第14話 ミージュの話⑦
メルリー王国の会議室。
ファイランは対策会議に呼び出されていた。
そこで今後の対処の仕方について話し合われた。空の民の襲撃、虫の襲来、今後も様々な予期せぬことが起こる可能性がある。そして何より、水不足について。この国が進み続けること、それと国民の命。そのことをもし天秤にかけるようになった場合、どうするか。
非情な判断も提案の中にはあった。
ファイランは国王たちとともに、その話を聞いた。
ファイランは会議を終えると、気持ちを切りかえるべく、外を歩き始めた。ガーデンを抜け、階段を下りていく。国の外側にぐるりとある階段からは、砂漠の景色が見えた。
ファイランが降りていると、登って来たミージュに出くわした。
「ファイラン、どうかした? 浮かない顔をして」
「ああ。ちょっとな」
「何かまずいことでもあった?」
ミージュはファイランの様子を見て、すぐにそう判断した。
「頭ではわかっていたんだけど、具体的になると恐ろしくてな」
ファイランのその言葉を聞き、ミージュは大体のことを察した。
この国の、優先順位を思って。
「ミージュは、ガーデンに用か?」
「用ってわけじゃないけど、植物の様子を見ようと思って」
「そうか」
そんなことを話していた時だった。
がくんっと、国中が大きく揺れた。
何が起きたのかわからず、ミージュは振り落とされないよう、近くの蔦にしがみついた。一方ファイランは、すぐに階段から身を乗り出し、足元を見降ろした。高いその場所からはよく見えなかったが、この国ごと砂の穴の中に落ち込んでいることがわかった。
「何だって急に!」
「ファイラン、気を付けて!」
ぐらりとまた大きく揺れた。植物が砂から這い上がろうと動いているのだ。しかしその穴のような所から這い上がることはできず、不安定に揺れ続けた。
地震の比ではない。縦に横にしばらくの間激しく揺れ続け、ミージュたちは必死にしがみついたまま様子をみるしかなかった。
しばらくそうしているうちに、植物は動かなくなった。
ミージュたちはその隙に、ひとまずガーデンに上がることにした。そして、観測室へと向かう。メイリアは見ていたはずだ。この国の不可思議な状況を。
通常植物たちは、穴に落ち込んだりしない。視覚があるのかはわからないが、穴のようなところ、不安定な場所は極力回避して進んでいる。
なのに、何故。
「メイリア!」
ファイランが彼女の名を呼ぶと、メイリアはじっと二人を見つめ、口を開いた。
「落とし穴だよ」
何が聞きたいか、よくわかっていたのだろう。メイリアは開口一番そう告げた。
「落とし穴? どんな?」
「よくわからない。見た目にはただの砂の大地に見えた。なのに突然、そこを通りかかったらこの通りだ。落とし穴以外に、考えにくい」
メイリアがそう断言するのだから、自然発生したものではないのだろう。
だとしたら。
「誰が、何のために?」
「そんなの、私がわかるわけないだろ」
メイリアは弟の質問にそう答えると、書類片手に部屋を出ようとした。
「急ぎ父上に報告しなくては。ファイランも来るか?」
「俺は後で行く」
「そうか」
部屋を出ていくメイリアを見送って、ファイランはミージュを見た。
「穴から出る方法か……」
「どのくらいの深さなんだろう?」
ファイランとミージュは、観測室の外に出て、身を乗り出した。深さ数メートルはある広く大きな穴。これだけの穴を人力で掘ったのだろうか。元々あったものを、落とし穴に使ったという方が正しいのかもしれない。けれど、誰が何のために?
「落とし穴に落として、物を略奪するとか?」
「その線が一番考えられると思うけど」
ファイランは辺りを見渡した。
「それなら、どこかで見張りでもいて、今まさにこちらへ向かって来ているかもしれないわけだ」
「そういうことになるね」
二人の表情に緊張が走る。
「空の民との交戦で、ただでさえ疲弊しているっていうのに」
ファイランは、ぐっと右手を握り締めた。
「戦いだけじゃなく、ここからどうやって出るかも考えないといけない」
ミージュのその言葉に。
「最悪を想定して、覚悟を決めておくことだ。覚悟がなければ、いざという時何もできない」
ファイランは自分に言い聞かせるようにそう言った。
<次の話へ続く>
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