第32話「黒い影」
森の奥深く、冷たい風が吹き抜ける夜。月明かりが地面にまだら模様を描き、静寂の中にかすかな足音が響く。
隼人たちは、異変を感じ取って警戒を強めていた。
「……さっきから妙な気配がするな。」
クロードが剣の柄に手をかけながら呟く。
「うん、確かに。何かが私たちを監視しているような……。」
ミケが背中の短剣をそっと抜く。彼女の猫のような鋭い瞳が闇を探る。
「霊的なものか、それとも実体のある敵か……。」
マーリンが静かに杖を握りしめた。
彰人は端末を操作しながら、周囲の情報をスキャンしていた。
「電磁波の異常反応がある。だけど、特定できない……まるで空間そのものが歪んでいるみたいだ。」
「つまり、ただの敵じゃないってことか。」
ハッサンが拳を握りしめる。
「念のために結界を張っておくわ。」
エリシアが神聖な光を放ち、小さな魔法陣を展開した。その瞬間——
ザザザ……!
木々の間から、黒い影が現れた。
「なんだ……あれは?」
隼人が身構える。影は人間の形をしているが、黒い霧のように揺らめいていた。まるで実体と虚像の狭間に存在しているような不気味な姿だった。
「——カ……エ……レ……」
かすれた声が響く。低く、耳にまとわりつくような不快な音だった。
「帰れ……?」
ミケが眉をひそめる。
「まるで何かを警告しているみたいね。」
しかし、影は次の瞬間、素早く動き出した。まるで風のように滑るような動きで、隼人たちに襲いかかる!
「くるぞ!」
クロードが剣を抜き、前に出る。しかし、影はクロードの攻撃をすり抜けるように避けた。
「効かない!? 実体がないのか!?」
マーリンが呪文を詠唱し、炎の魔法を放つ。
ゴォォォォッ!
火柱が影を包み込んだ。しかし——
シュゥゥ……
炎の中から影がそのまま現れた。
「無傷だと……!?」
隼人は拳を握りしめ、一歩前に出る。
「なら、ドラゴンの力ならどうだ!」
彼はスキルを発動し、体に黄金の鱗を浮かび上がらせる。ドラゴンの力を宿した拳を振り下ろした。
ドゴォォッ!
影は直撃を受け、地面に叩きつけられた。
「よし、手応えあり……!」
しかし、影はゆっくりと起き上がり、また形を成した。
「なんなんだよ、こいつ……!?」
「物理攻撃も魔法攻撃も効かない……。」
彰人が険しい表情で考え込む。
「もしかすると、これは……"情報体"かもしれない。」
「情報体?」
隼人が彰人の方を見る。
「通常の物理法則に従わない存在。物質ではなく、データや概念に近いものだとすれば、普通の攻撃ではダメージを与えられない。」
「じゃあ、どうすればいいんだ?」
「俺のプログラムスキルを試してみる!」
彰人は端末を素早く操作し、影に向かってプログラムを発動した。
「システム・ハッキング開始!」
青白い光が彰人の手から放たれ、影を包み込んだ。
「効いてる……?」
影が苦しむように身をよじらせた。しかし、次の瞬間——
「——干渉……スルナ……」
影が彰人に向かって跳びかかった!
「しまっ……!」
隼人がすぐに彰人をかばい、ドラゴンの爪で影を弾き飛ばす。
「お前には絶対に手を出させねぇ!」
影は再び姿を変え、霧のように消えた。
「消えた……?」
ミケが周囲を見回す。
「いや、完全に消えたわけじゃない……。」
エリシアが呟く。
「おそらく、まだ近くにいる……でも、何かを試しているような気がする。」
「試している?」
マーリンが首をかしげる。
「ええ。まるで私たちの実力を測っているかのように……。」
「敵なら、さっさと仕掛けてくるはずだもんな。」
ハッサンが唸るように言う。
「……まだ、様子を見ているのか?」
彰人は端末を握りしめた。
「これはただの魔物じゃない。もしかすると、"何かの意志"が働いているのかもしれない。」
「……面倒なことになりそうだな。」
隼人は空を見上げた。夜空はどこまでも深く、暗い影がその奥に潜んでいるようだった。
「この影の正体を突き止めないと……俺たちの戦いは、もっと厳しくなるかもしれないな。」
彼らは再び警戒を強め、夜の闇に消えた影の正体を探るために動き出した——。




