第37話 「罠の誘いと真の本拠地」
古代神殿の廃墟に到着した彰人たちは、深い沈黙に包まれた空間に足を踏み入れた。セフィーナが耳を澄ませるが、風の音すら聞こえない。
「……妙に静かね」
「罠の匂いがするぜ」ハッサンが警戒の目を周囲に向ける。
彰人は追跡装置を確認しながら、口を開いた。
「信号は確かにここを指してる。だが、なにかがおかしい」
マーリンが結界の痕跡を見つけた。
「これは……偽装だ。空間の魔法で場所の座標が書き換えられてる」
「つまり、本当の本拠地じゃないってことか」
そのとき、突然神殿の天井が崩れ、大量の黒い兵が舞い降りてきた。
「包囲されたか……!」
指揮官らしき存在が姿を現す。漆黒の甲冑に身を包み、無機質な声で言った。
「追跡装置、なかなか面白い。お前たちの位置、ずっと監視していた」
セフィーナが声を荒げる。
「気づいてたのね……!」
彰人は冷静に一歩前に出た。
「こっちもそれは織り込み済みだ。これはダミーの装置だ。信号は改ざんしてある」
指揮官の瞳が光る。
「何……?」
「本隊は別ルートで動いてる。お前たちが追うべきは、そっちだ」
その頃―― 村の地下にある封印の神殿。隼人、クロード、ミケたちが密かに移動していた。
「ここが……エリシアが言ってた地下神殿か」
クロードが剣を構えながら言った。
「本拠地を叩くチャンスは一度きりだ。気を抜くなよ」
ミケは慎重に扉の紋様を見つめていた。
「この封印、彰人の言ってた“ゲーム的な仕掛け”があるかもしれない」
隼人が扉に手をかけると封印が反応し解除された。
「行こう。この世界を終わらせないと……何も始まらない」
場面は再び神殿へ。
敵の包囲網の中で彰人たちは応戦を開始。ハッサンの拳が空気を切り裂き、セフィーナの光魔法が黒兵を吹き飛ばす。
「時間を稼げ!」
「援護は任せて!」
彰人は心の中で呟く。 (本当の戦いは、ここからだ)
その頃――
村の地下にある封印の神殿。
隼人、クロード、ミケの3人は、密かに遺跡の奥へと歩を進めていた。
静寂が広がる石造りの回廊に、ふと足音が重なった。
「やあ、何故ここに君が居るんだ?」
クロードの声に、隼人とミケが身構える。
淡い光に照らされ、現れたのはエリシアだった。
「え……私は、あなたたちが心配で……ついてきたの……」
震えた声。しかし、それが演技であることに、もう誰も騙されなかった。
「俺たちがここに居ることは、仲間以外に知らせてないんだよ、エリシア」
隼人が言葉を投げると、エリシアはゆっくりとこちらを振り向いた。
その瞳に浮かぶのは、これまでとは全く違う、冷たい光。
「え?そ、それは……」
「おかしいと思ってた。襲撃されてるわりには、村に被害がなさすぎる」
クロードが言い切る。
「俺たちが来る前から村が襲撃されてるなら、あんなに綺麗な状態のわけがない」
「それに俺たちが最初に村に来た時、村人はまったく警戒した様子がなかった」
「だから君に、密かに追跡装置をつけさせてもらったんだよ」
静寂。
エリシアは、ふっと肩を落とし――
「はぁ……バレてたのね」
そして不気味な笑みを浮かべた。
「ここの封印を解いてもらってありがとう」
その言葉と共に、神殿全体が微かに震える。
魔力が、蠢いていた。
「隼人、魔力の流れが変わった!」
ミケが鋭く叫ぶ。
「封印を解くために、俺たちをここに誘導したんだな」
クロードが剣を構える。
「最初から、俺たちは"駒"だったってわけか……」
「うふふ、半分は正解よ。もう半分は――観察」
エリシアの瞳が淡く光り、次の瞬間、神殿の壁に刻まれていた古代のルーンが一斉に輝き出す。
「隼人!魔方陣が起動してる!」
「くっ……解除しろ!ミケ!」
ミケが呪文を唱え始める。
「時間が稼げない、クロード、援護を!」
「任せろ!」
クロードが前へ出て、エリシアに向かって剣を構える。
そのとき、天井が砕け、何かが落下してきた。
巨大な金属音。
「ゴーレムか!?こんなところにまで……」
「私が連れてきたのよ。“神殿守護機兵”。」
エリシアが笑う。
「これは前哨戦ね。あなたたちが"選ばれる"資格があるか、試してあげる」
「試すってのは、あんたらが一番嫌いな言葉だったろうに……」
隼人が苦笑しながら構える。
「それは“表の私”の話よ」
エリシアの足元に、淡い闇が広がっていく。
「ミケ、まだか!」
「もうちょっと……!魔方陣の起点を見つけたけど、構造が二重になってる……!」
「俺が時間を稼ぐ。クロード!」
「了解!」
二人がゴーレムに突っ込む。
巨大な腕が唸り、床をえぐる。
「隼人、背後注意しろ!」
クロードの声に反応し、振り返る隼人。
刃が交差し、火花が散る。
「ぐっ……強化されてるのかこいつ!」
「神殿の魔力を吸ってるな……手間取るぞ!」
「ミケ、あとどれくらい!?」
「もう少し!もう……っ、よし、今よ、今しかない!」
ミケの手が魔方陣の中心に触れた。
「"反転・封印術式"!」
光が神殿全体を包み、激しい揺れと共に魔方陣が崩壊する。
「封印術式、崩壊完了!」
「よし、これで――」
ガシャン!
巨大なゴーレムが一瞬だけ動きを止めた。
「今だ!押し込め!」
クロードの一閃がゴーレムの首を断つ。
巨体が音を立てて倒れ、静寂が戻った。
しかし。
「……まだよ」
息を切らしながらも、エリシアは笑っていた。
「この奥にあるのよ、今までのは、本当の封印じゃないのよ」
「なんだと……?」
「この神殿は、ほんの入口。あなたたちは、ようやくゲームの“第2章”に足を踏み入れたところ」
壁が崩れ、地下へと続く階段が現れる。
「下には、もっと面白いモノがあるわ」
そう言って、エリシアの身体が闇に飲まれていった。
「待て、エリシア!」
隼人が駆け寄るも、すでにその姿は消えていた。
「まさか、これが本当に……まだ始まりに過ぎないとは」
ミケが呆然とつぶやいた。
クロードは階段を見つめたまま、口を開く。
「行くか?」
隼人は静かにうなずいた。
「……行こう。ここからが本当の地獄かもしれないが、進まなきゃ何も終わらない」
そして3人は、光の差さぬ地下階層へと、歩みを進めていった――。




