第35話「彰人の疑念」
彰人は焚き火の前で深いため息をついた。
静まり返った夜の野営地。仲間たちはテントで仮眠を取っていたが、彰人だけは眠れず、ひとりタブレットをいじりながら考え込んでいた。
「どうして……隼人だけが、呪いにかかってないんだ?」
それは、以前からずっと気になっていたことだった。自分を含め、他の仲間は皆“子供の姿にされる呪い”を受けた。しかし、隼人だけは大人の姿を保っていた。
「それに、最初の頃からやたら特訓ばかりしてたし……なんでだ?」
「いや、違うな特訓を持ちかけたのは俺たちの、方か……」
「まるで……あらかじめ“流れ”が出来ていたかのような」
アウレリアとの対話を経て、彰人の頭の中では複雑な仮説が形を成し始めていた。
もしアウレリアの言葉が本当なら、今までの戦いはすべて「チュートリアル」に過ぎない。
そして、それは「誰か」のために用意されたものだ。
彰人は無意識のうちに、タブレットの仮想コンソールを開き、ログデータを呼び出す。
魔法と科学が融合したこの世界でも、彰人のプログラミング能力は異彩を放っていた。
仮想空間へのアクセスは彼にとって呼吸と同じだ。
「こんな世界に、なぜオレのスキルが使える? 現実ならともかく、ゲームじゃあるまいし……」
ふと、ある可能性が浮かんだ。
「もしかして……この世界そのものが、誰かの作った“シミュレーション”だったら?」
彰人は唾を飲み込む。
「そして、その中心にいるのが隼人……。まるで、彼を主人公に据えた物語のように、全てが進んでいる」
そんなはずはない。だが、その可能性が、どうしても頭を離れなかった。
「でも……隼人がそれに気づいていない可能性もある。いや、もし気づいていたら……あいつ、あんなに必死に戦わないよな」
カリッ、と薪が爆ぜた。 その音に驚いて、彰人は我に返った。
「落ち着け、オレ。証拠も何もないただの妄想だ。でも……この世界は“おかしい”」
彼の手は、すでに仮想プログラムの構築を開始していた。名付けて、《システム診断》。この世界の根本構造に、何らかの“設計意図”があるかどうかを検知するためのコードだった。
「……もし、これで何か引っかかったら……オレは隼人に問いただす」
彼の目は決意に満ちていた。
翌朝。
「おはよう、彰人……って、また徹夜?」 ミケがあきれ顔で言った。
「ちょっとな。考えごとしてたら寝られなかっただけさ」
「ふーん……でもあんまり無理しないでよ?」
「わかってるって」
そこへ、隼人が歩いてきた。
「おはよう、彰人。なんか元気なさそうだな」
「……ああ、おはよう。ちょっと寝不足なだけだよ」
「そっか。今日も移動距離あるし、気をつけていこうな」
その自然な態度。まるで疑念を抱くこと自体がおかしいと錯覚させられるような、真っ直ぐな目。
(……違う。隼人が“黒幕”なんかじゃない。もし彼がこの世界の鍵を握っているとしても、それは本人の意志とは無関係だ)
彰人はそっとタブレットを閉じた。
(それでも……真実を知る必要はある。オレたちがこの世界に飛ばされた理由。そして、元の世界に戻る方法。その鍵は、やっぱり……)
彰人は、隼人の背中を見つめながら、静かに誓った。
「たとえすべてが作られた世界でも……オレは、最後までこのゲームをクリアしてやる」




