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~第5話 出会い~ おまけつき

 魔力や霊力といろいろとあり特性も勿論それぞれ違うものであるが、種類に限らずそういった力は強くなればなるほど扱いが非常に難しくなってくる。


 普通、どのような種族であれ、成長の段階に応じてその力もまた成長していくわけだが、それと比例するように身体そのものもそれを扱えるものへと変化するようになっている。


 しかし、力が強ければ強いほど成長の過程において、身体と精神の成長のバランスが崩れ体調を崩してしまう場合もなきにしもあらずで・・


「げほ、ごほ・・よりによって、過邪かあ・・」


 平熱を遥かに上回る数値をたたき出してくれた体温計を恨めしく見つめながら花の現役女子大生 如月(きさらぎ) 玉藻(たまも)は力なくつぶやいた。


 龍族、魔族などと並ぶ力を持つ霊狐の一族である玉藻は、現在第3覚醒期。


 霊力の成長とともに次の段階へと覚醒した力は、その強大な霊力の証である尻尾を2本から3本へ変化させる。


 最終的には9本にまで増加するわけであるが、玉藻は歳若い霊狐で今回の覚醒は生まれて初めてであり、当然尻尾の増加も生まれて初めての経験。


 そういうこともあって、想像以上に身体に負担があったらしく、霊圧のオーバーヒートが過邪を引き起こしたのだ。


「あ〜、もう、だめ、流石に無理・・くそ〜頼みたくないけど、ミネルヴァにノート移しておいてもらおう。」


 熱のために朦朧としているが、まだ意識がはっきりしているうちに、同じ大学に通っている親友ミネルヴァ・スクナーに連絡することにする。


 枕元においてある、アヴァロン社製の小型でかわいいレモンイエローの携帯念話を取り、親友の携帯念話につながるルーン文字を押す。


『もしも〜し!』


「あぐ!」



 耳にあてた携帯念話から若い女性の能天気な大声が響き渡り、あまりの衝撃に玉藻は手にした携帯念話を落としそうになる。


「ちょ、あ、あんた、なんて大声で・・」


『たまちゃ〜ん、どこにいるのさ〜、寂しいじゃないさ〜、私もう大学についちゃってるのに〜』


「誰が、たまちゃんか!?げほ、ごほ・・しかも寂しいとか気持ち悪いこといわないでよ!」


『そんな、私達愛し合ってる仲じゃない!そんな冷たいこと言わないで・・私泣いちゃう・・』


「だからそういう気持ち悪いこと言わないで!ごほんごほん・・ただでさえ調子悪いのに・・ごほ、げほ・・」


 思わず携帯念話に叫んでしまったせいか、咳がしばらく続く。



「あ〜・・苦しい・・」


『玉藻、ひょっとしてほんとに調子悪いの?ネタじゃなくて?』


「ごほ、ごほ・・なんでネタなのよ、あなたじゃあるまいし・・」


『あ〜、ごめん、ほんと悪かった。」


 ようやく気がついたのか、結構本気で謝っていると思われる声音が聞こえてきた。


「いいのよ、いつものことだし、気にしてないわよ。何年あなたとつきあってると思うのよ。」


『う〜、そうならそうといってくれればいいのに・・』


「言える状態じゃなかったでしょ・・もう・・それよりも今日のブエル教授の講義、ノート取っておいてほしいのよ。」


『ああ、共通回復魔法術の講義ね。わかった。』


「うん、あれって、治療師資格取得に必須科目なのよ。悪いけどお願い。・・ごほごほ・・」



 ようやく目的を伝えられて緊張が緩んだせいか、意識が遠くなってきた。


『ちょ、玉藻、ほんとに大丈夫?』


「大丈夫、大丈夫・・霊力覚醒が原因のただの過邪だから・・ただ、熱のせいで意識朦朧としてきたからそろそろきるわね。」


『切るのちょっと待って玉藻!』


「なによ〜」


『心配だから様子見に行かせるわね!』


 朦朧とした意識ではあるものの友人の言葉に違和感を感じて、その言葉を頭の中で思わず反芻してみる。


「え?ごめん、いま『見に行くわ』っていったのよね?『見に行かせるわ』って聞こえたような気がしたんだけど。」


『何言ってるのよ、私が見に行ったって役に立てるわけないでしょ? 玉藻だって、私がそういう家庭的なこと壊滅的に駄目なの知ってるはずよ、もう。そりゃ、玉藻が会いたいっていうなら行くけど。』


「いやいやいや、ごほ、げほ・・待って待って、それじゃあ、いったい誰を見に来させるつもりなのよ。」


『そんなの決まってるでしょ、料理洗濯掃除に看病、全部できる人!」


「えええええ」


『そっちに凄腕のハウスキーパー行かせるから、大船に乗ったつもりでいなさい!』


 この友人が突拍子もないことを言い出すのはいつものことだが、まさかこんなときに、そんなことを言い出すとは・・


 流石の玉藻も一瞬この提案に絶句してしまってそのまま意識を失うところだったが、なんとか踏みとどまりあわてて携帯念話に意識を集中する。


「ちょ、ちょ、ちょっと待ってミネルヴァ、いったい誰をここに・・」


『いいからいいから、玉藻は寝てなさいって、任せておけばいいのよ。本当だったら他の女のところに行かせるのなんてことはすっごい嫌だし絶対行かせたりしないんだけど、親友のピンチとあったらそんなこと言ってられないものね。』


「ごほごほごほ・・いやだから、いったい誰を・・」


『じゃあ、講義のほうは任せておいて、玉藻はゆっくり休んでね、じゃあ、切るね。』


「待て待て待て、切らないで切らないでちょっと、ミネルヴァ。」


『ツー・・ツー・・』


「・・き、切りやがった・・」


 唐草模様の大布団の中で呆然と通話の切れた携帯念話を見つめていた玉藻だったが、一つ大きくため息をつくと端末を布団の横に置いて、目をつぶることにする。



「もう、いいや・・寝よう・・」



〜〜〜第5話「出会い」〜〜〜



 どれくらい眠ったのだろうか、ぼんやりと意識が覚醒してくると、気だるい感じはするものの、熱っぽさがないのを感じる。


 それどころか、額と後頭部に程よい感じの冷たさすら感じる。


 額に手を回してみると、冷たく冷やされたタオルのようなものが置かれていて、いつのまにか枕は氷枕へと変わっていた。


 首を横に回してみると、布団の横に氷水の入った洗面器が置かれているのが見えた。


(あ〜、誰か看病してくれていたんだなあ・・)


 と、思って再び目を瞑り眠りの世界に入ろうとした玉藻だったが、意識を一気に覚醒し布団を跳ね除けて起き上がった。


「って、誰が!?」


 玉藻は一人暮らしの大学生。


 ルームメイトなどいないし、彼氏もいない。


 家族はここから遠く離れた霊狐の里に住んでいるし、こちらに来るなら一週間以上前に連絡がきているはずだった。


 と、言うことはいったい誰が・・


 得体の知れない不安と恐怖で、玉藻の全身からいやな汗が噴出す。


 急いで自分の着衣と身体を確認するが、熱のせいによる汗はかいているものの、着ていたパジャマに乱れはないし、身体そのもにどうこうされたわけでもないようだった。


 その事実に少し安堵の息をもらしつつも、まだ気を許すことはできない。


 本調子でないせいか霊力の調整は厳しいが、なんとか意識を集中して家の中の気配を探る。


 すると、リビングルームの向こうにあるキッチンのほうから何者かの気配を感じるのがわかった。


 玉藻は音もなく立ち上がると、自分の部屋からリビングにつながっている襖へと向かい、少しだけ襖を開けて中を見る。


「え・・うそ・・」


 玉藻は自分の目に映るリビングルームの様子が信じられず、何度も目をこする。


 ピカピカに磨き上げられたテーブルに地味だが趣味のいいモスグリーンいろのカバーがかけられたソファ。


 ベランダに続くガラス張りの大窓はきれいに磨き上げられ、ぼろぼろになっていたはずのカーテンは光を入れることができる薄く透けている白いレースのカーテンと、厚めの生地でできたレモンイエローのカーテンの2種類にかえられていた。


 部屋の隅にきちんとセッティングされた魔力放送受信対応の28型テレビに、色艶のいい観葉植物が植えられた鉢植え。


 家具が置いていないスペースはあきらかにきちんと掃除されて、恐らく雑巾がけまでいてあるのがわかる。


 しかも、ほんのりと匂うか匂わないかという嫌味にならない程度に、金木犀の良い香りまで漂っている。


「ど、どうなってるの?」


 玉藻が驚くのは無理もない。


 実は玉藻が熱を出して眠りの世界はいる直前までは、リビングルームはゴミ捨て場のような見るに耐えない有様だったのだ。


 玉藻が記憶している限りでもありとあらゆるものが部屋中に散乱していたはず。


 自分が脱ぎ散らかした衣服。


 自炊するのがめんどくさくて近くのお惣菜屋で買ってきて食べきれずに中身残ったままの弁当(中がどうなっていたかについては絶対確かめたくない状態)。


 暇つぶしに買ったのはいいけど整理できずにほったらかしの雑誌類。


 そして、なによりも部屋の空間を圧迫していたのは、無数の空缶空きビンの山。


 ビール、東洋酒、どぶろく、ワイン、ウィスキー、ウォッカ、チューハイ、カクテル、etcetc。


 いや、確かに玉藻は酒が嫌いではない。


 どちらかといえば結構好きなほうだ。


 しかし、流石に部屋を埋め尽くすまで飲むほどではない。


 むしろちびちびと、ちょっとだけ楽しみたい程度なのに、小学校時代から続く腐れ縁というにはあまにも長い付き合いの親友が、ほとんど毎晩のように酒のビン缶を抱えてやってくることが最大の原因なのだ。


 いや、百歩譲ってここで飲むのは許してもいい。


 だが、飲んだ後の後始末を全くしないで、ごみ散らかし放題で帰るのはいかがなものか。


 思い返すとふつふつと怒りが湧き上がってくる。


 と、いうか、なんだかその友人に関することで重大な何かを忘れてしまっているような気がするのだが

とりあえず、その思いをとりあえず心の棚の上に置いておいて、もう一度部屋の様子を落ち着いて伺ってみる。


 腐海というか魔界というか一種異様な光景と醜悪極まりない匂いに満ちていた部屋が、どうやったらここまで昇華されるのか。


 しばらく唖然としていた玉藻であったが、ずっとそうしているわけにもいかないので、意を決してリビングに出て行くことにする。


 なるべく気配を消し、滑らせる音が立たないようにゆっくりと襖をずらすと、なるべくキッチンから死角になっている場所を選んで素早く移動する。


 キッチンから死角になっているリビングの壁際に移動した玉藻はもう一度気配を探るが、キッチンで感じる気配の主はまだこちらに気づいていないようだ。


 ほっと安堵の吐息をもらし、何気なく視線をめぐらせると、自室からは見えなかったソファの影に何かが積まれているのが目に入る。


 注意を向けてみると、どうやらそれは自分の衣服。


 恐る恐る近づいて確認してみると、それらは全て綺麗に洗濯されてきちんとたたまれており、しかもブラウス類などはアイロンまでかけてある念のいりよう。


(か、完璧だわ・・完璧な掃除・・完璧な洗濯・・)


 正確に四角に折りたたまれたブラウスを持つ手をぶるぶると震わせながら、玉藻は恐るべき可能性に気づいて台所のほうに振り向いた。


(ま、まさか、キッチンにいるってことは!!)


 うそだ、そんなわけない、信じたくないと思いつつも、ゆっくりと四つんばいになりながらキッチンに近づく玉藻。


 しかし、そんな玉藻を絶望に追い込むかのごとく、リビングから離れるにつれて金木犀の香りは薄くなって消えていき、かわりにものすごい食欲をそそるいい匂いが・・


 そう、この匂いはあれだ、あれに間違いない!


(お、お腹に優しいクリームシチューの優しい香りが・・)


 認めたくない、認めたくないが、自分の狐特有の鋭い嗅覚はごまかすことができない。


 匂いだけでわかる。


 この匂いをさせているクリームシチューは絶対おいしい!!


(か、完璧か、全部完璧なのか!?掃除洗濯炊事、非の打ち所のない完璧超人か!!)


 なんか女として物凄い敗北感を味わわされてがっくりとうなだれる玉藻。


 たった一日で自分の住居ををごみ屋敷から、できるかっこいい女の部屋に作り変えた見知らぬ完璧女に、まるで『この程度のこともできないなんて・・あんたってくずね・・うふふ』と嘲笑されている幻覚まで見えてきて、玉藻は立ち直ることができずに床に涙の池を作るのだった。


「どうせどうせ・・わたしは駄目な女ですよ〜・・掃除片付けできないパナシ女ですよ〜・・洗濯できない異臭汚物女ですよ〜・・料理作ってもまずいものしか作れませんよ〜・・しくしくしく・・」


「あ、あの〜、そんなところで寝ているとお身体にさわりますよ」


「ほうっておいて!どうせ、わたしは女のくずよ、くずなんだから・・うわぁぁぁぁぁぁぁん・・」


「そんなことないと思いますよ」


「上辺だけの同情なんていらな・・え・・」


 さっきからから自分が誰かとしゃべっていることに気がついた玉藻は、声のしたほうにゆっくりと顔を向ける。


 するとそこには、見るからに性格の良さそうな顔をした高校生くらいの少年が心配そうにこちらをのぞきこんでいるのが見えた。


 くせのない黒髪に、大きな瞳、かっこいいというよりは圧倒的にかわいい感じのする顔。


 恐らく学校の中でも小柄なほうに入るであろう身体に、かわいいひよこのアップリケがしてあるエプロンがよく似合っていた。


「え、えっと・・」


「熱は大丈夫ですか?」


 どう反応していいかわからずに床にうつ伏せになって顔上げたままの状態の玉藻の額に、少年はそっと手を伸ばして触れる。


「よかった、熱は下がったみたいですね」


「あ、あの・・」


「でも、あまり無理しないほうがいいですよ。霊力覚醒によって引き起こされる過邪って、油断してるとぶり返すことが結構あるんですよ」


「よ、よく知ってるわね」


「兄や姉も同じようになってましたから。そうだ、ちょっと待っててください」


 少年は玉藻の側からパタパタと離れて、台所の横に移動していった。


 そこにはユニットバスと洗面所があるはずだが。


 ぼんやりとそっちを見ているとやがて、袖を捲り上げた少年がもどってきた。


「ちょうどいいからお風呂入っちゃってください。汗かいて気持ち悪いでしょ?いまいい湯加減になってますから。東方ゆず湯にしたので、過邪ひいた身体にいいし何よりもあったまりますよ。さ、起きて起きて」


 と、少年は玉藻の両手をつかむと、無理にならない程度に引っ張って玉藻の身体を起こすと、その背中を押して風呂場の前の洗面所兼脱衣所に連れて行く。


 そして、玉藻の身体を中にいれたあと脱衣所の扉を外から閉める。


「ゆっくりつかってくださいね。あ、そうそう、着ていたものは魔道洗濯機の中にいれておいてください、あとで洗いますから。着替えは籠の中にいれてますからそれを着てくださいね」


 少年の言葉に足もとに目をやると、下に置かれた竹でできた籠の中にはきちんとたたまれた新しいパジャマと下着が。


 なんとなく釈然としないものを感じつつも、なぜか少年の言葉に逆らえないような気がしてのろのろと衣服を全て脱ぐと、玉藻は目の前の洗濯機の中に放り込んだ。


 そして、風呂場の扉をあけて中へ。


「あ〜・・やっぱりねえ・・あは、あはははは・・はぁぁ・・」


 多分そうじゃないかなあって思ってはいたのだが、中に入ってみるとやはり風呂場の中はぴかぴかで、カビとか毛玉とかどこいったのよってくらい光っていた。


 流されている。


 完全にあの少年のいいように流されていると思うのだが、悪意とか害意とか全く感じられないし、いつもならとっくの昔に発動しているはずの霊狐族特有の超警戒心もなぜか不発のまま。


「いったい、あのこなんなのよ・・」


 のろのろと体と頭を洗ったあと、黄色い東方ゆずがぷかぷかと浮かぶ湯船にそのメリハリの効いた美しいスタイルの体を沈める玉藻。


 すごい危機感なくてやばいなあって思いはするものの、なぜか今すぐ叩きだそうという気にならない自分が不思議でならない。


 精神系の魔法にかけられているのだろうか?あるいは霊力覚醒の影響か?


 悶々と考えるが一向に考えはまとまらず、体は十分あたたまったが、逆にいい加減のぼせてもきた。


「って、よく考えたら、直接聞けばいいじゃない!」


 ざばっと湯船から飛び出した玉藻は、風呂場から急いで脱衣所に出ると、いつのまにか洗濯機の上に置いてあった新しいバスタオルを手に取った。


 おそらく洗濯用の洗剤の匂いと思われるいい香りがバスタオルからしてくる。


 しかもふわふわで柔らかい。


 なんともいえない心地よさを感じながら体を拭いた玉藻は、急いで下着とパジャマを身につけると脱衣所の扉をあけて台所へ。


「ちょっとそこの少年! 君に聞きたいことが・・」


「あ、お風呂からあがられたんですね。湯加減どうでした?熱くなかったですか?」


「うん、全然、ちょうどよかったわよ〜・・って、そうじゃなくってね。」


 台所で用事をしながらあくまでもさわやかに、しかも温かい笑みを浮かべて話しかけてくる少年のペースにもろにはまりつつある玉藻。


 なんとか踏みとどまろうとするのだが、そんな玉藻の心理状態などわかろうはずもない少年は、炊事場のすぐ近くにある冷凍霊蔵庫から何か液体の入った瓶を取り出してくると、玉藻が愛用しているグラスにその液体を注ぎこんで渡してきた。


「はい、どうぞ」


「ありがと。んぐんぐんぐ・・ぷはぁ・・って、うまっ!! なにこれ!? ビール!?」


「味はよく似ていますけど、ビールじゃないんですよ。ある薬草と果物を組み合わせて作った偽ビールってところでしょうか。アルコール入ってませんし、体にもいいんですよ」


「へえええええええええ、そんな飲み物あるんだ!?」


「滋養にいいペクヨンニンジンと、新陳代謝を活性化させるユグドラシルレモンを不死山の霊水に浸して作るんですけどね。もう一杯入れましょうか?」


「あ、お願い」


 すっかり偽ビールが気に入ってしまった玉藻は、少年が入れてくれたグラスの中の液体を、今度は一気飲みしないでちびちびと飲む。


「いま、夕食の用意しますから、座っててください。あ、そうだ、これよかったら食べててくださいね」


 と、再び霊蔵庫を開けて、中から何かが盛りつけられた皿を出して玉藻にわたす少年。


「これは?」


「前菜みたいなものです。野菜のスティックで、ニンジンみたいに見えるのがオレンジセロリ、黄色のがオリーブアスパラガス、キュウリを切ったように見えるその緑のがライムキャロットです。横に添えてある特製辛子マヨネーズをつけながら食べてください」


「ふむふむ・・おいしい!! これ、おいしいよ!!」


「それはよかったですけど、リビングに持って行って座って食べてくださいね。すぐに、メインディッシュのほうも用意しますから」


 と、玉藻をリビングのほうに行くように促しておいて、自分は再び台所に立ちなにやら忙しく夕食の用意を始める。


 その様子を見て自分も手伝ったほうがいいのかなあ・・なんて思ったが、どう考えても邪魔にしかならないなと思い直し、おとなしくリビング向かう玉藻。


 野菜スティックの皿と、偽ビールの入ったグラスをテーブルの上に置いて、テレビをつける。


 ちょうどニュースの時間だったらしく、有名芸能人の魔薬問題についての報道が流れていた。


「魔薬は怖いわねえ・・」


 と、野菜スティックをぽりぽり食べながら、ニュースを見る玉藻。


 もう完全にその姿は、”今日は外で食べてくるから”って旦那の連絡があって家事さぼることに決めた主婦か、仕事から帰ってきて好きな野球の中継放送をビール飲みながら見ている中年サラリーマンそのものである。


 ほけ〜っと、緊張感の欠片もない表情で玉藻がくつろいでいると、目の前のテーブルに少年がおいしそうな匂いをさせているクリームシチュー、外側は明らかにサクサクしていそうにみえるクロワッサン、そしてポテトサラダの入った皿を並べていく。


 早速クリームシチューを食べようとする玉藻だったが、よく見るとなんだかちょっと普通のクリームシチューとは違うような。


「これって・・鮭?」


 クリームシチューの入ったシチュー皿のど真ん中に、鮭と思われる魚の切り身が鎮座していた。


「そうです。別でムニエルした鮭の切り身です。一緒に煮込んだわけじゃありませんから、身はぐずぐずになってないはずです。ナイフとフォークでお好きな大きさに身を切っていただいて、シチューと一緒に口に入れてくださいね」


 少年の説明通りに早速やってみる。


「美味しい!! ほんと美味しい!! こんなの外の店でも食べたことないわよ!!」


 絶対美味しいとはわかってはいても、実際に食べてみて実感する美味しさは別のもの。


 正直、かなり感動してしまう味だった。


 鮭のムニエルはバターベースのようだが、シチューと一緒に食べることでまた違った趣があり、シチューの味がしっかり強調してありつつもそれで鮭の風味を損なうこともなく見事に協調しあっていた。


 また、しっかり煮込んであると思われるのに、じゃがいもは全然荷崩れしておらずほくほくで、それとは逆に人参はとろけるようにやわらかくなっている。


 どうやったらこんな風に調理できるのか皆目見当もつかないほど高度な技術で作られていることは、いくら素人の玉藻にだって容易にわかる。


 熱のせいで食欲はあまりなかったはずなのに、全然しつこくなく優しい味のせいかいくらでもお腹に入っていく。


 気がつくと、三杯もおかわりし(四杯目はさすがに体に悪いと止められてしまった。)クロワッサンもポテトサラダもきれいにたいらげてしまっていた。


「ふ〜・・おいしかったぁ・・御馳走様・・」


「いえいえ、お粗末様でした。・・はい、食後のデザートとコーヒーです」


 空になった皿を手早く引き揚げるのと入れ替えに、少年は今度はデザートの入ったガラスの器と淹れたてのコーヒーの入ったマグカップをテーブルの上に並べる。


 玉藻がガラスの器をみると、中にはちょっと黄色の濃いいプリンらしきデザートが入っていた。


「・・なんか色が濃いいわね、このプリン。」


「あ、わかりましたか。それ普通の卵から作ったプリンじゃないんですよ」


「?」


「シャンファ烏骨鶏っていう品種からとれた卵なんですけど、普通の鶏の卵よりもはるかに栄養価が高いんですよね。しかも味が濃厚なんですけど。体が弱っているときにはちょうどいいかと思いまして。」


 少年の言葉にふむふむとうなずきながらスプーンですくって一口入れてみる。


「あま〜〜〜い!! ってか、あれ!? すぐ甘さが消えちゃうよ! なにこれ、うま!! 甘いのがしつこく口の中に残らない!! けど、あまい!うまい!!」


 と、あまりの美味しさにあっというまに食べてなくなってしまった。


 想像以上に美味しかったため、味を楽しむという考えを完全に忘れてしまっ故の大失敗だった。


 空になったガラスの器を悲しそうにみつめ、そのあと少年のほうを捨てられた子犬のようなまなざしでみつめる玉藻。


「あはは、わかりました。まだありますよ」


「やったーー!」


 再びプリンをゲットして喜ぶ玉藻。


 今度はすぐ食べてしまわないようにちょっとずつ味わいながら食べる。


「う〜ん・・不思議だわ。すごく甘くかんじるのに全然厭味な味じゃないわねえ・・ひょっとして、かけてあるキャラメルソースにヒントがあるのかしら・・」


 などと、ちょっと真剣にプリンを考察してみる玉藻。


 その間、キッチンのほうからは洗い物をしているらしい少年の気配が。


 何気なくそちらに視線を向ける玉藻。


 忙しそうに、炊事場で皿を洗っている少年の後ろ姿。


 身につけた衣服の上からでしかわからないが、全体的に華奢な感じがするものの、男性特有の少し角ばった線と少年特有の緩い曲線とが絶妙なバランスを醸し出している。


 特に後ろから抱き締めてしまいたい小さな背中と、きゅっとしまったウエストのあたりがなんともいえない色気が・・


 いったいどれくらいそうして少年の後ろをみつめていたのか、何気なく振り返った少年が、なんともいえない苦笑を浮かべてこちらをみつめているのにようやく気づいた玉藻はあわわわと慌てた。


「あ・・あの・・」


「ふぇ!? な、なに!?」


 少年は、物凄くいいにくそうにしていたが、顔を赤らめて目を逸らしながら口にした。


「よ・・涎が・・」


「え・・ふにゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 だだもれだった。


 いつのまにか、口からだらしなく滝のように涎が垂れていたのだ。


 あわててぐしぐしとパジャマのそで口でぬぐうと、真赤になって玉藻は少年のほうを向いた。


「ち、ちがうの、プリンがおいしくて、それで、でたのよ! 後ろ姿がいいわあとか、抱きしめたら気持ちいいだろうとか、いっそ押し倒してあのお尻をわたしのものにとか、そういう意味じゃないのよ!! 全然まったくちがうの!」


「????」


 慌てふためいてとんでもないことを口走っている玉藻を、困惑する表情でみつめる少年。


 しかし、やがて、深いため息をつくと、洗い物を中止して玉藻のほうにやってきた。


「ち、ちがうの、ほんとに誤解なのよ」


「いや、ちがいませんよ・・やっぱりまだ体の調子がよくないんですよ」


 どうやら混乱する玉藻の様子を少年は体の具合が悪いためと受け取ったらしい。


「ちょっとソファに座っていただいて足を出してもらえますか」


「え、足?」


 玉藻を促してソファに座らせるといつのまにかもってきていたタオルケットを玉藻の膝上に乗せる。


「ちょっと失礼しますね」


「え、え、え」


 パジャマのズボンを膝上までまくりあげ、これまたいつのまに持ってきていたのか、お湯の入った洗面器に両足を入れさせる。


「ちょっとこのままテレビでも見ててください。すぐもどってきますから」


 そういって玉藻ににっこりと笑いかけると、少年はテーブルの上のガラスの器とマグカップをキッチンへと持っていき、再び洗い物を開始する。


 なんだろ〜と思いつつも、何か意味があるのだろうと思って、ぼんやりと言われるままテレビを見続けていると10分程して少年がもどってきた。


「もういいかな。じゃあ、失礼しますね」


 と、両足を洗面器から出し、片足を新しいお湯が入った別の洗面器に入れなおし、もう片足は丁寧にタオルでふいたあと、別の新しいタオルできれいに包み込む。


「な、なにするの?」


「まあまあ、とりあえず、リラックスして、そのままテレビみていてください。それかそのまま寝てもらってもいいですよ。じゃあ、始めますね」


 と、なにをされるのかとどきどきして自分の足を持つ少年を見つめていると、少年は玉藻の足の裏を両手でもみほぐし始めた。


「あ・・あぁぁぁぁ・・気持ちいいぃ・・」


「痛くないですか?かなり緩くしますけど、痛かったらいってくださいね」


「いや、全然痛くない・・っていうか、もうちょっと強くても・・」


「いえ、体の調子が悪いときは緩いくらいでちょうどいいんですよ。ちょっとでも痛いときはすぐいってくださいね」


「うん・・あ、そこそこ・・あ〜・・なにこれ、すっごい気持ちいい・・」


 あはんとか、うふんとか、何もしらずに横で聞いていたら間違いなく誤解されそうなやたら艶っぽい声を出し続ける玉藻を尻目に、少年は10分ほど片足を念いりにもみほぐしつづけた。


 続いて、もう片方の足もお湯の中から取り出してこちらも念入りにもみほぐす。


 そうして5分ほどたったころ・・


「大丈夫ですか、痛くないですか?我慢しないですぐ言ってくださいね」


「・・」


「あれ?」


「・・」


「お休みですね・・」


 少年が顔をあげると、ソファに沈みきって深い眠りの世界に誘われた玉藻の姿があった。


 その罪のない寝顔におもわずくすっと笑みを浮かべると、そっとその体に広げたタオルケットをかけて、音をたてないように洗面器などの後片付けをする。


 そして、玉藻の寝室の蒲団をすばやくなおすと、もどってきて玉藻の体をお姫様だっこで抱き上げて寝室に運ぶ。


 なるべく静かに、そして、壊れ物を扱うように慎重に。


 蒲団の上にそっと玉藻の体を横たえて、唐草模様の大蒲団をかけてやり、しばらく玉藻の寝顔をみつめる。


 額に手をあててみるが、熱もでていない。


 たぶん、もう大丈夫だろうと思い立ち上がる。


「おやすみなさい」


 優しい笑顔でそうつぶやくと、少年は寝室を出てそっとその襖を閉めるのだった。






 いい夢をみた・・


 目が覚めるとゴミだらけだった部屋がきちんと片づけられていて、風呂もわいていて、ご飯も作ってもらって、デザートも最高で、おまけに足つぼマッサージまでしてもらう夢をみた。


『そんな都合のいい夢があるわけないでしょ!!』


 きっと自分の親友ならこういってあきれるだろう。


 そう思ったが、ほんとにいい夢だった。


 なによりも自分の側にいてくれた少年がよかった。


 ずっとにこにこ微笑んでいてくれて、ずっと優しい言葉をかけてくれて、ずっと自分のことを気にかけてくれていた。


 そんな人いるわけないのに・・


 そう思ったら不覚にもこみあげてきて、ぼろぼろと涙がこぼれてきた。


 病気になると、気が弱くなってだめになると誰かが言っていたのを思い出し、あ〜こういうことなんだなあと、妙に納得してしまう玉藻。


 でも、なんだか涙は止まらなくて、顔を洗おうと思った玉藻はよろよろと蒲団から抜け出して立ち上がると、洗面所に向かう。


 寝室以外はごみ屋敷なので、そこを通っていくのは憂鬱だなあと思いながらもよろよろと進んでいく。

なんか金木製の香りがする気がする。


 ってか、涙で周りがよくみえないけど、なんか部屋がすっきりしているような。


 よろよろと洗面所に向かう途中、通り道のキッチンの食卓の上に目がいった。


「あれ?」


 なにやら一枚の紙が。


 涙をこすりながら、紙を取ってみるときれいな字でなにか書いてあるので読んでみる。


『霊蔵庫の中に稲荷寿司を作って入れておきました。朝食代わりに食べてください。あとお鍋にねぎと油揚げの味噌汁を作っておいてあります。保温の札を取ってもらえば熱い状態で食べることができますので稲荷寿司と一緒に召し上がってください』


 書いてある文面を何度も見直す。


 涙をこすって見直す。


 ほほをつねって、頭をごんごん叩いてさらに見直す。


「ま、まさか・・」


 慌てて炊事場横の火聖霊コンロをみると保温の札が貼られた鍋が。


 そして霊蔵庫の扉を開くと、中に白い皿の上においしそうな稲荷寿司が並べられてラップされているのが見えた。


 それをそっと取り出してラップをはずして、おそるおそる稲荷寿司をひとつ口の中に放り込む。


 油揚げは玉藻の大好物なので、おいしいのはいうまでもないことだが、中の寿司がどうやら焼き鮭のフレークを混ぜ込んだものであるらしく、とてつもなくうまい稲荷寿司になっていた。


「お、おいしい・・すんごいおいしいよ・・」


 夢じゃなかった・・


 あれは夢じゃなかったのだ。


 涙を拭いてまわりを見渡すと、たしかにきれいに片づけられた状態。


 ごみ屋敷ではなくなっていた。


 なんだか嬉しいような寂しいような。


 いや、すごく胸が苦しい。


 あの少年のことを考えると胸が苦しくて仕方ない。


 なんだこれ。


 とりあえず、もう一個稲荷寿司を口に放り込み、あの少年のことを思い浮かべるのだった。


 ありがとうね・・見知らぬ少年・・


 え・・


 見知らぬ?


 あれ・・そういえば・・


「け・・結局、誰だったのよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」





※ここより掲載しているのは本編のメインヒロインである霊狐族の女性 玉藻を主人公とした番外編で、本編の第1話から2年後のお話となります。

特に読み飛ばしてもらっても作品を読んで頂く上で支障は全くございません。

あくまでも『おまけ』ということで一つよろしくお願いいたします。



おまけ劇場



【恋する狐の華麗なる日常】



その6



 私の目の前で無邪気に笑い続けているこの小さな命達との出会い。


 それは今から1年前のこと、私と旦那様が新婚旅行から帰ってきた翌日のことだった。


 私達が住む城砦都市『嶺斬泊』にとんでもないある大災害が発生したの。


 この城砦都市『嶺斬泊』が建設されてから数百年という月日が流れてきたわけだけど、その歴史の中で一度として起こったことがない、いや、普通なら起る筈がない事態が起こってしまったのよ。


 勿論自然発生なんかじゃない、この城砦都市『嶺斬泊』を中心とする一帯は『異界の力』がほとんどなくて『害獣』がほとんど寄りつくことのない安全な場所。


 そんな平和な場所に未曾有の大災害をもたらしたのは、あるテロ集団の自爆行為。


 詳しい内容については中央庁も発表はしなかったんだけど、よりにもよって奴らはこの城砦都市『嶺斬泊』の繁華街のど真ん中で、太古に失われたはずのとんでもない『古代遺物(アーティファクト)』を発動させて巨大地震を発生させたの。


 旅行から帰って来たばかりで疲れきっていた私と旦那様は、ぐっすりと眠りこんでいたんだけど、明け方近くにまるで下から突き上げるような揺れを感じて飛び起きたわ。


 ほんの少しの間の縦揺れ、でもそれはすぐに大きな横揺れに変化してしばらくの間続いていたわ。


 私と旦那様はすぐさま外に飛び出せるような状態で事態を見守っていたんだけど、幸いにも家が壊れるほどでもなくて、食器棚の中のお皿が数枚落ちて割れるだけですんだ。


 あとからわかったんだけど、私と旦那様の住んでいるお家がある場所は、元々小高い丘の中腹に建てられた場所でね、昔から生えている森林をなるべく伐採しないようにうまく自然を利用して作りだされたところだったらしくて、特に地盤がしっかりしている場所だったってことと、震源地である繁華街からかなり離れていたので被害がそれほどでずに済んだらしいのよ。


 おかげでお家は無事だし周囲の被害もほとんどなかったんだけど、そこから少し離れると様相は一変、お家から離れれば離れるほどひどい有様が広がっていっていたわ。


 舗装された道路はめちゃくちゃに寸断されて、高速道路は軒並み崩れ、震源地近くの建物はすべて倒壊するか、あるいは倒壊しかかっていたわ。


 おまけにその倒壊した建物のあちこちから火災が発生してあっというまに火の海に。


 建物から慌てて逃げ出す『人』々、その建物に取り残されてしまった『人』々、助けようとする『人』々。


 ほんとに地獄絵図・・ごめん、うまく説明できないけど、本当にひどい有様だった。


 あ~・・ほんとにごめんなさい、ちょっと待ってね、未だにその時のことを思い出すと・・ダメね、忘れられないものねえ、あのとき見たことは多分一生忘れないわ、ああいうとき『人』ってほんと無力よね。


 ともかく、無事だった私と旦那様は、急いでお義父様やお義母様がいるであろう中央庁庁舎に向かったんだけど、なんせ道路はあちこち寸断されているから念動自動車は使えない、中央庁舎のある繁華街の中心地『サードテンプル』に近づけば近づくほど火の勢いが強くなっている、通ろうとする道通ろうとする道の両側に立つ建物のほとんどがすでに倒れているか、今にも倒れようとしているかみたいな状態で危なくて仕方ない・・みたいな状態だらけで思うように近づけなくてね、通常なら念動自動車でものの45分ほどでつく距離を、旦那様のサイドカーで半日近くかかってようやくたどり着いた。


 中央庁庁舎に辿りついてみると、そこはさながら激戦地の野戦病院のような状態になっていて地震の難を逃れた『人』達でごった返していたわ。


 私と旦那様は人の海の中をなんとかかきわけて庁舎の中に入り、お義父様達の姿を探した。


 不幸中の幸いというべきか、私達はお義父様達と無事合流することができた。


 そこにはすでに中央庁庁舎まで避難して来ていた他の宿難家の『人』達や、旦那様を頼って避難してきていた旦那様の大事な知人友人のみなさんの姿もあって安堵したのだけど、それでめでたしめでたしというわけには勿論いかない。


 中央庁の特別地震対策臨時本部長になっていたお義母様の要請で、私達は中央庁に駐留していてそのときすぐに動ける状態だった中央庁直轄部隊の方々と一緒に救助活動を手伝うことになった。


 私も旦那様も『回復術』は結構使えるし、特に旦那様はこういう危機的状況に対する技術技能知識を半端なくお持ちだしね。


 私と旦那様は、旦那様のご友人のみなさんご一同も巻き込んですぐさま出撃したわ。


 その結果・・についてはあまり言いたくないのだけどね。


 助けられる命もあれば、助けられない命もあったのよ・・だから・・どっちが多かったかなんて聞かないでね。


 言えることは、私達はそのときできる自分の全力を尽したと思う。


 救助活動を手伝ったのは5日、それ以降の半月は都市の復旧活動を手伝ったわ。


 ともかく・・私の人生の中でも最大級にひどい半月だった。


 半月後、身も心もボロボロ、すぐ側で私を支えてくれている旦那様の温もりだけがどうにか私の精神をつなぎとめている状態で、なんとかかんとか復旧活動を手伝っていた私だったけど、ようやくその役目の終わりをお義母様とお義父様から告げられ、ぷつりと緊張の糸が切れるのを感じながら愛する旦那様と一緒に久し振りの家路につこうとしていた私。


 そんな私に、とんでもない急報が飛び込んできた。


 私と旦那様の共通の知己だった女性が急逝したというのだ。


 確かに、この半月の間に私達はたくさんの知人友人を失ったし、知人友人本人じゃなくてもそのご家族がなくなったり、大学や高校、バイト先の関係者の方がなくなったりとそれはもう連日のようにその手の連絡は聞いてきたわ。


 だけどね、今回ばかりは私も旦那様もすぐにはその知らせが信じられなかった。


 なぜなら、その女性は最初の5日間の救助活動から、つい昨日までの復旧活動を一緒に行っていたから。


 温和で優しくて、いつも周囲に気配りをしていて地味だけどほんとに頼りになる魔族の女性、その彼女がいきなりこの世を去ってしまっただなんて、私には到底信じられなかった。


 何かの事故か事件に巻き込まれ、そのことが原因だったのではと思ったんだけど・・なんと死因は過労による衰弱死だった。


 確かに、私達が半月にわたって行ってきた仕事は激務だったわ、でも・・どうしても私には・・ううん、旦那様だってその理由に納得できずにいたわ。


 なぜって、確かに現在彼女は都市在住の『療術師』として生活していたけれど、数年前までは城砦都市『アルカディア』の傭兵旅団に所属して今回に勝るとも劣らない激務の中で生活していたはずなの、なのにそれがどうしてこんなことに・・


 後日、私も旦那様も納得できないまま彼女の葬儀に参列したんだけど、そこで、私達はその理由を知ることになったわ。


 亡くなった彼女は・・地震があったその前の日の晩に、双子の女の子を出産していたの。


 旦那様の幼馴染で彼女の義理の妹から話を聞いてみると、相当な難産で彼女自身の命も一時は相当危なかったらしい、でも、そのときはなんとか親子共に無事な体で出産を終えたらしいんだけど・・ところがその朝にあの大地震テロが発生し、彼女は倒壊しそうになっていた病院から生まれたばかりの娘2人を連れて命からがら脱出、その後、連れ出した双子の女の子達を義理の妹に預けて自分自身は救助活動を行うために中央庁に駆け付けてくれたらしいのよ。


 出産で体が弱りきっているところだというのに、大地震から自身の子供達を守り抜き、しかも体が回復しきっていないにも関わらず中央庁にやってきて救助活動に従事してくれた彼女。


 子供達と一緒に安全なところで弱りきった身体を回復させたらよかったのに、いったい何が彼女をそこまで突き動かしたのか、いまとなっては謎なんだけど、ともかく、彼女はかわいい2人の子供達を残して逝ってしまった。


 しかも、仰天することに、この子達の父親について彼女は妹に一切打ち明けなかったというのよ。


 シングルマザーになって1人で育てるつもりだったって・・本当にいったい何が彼女にあったのか、自分なりに相当に調べてみたんだけど今だに私はその真の理由を知りえずにいる。


 ごめん、話それちゃったわね、話を元に戻して双子の赤ちゃん達のことなんだけど、当初、その義理の妹の子が育てるって言っていたの。


 その義理の妹の女の子ってほんと義理堅くて熱血漢で亡くなった彼女同様に本当に優しい子でね。


 私のことを『姐さん、姐さん』って慕ってくれて・・本当にいい子なんだけど・・でも、そのとき、その子はまだ高校3年生。


 元々亡くなった彼女と一緒に傭兵稼業やっていた子だから、すぐにも自立してなんとか生活をやっていけないことはなかったんだろうけど、いきなり2人の子供の母親になるのはいくらなんでもちょっと厳しいわよね。


 まあ、結論はもう出ているから言わなくてもわかるわよね。


 そう、この双子の赤ちゃん達は、我が家で引き取ることになったのよ。


 え、赤ん坊はイヌやネコじゃないって?


 わかってるわよ、そんなことは!!


 私だって随分考えたの!! 自分で産んだわけでもないこの小さな命を本当に責任もって大きくなるまで育て上げることができるのかどうかって、そりゃもう、考えたわよ!!


 しかも、いきなり2人の子供の母親になるわけでしょ、いくら私でもそれくらいは考えるっての!! 


 でもね・・この子達と初めて出会ったとき、私の気配に気がついて眼を覚ましたこの子達が、一生懸命私の顔を見て泣きだしたとき、そのときにあったことがどうしても忘れられなかったのよ。


 あの日、葬儀に出席するためにやってきた私達は、彼女の棺の前で彼女の忘れ形見である双子の赤ちゃん達と対面することになったんだけど、彼女の身寄りって義理の妹の女の子しかいなくてね、彼女は他にいろいろとしなくちゃいけないことがあるじゃない、出席してくださる『人』に挨拶したりだとか、お葬式の進行の仕方について葬儀会社の『人』達に説明してもらったりだとか。


 それでこのままだと赤ちゃんの世話をする『人』がいないってなっちゃったものだから、私達夫婦が葬儀が終わるまでの間みることになったのよ。


 最初はすやすやおとなしく眠っていた赤ちゃん達だったんだけど、私が覗き込んだ瞬間にいきなりばちっと眼をあけちゃってね、よりにもよって2人同時に泣きだしちゃったのよね。


 2人の赤ちゃんをどうしたらいいかわからないで、ひたすらおどおどしていた私。


 そのうちに旦那様が近づいてきて赤ちゃんをそっと抱きあげてしばらくその様子を見てくれていたんだけど、やがてその小さな体を『はい』って私のほうに差し出してきたの。


 赤ちゃんなんて抱いたことないし落としたらどうしようって、めちゃくちゃ躊躇していたんだけど、あんまりにも旦那様が強く勧めるものだから、おっかなびっくりな調子で受け取って思いきって抱いてみたわ、だけど・・もうふにゃふにゃなの。


 ちょっと力込めただけで抱きつぶしてしまいそうなくらい、赤ちゃんの身体ってふにゃふにゃなのよ。


 もう今から思うと抱き方が全然なっていない下手くその極みみたいな抱き方で、どうしようどうすればいいんだろうって半泣きになりながら旦那様のほうに視線を走らせようとした私だったんだけど、ところが、わんわん泣いていた赤ちゃんがぴたりと泣きやんだのよ、しかも私の腕の中でにこにこと嬉しそうに笑っているの。


『お母さんに気がついてほしくて、泣いていたんですよ。赤ちゃんは、お母さんを呼ぶために泣くんです。玉藻さんを亡くなった彼女と・・お母さんと勘違いしたんですね』


 そう言ってもう一人の赤ちゃんを抱き上げた旦那様はやけに手慣れた様子でこちらに連れてくると、私の腕を器用に広げさせてもう1人もすぽっと入れ込んだ。


 私は思いもかけず2人の赤ちゃんを抱きとめる形になってしまって大いに慌てたんだけど、それでも2人の赤ちゃんは完全に泣きやんでしばらくにこにこと私の顔を見て笑っていたわ。


 なんとも言えない不思議な気分だった。


 私が抱きしめているのに、なんだか私自身が何かとても温かい何かに抱きしめられている感じ。


 赤ちゃん独特のミルクの匂いが漂ってきて、それがなんだかとっても心が落ちつくっていうか、ひどく大事なもののような気がしたのよ。


 そうして私がそんなことを思い感じながらいつまでも見つめ続けていると、やがて赤ちゃん達は再び目をつぶってすやすやと夢の世界へと旅立っていった。


 もうそこでベビーベッドに戻しても大丈夫だったんだけどね、なんだかずっと側にいてあげたくなっちゃって、結局お葬式が始まる直前までずっと2人を抱いていたわ。


 その後、お葬式に出席して私達夫婦は家に帰ったんだけど、家に帰った後も私はず~っと赤ちゃん達のことが気になっていて、今までの疲れがどっと出て眠りたいはずなんだけど、なんだかやっぱり気になって気になって眠れなくて、ちょっと眠っては目が覚めて赤ちゃんのことを考え、だけど、疲れがでてきてまた眠る、でもまた目が覚めて残してきた赤ちゃん達のことを考える・・ってことを繰り返した。


 中央庁だけじゃなくて、都市の『人』達が一丸となってこの危機を乗り越えようとがんばったおかげで、半月たったときにはある程度交通網や情報網、勿論水道や念気といった主要なライフラインは驚異的なスピードで復旧していてね、被害にあった都市の住民の方達は元通りではないけど普段の日常生活に徐々に戻っていこうとしていた。


 でも私は・・大学とかも機能を回復し始めていて、学校に行かなきゃいけなくなっていたんだけど・・


 そう、あの2人の赤ちゃんのことがどうしても頭から離れなかったの。


 一週間かな・・そうね、葬儀から一週間、私は考えたわ。


 まだ私は学生の身であるわけだし、パートナーである頼りになる旦那様も安定した収入を持っている社会人にすでになっているといっても、私と同じ学生という一面ももっているのよね。


 そんな状態で2人も赤ちゃん引き取ってやっていけるのか、そもそも私みたいな壊れた家庭で育った者に子供を育てるなんてできるのか。


 でも、あの赤ちゃん達は母親をなくした状態のまま。


 亡くなった彼女の義理の妹がついているとはいえ、本当に大丈夫なんだろうか、泣いていたりしないだろうか、お腹をすかせていないだろうか、病気になってはいないだろうか。


 でも、旦那様にどう説明すればいいんだろう、自分の子でもない子供達を引き取って育てたいなんて、そんなこと簡単に言ってしまっていいのだろうか。


 優しい旦那様のことだろうから、私がそう言えばきっと賛成してくださるだろうけど、それは物凄く負担をかけることになってしまう。


 旦那様の優しさに甘えようという気持ち、旦那様の優しさにつけこむような真似はダメだっていう気持ち、赤ちゃんを引き取りたいという気持ち、でも、自分みたいな『人』に本当にそれができるのか育てられるのかという気持ち。


 悩んだわ、恐らく私の『人』生で最大に悩んだ。


 あ~でもない、こ~でもないって悩み続けた。


 ところがよ。


 葬儀から一週間後、大学にも行かずに台所のテーブルの前に座って、自分でも思いっきり暗い表情しているってわかる顔でどよ~んと赤ちゃん達のことを考えていたんだけど、朝の畑仕事から帰ってきたと思われる旦那様がスタスタとお家の中に入ってきたわ。


 いつもならおかえりなさ~いってとんでいって抱きしめてキスの一つもするんだけど、このときの私は赤ちゃん達のことで頭がいっぱいで全然そちらに注意を向けようとしようともしなかった、それどころかテーブルに肘をついて顔を伏せたまま無反応のまま。


 旦那様に怒られてもしょうがない状態だったんだけど、お家に帰ってきた旦那様が、そんな私に対してしたことは怒ることじゃなかったわ。


 テーブルの前に俯いてぼ~~っとしている私の顔をぐいっと自分の両手で挟みこんで無理矢理あげさせた旦那様は、呆気に取られている私の両腕でわっかを作り、『何事なの!?』ってきょろきょろし始めた私に構わずその腕の中に何かをすっぽりと入れ込んだのよ。


 最初腕の中にいったい何を入れられたのかわからなくてびっくりして落としそうになってしまったんだけど、自分の腕の中にあるものを見て更にびっくりして思わず硬直しちゃったわ。


 そこには口をむにゅむにゅ動かしながら安らかな寝息を立てて眠っている2人の赤ちゃん。


『養子縁組の手続きが今日完了したので、引き取ってきました。その子達は今日から我が家の子供ですので、よろしくお願いしますね。玉藻さんには申し訳ないですが、僕の一存で勝手に決めさせていただきました』


 私のほうにわざと背を向けたまま、持って帰ってきた赤ちゃん達の荷物を忙しく広げて片づけ始めた旦那様は、物凄く淡々とした口調で私にそう断言した。


 そう、そうなのよ!!


 旦那様はとっくの昔に私の心情なんてお見通しだったのよ!!


 しかも、私が悩んでいる間に、とっとと赤ちゃん達を引き取る準備を進めてくれていたの。


 で、挙句の果てに『自分の勝手な一存で決めました』みたいな態度まで取って、本当だったら私が引き取りたいって言いだすはずだったのに、その責任まで引き取ってくれたの!!


 言いだしっぺは自分だって、だから私には責任はないって!!


 無茶苦茶嬉しかったけど・・ちょっとまった~~って感じよ!!


 物凄い嬉しさと、激しい怒りでかなり私の内面は複雑怪奇な状態だったけど、とりあえず腕の中に赤ちゃんがいる状態で喧嘩することはできないでしょ。


 このあと、赤ちゃんを静かな部屋に寝かしつけてから旦那様とは大分やりあったのよね、勿論、お互いを憎んでのことじゃなくて、お互いのことを気遣うゆえになんだけど、もうかなり話し合った。


 赤ちゃんを引き取るにあたってのこと、引き取ってからこれからの私達の生活のこと、そして、まだ先になるだろうけど成長した赤ちゃん達をどうするかについてまで。


 こういうときほんとに私に対する旦那様の深い深い愛情を感じるんだけど、だからといってこれに甘えきってしまっては私の『女』がすたるのよ、私にも宿難(すくな) 連夜(れんや)の『妻』としての意地とプライドがあるのよ!!


 当初、赤ちゃんの世話のほとんどすべてをするために、高校を中退するといいはった旦那様。


 確かに、赤ちゃんの世話は旦那様のほうが慣れている、ミルクあげるのも、おむつかえるのも、寝かしつけるのも、いったいどこで身に着けたのかわからないけど、恐ろしく手慣れているのよ。


 でもね、どうあってもここは私が引き受けたかった、せめて赤ちゃんの間くらいはいつもすぐ側にいてあげたかったのよ。


 なので必死に説得したわ。


 私は旦那様ほど育児になれていない、というかほぼ完全に初心者なんだけど、それでもきちんとやってみせるという覚悟がある。


 それに幸いなことに、私大学を1年休学してもちゃんと4年で卒業できるだけの単位を確保しているのよね・・まあ、実は旦那様がらみのある事件で1年分の単位を丸儲けしたからなんだけど・・そんなこんなで少なくとも1年は私は自由がきく、1年たてば、旦那様は高校を卒業されて今よりも自由がきくようになるし、そうすれば大学に復学することだってできるからって。


 旦那様は相当悩んだみたいだったけど、結局最後は私の意思を尊重してくれたわ。


 そして、1年・・


 あっという間だった。


 育児はそれはもう大変だったけど、大変さの同じくらい・・ううん、倍以上楽しかった。


 真夜中の夜泣きで飛び起きて、寝かしつけるために抱っこして近所を散歩したり、お風呂いれている最中におしっこかけられたり、ミルクあげたあとゲップさせるのを忘れて、気がついたらもどしちゃってて、慌てふためいて病院にいったり、それはもう数え上げたらキリがないんだけど・・


 横に転がることができるようになって、ハイハイできるようになって、お座りできるようになって、泣いて、笑って、眠って。


 一日一日愛おしさが積み上げられていくのよ。


 もうこのままずっと最後まで私主婦でいいんじゃないかって思っていたんだけど、今年の3月、旦那様が高校を卒業して本格的に育児ができるようになったことで、旦那様が私に大学に復学して卒業してきてくださいって言ったわ。


 え~と・・泣きわめいて抵抗しました。


 この子達と離れるのはいや~~って。


 しかし、旦那様と、お義父様と、お義母様の宿難家最強連合の前にあえなく散った私。


 あと1年なんだからがんばって勉強してきなさいって、その間、お義父様とお義母様が揃って『自分達が協力するから』って。


 昼間は畑仕事に行くのに赤ちゃん達も連れて行って、旦那様とお義父様が面倒をみて、夜は宿難家に連れて帰って宿難一族一同で面倒をみるって。


 でもでもでも、それじゃあ、私全然会えないジャン!! それはいくらなんでも寂しすぎるっす!! と、すがりついて泣きつき、なんとか土日だけは赤ちゃん達を我が家に帰してもらえるようにしたのよ。


 平日は赤ちゃん達がいない分、静かで勉強に専念できるはずだから学業に力を入れなさいとは言われちゃったんだけどね。


 まあ、そういうわけで本来なら今日も赤ちゃん達は宿難本家にいるはずだったんだけど、思いもかけずお義父様達が連れてきてくださったおかげで再会することができたってわけ。


 つい数日前に会ったばかりだけど、それでも数日離れているだけでも寂しかったんだけど、この子達はどう思っているのかしらね。


 ・・まだわからないかな。


 そんな私の気持ちも知らず、2人の赤ちゃん達は無邪気に私を見て笑い続けている。


 パールとサリー。


 1年前のあの日から、私の娘になった子供達。


 パールもサリーも髪はまだ完全に生えそろってなくて結構薄いけれどその色は美しい金髪で、その肌はきめの細かい白、目の色は今日の大空のように澄み切った薄い蒼い色。


 双子だけあって本当にそっくりなんだけど、大きな外見的特徴がそれぞれにあるため間違えることはまずない。


 額に大きな3つめの瞳があるのがパール、頭から2本の小さな角が出ているのがサリーだ。


 2人ともほんとにかわいくて愛おしい私の大事な宝物。


 私が右手と左手の人差し指をそれぞれの目の前に差し出してみせると、その小さな手を一生懸命に伸ばして握ってくる。


 パールは握った私の指を自分の口のほうにもっていってしゃぶりはじめているし、サリーは握った私の指をぶんぶん振り回してきゃっきゃっと笑いながら喜んでいる。


 ああもう、ほんとになんともいえないわ。


 かわいいわ愛おしいわでたまらないんだけど、同時にこの子達の複雑で数奇な境遇を思うとだんだん切なくもなってきて、私は自分の顔をベビーカーの中に突っ込んで2人の柔らかいほっぺに自分のほっぺをくっつける。


 赤ちゃん特有のミルクの匂いが2人から漂ってきて、私は何も言えなくなって2人をぎゅっと・・でも絶対に乱暴にならないように抱きしめる。


「あらあら、やっぱり玉藻ママには敵わないわねえ。パールもサリーもほんとに嬉しそう」


「そうですね、僕らにも懐いてはくれているけど、ここまで嬉しそうにはしませんねえ」


 私の背後でお義母様とお義父様が明らかに苦笑していると思われる口調で話している声が聞こえる。


 私はパールとサリーの小さな体をそっと両手で一人ずつ抱き抱えると、ベビーカーから出して2人のほうに振り返る。


 すると、すぐにそれに気がついた旦那様が私のほうに駆け寄ってきて、サリーの方を受け取って危なげない様子で抱いてくれる。


 私はそんな旦那様にちょっとだけ視線を向けて無言でありがとうの気持ちを伝えると、旦那様はいつもの優しい笑顔で頷いてみせ、そして、私と旦那様は改めて腕の中の我が子達に視線を向けたわ。


 あ~、やっぱりかわいい、かわいすぎる。


 うちの子最高や~~~!!


 ってことで、今日はこれにてお開き。


 またね!!

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