグ ミージュの話の終わり
メルリー王国は動かなくなり、大地に根付いていた。
レアンの木をはじめ、すべての植物が大地に根を伸ばし、走ることをやめたのだ。
動かなくなった国に、人々は驚いた。
それでも、人々は以前のように恐怖に怯えはしなかった。
辺りには草原が広がり、近くには水辺もあり、穏やかな時間が流れ始めていた。
緑に溢れ、生き物はゆったりと暮らし始めていた。
世界の終わりの闇から逃げる必要がなくなり、人々だけでなく、すべての生き物が安堵しているように見えた。
砂漠と水辺しかなかった大地に、青々と植物が生えるようになっていた。
終わったのだ。
逃げ続ける日々、恐怖に怯える日々が。
あの日。
人々は、戻って来たフィフィルから、「世界の終わり」の闇が消えたことを聞いた。
確かめに行かずとも、どの人にも確かにそれはわかった。
遠く後方からしていた、恐ろしい気配がなくなっていた。
フィフィルから経緯を聞いたファイランは、ミージュに会いに行くことにした。
フィフィルとともに鳥に乗って空を飛んだファイランは、世界の中心にある大木の元へと向かった。
人々が中心樹と呼び始めたその巨大な樹は、天高くそびえ、この世界のどこからでも見えそうなぐらい大きかった。
力強く生命力に溢れた美しいその樹を、ファイランはじっと見つめた。
「ミージュは、樹の精霊だったんだな」
ファイランがそう言うと、フィフィルも頷いた。
「ああ。俺たちの間では、樹の勇者が空を飛び、闇へと向かうと語り継がれてきた。きっとこの樹、ミージュがそうだったんだ」
それを聞いて、ファイランは言う。
「メルリー王国には、樹の精霊が人に姿を変えて住み、いざと言う時に人々を救うという言い伝えがある。誰もがその精霊である可能性があるから、すべての人を大切にしなさいと、小さい頃から言われているんだ」
ただの言い伝えだと思っていた。けれど、それは本当だったのだ。
人に姿を変えた精霊は、人に拾われ、自分が精霊であることを忘れるほど、人ともに過ごした。
メルリー王国を救うために。
人を愛するために。
「ありがとう」
ファイランはそう言って、空に向かって伸びる樹を見上げた。
君にはもう会えないのか。
ファイランが見上げていた、その時。
「ミージュ!」
見上げた先の木の枝に、ミージュが笑って座っていた。その姿は、今までに見た姿と変わりはなく、楽しそうに微笑んでいた。
ミージュは願う。
彼らがいつまでも幸せに暮らせることを。
いつまでもいつまでも、あなたたちが幸せでありますように。
<END>
最後までご覧いただき、ありがとうございました!
ミージュの物語は、これにて完結となります!
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