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イノセント田中 第10話

作者: 千彩仙人

    『第10話 映画の守護神』


 イノセント田中が友人のYと繁華街を歩いていると、前方の映画館を見たYが唐突に興奮しながらイノセント田中にこう言った。

 「そう言えば昨日、寝ているときに、幽体離脱をして、魂が未来を見に行ったんだ」

 イノセント田中が驚いてYに言った。

 「未来に? 何年後に行ったんだ?」

 「1年後だよ。1年後のこの街を見に行ったんだ」

 「この街を? 1年後のこの街はどうなっていた?」

 「今と殆ど変わりはなかったよ。強いて言えば、2店舗あったレンタルDVD店が、2店舗とも潰れていたよ」

 「2店舗ともか。それは動画配信サービスの影響だけでなく、日本が本当に面白い映画を作ってこなかったからだろうな」

 「ああ、確かにそうだな。レンタルDVD店が無くなっただけの街を見ていても退屈だったから、そこの映画館で公開されていた新作のターミネーター8を観たんだ」

 「来年にターミネーター8が公開されるのか。ターミネーター8はどうだった?」

 「ターミネーター8は凄い変わっていたよ」

 「どう変わったんだ?」

 「冒頭から全然違かったよ。ターミネーターのあのカッコいいテーマ曲が、ダダンダンピンポン、ダダンダンピンプン、こんな風になっていたよ」

 「そんなにダサくなったのか、ターミネーターはカッコよくて人気があったのに、そうなったらもう終わりだな」

 「ああ、ターミネーター8がつまらなかったから、映画館を出て、2年後のこの街を見に行ったんだ」

 「2年後はどうなっていた?」

 「2年後も今と殆ど変わりはなかったよ。強いて言えば、あそこのゲームセンターと、あそこのゲーム屋が潰れていて、なんだかゲームが下火になっている感じがしたよ」

 「ゲームは面白すぎて中毒性があり過ぎるからな。さすがにやり過ぎないように皆が控えるようになったんだろ」

 「ゲームと言えば、そこの映画館でターミネーター9が公開されていたから、それを観たんだ」

 「ターミネーター9はどうだった?」

 「ターミネーター9は驚くほど変わっていたよ」

 「どう変わったんだ?」

 「冒頭から全然違かったよ。テーマ曲がファミコンのスーパーマリオみたいな音質で、ダダンタンタタンタン、ダン、ダン、タン、タン、ダンタダンタン、ダダンタダダンタタン、こんな風になっていたよ」

 「そんな横スクロールゲームみたいになったのか」

 「ああ、本編も横スクロール映画だったよ」

 「横スクロール映画? もしかして、メカの亀が出てくるのか?」

 「いや」

 「何が出てくるんだ?」

 「亀のメカ」

 「それとメカの亀はどう違うんだよ!?」

 「ターミネーター9がつまらなかったから、映画館を出て、3年後のこの街を見に行ったんだ」

 「3年後のこの街はどうなっていた?」

 「3年後も今と殆ど変わりはなかったよ。強いて言えば、この通りにある店が、整骨院、美容院、整骨院、整骨院、美容院、歯科医院、整骨院になっていたよ」

 「整骨院は増え過ぎだろ。そんなに整骨院の需要があって日本は大丈夫なのか? 日本人はみんな仕事で体を酷使し過ぎだろ」

 「整骨院と美容院が増えただけの街を見ていてもつまらなかったから、そこの映画館で公開されていたターミネーター10を観たんだ」

 「ターミネーター10はどうだった?」

 「ターミネーター10は劇的に変わっていたよ」

 「どう変わったんだ?」

 「冒頭から、テーマ曲が女性が歌っている歌になっていて、だーんーだーん、だーんーだあん、わたしはーだんだーん、歩くのーだんだんー、だだだん行こうー♪こんな風になっていたよ」

 「そんなファンタジーアニメみたいになったのか?」

 「ああ、ファンタジーアニメになっていたよ」

 「ファンタジーアニメ? もしかして、猫のバスが出てくるのか?」

 「いや」

 「何が出てくるんだ?」

 「バスの猫」

 「それと猫のバスは何が違うんだよ!?」

 「ターミネーター10がつまらなかったから、映画館を出ようとした時に、同棲している彼女から『何時まで寝てんのよ! 仕事に遅れるわよ!』と怒鳴られて、そこで目が覚めたんだ」

 イノセント田中が背負っている日本刀を鞘から引き抜いてYに向かって叫んで言った。

 「それは幽体離脱ではなくてただの夢だろ!」

 イノセント田中はそう叫び、日本刀でYの上半身を斬り付けた。Yが「うぐわあああーーっ!」と悲鳴を上げて、地面に仰向けに倒れて苦しげにイノセント田中の顔を仰ぎ見た。Yが涙を流しながらイノセント田中の目を見て言った。

 「俺は、お前に、その刀で、殺されることが、分かっていたんだ…俺は、本当に、幽体離脱で、未来に行くことが、できたんだ…」

 イノセント田中がYに向かって叫んで言った。

 「俺に殺されることが分かっていたら俺には近づかねえだろ!」

 Yが声を震わせてイノセント田中に言った。

 「俺は、この後、病院に、運ばれて、奇跡的に、一命を取り留めて、この事件が話題となり、この事件が映画化されるんだ…その映画で、俺自身が俺を演じ、俺はムービースターになるんだ…俺の彼女役は、パリス・ヒルトンだ…」

 イノセント田中がYに向かって怒鳴って言った。

 「死に際にまで嘘を言うんじゃねーっ!」

 イノセント田中はそう叫び、Yが生き返れないようにYの心臓に日本刀を突き刺した。Yが「うぐおわああーーっ!」と悲鳴を上げて、大量の血を吐いて死亡した。イノセント田中はYが確実に死亡したのを見届けて、急いでその場から逃走した。この道を歩いていた若い女性がその一部始終を目撃し、スマホでこの殺人事件を警察に通報した。しかし、警察はイノセント田中の行方を追おうとはしなかった。なぜなら、そう、彼は地球のヒーロー、イノセント田中だから。(♪テーテーテーテテー、テーテーテテテテー、有名なー映画をー数作品観たくらいでー映画通を気取ってー「最近の映画は観客に媚びている」などと言ったりー「最近の映画は映画にさえなっていない」などと言う奴がー昔はたくさん存在しー言いたい放題だったぜーしかしー近年ー映画マニアを装いー映画評論する奴がー激減しているぜーそれはーそうさーイノセントー田中がー映画マニアを装うーニセの映画マニアをー残酷映画のようにー派手に血飛沫飛ぶようにー日本刀で斬り付けてー多くの人に愛されるーバッドエンドの人生にー変えているからなのさー映画ファン達のヒーロー、イ、ノ、セ、ン、トーーー田中!)


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