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~第18話 告白~

 特別な出会いではなかったと思う。


 中学校をギリギリではあったが無事卒業し、高校の入学試験もかろうじて合格。


 入学式の間までの春休み。


 たまたま暇だったナイトハルト。


 たまたま街で一番危険と言われているスラム街をぶらぶらしていたところ。


 たまたまチンピラに裏道に連れ込まれて行く若い女をみつけた。


 たまたまむしゃくしゃしていて怒りのぶつけどころを探していたナイトハルト。


 たまたまその怒りをそのチンピラにぶつけてやろうと思い立った。


 チンピラ達は当然のように襲い掛かってきたが、中学生とは言え、そのときすでに師範代並みの実力を持っていたナイトハルトに勝てるわけもなく、一方的に半殺しにされてあっという間にぼろ雑巾になってしまった。


 しかし、ぼろ雑巾のようになっていたのはチンピラばかりではない。


 連れ込まれていた若い女の衣服はすでにひどい状態になっており、流石にこのままにして去ることもできず、自分が着ていた作業着のようなボタンシャツとコートを貸してやった。


 そして、そのまま帰るように諭して自分も帰ろうとしたのだが、女はまだ帰れないという。


 高校生の女の子がこの辺りのどこかに連れ込まれている可能性があり、それを助けたいというのだ。


 自分もたった今そうなりかけていたくせに何を言ってるのかとナイトハルトは呆れ果てたが、女は全然懲りた様子もなく、危なっかしい調子で裏道から出ると、またふらふらと探しに行こうとするではないか。


 放って置けばものの数歩も歩かないうちにまた連れ込まれてしまうのは目に見えていた。


 このあとかなり厄介なことに展開していきそうな気が物凄くしたがこのまま放って置けるほどナイトハルトは冷たく出来る男ではなかった。


 しょうがなくナイトハルトはこの奇特な女の手伝いをすることにした。


 そして、そのナイトハルトの予想通り相当厄介なことになってしまったのだが、なんとか無事目的の女子高生を救い出すことに成功し、その女と別れたのであった。


 その後、ナイトハルトとしては、もう二度と会わないだろうと思って入学式当日まですっかり記憶から忘れ去ってしまっていた。


 だが、体育館であった入学式から自分の教室に戻ってきたナイトハルトは、そこであの女に再会することになる。


 なんと女は自分のHRのクラス担任の教師だった。


 驚愕して固まるナイトハルトだったが、あの女は自分に気がつかなかったらしく、あくまでも一生徒としてナイトハルトを扱ってきたので、まあそれならそれでいいかと、ナイトハルトも赤の他人の振りを続けもう一度忘れることにする。


 だが、どっこい女は全く忘れていなかった。


 完全に演技だったのだ。


 それがはっきりしたのは、入学式から二日後。


 理由もわからず生徒指導室に呼び出されたナイトハルトは、そこであの女教師から、現在この高校であのスラム街に行こうとする生徒達があとをたたない状態になっていることを教えられ、それをなんとかするために、力を貸してほしいと頼まれてしまう。


 当然ナイトハルトは断った。


 自分から火の中に飛び込もうとするものを助ける義理などないと思ったからだ。


 女はひどく落胆したが、それでも一人で行くという決心は覆らなかった。


 勝手にしろと思って席をたったナイトハルトだったが、何せ義侠心の塊のような男である。


 気になって仕方なくなり、結局女教師を追いかけてスラム街へと向かってしまった。


 そして、悲しいくらい予想通りに再び厄介ごとに巻き込まれてしまうナイトハルト。


 生徒達を助けようとしていた女教師や、被害者になりかけていた女子生徒達は勿論、その街の未成年売春を行っていた犯罪組織や、それと関わっていた御稜高校の上級生不良グループ、そしてそれを潰滅させるために追いかけていた都市治安警察も加わった一大騒動に発展し、結局、夏休み直前までナイトハルトは振り回されることになってしまった。


 そのおかげで中学時代からすでに付き合って恋人同士にまでなっていた姫子との時間は完全になくなってしまい、自然と疎遠に。


 その逆に、女教師との仲は急速に深くなっていく。


 ナイトハルトから見たティターニア・アルフヘイムという女教師の第一印象は最悪だった。


 それは知り合ってから半年以上たってもほとんど改善されることはなかった。


 学校での温和で穏やかでおとなしい性格とは異なり、一歩外に出ると、口調こそ柔らかいものの、無鉄砲な上に無茶で無謀、己の正義に恐ろしくまっすぐで曲げることを知らず、人の話を聞かない頑固で石頭で融通の利かない性格。


 しかもお節介でおっちょこちょいで、涙もろくて騙され易くていったいいくつ欠点があるんだというくらいめんどくさい女というのが彼から見たティターニア・アルフヘイムだった。


 しかし、だからだろうか、ナイトハルトはちょっとでも目を離せばすぐにとんでもない厄介事に巻き込まれるこの女を見ているうちに、次第に目が離せなくなってしまっていた。


 こんな想いは彼の恋人姫子には抱いたことは一度たりともない。


 彼の恋人龍乃宮 姫子という少女は、成績優秀、スポーツ万能、武芸百般、容姿端麗、炊事洗濯掃除もそこそこでき、実家は城塞都市『嶺斬泊』の中でも有数な名家である龍族の王の一族であるにも関わらず、驕ったところは微塵もなく、思慮深く周囲のことを考える優しい性格の持ち主である。


 まさに一部の隙もない完璧超人にして、完璧な恋人、それが龍乃宮 姫子だった。


 今にして思えば、ナイトハルトは姫子に対して物凄い劣等感を感じていたのだとわかる。


 姫子と過ごした中学生活三年間の想い出は決して悪いものではない。


 あの頃の自分の横には必ず姫子が一緒にいて、同じ速度で歩いていっていたとわかっていて、ちょっと横を見て側にいることを確認するだけでよかった。


 しかし、いつの頃からか、姫子はナイトハルトを置いて前へ前へと進んで行き、それに気がついたときにははるか遠くへと行ってしまっていた。


 恐らくもう自分が追い付くことはできないほど遠くに。


 そんなときだ。


 本当なら寂寥感でいっぱいのはずの自分がいてもおかしくないのに、全く寂しさを感じていない自分に気がついたのは。


 ナイトハルトの横には、いつしかティターニアがいた。


 いっつもいっつも自分に厄介事ばかり持って来て、勝手に自滅して、助けを求めるくせに、全く反省せずにまた次の厄介事に飛び込んでいく、学習能力ゼロの女教師。


 一日でも一刻でも一秒でも早く、縁を切りたいと思っていたのに、気がついたらもう手遅れになっていた。


 最初に求めてきたのは、ティターニアだった。


 そのときに、ナイトハルトはきっぱり断ることができたはずだった。


 おまえみたいな厄介な女と付き合っていたら命がいくつあっても足りないと。


 でも、出来なかった。


 どうしようもないくらいダメ人間の女教師を、どうしようもないくらい好きな自分に気がついてしまったから。


 姫子への罪悪感はもちろんあった。


 しかし、それ以上に彼女が好きになってしまったのだ。


 そして、高校一年生の夏休みの初日、二人は一線を越え、それ以来学校にも実家にも二人はその関係を隠して付き合い続けた。


 だが、その蜜月もすぐに終わりを告げる。


 夏休みも終わりに近づいたとき、ナイトハルトの身体のあちこちに得体の知れないこぶが出来て、ナイトハルトの体に変調が起き始めたのだ。


 最初は気にしなかったナイトハルトだったが、こぶは日に日に大きくなり、無視できないほどに急速に成長した。


 流石に不安になったナイトハルトは病院に駆け込んだが、どこの病院に行っても原因不明といわれてしまい、どの医者からも匙を投げられてしまった。


 最後の望みをかけて都市中央病院に行ったナイトハルトは、そこで最古参の皮膚科医から衝撃の事実を告げられる。


 自分の病気は、五百年前に消滅したはずの幻の病、人面瘤かもしれないと。


 そして、その恐るべき症状と、特効薬がない事実と、そしてもし本当に自分が人面瘤にかかっていた場合、あと長くて1年、早ければ半年で命がない事実を告げられる。


 そのとき医者は、他に似たような症状の病を見たことがない、恐らく間違いないと言い切り、それがナイトハルトに様々な決断を強いる結果となってしまう。


 まず、ナイトハルトはティターニアに正直に病気のことを話、もうこれ以上自分と一緒にいないで、新しい人と幸せになってくれと別れを切り出した。


 当然のようにティターニアは猛烈に抵抗したが、恋人を泣かせたまま死んで行きたくないというナイトハルトの一言に、ついに折れて別れを承諾した。


 次に、ずっと疎遠になっていた姫子のところにも行って、正式に別れ話を切り出した。


 半年近くも放っておいた自分が今更恋人面する資格などないとわかっていたが、一応、ケジメはつけるべきだと思ったからだ。


 しかし、理由については話すことができなかった。


 高潔な精神の持ち主である姫子がもしこの病気のことを知ったらどうするだろうか。


 うぬぼれかもしれないが最後まで一緒にいるなどと言われて、万一本当に実行されたら自分は死んでも死にきれない。


 説明とも言えない説明の果てに、無理矢理一方的に別れを告げることしかできない自分の情けなさと己の卑怯な態度に絶望したが、どのみち死んで行く自分である。


 非難も恨みも全部墓の中に持って行けばいいと無理矢理自分自身を納得させた。


 そして、最後に父親であり一族の現総領であるベルンハルトの元に赴き、弟ジークハルトに白虎族総領の座を譲る意向であることを告げた。


 父親は最後まで何も聞かなかったが、自分の意思が固いことだけはわかってくれたようで、とりあえず考慮しておくという言葉だけを返してきた。


 しかし、実際に自分がいなくなればきっと父親は自分の遺言通りにしてくれるだろうとわかっていたので、父親の言葉に満足し父の元をあとにした。


 あとは、死ぬまで『害獣』を狩り続けて、戦いの果てに死んでいけばいいと、覚悟を決めていた。


 いま、このときまでは・・



〜〜〜第18話 告白〜〜〜



「そういうわけで、俺は人生を諦めていたのだが・・連夜、おまえのおかげで再び自分の道を歩いていくことができる。ありがとう、親友(とも)よ・・って、何を四つん這いになって泣いているのだ?」


 いつになく晴れやかな笑顔で全てを語りきったナイトハルトが横を見ると、自分の命と人生の恩人である


 親友が、膝を屈し、屋上の冷たいコンクリートの上に両手をついてはらはらと涙を流しているのが見えた。


「聞きたくなかったのに、聞きたくなかったのに〜〜〜!! よりにもよってそんな重大な隠し事を全部ばらしちゃって!! なっちゃんのバカ〜〜〜〜っ!!」


 四つん這いの姿勢で涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔だけナイトハルトのほうに向けて怒り狂う連夜に、心外だし不可解だと言わんばかりの表情を向けるナイトハルト。


「連夜、なんでそんなに怒っているんだ?」


「なんでって、あのね〜〜〜!! 僕の隣の席に誰が座ってると思ってるのさ!? 僕のクラスの担任の先生が誰だと思っているのさ!? これから午後の授業もあるっていうのに、僕はいったいどういう顔をしてこれから二人と接していけばいいっていうのさ〜〜〜〜〜!?」


「いや、普通にしていればいいだろ、別に」


「できるかあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 無責任に言い放つナイトハルトの言葉に、激昂してばんばんとコンクリートの床を拳で殴る連夜。


 そんな連夜の側にナイトハルトはゆっくりと近付くと、連夜の肩をぽんぽんと叩いた。


「まあ、そう言うな、連夜。さっきも言ったが、俺の中ではもう終わったことだ。今更、どの面下げて二人とよりを戻すことができると思う?あの二人にとって俺は最低で最悪な男ってことでいい。頼むからおまえも変に気にしないでくれ」


「・・なんか、なっちゃん、妙にさっぱりした顔してるね」


 完全に据わってしまった目で睨んでくる連夜に、ニヤリと男臭い笑みを見せるナイトハルト。


「おまえに全部話したら、心の中が妙に整理されたような気分でな」


「僕は思いっきりもやもやしてるけどね・・」


「しかし、見事に何もなくなった。ティターニアも、姫子も、そして、白虎の総領としての立場も。だが、残ったものもある・・命もそうだし、これからの人生もそうだ。それにおまえもな」


「僕は今すぐ友達やめたいよ」


 ナイトハルトは、はぁと深い溜息をつく連夜の肩に己の腕を回すと、昔の子供時代にもどったようないたずらっこの表情を浮かべて連夜を見つめた。


「はっはっは、そうはいかんぞ。人面瘤にかかったと思っていた時も、おまえにだけは死出の別れをしなかった俺だ。絶対おまえにだけは、俺の人生の最後まで付き合ってもらうからな」


「何いってるのさ! いつもいつも今回みたいに、助けられるとは限らないし、そんな勝手にあてにされても僕は知らないよ!! だいたい今回のことだって、もっと事前に僕に相談してくれていたらここまで大事になってなかったのに、こんなときだけ親友扱いされても困るよ。次、同じことがあっても絶対助けないからね!!」


 と、ナイトハルトの言い草に連夜が本気で腹を立てていることに気づいたナイトハルトは慌てて連夜の正面に回り込み、その顔を覗き込む。


「わかった、悪かった。あまりにも嬉しくてちょっと悪ノリしてしまったんだ。さっきも言ったが、本当におまえには感謝している。いつもありがとうな。お前が友達でいてくれることが俺にとって人生最大の財産だ。だから、頼む。この通りだ、見捨てないでくれ。お前にまで見捨てられたら、流石の俺もかなり困る」


 と、さっきとはうってかわって真摯な表情で必死に両手を合わせて平謝りに拝み倒すナイトハルトの姿に、流石の連夜もようやく表情を緩めた。


「まあ反省してるみたいだし、今回だけは許してあげるよ」


「すまん、ありがとう。ところで、連夜、そろそろ教えてくれないか」


「へ、何を?」


「病気のことだよ。いったい俺はなんの病気だったんだ?」


「あ〜〜、そのことかぁ」


 ナイトハルトの問いかけに、連夜は非常に困ったような苦笑を浮かべて親友のほうを見た。


「病気になるのかなぁ・・僕としてはアレルギーに近いと思っているけど」


「は? アレルギー?」


「正確な病名については長くて難しくて、流石の僕も覚えきれなかったんだけど、つまり、体の中に予想以上に一気に異界力、つまり魔力とか霊力が流れ込むことによって、普段はちゃんとそういう力を制御している身体の機能が追い付かず、その大量の力を正常に消化したり貯蓄したりすることができなくなってしまうことによって、身体のあちこちにこぶ状にしてためてしまう病気なんだって」


「そうか、だから、霊力低下の薬で俺の身体のこぶは消えたのか。しかし、異界の力が俺の体に大量に流れ込むようなことなどなかったような気がするんだが・・ん? 連夜? やっぱりひょっとするとおまえその理由もわかっているのか?」


 しばらく両手を組み、首を傾げて心当たりを探るナイトハルトだったが、全くその理由に思い当たらず、ふと前を見ると、顔を真っ赤に染めて非常に困った表情で明後日の方向を見つめている親友の姿に気づく。


 その態度から非常にいいにくい内容なのであろうことはわかるが、言ってもらわないとあとあと困るので、ナイトハルトは親友に水を向ける。


 すると、大きく深く溜息をついた親友は恨めしそうにこちらを見て口を開いた。


「もう〜、先に言っておくけど、決してそういう気持ちで調べたわけじゃないからね」


「そういう気持ち? なんだかわからないが、とにかく教えてくれ。俺はいつそんな力を大量に身体の中に取り込んでしまったんだ?」


「この病気ってね・・特定の特殊な種族同士のごく一部の組み合わせのカップルが・・つまり、その・・愛の結晶を作りだす行為というか・・とにかく、そういう行為をすることによってのみ起こりうる病気なんだそうだよ。例えばね、白虎族とエンシェントエルフ族とかね」


「へ?・・・ああああっ!!!」


 連夜の言葉を聞いて、少しの間その意味を考えていたナイトハルトは、その意味するところを正確に把握して叫んでいた。


「そうか!! そういうことか! だから、おまえは俺とティターニアの関係についてわかったのか!! というか、よりによってそういう病気だったとは・・なあ、連夜、この病気はそんなに発症しにくいものなのか?」


「なかなかしないと思うよ〜・・だって、ほぼ絶滅しちゃってると思われる種族が大半だもん。そりゃ、そこらの病院で問い合わせてもわかるわけないよ。僕だって現代医学書片っぱしから読んでもみつからなくて、図書館のエンキ館長が教えてくださらなかったら見当もつかなかったんじゃないかなぁ。そうそう、そういえばティターニア先生の種族なんて、この都市で先生しかいないらしいよ。でも、その一人しかいない人が選んだ人物が、よりによってピンポイントでそこに該当しちゃうんだもんなぁ・・」


 二人は顔を見合わせると、とほほ〜と肩を落とす。


 しかし、何かにはっと気づいたナイトハルトが再び連夜のほうを見た。


「おい、ティターニアは大丈夫なのか!? 俺だけ発症していたみたいだけど・・」


「ああ、それはね、より強い力を持つほうが、弱いほうに供給しちゃうことで起こる病気だから心配ないよ。つまり、ティターニア先生のほうがより霊力が強かったからなっちゃんにあげてしまったんだねぇ。

なっちゃんってほら、『害獣』ハンター目指しているから、基本的にそういう異界力を押さえる修行を行っているじゃない。ただでさえ、なっちゃんの種族って大きな霊力を持っていて、それを身体を酷使して機能の限界まで霊力を抑えることを行っているところに、大量の霊力を流されたらねえ・・ひとたまりもなかったんだろうね」


「なんてこった・・」


「そうそう、この病気のこぶはできたとしても別に死んだりしないんだって。やがて身体が順応するようになるそうだよ・・その、つまり・・特定の相手とそういうことをしていると、だけど・・」


 なんともいえない複雑な表情で連夜を見ていたナイトハルトは、溜息をつきながら先ほど連夜が渡した試験管を返してきた。


「じゃあ、もうこれはいらないから返しておく。そういうことをしなければ発症しないってことは、俺はもう発症することはないってことだ。なんせ、発症する可能性のあるたった一人と別れてしまっているんだからな」


 連夜は試験管を受け取りながら、自嘲気味に笑う親友を心配そうにみつめた。


「なっちゃん、ティターニア先生と復縁しないの? もう死なないってわかったわけだしさ。別れた原因だって、そのときはなっちゃんが死ぬって思っていたからで、それがなくなった今、別に復縁しても・・」


「いや、もういいんだ。それにこんな簡単に生を諦めてしまっていた今のままの俺じゃあダメだと思うよ。いま復縁したら、原因は違っていてもまた同じことを繰り返すことになると思う。もっと俺自身が成長しないとだめだ」


「じ、じゃあ、姫子ちゃんとは?」


 ティターニアと復縁しないとわかった途端なぜか目に見えて明るい表情になる連夜。


 なにか一縷の望みを託すかのようにナイトハルトに質問する連夜だったが、まるでその希望を切り捨てるかの如く、ナイトハルトは無情な返事を返す。


「それもない。なあ、連夜、おまえだってわかってるんだろ?あいつはいずれ人の上に立つ非常に大きな器だと思う。いろいろな人の想いを受け止めることができる存在だと思うし、俺自身あいつを尊敬もしてる。だけどな・・俺が側にいてほしいのは俺だけを見てくれる小さい器の存在なんだ。あんなに大きいと、どこに俺がいるのかわからなくなってしまうよ」


 そう苦笑すると、横で複雑そうな表情を浮かべている連夜を改めて見直す。


「今なら、おまえが姫子を選ばなかった理由がよくわかる。あいつ昔はおまえのことが好きだったし、今でもそうなんじゃないかな。おまえも本当は気づいていたんだろ?あいつの気持ちに。でも、選ばなかった。違うか?」


「姫子ちゃんが僕を見ている気持ちは、出来の悪い弟としてだと思うけどね〜。しかし、意外だったなぁ・・」


「なにが?」


 ナイトハルトの言葉にがっくりと肩を落とし、恨めしそうに見つめる連夜。


 そんな連夜を不可解そうにナイトハルトは見つめ返すが、その態度に益々連夜は溜息を吐きだして呆れ果てた表情を浮かべるのだった。


「いや、いい、どうせ、すぐにわかると思う。なっちゃんは結局何もわかってないんだなぁ〜って。」


「???」


 困惑の表情で連夜を見つめてくるナイトハルトに、連夜は底意地の悪くどこか自虐的な笑みを浮かべるのだった。


「なっちゃんは大きな勘違いをしてるよ。姫子ちゃんはね、そんななっちゃんの思い描いているような女の子じゃない。僕はてっきりなっちゃんは姫子ちゃんの本質をわかってて付き合ってると思っていたんだけど、そうじゃなかったんだね〜・・というか、もし知っていたらティターニア先生と浮気なんかしないか。でも、その本質を決して恋人に悟らせなかった姫子ちゃんってやっぱすごいなぁ〜〜・・って、感心してる場合じゃない!!もし・・今回の事の顛末を姫子ちゃんが全て知ることになったら・・ううう

巻き込まれたくないよ〜〜〜〜〜!! やっぱり聞くんじゃなかったよ〜〜〜〜!!」


 眼の前で物凄い真剣に怯え始める連夜の姿に、なぜか、悪寒が止まらなくなってきたナイトハルト。


「お、おい連夜、大丈夫か!?」


「大丈夫じゃないよ!! なっちゃんのバカ!! ほんとに僕のこと心配してくれているっていうなら、姫子ちゃんに土下座して謝って穏便に復縁してよ!! でないと、大変な地獄と修羅場が・・ああああ・・もうだめだ〜〜〜〜!!」


「ほんとに大袈裟なやつだなぁ・・」


 またもや泣きだしてしまった連夜を、持て余してやれやれと首を振るナイトハルト。


 しかし、連夜はきっとそんなナイトハルトを睨むと、何やらナイトハルトには理解できないことを言い出した。


「なっちゃんに先に言っておくけど、僕はできるだけ抵抗はしてみる。抵抗はしてみるけど、恐らくそれも無駄な努力に終わると思う。そして、その後に待っているのは・・」


 そこまで言うとぶるぶると震えだす連夜。


「なっちゃん、事と次第によっては僕は敵に回るかもしれないけど、お願いだから僕を恨まないでね。

恐らくそのときは、もうどうしようもない状況であることをわかってほしい。あと最後に一つ、友人としてできる最後の通告。そうなってしまった場合は、もう男のプライドとかは素直に捨てちゃったほうがいいよ。そのほうが楽になれると思うから・・」


 腐腐腐(ふふふ)と、かなりダークな雰囲気を醸し出しつつそこまで言うと、連夜はナイトハルトをその場に残して、教室へと去って行った。


 取り残される形となったナイトハルトは、なぜかこれからこの場に留まり続けると命の危険があるような気がして、学校を抜け出す決心をするのだった。


 折角親友に助けてもらった命を無駄に散らすわけにはいかないと、なぜか意味もなく自分自身に言い訳をするナイトハルト。


 しかし、彼の平穏は束の間にすぎないのだった。


 やがて、嵐がやってくる。


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