1告白
今日は重要な日だ。絶対に失敗できない。
毛づくろいはいつもの2倍、いや、5倍はした。体の隅々まで、ルーが好きな草のにおいをつけるために、午前中ずっと公園で体をよじらせた。
「よし、いける」
くすんだ窓ガラスに映る、透き通ったコバルトブルーの目が、キラッと輝いた。
ここ、家々たちの影、リンセン通りの路地裏。
黒猫タナーは、想いを寄せていた猫、ルーに告白する為に深呼吸していた。
1時56分、待ち合わせの時間は2時だ。
昔から色恋沙汰には疎い方だったが、告白ごときで気が付いたら1時間も予行練習し続けていたとは、我ながら驚きだ。強がってはいるものの、実際は自ら恋心を打ち明けたことなんて、今まで一度もなかった。
あとは少しの勇気を振り絞るだけ…
覚悟を決めて顔をあげると、そこにはルーがいた。
一瞬で心臓を掴まれ、毛並みが逆立つ。
音もなく現れた彼女は、満月のせいかいつにも増して凛として見える。
アンバー色の瞳がタナーの目に映る。
「あ、ルー」
思わず声が漏れた。
「こんばんは。えっと、重要な話って何?」
柔らかい声で、ゆっくりとルーは答えた。
伏せたルーの目線がゆっくりと上がり、黒い猫の姿をとらえた。
頭が真っ白とはまさにこの状態を指すのだろう。
1時間、無我夢中で練習した成果は、ルーを見た途端どこかへ吹き飛びそうになった。
タナーは、もう一度呼吸を整えた。
「僕、ルーのことが……」
続きます。