第35話「束の間の休息」
朝日が差し込む中、隼人たちは静かに目を覚ました。昨日の激闘の疲れが身体の奥に残っているものの、彼らは再び歩き出す決意をしていた。
「さ、帰るか。村に戻って報告しないとな」
隼人が立ち上がり、装備を整えながら言う。
「昨日の出来事、簡単に済ませられる話じゃないわよね……」
ミケは重い口調で言った。
「とにかく、エリシア姫に会って、あの少女──創造主のことも伝えよう」
クロードが深く頷いた。
帰路の道中、誰も多くは語らなかった。
それぞれが昨晩の戦闘、少女の言葉、創造主の存在──それらを思い返していた。
村へと戻ると、見慣れた風景と穏やかな日常が広がっていたが、彼らの中に流れる空気はまったく別物だった。
「エリシア姫、ただいま戻りました」
村の中心にある執務室に入ると、隼人たちは整列し、深く一礼した。
「おかえりなさい……どうか、話を聞かせて」
エリシアは穏やかな微笑みで彼らを迎えたが、隼人たちの険しい表情にすぐに表情を引き締めた。
「実は……地下遺跡の最深部で、龍型のゴーレムと交戦しました。そして……その奥に、ひとりの少女が」
ミケが簡潔に説明する。エリシアは少し驚いたように身を乗り出した。
「少女……? まさかその子が、創造主?」
「はい、彼女自身がそう名乗りました。ただ、今は力を封印されている為に少女の姿になっているそうです」
隼人の言葉に、エリシアはしばらく沈黙した。
彰人が口を開く。
「……エリシア姫。創造主という存在について、何かご存知ありませんか?」
エリシアは少し首をかしげ、ゆっくりと首を横に振った。
「いいえ。創造主様という存在がこの世界にいるという話は、私は初めて聞きました」
彰人は彼女の反応を細かく観察しながら、さらにいくつか質問を重ねた。
「この世界の技術や構造については?」
「はい、それについては文献を通してある程度理解しています」
「外部から来た存在に関しては?」
「村の建設に関わった者たちが異世界出身である、という記録はあります」
彰人は考え込む。
(俺の質問には的確に、かつ自然に答えている……スクリプト的な挙動はない。つまり、彼女はNPCではない。自我がある、ちゃんとした『人間』だ)
マーリンが呟いた。
「でも不思議だな、こんなに大きな存在のことを、エリシア様が知らないなんて」
「封印された存在だからこそ、記録からも意図的に消されたのかもしれん」
クロードが腕を組んで推測する。
「それにしても、あの少女の語っていた“異世界の力が暴走した時に生まれた存在”……これが本当なら、今後の戦いはさらに厳しくなるな」
「ふぅ……少しだけ、休みたい……」
ミケがふらりと椅子に座り込んだ。
「そうだな、体力も限界だ。今日は休息を取ろう」 隼人の言葉に、みんなが同意するように頷いた。
その日の午後、隼人たちは村の片隅にある温泉施設でひとときを過ごしていた。
湯気の中で、久々の安らぎが広がる。
「ふぅー、極楽……」
「ほんと、命の洗濯ってやつね」 ミケが笑う。
「けど、心は洗濯できないんだよな……」 彰人がぼそっと呟いた。
「どうした?」 隼人が振り向く。
「……いや、なんでもないさ。ただ、この戦いが全部、誰かの“ゲーム”だったとしたら、どこまでが現実なんだろうって思っただけだ」
「彰人、それでも俺たちは今を生きてる。目の前にある命を守るために、戦うしかないだろ?」
「……そうだな。お前がそう言うなら、それを信じるよ」 彰人は静かに目を閉じ、湯の音に身を委ねた。
夕暮れ、村の空には穏やかな風が流れていた。だが、確実に新たな脅威が迫っている。
その静けさの中、隼人たちは次なる戦いに備えて、それぞれの想いを胸に刻んでいた──。




