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Act 18 『ちょび』

「せやからな、そうじゃないねん、そんな焼き方したらあかんねんて、なんかい言うたらわかるんじゃあああ!!」


長方形のテーブル型の鉄板の前で、へらを持って怒声をあげているのはハリネズミのようなツンツン頭に大きなお目々、そして、口から見える八重歯がとてつもなくかわいらしい小学校高学年くらいの元気な一人の少年。


彼は、鉄板の上で不器用に小麦粉を水と卵でといた何かを焼こうとしていた士郎からへらとボウルを奪い取ると、手なれた様子でボウルの中に千切りにしたキャベツと山芋をすったものをを放り込み、すでに中に入っていた小麦粉を水で溶かしたものをいれたボウルの中でそれらをがつがつと混ぜ込む。


そのあとそれを男らしく鉄板の上にざっとたらして円形をつくると、次々と具材を載せて焼き上げていく。


「お好み焼きには二種類の焼き方があるんや!! ガンザイ風と、ビロジマ風、どっちもうまいけど、きちんとそのあたりわかって焼かんと全然おしいくならへんねんで!! ちなみにこれはガンザイ風の焼き方や!! 士郎兄ちゃんはそこらへんのことが全然わかってへん!! あかん、ダメダメや!!」


「うう、なんでお好み焼きおごってあげている僕がこんなに怒られないといけないんだろう・・」


絶対納得できないという表情で、士郎は涙目になりつつ抗議の声をあげるが、それを完全無視して少年はお好み焼きをさっさと焼いて行き、あっという間にミックス焼きを完成させて目の前の士郎の皿の中に器用に二本のへらですくいあげて放り込む。


「食べてみい!!」


物凄く偉そうに上から目線で言われて、士郎としてはやはり非常に納得しがたいものがあったのだが、一口食べてみて本当に美味しかったので更に渋面を作って唸る。


「うまい・・確かにうまいけど、なんか非常に複雑だ・・」


「ごちゃごちゃうるさいなあ、士郎兄ちゃんは。黙ってはよ、食べなはれ」


「え~~、しかもなんか僕とことん怒られるのっておかしくない?・・まあ、食べるけどさあ・・」


世の中の不条理についてぶつぶつと文句をつきながらも、お好み焼きには罪はないとはふはふとミックス焼きを食べ続ける士郎。


そんな士郎を横目で見ていたスカサハだったが、ず~~~っと気になっていたことを聞こうと思い、自分の隣で一心不乱にお好み焼きを焼き続けている少年に声をかける。


「あ、あのね、ちょっと聞いていいかしら、ずっと気になっていたんだけど、私まだあなたのなま・・」


「え? ああ、ガンザイ風とビロジマ風の焼き方の違いかいな? それはあれや。ガンザイ風は生地にキャベツとか山芋とか卵とか全部入れ込んで混ぜてから焼くんやけど、ビロジマ風は別々に焼くのが基本なんや。ビロジマ風の場合キャベツを山盛りに鉄板の上に載せてそこに具材をのっけていく、そんでさらにその上から生地を流し込んで上からおさえつけて焼くんや。俺はどっちの焼き方も好きやけど、とりあえず、ガンザイ風で作ってみた。あれ? ビロジマ風のほうがよかったか?」


「ううん、いえ、そんなことはないわよ、いや、そうじゃなくて、私が知りたいのはあなたのなま・・」


「ああ、そうか、モダン焼きのほうがよかったんか。ちょっと待ってや、こんなこともあろうかとトッピングでそばを頼んでおいたからすぐに調整可能やで」


と、スカサハの質問をぶつ切りでお好み焼き談義を続ける少年は、今焼いているお好み焼きのうえにそばを乗せ、さらにその上に生卵をわって乗せると、モダン焼きに変更して焼きあげそれをそのままスカサハの皿の上に乗せてやる。


そして、その上をソースを漬けたはけで塗り込み、マヨネーズ、鰹節、青海苔、紅ショウガをトッピングする。


「これで出来上がりや!! 食べてみい!!」


「う、うん・・いただきます」


物凄く得意気に胸を張る少年に促され、モダン焼きをヘラで切って一口ぱくりと食べたスカサハは、表情を輝かせる。


「おいしい!! これがモダン焼きなのね・・もんじゃ焼きは食べたことあるけど、これは初めてだわ」


「うんうん、意外とお好み焼きそのものは知っていても、モダン焼きとかオムそばとか、そばめしを知らん人は多いよなあ。どれもおいしいんやで!!」


「そうなんだ・・」


少年のお好み焼き談義を聞きながらはむはむとモダン焼きを食べていたスカサハだったが、はっと何かに気が付いて顔をあげると慌てて少年のほうに向きなおり声をあげる。


「いや、そうじゃなくて!! あなたの名前よ、名前!! 私、まだあなたの名前を聞いていないんだけど!!」


自分のお好み焼きを焼きあげようとしていた少年は、その言葉をきょとんとした顔で聞いていたが、何とも言えない表情でお好み焼きをはむはむ食べている士郎のほうに視線を向ける。


「士郎兄ちゃん、俺らのことひょっとして話してへんの?」


「してるわけないでしょ~。まさか君がこういう形で復活を遂げるだなんて思ってなかったもん。むしろ、僕は君とこういう形で再会できるなんて思ってもみなかったし」


「そっか~・・確かになあ・・俺もまさか復活できるとは思ってへんかったもんなあ・・」


二人はお互いによく似た苦笑を浮かべるとはふ~と溜息を吐きだす。


そして、少年はくりくりとよく動く黒い可愛らしい大きな目をスカサハのほうに向けると、自分ではニヒルと思っている・・しかし、傍からみたら物凄くかわいい笑顔を浮かべて己の名前を告げる。


「シロウや」


「え?」


「だから、シロウやって、言うてるやん」


「シロウヤくん?」


きょとんとして小首を傾げるスカサハに、呆れたような表情を浮かべて少年は言葉を続ける。


「ちゃうちゃう、士郎兄ちゃんと同じ名前で、シ・ロ・ウ。細かい説明は割愛するけど、士郎兄ちゃんと同じ細胞から作られた人造人間。瀧川(たきかわ) 子狼(しろう)。紛らわしかったら『参番』でもええで」


「参番? なんで参番なの?」


「『人造勇神』 『倚天屠龍(G-バスター)』タイプゼロフォーを作り出すためのパーツとして生み出された参番目の人造人間だからや。まあ、研究所でも紛らわしいもんやから俺のことはみんなそう呼んどった」


そう言って自嘲気味に笑って見せる少年を、スカサハは痛々しげに見つめるが少年の対面でお好み焼きを食べている士郎が、異論を唱える。


「みんなじゃない。僕や、百合姉や、蒼樹さんや、子供達はそんな風には呼んでいなかったよ。」


「え、じゃあ、なんて呼ばれていたの?」


「ちょ、ちょお待って、兄ちゃん!! それはあかん、言うたらあかんて!!」


士郎の言葉に少年は大慌てで慌てだして士郎を止めようとするが、士郎は構わず続けその呼び名を告げる。


「僕らはこう呼んでいたよ・・『ちょび』って」


「し、士郎にいちゃ~~ん!!」


なんとも情けない、しかし、可愛らしい声の絶叫が店中に響き渡るが、士郎は知らん顔をしてはむはむとお好み焼きを食べ続けるのだった。




Act 16 『ちょび』




『人造勇神』との戦いの後、お腹が空いて動けないという少年、瀧川(たきかわ) 子狼(しろう)・・『ちょび』を背負いそこから一旦撤退することにした士郎とスカサハは、学校からそのまま抜け出して『サードテンプル』まで出てくると、お好み焼きが食べたいというちょびの意見で駅前にあるお好み焼きの有名店『ウインドムーン』に入り昼食を取ることにしたのだ。


勿論、ここでちょびからこうなった経緯を詳しく聞き出すという目的もあったわけであるが、お好み焼きの焼き方に異常にこだわりを見せるちょびのせいで、話が脱線しまくっていたところに、さらに自分の一番気に入らない呼び方を口にされたちょびはさらにへそを曲げて話はますます明後日の方向へと向かいつつあった。


「なんで・・なんで、今更その呼び方を蒸し返すんや、士郎兄ちゃん・・あんまりや、このままやったら、なし崩し的に、俺『ちょび』って呼ばれることが定着してしまうやん!!」


「いいじゃん、別に。『参番』よりずっといいと思うよ・・かわいくて」


「いら~~ん!! そのかわいいところがいらんねん!! 男がかわいい言われても一つもうれしゅうないわい!!」


ばんばんとテーブルを叩いて猛抗議を繰り返すちょびであったが、その姿がさらにかわいさを強調していることに全然気が付いていないようで、周囲にいる女性客のみなさんの注目を浴び、『あのこ、かわいいわね~』などと言われ、その言葉を聞いたちょびはさらに顔をくしゃくしゃにしていく。


対面のちょびの様子を、本当に心からどうでもいいという感じで見つめていた士郎だったが、流石にこれ以上騒がれて目立つのはよろしくないと考えて溜息をつきながら口を開く。


「もう~、めんどくさいな~、ちょびは。とりあえず、あとでいい呼び方を考えてあげるから、落ち着きなさいって」


「ほんまやな!? 絶対やな!?」


「ほんとにしつこいよ、ちょびは」


しつこく念を押してくるちょびに対し、めんどくさそ~に返事する士郎。


そんな二人の会話を横でモダン焼きを食べながら聞いていたスカサハだったが、いい加減会話が進まないことに痺れを切らして士郎のほうに説明を求めることにする。


「士郎、そこのちょびくんの話を聞く前に、ちょびくんのことをちゃんと紹介して頂戴。なんだか、『人造勇神』なのかそうでないのか、こんがらがってきちゃったわ。それに死んでいただのどうだのっていう話も全く理解できないし。このままちょびくんの説明に雪崩れ込まれても基本となる情報が全くないから絶対理解できないもの」


しかめっ面で聞いてくるスカサハの方に視線を向けた士郎は、ちょびに向けるめんどくさそうな態度を改めると、真っすぐにスカサハに視線を向けて話始めた。


「そうだね、確かにスカサハにはきちんと話をしたほうがいいね・・ちょっと長くなるけど、我慢して聞いてね・・」


士郎の説明によるとこうなる。


人が人工的に生み出した『勇者』である『人造勇者』の、さらに強化上位種にあたる『人造勇神』の中で、タイプ ゼロフォー、即ち四番目に調整されたこのタイプは、他のタイプとその調整方法が大幅に違っているところがあった。


基本的に一人の人間の肉体を調整し、異界の力で強化する従来の方法と異なり、タイプ ゼロフォーのみは三人の人間の身体を使用する方法を取って製造された。


すなわち、『メインフレーム』と呼ばれる元となる人間の肉体に、『サポートシステム』と呼ばれる人間と、『コントロールユニット』と呼ばれる人間を異界の力で融合させて一人の人間とする恐ろしい方法。


『メインフレーム』は『人造勇神』としての肉体的な能力、『勇者』としての能力や付加されている『害獣』としての能力全般を強化して生み出されたホムンクルス、『サポートシステム』は文字通り全ての能力が円滑かつ無駄のないように実行に移すことができる能力に、『メインフレーム』と『コントロールユニット』の間に立ってうまくそれを仲介するための能力を与えられて生み出されたホムンクルス、そして、『コントロールユニット』は『人造勇神』としての能力が暴走しないようにするための制御能力を与えられて生まれてきたホムンクルス。


研究所員達は、最も融合に適合していると思われる人物の細胞からこれらの能力を持つ三体のホムンクルスを生み出して適合する年齢まで育て上げた。


そのうちの一人、『サポートシステム』として生み出されたのが目の前にいる『子狼』・・ちょびである。


本来であれば一人の人間に全て必要な能力を詰め込むわけであるが、三人の人間にそれぞれ分担させることによって、付加した『害獣』の能力に対する耐性を底上げし、尚且つそれぞれの能力を大幅に引き上げることが可能になるというわけである。


そのため、適合できる年齢に達した彼らを融合し、生まれてきた『人造勇神』は他の『人造勇神』の能力をはるかに引き離したものとなっており、事実上最強の『人造勇神』として期待されていた。


だが、適合できる年齢に達した、同じ人間の細胞から作った・・などと言っても、所詮違う人間であり、それぞれが違う心を持っている。


能力こそは優れていたものの、あまりにも不安定な精神を持ち、文字通りの多重人格になってしまったタイプ ゼロフォーを使いこなすことは難しく、扱いに困った研究所員達はタイプ ゼロフォーにある任務を授けて研究所のある秘密基地から体よく追い出してしまった。


死ぬまで『害獣』を狩り続けろ・・と。


以来、タイプ ゼロフォーは消息を絶っていたはずなのだが・・


「あ、あのちょっといい?」


士郎の話を黙って聞いていたスカサハだったが、どうしても肝心な部分が抜けている気がしてそれをそのままにしておくことができず、話の腰を折ることを承知で士郎に待ったをかける。


すると、士郎はきょとんとして目の前に座る少女に視線を向ける。


「え、何? 僕の話どこかおかしかった?」


「いや、あの、ちょびくんとあなたの関係が語られていないんだけど・・」


「ああ~、そっかそっか。さっきもちょびが言っていたと思うけど、ちょび達三人の元になっているのは僕の細胞なんだよね」


「うんうん、それはわかってるの。そうじゃなくて、ちょびくん達が生まれてから融合の儀式のせいで一人の人間になるまでの間、どうしていたかってこと。私の勝手な推測なんだけど、あなたと暮らしていたんじゃないかって思って」


自信がなさそうに自分の推理を披露するスカサハであったが、士郎はその答えを聞くとこっくりと頷いてその答えが正しいことを肯定してみせる。


「当たりだよ。ちょび達は僕や百合姉や、蒼樹さん達と一緒に暮らしていた。まあ、実際に世話をしていたのは僕なんだけどね。研究所員達は、細胞の提供者である僕が一番ちょび達の世話をするのに適任と思っていたみたい」


「そうなんだ・・ちょびくんって、実年齢っていくつくらいなのかしら?」


「う~ん、微妙なところなんだよね。彼らは僕が5歳の時に生み出されたはずなんだけど、異界の力で無理矢理成長を早められて生み出されてきたから、試験管の中から外に出されたときにはすでに僕と同じくらいの年齢になっていた。で、その三年後に融合の儀式を実行されて『人造勇神』の姿にさせられたときには、二十代前後の姿になっていたしねえ・・それから僕は今日再会するまで7年も会っていなかったわけなんだけど、いまのちょびの精神年齢がどれくらいになっているのか見当もつかないよ。今の姿形は小学校の高学年か中学一年生くらいみたいだけど・・」


「融合したあとのちょびくんの人格は?」


「勿論残ってはいたみたいだけど、基本的に『メインフレーム』の子の人格が普段は前面に出ている形になっていたと思う。融合しても人格は一つにならなかったみたいだね。そこのところも研究所員達の思惑から外れていたんじゃないかなあ・・」


と、言って二人がちょびのほうに視線を向けると、自分が焼いたお好み焼きを一心不乱に食べ続けているちょびの姿が。


二人の視線に全く気が付いておらず、口の周りを青海苔だらけにしながら食べ続けているちょびの姿を見ていると、どう見てもそれ以上の精神年齢になっているとは到底思えなかった。


むしろその姿形よりもさらに低いかもしれない。


二人は何とも言えない複雑な表情で溜息を吐きだす。


「多分、子供のうちに融合させたほうが洗脳しやすいと思っていたんだろうなあと、僕は考えているんだ」


「そうね・・なんだかちょびくんって異様に素直そうですわね」


「うん、素直なんだ・・素直すぎて『通転核』出身の当時の教育担当者の影響をもろに受けちゃってさ、『通転核』出身でもないのにもろにその文化や方言を受け継いじゃっているんだよねえ・・」


「みたいね・・この子が知ってる情報に物凄い偏りがあるような気がするわ・・」


そう言ってしばらくちょびの姿をじっと見つめていた二人だったが、やがてその視線にようやく気がついたちょびが顔を上げて驚いたように二人の顔を交互に見る。


「な、なんやなんや!? 俺の顔になんかついてるんか!?」


「青海苔がいっぱいついてる」


「な、なにいいいいい!? そ、そういうことは早よ言うてや!!」


恨めしそうな視線を士郎に向けて、かわいらしい仕草でぐしぐしと片手のそで口で口の周りを拭うちょび。


そんなちょびを呆れたように見つめていた士郎だったが、やがて真剣な表情になるとちょびにこれまであったことを話すように促す。


「ちょび、君達が研究所を追い出されて、今日、この日までの7年間、何があったのか? そろそろ話してくれないかな」


そう士郎が言うと、ちょびはぽりぽりと頭をかいてう~んと唸りしばらくバツが悪そうに考え込んでいたが、やがて気まづそうに口を開いてこれまでのことを語り始めた。


「いや、つい最近までの話は大したこっちゃないねん。とことん『害獣』を倒してこいや!!って研究所を追い出されたのはよかったんやけど、ほら、俺ら命令聞く気ゼロやん」


「うんうん、ほんと君達人の言うこと聞かないし、やる気なかったもんね」


「それで、三人で話し合った結果、誰がそんな命令聞くかい!!って速効拒否することにしたのはよかったんやけど、目的もなかったし、どないしようかな~って思っていたんよね」


「ほうほう、それでそれで?」


「そんであっちにふらふら~、こっちにふらふら~って、いろいろな都市を回って。勝手気ままにくらしていたんよ、ほら、一応俺達って『人造勇神』やからそれなりに強いでしょ、各都市にあるギルドでちょっと仕事こなせばお金も入ったし。一人の身体やけど、中身三人いてるから寂しくもないし。いろいろなところを旅してそれなりに楽しく暮らしていたんよね・・つい最近までは」


「・・つい最近まではってことは・・そのつい最近に何かあったってことか?」


一気に表情が暗くなってしまったちょびを見てそのつい最近に起こったことがただ事ではないと察し、士郎はその話を早くするようにちょびを急かす。


「いったい何があったんだい?」


「実はその捕まってしもうたんや」


「捕まった? 中央庁のエージェントか何かにかい?」


「いや、それやったらまだよかったんやけど・・『嶺斬泊』と『アルカディア』の間に『不死の森』ってあるやん、兄ちゃん知ってる?」


「ああ、知ってる知ってる。この前もちょっとそこで一悶着あったんだけど・・それが?」


「そこの奥にな、なんやゴーレムとかホムンクルスの研究しとるじじいが住んどって、そいつにまんまと俺達捕まえられてしまったんや」


「ええええええええ!! ちょ、ちょっと待って!? そんな場所でそんな危ない研究してたらあっというまに『害獣』に見つけられて淘汰されちゃうでしょ?」


ちょびの話す衝撃の内容に吃驚仰天する士郎であったが、ちょびは首を横に振ってそれを否定する。


「それがな、そのじじいの研究ってなんでか知らんけど、『害獣』には感知されへん代物らしいねん。なんでも昔々の大昔にこの世界に元々あった技術らしくて・・なんか、よ~わからへんねんけど、そのはるか昔にこの世界に住んでいた魔法使いみたいな人達が作った『宝貝(パオペイ)』とかいう魔法の道具みたいなものがあって、それを使った研究らしい。なんかいろいろと物騒な感じのものをいくつも持っていたわ」


「それを使われて捕まっちゃったの?」


「ちゃうねん・・それがな、じじいに協力しとる奴がおって、そいつと戦って俺ら負けてしもうてん」


「え、まさかその相手って・・」


「『人造勇神』タイプ ゼロツーやねん」


「うっわ~~・・あいつかああ・・待てよ・・じゃあ、今日戦っていたのってやっぱりゼロツーなの?」


ちょびの言葉に頭を抱えかけた士郎だったが、何かにはっと気が付いて目の前のちょびに厳しい視線を送ると、ちょびはこっくりと頷いて肯定を返す。


「うん、せや、あいつや」


「いや、でもあんな姿じゃなかったよね? もっとこう特撮ヒーローっぽいというか・・あんな生物的な外見じゃなかったはずなんだけど」


「そこや。あいつ、そのじじいに強化されてとんでもない能力を身につけた結果、『害獣』としての能力が溢れ出してきてるみたいで、どんどんそういう姿になっていってるみたいやねん」


「とんでもない能力?」


「・・あいつ、他の『人造勇神』を自分の中に取り込んで自分の能力にすることができるねん。つまり、捕食すればするほど力もそれに比例して強くなるけど『害獣』の特性もあがってしまうやんか、どうもそれが表に出てきているみたいなんよね」


「ぼ、暴走しないの?」


「完全にではないらしいねんけど、そのさっき言うてた『宝貝(パオペイ)』を埋め込まれているらしくて、俺らが変身していられる555秒間は大丈夫らしい。・・フルパワーやとその限りではないらしいけど・・ともかく、俺ら捕まったあとあいつに取り込まれるところやったんやけど、ここで予想外のことが発生してん。あいつな、一度に一人ずつしか取り込むことができへんらしいねん。それで俺らのことも取り込もうとはしたんやけど、いくら一人の身体しているとはいえ中身は三人。三人分一度には無理やったみたいで、取り込みは失敗。しかもその影響で俺ら、三人の融合も解けてしもうてさ。俺、今がちゃんすや!!って、思って、そのときすぐそばでじじいが調整しとった古代ゴーレムを暴走させて、大騒ぎ起こしている間に逃げ出したんや。もう無我夢中で逃げ出して、どこをどう逃げたんかもわからへんし、他の二人もどうなったかわからへん。なんとかこの都市に逃げ込んで、残飯とかあさって生き延びていたんやけど、とうとう見つかってしもうて戦うしかないかあって、戦ってる最中に兄ちゃん達が来たってわけや」


子供らしくない悲しい笑顔を浮かべるちょびの顔をじっと見つめていた士郎とスカサハだったが、期せずして同時になんともやるせない吐息を吐きだす。


「ちょびくん、苦労したのね・・」


「ごめん、ちょび。君がそんな追い込まれた生活を送っていたとは思わなかったよ・・」


「ええねん、ええねん。みんないろいろあるやん。生まれてすぐ栄養失調で死んでしまう子供もおれば、実の親に殺されてしまう子供もおる。それを考えれば俺なんか全然マシやって。こうして兄ちゃんにも会えたし」


「風呂とかはどうしていたの?」


「毎日川で行水してた。この都市って中を奇麗な川がいくつも流れているから助かったわ。洗濯もできるし、ありがたいこっちゃ」


てへへと笑うちょびの姿を改めてみると、明らかにいろいろなところが擦り切れたTシャツやバミューダやパーカーを羽織ってはいるものの、汗臭いにおいは漂ってはきておらず、それなりに清潔な生活を送っていたのだろうということはわかる。


ちょびの姿に今更ながらに気がついた士郎の胸に非常に何か込み上げてくるものがあり、目が次第に潤んできていることを感じていたが、何かを啜りあげる音に気づいてそちらに目を向けると、自分の斜め前に座っている銀髪の少女が白いハンカチで口元を押さえ、目から涙をぽろぽろと落としているのが見えた。


ちょびは、そんな二人の姿を見て、非常に気まずそうに頬をぽりぽりとかいていたが、場の空気を変えようと話題を変える。


「そ、それよりも兄ちゃん・・あいつ『メインフレーム』を取り込んだとかなんとか言ってたんや。・・多分もう、あいつは取り込まれてしもうとるわ」


「そうか・・まさか、他の『人造勇神』を取り込むことが目的の奴がいるってことは想定外だったなあ・・あれ? 待てよ? まさか、もう何体かとり込まれていたりするのかな?」


「当たりや。捕まったときにじじいとあいつの会話をちらっと聞いたんやけど、ゼロナインとセブンがすでに取り込まれているらしいわ。それに俺達の『メインフレーム』も取り込まれちゃったみたいやしなあ・・今、あいつ相当強くなっているんやないかなあ」


「その割には僕とそれほど強さ変わらなかったよ?」


「暴走の恐れがあるから、迂闊に能力を解放できないんやと思う。あ、そうやそうや!! それどころやないねん!! 兄ちゃん!!」


何か思い出したちょびが、士郎のほうに大慌てで詰め寄ってくる。


士郎はそんなちょびを押しとどめながら、落ち着くように言って椅子に座らせる。


「落ち着け士郎、ちゃんと聞くからさ」


「落ち着いてる場合ちゃうねん!! あいつらにはまだ目的があるねん!! なんやその能力を制御するための道具がこの都市にあるらしいねん!! 『勇者の魂』とかいうものらしいねんけど、それを持ってる奴を狙ってるねん!! 早くそいつに教えたらな、大変なことになるねんて!!」


「うんうん、そうだねえ」


「そうだねえじゃ、ないやん!! そうや、俺、その持ってる奴探し出してこの都市から逃げるように言うつもりやったんや!! 俺らの争いに関係ない奴が巻き込まれたらあかん!! 俺らのことで不幸になる奴が一人でもおったらあかんのや!! ごめん、兄ちゃん、俺、行くわ。こうしている間にもゼロツーとじじいがいらんちょっかいかけるかもしれん、俺が役に立つとは思えへんけど、それでも足止めくらいはできるはずや!!」


「落ち着きなさい、ちょび。本当に、君は呆れるくらい弾丸一直線だねえ・・」


店から飛び出して行こうとするちょびの襟首をひょいと掴んで止めると、じたばたしているちょびを担ぎあげてもう一度椅子に坐り直させる。


「兄ちゃん、頼む、俺を行かせてくれ!! 分離してしまって『人造勇神』としての能力はもう欠片も残ってへんし、ゼロツーのパーツになるくらいしか能のない俺やけど、せめて俺のできることはしたいんや!! 『正義の味方』じゃないし、ただの力のない子供やけど、それでも俺にもまだできることがあるって思うねん!! せやから、頼む!!」


両手を合わせて拝み倒すちょびの姿をしばらく見つめていた士郎だったが、やがてすくっと立ち上がってちょびの側まで行くと、ポカリッとその頭をぐ~で殴る。


「いたっ!! 何するねん、兄ちゃん!?」


「やかますい!! なんでもかんでも自分一人で背負おうとするんじゃないの!! こうしてやっと再会できたっていうのに、むざむざと出て行けば捕まるってわかっているのに行かせるわけないでしょうが!! ったく、僕をなんだと思っているのさ!? 君に戦力外通知されるほど僕は弱くないっつ~の!! それにだね、その『勇者の魂』関係についてはもう対策済みだから、君がジタバタしなくてもいいんだってば」


「へ?」


士郎の言ってる意味がわからず、間抜けな顔で固まるちょびを呆れるように見つめていた士郎だったが、ちょびの横で苦笑気味に、でも、温かさのこもった優しい視線でちょびを見つめているスカサハがちょびに話しかけたそうにしていることに気がつくと、目でスカサハに合図を送り対話をスカサハに譲る。


するとスカサハはそっとちょびの両肩に手を回して自分のほうに向かせると、本当に気持のこもった笑顔でちょびを見つめて口を開く。


「ありがとう、ちょびくん。お兄様のことを心配してくださって。改めて自己紹介しますわね、私はスカサハ・スクナー。あなたがいう『勇者の魂』の所有者である宿難(すくな) 連夜(れんや)の実妹ですわ」


「え・・あ、そう・・って・・えええええええええ!? うそや~~~ん!!」


スカサハの美しい笑顔にしばらくぼ~っと見惚れていたちょびだったが、その言葉の意味が理解できると驚愕の声をあげ、そして、助けを求めるように横にいる士郎のほうに視線を向ける。


すると、士郎はそれに対する答えとしてゆっくりと頷いて見せ、さらにちょびを驚愕させる事実を話すのだった。


「スカサハの言ってることは本当だよ。あとね、連夜さんは僕を拾ってくださった大恩人で今の僕の上司でもあるんだよね」


「え~~~~~~!! ちょ、ちょっと待って、まさか、兄ちゃんって中央庁のエージェントか何かなん!?」


「いや、違うけど、立場的には協力者かな」


「そ・・そっか、そしたら俺のこと捕まえるつもりやったんやな・・」


がっくりと肩を落とすちょびの姿を複雑な表情で見つめ、どう説明しようかと迷っていた士郎であったが、それよりも早くスカサハが口を開く。


「心配いりませんわ。私がお母様に直接話をしてちょびくんの身柄は私達が預かることができるようにしてもらいますから。だからね、ちょびくんは何も心配しなくてもいいんですのよ」


「へ? 俺のこと捕まえなくてええんか?」


「ちょ、ちょっとスカサハ!! そんな大事なこと勝手に決めたら・・」


スカサハの意外な言葉に呆気に取られるちょびと、慌てふためく士郎。


しかし、そんな二人に背を向けたスカサハは懐から携帯念話を取り出して母親に連絡を取ると、ざっと今までの経緯を説明。


呆然として二人が見守っているうちに、瞬く間に母親の承認を取りつけて話を終え、携帯念話を懐にしまいなおすと二人のほうににっこりと華のような笑顔を浮かべて見せる。


「とりあえず、今日のところは私達と一緒にタスクさんのところに帰りなさいって。でも、このままこの都市にいたらちょびくんがいつまた狙われるかわからないから、明日、連夜お兄様のいる『特別保護地域』に連れていきなさいって。勿論、士郎や晴美も一緒にね。詩織さんのほうにはお母様が直接話を通しておいてくれるみたいだし、『特別保護地域』でちょびくんを預かってくれるところに関してはちゃんとあてがあるからですって」


スカサハの言ってることの意味が半分以上わかりはしなかったが、なんだか捕まえる意思はないようだということだけはわかり、ほっとするちょび。


しかし、やはり内容が内容だけに気になって隣に立つ士郎に視線を向けて説明を求めると、士郎はなんだか疲れたような表情で片手を顔に当てて溜息をつく。


「スカサハと連夜さんのお母さんはこの都市の中央庁の御偉いさんなんだ。『人造勇神』の事件を担当してる中央庁のお役人さんの直接の上司でもあってね、まあ、その『人』がいいって言ってるということだから、君は本当に保護されることになるってことだね」


「あ、ああ、そうなんや・・なんか、いまいち実感わかへんねんけど・・おおきに、ありがとう、銀髪の奇麗なねえちゃん」


士郎の説明で、なんとなく事態を把握をしたちょびは、相変わらず優しい笑顔を浮かべて自分を見つめているスカサハの手を自分の小さくてかわいらしい手で握ると、ぶんぶんと振り回して感謝の言葉を口にする。


「いいえ、いいんですのよ。士郎の家族は私にとっても家族ですわ。それよりもちょびくん、私のことはスカサハと呼んでくださいませ。奇麗なお姉ちゃんと呼ばれるのはそれはそれで嬉しいのですが、やはり名前で呼んでいただいたほうがもっと嬉しいですわ」


「う~ん、ほんなら、『スカサハ姉ちゃん』・・でええやろ?」


「いいですわ・・しかし・・ちょびくん、ほんとかわいいですわねえ・・」


なんだか頬を上気させてうっとりとちょびの様子を見ていたスカサハは、ちょびの頭を嬉しそうに撫ぜる。


そのスカサハの行動に物凄く不満そうな顔をするちょびであったが、流石に恩人に対して毒づくこともできず、ぶすっとした表情で黙りこんでしまう。


しかし、その表情がさらにスカサハのツボに入ったのか、スカサハは『かわい~』『かわい~』を連呼してちょびを構い続ける。


「に、兄ちゃん・・いい加減この『人』どうにかして・・」


ちょびは何度かスカサハを怒鳴りつけてやろうとしたのではあったが、あまりにも嬉しそうにしているスカサハの表情を見ていると、どうしてもそれを果たせず、対面に再び座り直してお好み焼きを食べ始めた士郎に助けを求める。


しかし、士郎はあっさりとそれを切り捨てるのだった。


「無理」


「そんな殺生な・・」


新しいおしぼりで自分の口の周りを丁寧に拭いて必要以上に世話を焼いてくれるスカサハを困ったように見つめながらも、ちょびは子供らしくない深い溜息を吐きだすのだった。


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