第34話 「世界の理」
ゴーレムたちを打ち破った隼人たちは、静まり返った遺跡の通路をさらに奥へと進んだ。
「奥に何かある気配がするわ……ただ、さっきの影とはまるで質が違う」
ミケが眉をひそめ、慎重に周囲を警戒する。
そしてしばらく歩いた先に、それは現れた。巨大な、荘厳さすら感じさせる扉が静かにそびえ立っていた。
「でかい……普通の扉じゃないな」
ハッサンがごくりと喉を鳴らす。
「この扉、魔力で封印されてる。しかもかなり精巧な異世界式のセキュリティだ」
彰人がタブレットを取り出し、すぐにハッキング作業に入った。
「時間はどれくらいかかりそうだ?」
クロードが尋ねると、彰人は軽く首を傾げて答えた。
「単純なパスコードじゃない。内部の魔力の流れを解読して再構築しなきゃならない。……少なくとも、二時間は見てくれ」
「了解。俺たちは周囲の警戒をしておく。彰人、頼んだぞ」
隼人が周囲を見回しながら言うと、仲間たちは頷き、それぞれ配置についた。
時折、遺跡の壁から奇妙な音が響く。ひび割れた石の隙間から風が鳴き、過去の記憶を語るようだった。
やがて二時間が経過し、彰人が手を止めた。
「——ふぅ、なんとか解除できた」
「やったじゃん、彰人! やっぱり頼りになるね!」
ミケが笑顔で声をかける。
「さぁ……中へ入るぞ」
クロードが剣の柄を握りしめ、前に出る。
「行こう。ここまで来たら、真相を突き止めるしかない」
隼人とハッサンが両脇から扉に手をかけ、力を込めて押す。
重く軋む音と共に、巨大な扉がゆっくりと開いた。その先にあったのは、広大な石造りの空間——
そしてその中心に鎮座する、巨大な「龍のゴーレム」。
金属と魔力で構成されたその身体は異様な威圧感を放ち、赤く光る目が隼人たちを捉えた。
「……あれが、この遺跡の守護者か」
マーリンが呆然と呟く。
「やるしかないな」
隼人が静かに前に出ると、龍のゴーレムが咆哮をあげた。振動とともに石造りの床が割れ、風圧で天井の埃が舞う。
「みんな、戦闘態勢! 来るぞ!」
クロードの号令と同時に、全員が散開する。
「援護は任せろ! フレイムバースト!」
マーリンが魔法を放つが、龍のゴーレムは硬質な翼で受け流す。
「こいつ……魔法耐性まで持ってやがるのか!」
「なら、物理でぶつかるしかない!」
ハッサンが拳に炎をまとわせ、龍ゴーレムの脚部に突撃する。
「破砕拳・烈火!」
一撃が炸裂し、わずかにヒビが入る。
「効いてる! 弱点は脚かも!」
「情報をデータに反映!攻撃パターンを解析して弱点を明示する!」
彰人が全体マップをホログラムで展開し、敵の攻撃パターンを味方に共有する。
「了解、そこ狙うぞ!」
クロードが素早く踏み込んで、剣を振り抜く。
「風牙斬!」
鋭い風の刃が脚部を削り、ミケの攻撃と連携する。
「もう一度攻撃を重ねるわ!」
「援護する!」
マーリンが広域魔法で足止めをし、再びミケの攻撃が命中。
しかし——
「——グォオオオオォッ!」
怒りに満ちた咆哮と共に、龍のゴーレムの背部装甲が開き、砲口が姿を現した。
「来るぞ!防御を!」
ビームのような熱線が放たれ、地面を薙ぎ払う。
「ぐっ……!」
クロードがとっさに盾を展開するが、吹き飛ばされる。
「くそっ、無茶しやがって!」
隼人が叫び、ドラゴンモードへと変身する。
「もう容赦しねぇ……全開で行く!」
隼人の爪が光り、龍のゴーレムの胸部へと突き刺さる。
「裂爪乱撃!!」
何度も何度も、爪が装甲を引き裂く。そして、最後の一撃が心臓部を貫いた——
「……終わったか」
ゴーレムが崩れ落ち、静寂が訪れる。
「はあ……はあ……全力出し切った……」
「みんな無事……? クロード、大丈夫?」
ミケが駆け寄ると、クロードは照れたように笑った。
「ああ……なんとかね。だが、敵の強さも尋常じゃなかった」
龍のゴーレムを倒した隼人たちは、荒い息を整えながら部屋の中を見回した。
「……奥に、まだ何かある」
マーリンが壁の魔力の流れを感じ取り、指さした。
その先には、ひときわ目立たないが明らかに異質な扉があった。装飾はなく、静かに佇むその扉はまるで何かを隠しているかのように、そこに存在していた。
「開けるぞ……」
隼人が一歩前に出て、扉に手をかける。慎重に押し開けると、ぎぃ……という低い軋み音と共に、奥の部屋が姿を現す。
中は意外なほど広く、そして静かだった。
「——あれ?」
そこにいたのは、たった一人の、小さな少女だった。
白いワンピースを着て、床にちょこんと座っている。まるで遊んでいるような、無邪気な雰囲気だ。
「え? なんでここに女の子が……?」
隼人は戸惑い、思わず一歩下がった。
「待て、隼人……普通じゃない。気をつけろ」
クロードが警戒の声を上げ、剣に手をかける。
「まさか……ここまで来るなんて思わなかったわ」
少女は顔を上げ、微笑んだ。その瞳はどこか年老いた知性を宿していた。
「お前……何者だ?」
クロードが一歩踏み出して問いかける。
「うーん、簡単に言えば——この世界の“創造主”的な存在かな?」
「は……?」
ミケが素っ頓狂な声を上げる。
「創造主……? あなたが?」
「そうよ。まあ、今は力を封印されてて、この子供の姿になってるけどね」
「封印された……?」
隼人がその言葉に反応する。
「それって……クロードたちと同じってことか?」
「そうだね。たぶんあなたたちも、あいつに封印されたんでしょう?」
「あいつ、って……誰のことだ?」
彰人が眉をひそめて問いかける。
「異世界の力が暴走したって話、聞いたよね? そのときに“誕生”した存在よ」
少女は淡々と語り続けた。
「膨大な魔力と知識、そして支配欲だけで構成された存在——そいつは今や、いくつもの異世界をまとめて『ゲーム』にしようとしてるの」
「……ゲーム?」
彰人の顔が険しくなる。
「うん。彰人くんと隼人くんなら、わかるよね? “シナリオ”を与えて、“試練”を課して、“クリア”を目指させる。それを繰り返して、最後に残った者を“選ぶ”。そんな構図よ」
「……ふざけんなよ」
隼人が拳を握りしめた。
「そんなの、俺たちはただのコマじゃねぇか……!」
「でも、それが現実なのよ。私はそれを止めようとして、封印された。あなたたちと同じように」
少女の声にはどこか悲しみが滲んでいた。
「じゃあ……俺たちは、この異世界の“運命”に巻き込まれたってわけか?」
「そう。そして、あなたたちは特別。選ばれた“鍵”でもある。私の封印が少しずつ解けてきたのも、あなたたちがここまで来たから」
「……俺たちが、この世界を変える“鍵”だって?」
隼人が自分の手を見つめながら呟いた。
「あなたたちならきっと、本当の“解放者”になれる。だからお願い、ここで止まらないで。この先に、もっと大きな試練が待ってる。でも、その先には——」
「“自由”があるんだな?」
クロードが代わりに言った。
少女は静かに頷いた。
「うん、きっとそう。……そろそろ、時間みたい」
彼女の身体がふわりと光に包まれ、徐々に薄れていく。
「まって、名前を——!」
ミケが叫ぶ。
「……私の名前は……“アウレリア”……また、会えるよ……」
彼女の声が残響のように部屋に広がり、やがて完全に姿を消した。
静まり返る空間の中で、誰もがしばらく言葉を失っていた。
「……創造主が子供の姿で、封印されてて……俺たちが鍵?」
「しかも、異世界を支配しようとしてる“誰か”がいるって話……やばいぞ、これは」
彰人がタブレットに記録を取りながら言う。
「でも、その誰かと戦わなきゃ、未来は変えられない。俺たち自身の力で」
隼人の目が、静かに燃える。
「そのためにも……進もう。アウレリアが残した“希望”を無駄にしないために」
——隼人たちは決意を新たにし、再び歩き出す。
見えざる敵“異世界の支配者”との戦いは、すでに始まっていた——。




