第22話 ミージュの話⑫
メルリー王国で、ミージュが違和感に気づいたのは、負傷者のための薬草を採取していた時だった。
水不足も解消され、この国は順調に進み続けている。それにも関わらず、薬草の量は以前ほど取れずにいた。
この国自体も、まだ回復できていないのかもしれない。
ミージュはそう思った。
また何かが起こるかもしれないという、底知れぬ恐怖があった。その思いは、他の人たちにもあるのかもしれなかった。
空から何かが来るかもしれないし、また落とし穴があるかもしれない。家主が戦いによって怪我をしている家庭では、家族が代わりに働きに出ていかなければならない。もちろん、ファイランたちがそれはフォローしてはいるのだけれど、漠然とした不安は拭えなかった。
ミージュは薬草のことを、誰かに話そうかと思った。だけど採取できる量の元の基準値があるわけでもない。
「気温の問題かな? それか、ここ最近の水不足の影響?」
ミージュは父にそう尋ねた。
「確かに、いつもなら生えてくる植物が、ここ最近はその勢いがない。何か原因があるかもしれない」
朝食をとりながら、ミージュの父は答えた。
食卓には、ガーデンでとれる「ハクマイ」という植物が並んでいる。ハクマイと言っても、白い米ではなく、歯ごたえと水分のある肉厚の葉っぱのようなもので、この国の主食だ。食事は極めて質素に見えるかもしれない。この国では、食料がそんなに多く採れるわけでは無いので、それに対応した体になっているのだ。
ミージュたちは朝食を終え、日課の水やりをした後、植物の観察に向かった。
ミージュが街を歩いていると、住人のケリエンに声をかけられた。
「うちの植物が元気ないみたいで、診に来てもらえない?」
ケリエンは、ミージュの母と仲が良く、家族ぐるみで付き合いがある。ケリエンには息子が一人いて、名前はシレネという。彼はミージュの二つ年下だけど、しっかりしていて、伝達係という仕事をしている。伝達係は、主に国王などから国中にお知らせを伝えたり、手紙を届けたりする仕事だ。シレネは足が速く、国中を素早く駆け回る。
ケリエンの家は、植物の蔦で作られた簡素な造りではあるものの、辺りには綺麗な黄色い花が入り口を中心にいくつも咲いていて、道行く人の視線を止める。
ケリエンの家の、シンボルとも言える黄色い花、この国ではイエロークレスと呼ばれているその花は、毎日のように花をつける樹勢も旺盛な植物だ。
けれどその黄色い花が、今日見るとまばらで、花に勢いがない。いつもなら一面に花が咲いているというのに、奇妙だ。
ミージュは原因を探した。
水枯れを起こしているわけでは無い。葉の状態は普通。虫や病気などが起きている気配はない。今いるエリアの外気温が特別高い、低いということもない。だとしたら、根に何か異常でも起きているのだろうか。
ミージュは地面をしっかりと観察する。地面と言っても、植物同士が絡まり合っていて、土の部分などほとんどない。それは元々そうなので構わないのだけど。
「ここ最近、何かこの辺りで工事とか、根に支障が出そうなことってあった?」
ミージュはケリエンに尋ねる。
「無いと思うわ」
ミージュは地面の様子を見る。他の植物が影響している可能性も考えられたが、以前来た時とそれほど変わっているようには見えなかった。イエロークレスそのものが、急速に弱っているようには見えない。
「今見た限りだと、特に悪いところはないと思う。ここ最近、水枯れもあったし、それが影響しているのかも」
そう説明して、ミージュは考える。
表立った原因はない。
だけど何だか違和感だ。
薬草がいつものように取れないこと、イエロークレスの謎の不調。何かが繋がっている気がした。
レモヒラならわかるだろうか?
ミージュはそう考え、レモヒラのところへ向かうことにした。
ケリエンの家を離れ、階段を下りていると、シレネがやって来た。
細く、すらりとしたシレネは、淡い黄緑色の髪をしていてわかりやすい。
「こんにちは、シレネ。今、君の家のイエロークレスを診てきたところなんだ」
「そうですか。ところで、この先に向かいます?」
「そのつもりだけど」
「やめておいた方が良いですよ」
「え?」
不思議そうにするミージュに、シレネは言う。
「レモヒラに罪状が出て、今この先はだいぶざわついているので」
「罪状?」
一体何があったのだろう?
ミージュは驚きを隠せなかった。
<次の話へ続く>
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