2夢
冷たい夜風が頬をなで、眩しさで目を細める。
「満月…」
黒猫はぼそっとつぶやいた
何か思い出せるような気がしたが、やめた。
それはそれは綺麗な、息をのむような満月だ。
手を伸ばせば掴めるかもしれないと思い、おもむろに黒い影を前に出す。
掴めない、手をすり抜けていく。
おかしい、おかしい、こんなはずじゃない。
掴めないと分かった瞬間、歯がゆさと焦燥感で影に力が入る。
「××××!!!」
金切り声が小さい耳に刺さる。
「はっ…!」
硬く力の入った指先から出た鋭い爪が、薄いタオルケットに突き刺さっていた。
夢を見ていたようだ。
タナーは現実に引き戻されてすぐに、金切り声の正体が分かった。
「ああ?ふざけるなよ!先月もここでしょんべんしやがって、全部ばれてんだよてめえの行動はよ!」
「お前こそ、俺の縄張りで鼠狩りしたらしいじゃねえか、なめたことしやがって!」
近くでガラの悪い猫が言い争いをしているようだ。
ここの地域では、月に一度はこのような争いが繰り広げられているため特に驚きはなく、カーテンを覗く気にもなれなかった。
首のあたりを、後ろ脚の少しかさついた肉球で掻く。
今日はハチと街へ行く約束をしている。
ハチは友人であり、高校の同級生だ。
特に予定のない休日は、よくハチと出かけている。
「ズズズズ…ズズズ」
洗面所から苦しそうな音が聞こえる。
先月掃除したばかりなのに秋の抜け毛のせいか、もう詰まりを起こしていた。
一足早く掃除が必要みたいだ。
洗面所の声を聞き流し、ジャケットを着て外に出た。
続きます。