プロローグ ミージュの話
メルリー王国の一番高い場所から、ミージュは処刑される。
この国の絶望、罪を、一身に受けて。
この高さから落ちて助かることなどないし、もし助かったとしても「世界の終わり」の闇に飲み込まれるのみだ。
どちらにせよ、もうすぐこの国も「世界の終わり」に飲み込まれ、終わりを迎えてしまうだろう。
どうしたら良かったのだろう?
ミージュはそう思い、後悔の中、目を閉じる。
そしてミージュの体は宙を舞った。
◆
目が覚めた時、ミージュは驚いた。
「どうして……」
そこは、あの事件が起こる前のメルリー王国だった。
ミージュの身体は怪我一つなかった。
黒色の艶やかな肩までの髪に、緑色の二重の瞳。男女どちらととっても美しい、20歳前後の中性的な容姿をしていた。だぼっとした、いつものベージュのコートを着ていたが、それは外で作業をするためのものだった。
植物医の家系に生まれたミージュは、この国、メルリー王国では欠くことのできない重要な役割を担っていた。
メルリー王国は植物でできた国。そしてこの世界では、植物をはじめ、すべての生き物は走っている。どういう意味かと言うと、文字通り走っているのだ。
「世界の終わり」から逃げるために。
世界の終わりと呼ばれる、ブラックホールのような暗黒空間が、この平らな世界の端を吸い込んでいる。その世界の終わりから逃げなければ生きていけないこの世界では、すべての生き物が走り、逃げているのだ。それは植物にも言えた。
このメルリー王国は、そんな走る植物の上に成り立っている国だ。
あの日。
事件が起こり、この国は動きを止め、世界の終わりに飲み込まれた。
ミージュは止めなければと思った。
あの事件、この国の終わりを。
でも、どうすればいい?
ミージュはこの国唯一の図書室で、何か参考になるものが無いか探すことにした。
「何か探し物か?」
幼馴染で、この国の王子ファイランが、ミージュに尋ねる。
ファイランは茶色い髪に、青い瞳をしていて、王族が着る空色のローブを纏っている。背が高い彼は、いつもミージュを見下ろす形になった。
ミージュはしばし考えて、それからファイランに、これまでに起こった不思議な出来事を話すことにした。
「このままでは、また同じことが繰り返される。それを止めなければ」
「そうか。君も気づいたんだな」
ファイランの言葉にミージュは驚き、彼をじっと見つめた。
「何度も繰り返されているようなんだ」
過去に何が起こったのか、記憶は定かではないけれど、繰り返されていることだけは確かだと、ファイランは言った。
「この国は、何度も世界の終わりに巻き込まれ、終わりを迎えている。だからそれを止める方法を探していた。この本を読んでみて欲しい」
ファイランに言われ、ミージュは一冊の本に目を通した。
そこにはまるでミージュとそっくりの人物が、異世界に行き、「愛」を集め、この世界を救うという物語が書かれていた。
「君がこの世界を救うんだ」
ファイランはミージュの両肩を握りしめ、はっきりとそう言った。
「そんなことを言われても」
「そうしなければ、俺たちは永遠にこのままだ。この国は滅ぶ。何度も、何度も」
ファイランは苦痛に顔を歪めた。
何度も何度も繰り返される終わりを思って。
この国を救えるのなら。
その先に進めるのなら。
「わかった。やってみる」
ミージュはそう言ってファイランを見つめた。
「これを君に」
ファイランはポケットから、白い大きな宝石がついた金のネックレスを取り出した。
「物語に必要なもののようだから」
ミージュはそれを受け取ると、この国を救うために異世界へと旅に出ることを決めた。
「必ずこの国を救ってみせる」
ミージュは誓った。
そしてミージュは時間を、世界を越え、物語は動き始める。
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