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Act 10 『後始末』

剣児達の激闘が終わった後、中央庁にフレイヤが連絡を入れてから間もなくして水浸しになった都市営念車の車庫跡地に何台もの黒い装甲トラックがやってきた。


その中から飛び出してきた武装した中央庁直属の兵士達は展開して周囲を封鎖にかかり、またその中の白い防護服に身を包んだ対特殊属性処理担当兵士達は、ここでついさっきまで行われていた戦闘の痕跡を消そうと何かの薬品をばらまいている。


中央庁直属兵士達の働いている光景を少し離れたところで見ていた剣児達、傭兵旅団『剣風刃雷』の面々だったが、やがて、この作戦の実行リーダーである妙齢の龍族の女性がこちらにやってくるのを見つけて視線を一斉に向ける。


「全員、司令官(コマンダー)に敬礼。」


剣児の言葉に、一斉に全員が胸に片手を当てて作戦リーダーの女性を迎え入れる。


「みんな、ご苦労様。よくやってくれたわね・・と、言いたいところだけど・・紗羅ちゃ〜ん、これはいったいどういうことかしらね?」


「ご、ごめんなさい・・」


笑顔を浮かべているが、目は全く笑っていない詩織の言葉に、紗羅は小さくなって謝罪の言葉を口にする。


「私はあれほど言ったわよね、一人で行動するときは必ずエージェントの誰かに定期的に報告を入れることって。なんで、無視したのかしら?」


「そ、それは、あの・・」


声音は柔らかく聞こえてはいるものの、その言葉の裏には非常に冷たい何かを感じさせる詩織の追及に、しどろもどろになる紗羅。


だが、意外なところから助け船が出る。


「俺がそうしろと指示をした。紗羅はその指示に従っただけにすぎない。」


『け、剣児!?』


いきなり二人の間に口を挟んできた剣児に、旅団メンバーが一斉に驚いた表情を浮かべて剣児の顔を見る。


それは紗羅とても例外ではなく、一瞬驚愕の表情を浮かべて剣児を見たが、すぐに厳しい顔付きになって剣児に食ってかかろうとするものの、剣児の物凄い殺気に満ちた視線を浴びて口を閉ざしてしまう。


「どういうこと、剣児? 隊長(シーエル)であるリーガルくんが抜けている今、団の責任者は副隊長(サブエル)のあなたってことになるけど? そのあなたがそんな独断専行を許可したってこと?」


「ああ、そうだ、司令官閣下(コマンダー)。俺が、いけるなら一人でやってみろと指示を出した。紗羅の戦力分析ではそのときは紗羅一人で対応できる内容だった、だが、蓋を開けてみればそうではなかった。紗羅に落ち度はない、隙があれば仕掛けてみろと指示を出した俺に全責任がある。」


「あ〜、そう。じゃあ、その責任をどうやって取ってもらえるのかしら?」


「責任を取って副隊長(サブエル)を俺は下りる。同時にその任をフレイヤに任せる。あとついでに俺のハンター登録も末梢することにする。」


『えええええええっ!?』



Act 10 『後始末』




そう言ってサバサバとした表情でとんでもないことを詩織に告げた剣児は、物凄い非難を込めた視線を一瞬詩織にぶつけるが、すぐに何の感情も感じられない無表情になると詩織の言葉を待つ。


剣児の衝撃の発言にメンバーは絶叫するが、どうにも二人の間に流れる雰囲気に入りづらくて言葉を発することができない。


「『剣風刃雷』を見捨てるの?」


「元々俺のチームじゃない。本来は十兵衛さんのチームで、今はリーガル隊長のものだ。フレイヤで文句があるならリーガル隊長を何としても復帰させればいい。別にあの人は怪我をしているわけでもなんでもないのだからな。それに責任を取れといったのは、司令官(コマンダー)、他でもない、あんただ。俺の責任の取り方にまだ不満があるというのなら、あんたが思うように勝手にすればいい。都市追放でもなんでも、あんたならなんでもできるだろ?」


その剣児の言葉は流石の詩織にも予想外だったのか、戸惑った表情を浮かべるが、そんな詩織に追い討ちをかけるように剣児は嘲笑を浮かべて決定的な言葉を口にする。


「子供を産む道具になれるあんただ、産んだ子供を道具にするのも容易いだろうしな。」


決して触れてはいけない詩織の心の暗部を逆撫でする言葉に、一瞬で激昂した詩織が剣児の顔面に容赦ない拳を叩き込む。


「貴様に何がわかる!?」


「わからないね。正面から戦うことなく逃げ出したあんたの言葉なんかまるでわからんよ。」


だが、その拳を避けることなく顔面で受けきった剣児の表情には鬼の笑みが浮かんでおり、詩織の苦痛に満ちた言葉もまるで剣児の心には届いてはいなかった。


二人の親子の間に広がる深い溝を測らずも見せつけられる形になったメンバーは、一様に固まってしまっていた。


この二人の仲の良さはメンバー全員がよく知っているだけに、まさかこのような事態になるとは思ってなかったためショックは余計に大きい。


どういう理由かはわからないが、剣児は何か詩織に対して本気で怒り狂っていることだけはわかったが、それが何かわからないため迂闊に間に入ることができない。


しばし、睨みあう二人の間でこのままではいずれ決定的な亀裂が入る事態になると全員が懸念し始めたとき、一人だけその最悪の事態を避けられるであろう魔法の言葉を知っている人間が割って入る。


「剣児・・あんたがなんで詩織さんのこと怒ってるかわからないけどさ・・このことをお母さんが知ったらどう思うかな?」


「うっ!!」


紗羅が恐る恐る発したその言葉は、剣児の表情を一瞬にして劇的に変える。


強烈な怒気を発して鬼のような表情だった彼の雰囲気がみるみると変わっていき、今や真っ青になっている。


「い、いや、それはだな・・」


「お母さん、なんていうだろうな〜・・」


「お、おまえ、ちょっと待て!! まさか、あいつに密告す(チク)るつもりか!?」


「いや、私が言わなくても絶対耳に入ると思うよ。お母さん、そういうの聞き逃さない人だから。そう思わない?」


「う・・確かに・・」


いったいどれほどその人物に対して弱みがあるのかわからないが、見る間にしょぼ〜〜んとしてしまう剣児の姿を見て、とりあえずほっとした表情を浮かべた紗羅は、突然豹変した息子の姿を呆気に取られてみている詩織のほうに顔を向け直す。


「詩織さん、すいません、剣児の・・いや、副隊長(サブエル)の指示ではありません、私が蒼樹に対して妙な対抗心を持って暴走したのが原因です。処分を受けるべきは私なのです。本当に申し訳ありませんでした。」


深々と頭を下げて見せる紗羅の姿をしばし、バツが悪そうに見つめていた詩織だったが、やがて大きく溜息を一つ吐き出すと片手をこめかみにあてながら口を開く。


「あ、いや、うん・・は〜、なんか、今回は私も剣児の挑発に乗せられちゃったりで、どうも調子悪いな。大人げないところもみせちゃったし、みんな無事でターゲットの撃破にも成功したわけだから、とりあえず今回は不問でいいわ。それよりも剣児、言いたいことがあるならはっきりおっしゃい。いったい何が気に入らなかったの?」


「・・もういい。」


そう言うと、剣児は不貞腐れたような表情を浮かべて背中を見せて、メンバーから遠ざかって行こうとする。


しかし、またもや紗羅の一言が剣児の足を止めさせる。


「しょうがないですね、詩織さん。こうなったら、お母さんに事情を話して・・」


「わ〜〜〜かった、わかったってば、話すよ、話せばいいんだろうが、くそ!!」


そう言って慌てて戻ってきた剣児は、紗羅の顔を睨みつけながら、やけくそ気味に叫ぶ。


しかし、そうやって戻ってきた剣児だったが、何かその理由を余程言いたくないのかしばらく何かと葛藤しているようだったが、やがて意を決したように口を開いた。


「はっきり言って俺が一番今回気に入らなかったのは・・『人』殺しの片棒を担がされたってことだ。」


その言葉の意味がわからなかったメンバー達は、剣児のことを何を言っているのだろうという顔をしていたが、詩織だけは正確にその意味を読み取って深い悲しみの表情を浮かべる。


「ごめんなさい、剣児。そのことについては謝るわ・・ああ、だけど、わかってしまったのね・・」


「わからいでか!! 実際に手をかけて殺したのは俺だぞ!! あれが『害獣』であったのか、ただの『人形』であったのか、それとも・・元から『人』であったのか、わからないわけがないだろうが!!」


その言葉に紗羅を除くメンバー全員の表情が強張る。


紗羅もはっきりしたことは聞かされていたわけではなかったが、剣児の言葉に、ああ、やっぱりそうだったんだと心のどこかで納得していた。


紗羅は当事者であったが、父親からは彼らは『人』ではない、ゴーレムと同じような存在で感情があるように見せることができる能力があるだけだと教えられていた。


だが、あまりにもはっきりと自我を感じることができることから、前々からかつての父親と同じように元々人間だったのではないかと疑うようになっていたわけであるが・・


「あんたが俺達に説明したとき、こういったよな、『駆除する対象は、『人造勇者』として製造された人間型ホムンクルスを強化した『人造勇神』。『害獣』の能力を付加されており、いつ『害獣』となって暴走するかわからないため早急に保護、あるいは処分する必要あり』ってな。だが、あれは違う・・人間型ホムンクルスじゃなく、人間そのものを強化したものだったんだろうが!! 違うのか!?」


「・・いや、違わないわ・・」


「ふざけるな!! 俺達は『害獣』ハンターで、殺し屋じゃないんだぞ!! 俺だけならともかく、俺の大事なダチにまでその手を汚させてしまった!!」


項垂れる詩織に剣児は激しく激昂して見せる・・が。


「・・と、ついさっきまで思っていたが、もういい。冷静に考えればそういう仕事も誰かがやらなきゃいけないんだろ。たまたま今回は俺達だったというだけだ・・と、思うことにした。」


と、急に表情を緩めると、肩をすくめて見せる。


詩織も含め一人を除いてその場にいる者達は、剣児の豹変ぶりに驚いていたが、たった一人だけは剣児が何を思ってそう考えを変えたのかわかりくすくすと笑みを浮かべる。


「なんだよ、紗羅。気持ち悪い笑いを浮かべるんじゃねぇよ。」


「だって、剣児が今何を思って考えを変えたのかわかったんだもん。あてて見せようか?」


「え!? い、いや、いらんいらん、そんなもん言わなくていい!!」


「へへへ〜・・お母さんだったら、どう思うんだろうな〜って考えたんでしょ?」


「ぐ・・ま、また余計なことを・・」


紗羅の言葉が図星だったらしく、顔を赤らめる剣児。


そんな二人のやりとりをしばらく見つめていたメンバー達であったが、さっきから二人の間に出てくるあるキーワードが気になって気になって仕方なく、それに耐えきれなくなったフレイヤが代表するかのように、口を開いた。


「あの、紗羅、ちょっといいかしら?」


「え、なに? フレイヤ。」


「さっきから出ている、その『お母さん』っていったい誰のことなの? たしか、あなたって父子家庭だったと思うんだけど・・」


「あ〜〜、そういうことかあ、ごめんごめん、お母さんって私が呼んでいるけど、みんなも知ってる・・」


「うわわわわわわわ〜〜〜!! 紗羅、てめえ、いうんじゃねぇよ!!」


「え〜、どうしようっかな〜。」


慌てて紗羅の口を塞ごうとする剣児であったが、紗羅はひょいひょいとその手をすり抜けて行ってしまう。


「あ、そうだ、剣児、さっき詩織さんにひどいこと言ったのに、謝ってないよね。もし、お母さんが聞いたら・・」


「わかったよ!! 確かに、それは悪かった。しかし、いいか、紗羅、絶対言うんじゃねぇぞ!!」


と、紗羅に言っておいて、剣児は自分の母親のほうに向いて真摯な視線を向けると、深々と頭を下げて謝罪の言葉を口にした。


「母さん、ひどいことを言ってすまなかった。俺のことを産む義理もないのに産んでくれて、女手一つで育ててくれたことには本当に感謝してる。あそこから出て行ったのは逃げたわけじゃなく、俺を守るためにとどまるわけにはいかなかったってこともわかってる。どんな理由があったとしても、口にすべきことじゃなかった。本当にごめん。」


いつになく気持ち悪いくらい素直に謝る息子の姿を呆気に取られて見ていた詩織だったが、何とも言えない困惑した表情を浮かべてそれをやめさせる。


「もういいわ、ダーティな仕事をあなた達に黙って押し付けた私にも非があることくらいわかっているし。それよりもお願いだから、途中でこの仕事を下りるとか、副団長をやめるとか、ハンター登録を抹消するとか言わないでちょうだいよね。・・あれ? そういえば、こんなことが前にもあったような・・」


それほど遠くない昔、息子が小学生の頃に、こういうことがあったような記憶が詩織の脳裏をかすめる。


確かそのときも、激昂した息子が詩織にとんでもないことを口走り家を飛び出していったのだが、誰かに連れられて戻ってきて、そのときにバツの悪そうな顔で素直に謝ったことがあったような・・


あれは誰だったのか?


腕組みをしてうんうん唸りながら考え込んでいた詩織だったが、やがて、何気なく顔をあげた拍子に紗羅の顔が視線に飛び込んでくる。


そう、紗羅と同じ顔をした誰か・・それは・・


その顔を見た瞬間に、詩織の記憶の欠けていた部分にかっちりと何かがはまる音がした。


「あ、そうか!! 連夜くんだ!!」


ぽんっと左手の掌を右手の拳で叩く詩織の姿を、物凄いいやそうな顔をして見つめる剣児。


すると、逆に今度は詩織が嫌そうな表情で息子の顔を見つめ返す。


「あんた、女の言うことはひとっつも聞かないくせに、なんで男の連夜くんの尻に敷かれているのよ。あれだけ女好きのくせして、本気の恋愛は男だけとか言うのはやめて頂戴よ・・」


「な、何言ってるんだよ!! そんなわけないだろうが!!」


「どうなんだかな〜・・」


慌ててその言葉を否定して打ち消そうとする剣児に、ますます疑惑の視線を向ける詩織。


そればかりか、フレイヤ、ジャンヌ、メイリンの三人まで、真っ青な表情で剣児を見つめている。


「ま、ま、まさか・・う、うそですよね?」


「そんな・・そんなことが・・」


「で、でも、わ、私達の誰も選ばなかったのって・・それが原因だったってことじゃあ・・」


「ち、違う違う、何言ってるんだ!! そんなわけないだろうが!!」


詩織ばかりか、チームメイト達からまでそういう趣味の人ではないかという疑惑の視線を向けられて本気で慌て出す剣児だったが、そこにさらに紗羅が爆弾を投下する。


「え〜、でも剣児って、お母さんのこと好きだよね? 中学校の時にそういうこと言っていたよね、剣児。 『俺あいつのこと好きだからさ、放っておけないんだよな』って」


「ばっ!! ち、違う、そういう意味の好きじゃない!!」


「え・・あ、あの、紗羅が言っている『お母さん』って・・まさか、宿難 連夜くんのことなの?」


「「あ・・」」


恐怖で慄きながら問い掛けるフレイヤに、剣児はしまったああああという顔で、紗羅はばれちゃった、てへっという顔で振り返る。


「な、なんで男の宿難く・・いや、連夜くんを『お母さん』って呼んでいるの?」


「いや、ある事件のあと私とお父さんと蒼樹はしばらくの間、おかあさ・・ううん、連夜さんと一緒に暮らした時期があったんだけど、同い歳なのに、その頃のあの人ってもう家事全般ができるようになっていたのよ。それでずっと私達の世話をしてくれて、きっとお母さんがいたらこういう人なんだろうなって思っていたら、自然とお母さんって呼ぶようになっちゃって、今でもついそう呼んでしまうのよね。ほら、私って物心ついたときにはもうお母さんいなかったから。」


「そうだったんだ・・」


思いもかけず紗羅の重い過去の一端を垣間見てしまうことになったフレイヤ達の間にしんみりした空気が流れるが、すぐにはっと何かに気が付いて周囲を見渡すフレイヤ達。


すると、いつの間にかこの場からこそこそと逃げ出そうとしていた剣児の後ろ姿が。


「ちょ、剣児くん、待ってください!! 説明してください!!」


「そうだそうだ、どういうことなんだよ!! 宿難とどういう関係なんだよ!!」


「剣児くん、とりあえず連夜さんと別れて私と結婚してください。」


「「なんでそうなる!!」」


「剣児、どの娘と結婚してもいいけど、連夜くんはだめよ、諦めなさいね。」


「だ〜〜っ!! おまえらいい加減にしろ〜〜〜!!」


と、いつもと変わらぬ調子で大騒ぎを繰り広げるメンバー達を、少し離れたところから呆れた調子で見ていた紗羅とバーンだったが、やがて、ある疑問に気がついた紗羅が隣にいる頼れるパーティの盾に問いかける。


「そう言えばさ・・なんでリーガル隊長いないの? なんで副隊長の剣児が旅団の指揮を取っているの?」


その紗羅の言葉にバーンは盛大に苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、その表情を見た紗羅はいったい全体何があったのかと目線で更に強く問い掛ける


「我が旅団の隊長殿は・・」


「うんうん。」


「精神的ダメージを負って、現在廃人のようになっておられる。」


「え・・精神的ダメージって・・ま、まさか、『貴族』や『王』クラスの『害獣』に出くわしたの!?」


バーンの言葉の内容に、最悪の事態を予感して顔を歪める紗羅だったが、その紗羅にやってられないという表情を浮かべて首を横に振るバーン。


「違うの?」


「違う、そうじゃない・・」


「じゃ、じゃあなんなのよ!? 勿体ぶらずに教えてよ!!」


「勿体ぶって言わないわけじゃない、あまりにも情けなくて言いたくないだけだ。」


「はあ!? それどういうこと?」


バーンの言ってることは全くもって理解不能で、紗羅は困惑を隠せないでいた。


『剣風刃雷』の現団長にして、隊長であるウィルフレッド・リーガルはサンエルフ族の二十五歳の青年で、元々は『嶺斬泊』の中央庁が抱える傭兵旅団の中でも最大の規模を誇る大傭兵旅団『矛盾』の中隊長の一人だったのだが、旅団の団長である真田 十兵衛より一人立ちを許され、自分が当時抱えていた三つの小隊の中の一つである剣児達の小隊メンバーを引連れて『剣風刃雷』を作ったという経歴がある。


それが紗羅や剣児が中学校卒業の時の話しで、そのとき、剣児達は勿論リーガルについて旅団から出て行ったわけであるが、紗羅は十兵衛の本隊と共に秘密裏に『人造勇神』を追い掛けることになっていたので、袂を分かつことになってしまっていたのである。


以来一年以上彼らと会っていなかったわけであるが、紗羅が知っているウィルフレッド・リーガルという男は、穏やかであまり感情を表に出さないが、芯のしっかりした優しく頼れる男であったはずなのだが・・


情けないというバーンの言葉と、紗羅の中のイメージがどうしても結びつかず、小首を傾げてしまう。


が、やがて、そんな紗羅の様子に溜息を吐きだしながらも、バーンは真相を口にする。


「つまり・・隊長殿は、長年想いを寄せていた相手に最悪の状況で振られ、そのショックで立ち直れなくなってしまっているんだ。」


「は? なにそれ?」


「ずっと、妹みたいに可愛がっていた人物だったんだ。で、相手も一度は隊長の想いを受け入れて、もう最後のいけるところまで行ったらしいのだけど・・」


「ちょ、ちょっと、待って、それって・・つまりぃ・・」


バーンが言葉にした内容を察して真っ赤になる紗羅であったが、バーンはそれに気がつかぬふりをして話を続ける。


「最後まで行ったところで、『ごめんなさい、私、自分が本当に愛している人がわかっちゃった・・もう、あなたを愛せない。』って、飛び出して行っちゃたらしい・・」


「ええええええええええええ!!」


「そこで隊長殿は真っ白に燃え尽きてしまい、その後精神的に回復することができずに、現在ニート同然の生活を送っていらっしゃる・・あ〜、もうよりによってこんなときに!!」


片手で顔を押さえて首を横に振るバーンを、紗羅はしばし呆然と見つめていたが、やがて、ぽつりとつぶやいた。


「団長・・かわいそう・・」


「まあな・・しかし、色恋沙汰に失恋はつきものだ。そのときへこむのは仕方ないとしても、すぐに立ち直るくらいでいてもらわないと相手にも失礼な話だ。」


「それはバーンだから言えることでしょうが、あんたくらい経験豊富ならねぇ〜、そりゃすぐ立ち直れるだろうけど・・でも、いったいどういう人なんだろ? 隊長を振った人って。」


「それこそ、君の『お母さん』に聞いて見るといい。どういう人なんですかって?」


「そうねえ、お母さんに聞いて・・え!? ちょ、ちょっと待って、お母さんの関係者なの?」


吃驚仰天する紗羅に、バーンはこっくりと頷いて見せる。


「その女性の名は、ミネルヴァ・スクナー。君の大好きな『お母さん』の実姉だよ。」


「えええええええええええええええっ!!!」


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