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知る人ぞ知る魔女の店  作者: がみれ


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第二話「しがない魔女」

魔女は頁をめくり、一段落したのか「月夜が浮かぶ夜の海と一つの島」という付箋を本に挟み机に置いた。


「どうだった?」


 悪魔が適当に尋ねる。


「考え方は面白いけどそれ以外は可もなく不可もない」


「そうなのか〜」


 あくびをたてながら、空中で寝そべり、瞼が重そうな悪魔はいつものように言った。


 店長と接した時間は悪魔にとって長いが、どれほど本に興味を惹かれているかは聞いてみなければ分からない。


 今回は「まぁまぁ」の言葉は出さず、しかも感想までついている。

 ──────それなりに興味をそそられたらしい。


「研究はどこも資金と資源が不足している。直接何かに役立つかが未知数な分野は尚更」


 魔女は立ち上がり、本と杖を持って店の奥に進んでいく。


「お、久しぶりに研究するの?」


 悪魔が目をこすり眠そうながらも、魔女の奥をついていった。


「たまには魔女っぼいことをしといた方がいいだろう」


「そうかもね。腕が鈍るといけないし」


 奥にまっすぐ進み、下へと続く螺旋階段が見える。使い魔である悪魔は、螺旋階段の入り口に置いてある魔鉱石が入ったランタンを持ち、後に続いた。


 魔鉱石は悪魔が持つ白色の魔力で白く発光した。


 階段にはきれいな花や竹あかりが壁に等間隔に置かれている。


 あれらは中には触ると、魔力を吸い取って死にいたらしめる危険なものもあるのだが、うちの店長は一回階段でこけて、それに触ってしまったことがある。


 幸い店長だったから命の心配はなかった。けれど、後始末がとんでもなく大変だったのを悪魔は覚えている。成長した植物の撤去と壊れた壁の修復。


 ───────もう二度とやりたくはない。

 だから置くのを止めるよう言うのだが、思い入れがあると頑なに聞いてはもらえなかった。


「やっぱりさ」


「嫌だよ」


「まだ何も言ってない………」


 こんな感じに。


 そして、なんの変哲もない階段の途中で、魔女は止まり他の壁と遜色ない壁を杖でトンと軽く叩いた。


 ─────すると壁は砂になって崩れ落ち、隠れていた鉄の扉が崩れた奥に現れた。


 魔女は、そのまま床の左右に照明がついた通路の先に進み扉を開けた。


 万が一関係ない人が入ってしまっても分からない位置に隠したここは第二図書館。


 部屋は真っ暗で図書館とは名ばかりに、本が棚に並べられ、その棚は先を見通せない闇へ続いている。


 比喩ではなく、上を見上げても左右を見ても棚が何処まで続いているのかは見ることが出来ない。


 一階の本屋とは別にある客に見せれる第一図書館と違い、危険な書物等があるここには魔女が生涯を掛けて集めた魔術と魔法の蔵書が眠っている。


「アリュ•リベリア•ウェルス」


 魔女は魔法の簡略化した呪文を、魔法陣の上に杖を突き立て詠唱した。


 永遠に続く蔵書は指定したものを人力で取り出すのはもはや不可能に近い。よって、魔女は魔術で本を仕分け、取り出し、保管する際は魔法を使う。


 魔法を使う理由は様々で、出力のしやすさとか漏洩防止とかまぁそんなのはひとまず置いておこう。


 魔力の光が部屋中に届き、棚が次々動き始め、扉の正面に移動した棚から次々と目当ての本が宙に浮いて、魔女の目の前へと運ばれる。


「規格外だよね」


「そうかもね」


 この第二図書館は、わざわざこの図書館の本のみ統括する中位悪魔との契約で使っている。魔女が指定した本を悪魔が渡す。逆もまた然り。つまりどっちともここにある全ての本を暗記しているわけだ。


「おいらだったら頭が弾け飛びそう」


「年の功というものだ。君も年を重ねれば同じ事ができるさ」


 そう言い五つの本を取り出した魔女は、可愛らしい見た目の悪魔を撫でた。


 魔女はそのまま階段を降り最下層付近の魔導学実験室に入り、悪魔は助手として店長を手伝った。

 ──────何気ないこの時間が以外にも楽しい。








 ───────ある日の正午

「リルウェスト。私は少し外に出る。店番頼んだよ」


 そう言う魔女は紺のローブを羽織い、扉を開けた。

 急な外出は大体目的が決まっている。悪魔は宿の掃除から始めた。


 この雪山は古龍アンベルシュ•ルクアの住処であり、漏れ出た魔力に精霊が影響を受け、一年を通して雪が降り続いている。


 ちなみにルクアさんとはご近所さんだ。和菓子が好物なのでたまに会って大福とかを差し入れにいっている。


 まあつまり雪で視界が悪く、急な斜面で滑り落ちるケースは少なくないということだ。それで心優しい魔女様は遭難した人達を逐一助けている。


 ずいぶんお人好しに見えるが店長曰く、自分の家で死人が出るのは見てられないとのことらしい。


「そういう所がみんなに好かれる所以なんだよな〜〜」


 小さな箒を片手に隅から隅まで掃除し部屋を整えたリルウェストはご機嫌に言った。








 降り続ける雪で真っ白な世界の中、紺色のローブと手に持った枝のような細長い木にぶら下がったランタンは一際目立ち、空を飛ぶ姿に…………


「し、死神………」


 狭い洞窟で寒さに体を縮こまる見るからに冒険者の風貌をした五人は自らの死を悟った。


「いや。ただのしがない魔女だよ」


 フードを取った魔女は魔法陣から暖かそうな耐寒性能を持つ上着を、着せ魔女は聞いた。


「いくら出せる?」


「え?」


 その言葉に驚くリーダーらしき人物。


「命を救うんだ。対価は支払われるのが道理だろう」


 魔女は神ではないし、聖人でもない。

 誰かの救世主であるかもしれないが、それでいて対価は相応にもらう。


 それが魔女というものだ。


「わ、分かりました。今ある分だけなら」


 一人の男が前に出て震えて手がかじかみながらも、お金が入った袋を取り出し言った。


「半分でいい。それともう一つ。私に関する記憶を下山時に消去する契約を君たちと結ぶことが助ける条件だ」


 人差し指を口に当て、内緒にという意図で言う。


 この取引は現時点では対等に行われている。

 まず、対価としてもらうお金は救助費と宿泊代。


 いくら出せるかと聞いたが別に金が欲しいという意味でも、荷物の中の物が欲しいという訳でもない。単なる宿泊代が出せるかどうかの見定めだ。


 そして、ここまでは単純な商売で客と店はどっちにも利がある。


 だが、下山時に記憶が消去されるという契約の効果により魔女に会った瞬間から下山までの記憶の一切がなくなる。


 すると結果は洞窟から麓まで一瞬でワープしたように感じ、お金だけが無くなっているから冒険者は損をしたと考える。


「それでお願いします」


 これはバランスだ。

 宿に滞在中、魔女と取引し物珍しい書物や薬、武器を入手し下山した場合の利得と何も買わずただ金だけを失った損失。


 ただで助けていないのは、利益目当ての者たちが頻繁に来ないようにするためにある。


 それと遠くの地にある手が届かない物品を魔女が入手する意図も。


「いいだろう。案内するよ」


 振り向いて魔女はフードを被った。


 お金による交渉という手段は人間に寄り添い平和に生きようとする魔女なりの世の渡り方なのだろう。

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