第1話「ドラゴンに転生しました」
目を覚ますと、目の前には見慣れない景色が広がっていた。青い空、壮大な山々、そして巨大な体の自分。
「……なんだこれ?俺の体、どうなってんだ……?」
自分の手を・・いや、前足を見下ろして見る。そこには黒く硬い鱗と鋭い爪がある。
「え……嘘だろ?俺、なんでドラゴンになってんだよ!」
宝条隼人、40歳。日本で生まれ、平凡な人生を送ってきた男だが、末期癌で命を落としたはずだった。それが今、目覚めてみると自分はドラゴンになっていた。
驚きと戸惑いの中で、時間は過ぎたが、生きる為には行動せざる得なかった。隼人は、山奥で、ひっそりと暮らし、ドラゴンとしの生活に慣れていった。だが、3年後、彼の平穏な日々は、突如として壊される。
その日、山の中に不穏な気配が漂っていた。遠くから、金属が擦れる音と人間の足音が近づいてくる。隼人がねぐらから顔を出してみると、3人の冒険者が、剣や槍を持って山を登ってきていた。
「この洞窟だ! ドラゴンが住んでいるらしい!」
冒険者の一人が、叫んだ!
「ドラゴンだ! でかいぞ!」
「落ち着け! 全員準備しろ!」
彼らは完全に敵意を剥き出しにしていた。俺は何とかして「俺は危害を加えるつもりはない」と伝えたかったが、唸り声しか出せない。
「やめとけって! 俺は何もしないから!」
叫んだところで彼らに伝わるはずもなく、リーダー格の男が叫んだ。
「行くぞ! こいつを倒して名を上げるんだ!」
俺は咄嗟に後ずさったが、冒険者たちは一斉に攻撃を仕掛けてきた。
「仕方ないな……!」
俺は咆哮を上げ、翼を広げて威嚇する。それでも彼らは止まらなかった。仕方なく、軽く爪を振り、尾で弾き飛ばして応戦することにした。
「ぐあっ!」
冒険者たちは吹き飛ばされ、地面に倒れた。動けなくなった者もいたが、幸い誰も死んではいないようだ。
「……やりすぎちまったか?」
倒れている冒険者を見下ろし、俺は困った。ほっておくわけにもいかない。
「仕方ねぇな……」
俺は倒れた冒険者たちを爪で掴み、近くの町に運ぶことにした。しかし、巨大なドラゴンが、人間を掴んで現れるなど、町の住民にとっては恐怖そのもの
だった。
町に近づくと、案の定大騒ぎになった。
「ドラゴンだ! 逃げろ!」
「いや、違う! こいつらを助ける為に来ただけだ!」
そう伝えたいが、やはり言葉は通じるわけもなく、大勢の冒険者が、武器持って集まってきた。
「ダメだ、これ以上やっても誤解されるだけだ……」
俺は冒険者を地面に下ろすと、矢や槍を避けながらその場を去った。
翌日、またしても山に人の気配が現れる。今度は、煌びやかな甲冑を纏った若い貴族風の男が、現れた。後ろには冒険者達が、ずらりと並ぶ。
「我が名はアルバート伯爵家の三男セバス・フォン・アルバート! この地に巣食うドラゴンよ、我らが成敗してくれる!」
「いや、またかよ……。名乗られても知らんがな。」
隼人が渋々対応すると、彼らは攻撃を仕掛けてきた。仕方なく尻尾で軽く叩くと、あっさり撤退して行った。ほっとしたのも束の間、翌日もまたセバス達が名乗りを挙げて攻撃を仕掛けてきた。
3日間連続で同じ展開が続き、さすがに隼人も嫌気が差してきた。4日目、名乗りを挙げる前に尻尾で叩き落とすと、セバスが怒り狂う。
「名乗りを挙げる前に攻撃するなど無礼だ!
ドラゴンでも礼儀を持て!」
「いや、俺は戦う気がないんだが……。」
そんな不毛な日々に疲れ果てた隼人は、自分の鱗を1枚わたして追い返すことに成功した。しかし次の日もまた誰かが来るだろうと考えた隼人は、より平和な、場所を求めて旅に出ることを決意する。