第28話 ミージュの話⑯
ミージュは牢屋の中で夜を迎えた。
眠ることなどできなかった。けれどここで何ができるわけでもない。時間が経ち、すべてが解決するのを願っていた。
そうしていると、ふと、何やら足音がした。
ミージュが扉の方を向くと、そこにはファイランとメイリアがいた。二人は黒いローブのようなものを着ていて、ここに来ていることを他の人にバレたくないのだと、ミージュにはわかった。
状況は、芳しくないのかもしれない。
「ミージュ、大丈夫か?」
ファイランが心配そうに声をかける。
「状況はどうなってる?」
ミージュは立ち上がり、二人のいる扉に近づいた。
「植物は減速し続けていて、今にも止まりそうだ。葉の調子が、見るからにおかしい。こんな時こそ、植物医の君たちの力を借りなきゃいけないって言うのに」
ファイランは苦痛に顔を歪めた。
「原因は何だと思う?」
メイリアはミージュに尋ねる。
「恐らく水が関係しているのだと思う。先日の雨に、植物にとってあまり良くない何かが含まれていたのかもしれない。ただ、それだけで弱ったのかはわからない。根がやられていることも一因だと思うし、それは先日の戦いも関係しているから、断定はできない」
ミージュは淡々と答えた。
「今、俺たちで、ミージュを解放できるよう全力を尽くしている。だから、少しの間我慢しててくれ」
ファイランはしっかりとそう言った。
「ファイラン」
メイリアは咎めるように名を呼んだ。
「ミージュ。もちろん私も、ファイランも、君を助けるために動いている。ただ、君にすべての責任を押し付けようとしている輩たちもいてね。君は根が弱っている可能性を指摘しただろう? そのことを言われるとまずい輩がいるんだ」
「宰相の、ゼインか」
先日の戦闘の指揮を執り、またミージュを捕らえに来たゼイン。
根を調査され、戦闘によって傷ついたということがあれば、大変なことだ。
もしこの国の減速に、その指揮が影響しているとなれば、ゼインはその地位を失うだろう。だから調査をさせず、すべての罪をミージュに押し付けようとしている。
もっともそのことは、ファイランたちもわかっている。
だからきっと大丈夫だと、ミージュは思おうとした。
けれどもし。
この国が動きを止め、進むことができなくなったとしたら。
何もできない植物医が、無事でいられるとは思えなかった。
「原因を解決するのに、何か良い方法があればいいんだけど」
ファイランに言われ、ミージュは考える。
「父なら何か知っているかもしれない。でも……」
「お父上は、まだ眠っているらしい」
メイリアは静かにそう告げた。
「必要なものがあったら、看守に告げてくれ。可能な限り用意できるよう、計らっておくから」
メイリアはそう言うと、まだ名残惜しそうなファイランを連れて、去っていった。
足音が完全に遠ざかっていくまで、ミージュはじっとそのままでいた。
一人残されたミージュは、先ほどよりもさらに孤独を感じた。
自分はこの先どうなってしまうのだろう。
解放されるのだろうか?
この国の問題が解決しなければ、何らかの形で罰せられることを、逃れられないだろう。
このままでは、この国は動けなくなってしまうかもしれない。
枯れてしまうかもしれない。
そうなれば、この国の人たちは生きてはいけないだろう。
ミージュは考える。
原因は何なのか。植物たちは水の質を挙げていた。全体的に弱っているというのだから、それが関係しているのは間違いない。それには雨が影響しているのだろう。
レアンの木の根が弱っているということには、ゼインの戦闘のせいかもしれないし、他に原因があるかもしれない。レアンの木は他の植物に様々な影響を与えている。この国の植物は複雑に関係しあっているから、そこに何か原因があるのかも。
ミージュはそこまで考えて、これ以上考えるのは一旦辞めることにした。
眠ろう。
今この時点では、これ以上のことはわからない。
眠れないかもしれないけれど、来るべき時に備えておくことが重要だ。
絶対に負けない。
自分を、この国を救ってみせる。
ミージュはそう誓い、瞳を閉じた。
<次の話へ続く>
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