Act.41 『魔王顕現』
自分の目の前に立ちはだかっているのは過去の自分。
赤と青に彩られたバトルスーツと仮面を身に着けた鋼鉄の戦士。
それは『人造勇者』であった頃の自分のもう1つの姿。
合成種族の少年 瀧川 士郎は、自分の写し身とも言うべき敵と、今戦っている。
『正義』の為に、『平和』の為に、その為に戦い続ける自分は絶対に正しい、きっとそうに違いない。
そんな風に思えたのは最初だけ。
自分をはじめとする弟妹の為に戦い続けた姉が、敵である『害獣』ではなく、同じ同胞であるはずの人間の手で殺された時に士郎の中で全ては死んだ。
全ては『復讐』の為に、自分に命を与えてくれた優しい姉の仇を討つ為に。
だが、研究所を飛び出し舞い戻って来たその時には、『復讐』の相手は何者かの手によってすでに葬り去られた後。
途方に暮れ生きる目的を失い、それでも『人』の中に紛れ込んで普通の『人』達の生活を真似して生きてみたが、所詮は作られた『人』ならざる自分。
何もない、誰もいない、『人』はこんなにもいっぱいいるのに自分を見る『人』はおらず、必要としてくれる『人』もいない。
もうここまででいい、もうここまでがいい。
そう思って戦いの果てに死のうとしたあの日、奇跡は起きた。
(君が君の命をいらないというなら、その命は僕が拾おう。僕には君の命、その『人』生が必要だ。文句はないよね? だって、君は自分の命を捨てるんだろう? だったら、僕が拾ったとしても別に問題ないはずだ。だから・・君の命は今日から僕の物だ、僕に断りなく勝手に死なないように。いいね)
怒ったような表情、でもその言葉は真剣で温かくて、そして今まで出会った『人』の誰よりも優しかった。
自分よりも若干年上なだけ、しかも身長はそれほど高くなく、小柄で一見華奢な黒髪黒眼の人間の少年。
どこにでもいそうな普通の少年、でも、自分にとって他の誰とも代えることができない世界にたった1人の大事な、とてもとても大事な『人』。
あの日、自分の命を拾ってくれたあの少年は、そのときから士郎の一番大事な『人』になった。
『人造勇者』としての自分ではない、『人』としての自分を必要だと言ってくれた初めての『人』。
あの時に士郎は『人造勇者』としての自分と決別した。
(『人』として生きなさい。『人』として泣き笑い、そして喜べる道をみつけなさい。僕が拾った命を『人造勇者』として生きることに使うことは許さないし、二度と使っちゃいけない。君は君であるべきだ。君は『人造勇者 天龍八部』なんかじゃない。君は、瀧川 士郎なんだから)
自分が1人泣いている時、どんなときもいつも側にいて優しく抱きしめてくれ、そして、何度も何度も『人』でありなさいと言ってくれた。
あの温もりが今の自分を支えている。
少年とは思えない優しく暖かい母親のような腕と、柔らかい笑顔。
彼がくれたたくさんの大事なものが、今の士郎の原動力となっている。
それは今目の前にいる赤と青の鋼鉄の身体、その姿のままでは決して得られなかったもの。
いや、目の前の姿こそは自分に災厄と不幸をもたらした忌むべき厄病神そのもの。
今度こそ葬り去らなければならない。
自分が自分として、『人』として・・いや、あの『人』の『右腕』として生きていくために、こいつは邪魔だ。
「まあ、一番邪魔なのは、あの『狐』のお姉さんなんだけど、すぐにどうこうはできないから、とりあえず、君が先に消えてくれ。勿論、四郎を返してもらってからだけど」
傲然とそう呟いた士郎は、目の前の赤と青の装甲を持つ魔人に肉切り包丁を叩きつける。
その物騒な一撃を赤い装甲に包まれた右腕で弾き飛ばした七星龍王は、身体を反転させた勢いのまま青い装甲の左腕で裏拳を放つ。
『ふざけるな、『人造勇者 天龍八部』!! 出来そこないの試作機の分際で!!』
怒りに満ちた叫びをあげる七星龍王の姿を、仮面の奥にある何の感情も読み取れない虚無に満ちた瞳で見返した士郎は、その裏拳をすっと身切って避けて見せる。
「全然ふざけていないよ。僕は完全に本気だ。僕が僕として、『人』として、瀧川 士郎として、いや、何よりもこんな僕を必要といってくれた連夜さんをはじめとする『人』達の側で胸を張って僕として生きていくため、僕は今、僕の役目を果たす!!」
決意と覚悟に満ち満ちたその言葉が仮面の奥から吐き出されると、士郎の虚無に彩られていたその2つの瞳に今までにない激しい炎の色と、冷たい氷の色が同時に浮かび上がる。
そして、その色は形となって士郎の身体を包み込み、嵐となって目の前の七星龍王へと襲いかかる。
『意味のわからぬことを!! 所詮人間の手で作られた紛い物でしかない貴様が人間を語るのか? 僕のように神に等しい力を手に入れたわけでもなく、それどころかそこに至れたかもしれぬその力を手放した貴様が? 笑止千万!! 見ろ!!』
凄まじい速度で肉薄して放つ士郎の肉切り包丁の一撃を、鋼鉄の装甲に包まれた両手で弾き飛ばした七星龍王は、士郎にわざと見えるようにその手をかざす。
士郎が怪訝そうにそれを見つめると、そこには先程ロムの一撃で無残に砕けた筈の両手の掌が、ほぼ無傷にまで回復して存在していた。
「『天龍八部』の【超絶再生】か!!」
驚愕の声をあげ少なからぬ狼狽した様子を見せる士郎を満足気に見つめた七星龍王は、傲然と言葉を紡ぐ。
『その通り、攻防一体の素晴らしい能力が隙なく揃った『天龍八部』の数々の特殊能力の中の1つ。素晴らしい再生能力だ、ほんの短時間であっというまに砕けた拳が再生した。しかし、解せぬ・・これほどの能力を保持しながら、なぜ貴様はこの能力を使わないのだ天龍八部? その能力を使えば互角とは言えずとも、僕とかなりいい勝負ができるだろうに。まあいい、出来そこないは所詮出来そこないということなのだろうな、完全体の僕には欠陥品の気持ちなどわかるわけもない。それに・・貴様は何にもなることはできぬ、何になることもできずにここで朽ち果てるのだからな!!』
絶叫にも似た咆哮をあげた七星龍王は、その両手で光の刃を作り出しながら士郎へと打ちかかって行く。
赤と青の魔人が作り出す光の刃と、『害獣』の骨より作り出された恐るべき切れ味を持つ肉切り包丁が凄まじい勢いで重ね合わされ打ち合されて火花を散らす。
美しい舞踏にも似た流れるような無駄のない動作、死を与えるためだけに作り出されたとは到底思えない底知れない『美』がそこにはある・・はずなのだが、相対する仮面の少年の武骨で不器用極まりない動作が、まるで正確に動作している時計の歯車を狂わしていくかのように徐々に相手のリズムを崩していき、圧倒的に有利で強者であるはずの七星龍王を追いつめていく。
『な、なぜだ!? なぜ完全体であるこの僕ができそこないの試作機に押されている!? そんなバカな!! ありえない、こんな事態がありえるはずはない!!』
到底受け入れられない事態に気がつきつつも、七星龍王は絶叫して更にその攻撃速度を無理矢理にあげ、力で士郎を抑え込もうとする。
だが・・
「余所見しているんじゃねえよ、『人造勇神』さんよ!! あんた、隙だらけだぜ!!」
『な、なにいっ!? ぐ、ぐっほおおおおおっ!!』
横合いから突っ込んできたバグベア族の闘士ロムは、ボロボロの戦闘用コートを横に投げ捨てると、そのままの勢いを殺すことなく七星龍王へと体当たりを敢行する。
士郎に意識を集中していた七星龍王はロムの接近を感知するのに遅れてしまい、気がついた時にはすでに体当たりをまともに食らったあと。
木の葉のように再び吹っ飛ばされて、少し離れたところにある大木にその身を打ちつけて地面へと投げ出される。
『おのれ・・おのれおのれおのれ、下等種族どもめえええええ!! 神にも等しいこの僕によくもやってくれたなぁぁぁぁぁ!!』
「馬鹿だろ、おまえ。いったいどこの誰がおまえなんか崇め奉るっていうんだよ? 少なくとも俺なら、俺を心から信頼してくれている連夜か、俺を心から愛してくれる嫁さんかのどちらかを崇め奉るね。間違ってもおまえじゃない」
「ロムさんの意見に心から同感です。僕も連夜さんかなぁ。というか、すでに僕って連夜教の信者かも」
「それなら俺もそうかもな。あいつの言うことなら結構なんでも信じてしまうしな」
「あはは、僕もです、僕も。連夜さんの言うことには絶対従っちゃうもん。それに連夜さんの言うこと聞いて、失敗したことって記憶にないんですよねえ・・言うこと聞かなくて失敗したことはありますけど」
「俺もだ・・って、士郎はちゃんとあいつの言うこと聞かなきゃダメだろ!? あいつの『右腕』なんだから!!」
「ろ、ロムさんだって、連夜さんの『真友』なんだから、言うこと聞かなきゃダメじゃないですか!!」
「俺はいいんだよ。だって、あいつに見捨てられない自信あるからな」
「ぼ、僕だって言うことちょっとくらい聞かなくても見捨てられない自信が・・ちょ、ちょっとだけあるかなあ・・ないかなあ・・やっぱだめかなあ・・」
『貴様ら、ふざけるのもいい加減にしろおおおおおおおおおっ!!』
のろのろと立ち上がる七星龍王の前で、わざとらしくのんびりとしかもかなりふざけた内容の会話をしてみせる2人の姿を見て、激昂する七星龍王。
両手で作りだしていた光の刃にさらにエネルギーをつぎ込んでその刃を大きくすると、2人めがけて一直線に突っ込んでくる。
『おおおおおおおおっ、涅槃へ旅立て愚者どもおおおおおおおっ!!』
狂ったように雄叫びをあげて突っ込んでくる七星龍王の姿を見た2人は、一瞬顔を見合わせると不敵な笑みを浮かべて同時に口を開く。
「「やなこった」」
『死ねええええええっ!!』
大人の身長ほどもありそうな長大な光の刃が2人の身体に襲いかかる。
だが、2人はまるで事前に打ち合わせをしていたかのように見事な呼吸で同時にその兇刃を避けて見せると、一気に七星龍王との距離を縮め、その懐に飛び込む。
「行くぞ、士郎!!」
「オッケーです、ロムさん!!」
『なあっ!?』
必殺の光の刃の一撃を避けられて態勢を大きく崩している七星龍王の身体に後ろからむんずと抱き付いて持ち上げたロムは、そのまま自分の身体ごと仰け反らせて後ろへと倒れていく。
咄嗟にその肘をロムの顔面に入れて拘束から逃れようとする七星龍王だったが、それよりも早く別の肘打ちが自分の顔面に打ち下ろされて意識が飛ぶ。
『が、がはっ!!』
空気の塊を吐き出して悶絶しそうになる七星龍王、しかし、その直後に更に強烈な衝撃が彼に襲いかかる。
ロムの急角度からのバックドロップに加え、その顔面に己のエルボーを全体重をかけて押し込んだまま倒れ込んでいく士郎の一撃。
2人の合体技は、見事に固い地面がむき出しになった着地点で炸裂する。
かなりの衝撃に耐えられる筈の防護ヘルメットの後頭部の部分が砕けて散り、地面に緑色の鮮血が盛大にぶちまけられる。
薄れゆく意識の中で、七星龍王の脳裏にいくつもの疑問が弾けて飛ぶ。
(なぜだ!? なぜこうまで見事にしてやられる!? プロの傭兵旅団『剣風刃雷』よりも奴らは強いというのか? いや、そんなはずはない、片やただの奴隷種族、片や変身すらしていない『人造勇者』の失敗作。だが、なぜこうも、手が出せない、なぜ僕の必殺の一撃の事如くが避けられ、しかも反撃さえ許してしまうのだ!?)
失いそうになる意識を必死に繋ぎ止めながら、この理解できない現状を自分なりに分析しようとする七星龍王。
(確かに・・確かにあの2人には、『剣風刃雷』のメンバーには感じられない決死の覚悟と気合いがある。しかし、どう戦力分析をしてみても僕の戦闘能力には到底及ばないはず。なのになぜ、ここまで追い詰められる)
『人造勇者 天龍八部』の回復能力、【超絶再生】をフルドライブさせて受けてしまったダメージを回復させようとするが、思った以上に傷は深くなかなか回復しない。
(まずい、高速処理対応大脳が欠損してしまっているのか・・これは一時撤退したほうがいいか。『兵士』クラスの『害獣』を呼び寄せてこいつらにぶつければ足止めくらいにはなるだろう・・)
尚も追撃しようとするロムと士郎の2人の攻撃を地面を転がって避けた七星龍王は、ふらふらとする身体を引き摺るようにして無理矢理立ち上がると、油断なく2人を見据えながらジリジリと距離を開けていく。
幸いにも2人はこちらを警戒しているのか、かさにかかって追い討ちをかけてきたりはせず、若干距離を開けて様子をうかがっている。
この間にこの戦場の近くを流れている大河『黄帝江』から手下となる『兵士』クラスの『害獣』の群れを呼び出してしまわなければ・・焦りながらも必死で『害獣』達を呼び寄せようとする七星龍王。
だが・・
(む・・何か、おかしい。コントロールがうまくいかない!? そ、そんなバカな。僕は奴らを完全にコントロールしているはずだ!! 何が問題だ? 高速処理対応大脳の操作システムが壊れたのか!? いや、そんなことはない、こちらの呼びかけに彼らは応えてくれている。しかし、これはなんだ・・うまく意識を集中することが・・)
なかなか回復しない後頭部のダメージのせいで、身体をふらつかせる七星龍王。
ロムと士郎から視線を外してはいけないとわかっていながらも、思わずよろめいて地面へと視線を向けてしまう。
慌てて首をふって対峙しているロムと士郎へ視線を向けようとする七星龍王だったが、そのときその視線の端に、看過できない何かが映ったことに気づく。
(なんだ、あれは?)
地面の上を転がる小さな何か。
七星龍王はロムや士郎の攻撃に警戒しつつその何かのほうに走っていくと、通り過ぎる一瞬のうちに身をかがめてそれを拾い上げ、大木の影に隠れて改めてその拾った物体を確認する。
(こ、これは・・『精霊珠』?)
『精霊珠』
『異界の力』の一種である『精霊力』を封じ込めた『道具』で、便利ではあるものの『害獣』を引きつける代物であることには間違いないので一般ではあまり使われない『道具』なのだが。
どうやらこの『道具』は現在発動していて、今もその『精霊力』を解放し続けているらしい。
『害獣』の『力』を宿し、その『力』にほぼ呑みこまれて同化しかかっている七星龍王にははっきりとわかるのだが、どうやらこの珠に封じ込まれ今その『力』を解放されているのは『木』属性、つまり植物を成長させる『精霊力』のようだ。
本当に植物を成長させるだけのもので、これといって他に害があるようなものではないのだが・・
(なぜ、こんなものが・・む、なんだ!?)
訳が分からず混乱しかかった七星龍王だったが、ふと何かに気づき周囲に意識を集中させる。
すると、ごく狭い範囲ではあるがこの森の中に、いくつもの『精霊力』の反応があることを察知する。
いや、違う、自分は先程からこの『異界の力』を感じていた、自分の周囲にあって纏わりついてくるようなこの『異界の力』が気になっていたのだ。
何かがおかしい・・何かがひっかかる・・七星龍王の中の自己防衛本能が警戒すべき何かをしきりに訴えかけてくるが、それがなんなのかわからず益々混乱に拍車をかけていく。
もうあと一歩、本当にあと少しで届くところまで答えに近づいていながら、七星龍王はとうとうその答えを導きだすことができなかった。
七星龍王はこの戦場のあちこちにばらまかれたこの『精霊珠』の意味を探ることを諦めて一旦撤退することを決意し、掌の中の『精霊珠』を握りしめて粉々にする。
『もういい・・何らかの罠であることは間違いないだろうが、その意味や正体がわからず不可解なままで戦い続けるのは得策とは言えない。一旦撤退だ』
一人呟いた七星龍王は、現在の姿である戦闘特化型のタイプゼロフォーから、逃げるのに適した隠密偵察型のタイプゼロセブンに再び変身すべくその両手に力を集中し始める。
しかし、その隙を2人は黙って見過ごしはしなかった。
七星龍王が先程の2人の合体技による後頭部強打で冷静な判断が下せなくなってきていると、ようやくそう確信した2人は無言で一つ頷き合い作戦の最終段階を決行すべく七星龍王めがけて猛然と走りだした。
逃亡することに意識を集中して2人のほうから視線を外してしまっていた七星龍王は、変身しようとしていたその隙を見事に狙われてしまう。
背後から一気に間合いを詰めて飛び込んできたロムが、そのことに遅まきながら気がついて慌てて離脱しようとする七星龍王の身体をはがいじめにする。
「そうはいかないぜ、『人造勇神』!! 逃げるのは構わないけどなあ、そろそろおまえが奪い取ったものだけは返してもらう!!」
『放せ、放さんか、汚らしい奴隷種族め!!』
剛腕に任せてロムの身体を振りほどこうと無茶苦茶に暴れまわる七星龍王だったが、後ろから組みついたロムはガッチリとその身体をホールドして逃がさない。
それどころかロムは徐々にその力を強めていき、七星龍王の身体を抑え込んでいこうとする。
『おのれ、奴隷種族!! この僕に力で勝てると思っているのかあ!?』
「思ってないから、わざわざ『片羽千鳥固め』で関節を極めているんだろうが。おまえ本物のバカか? それにな、最初から俺達はおまえに勝てると思って・・いや、勝つために戦っているんじゃないんだよ。さっきから何度もいってるだろ? 俺達はな、おまえに奪われたものを取り返すためにここにいるってな!!」
物凄い悔しそうな声をあげる七星龍王に、あきれ果てた表情を隠そうともせずに浮かべて応えたロムだったが、関節をがっちりと極めているその腕の力を油断して緩めたりせず、むしろ力を込めて尚も締め上げていく。
『ぐうううっ、き、きさまあああ』
「士郎!!」
「はいっ!!」
呻き声をあげつつも抵抗を続ける七星龍王の身体を若干立たせるように無理矢理引き揚げたロムは、自分の『真友』の『右腕』たる合成種族の少年 士郎に呼びかける。
士郎はその呼びかけの意味を完璧に把握し、自分のなすべきことを果たすために七星龍王目がけて突進してくる。
「タイプゼロツー、君が奪った僕のかわいい弟を・・今こそ返してもらう!!」
肉切り包丁を持っていない右腕、爬虫類のようにびっしりと緑色の鱗が覆う手に士郎が意識を集中すると、その右腕を覆っている無数の鱗が一斉に逆立ち、爪先を揃えた手刀の指先から肘までがまるで三角形の形をした一つの刃のようになる。
「うおおおおおおおおおっ!! ぬううんっ!!」
『ご、ごばあああっ!!』
ロムに抑え込まれ、動くことができずにいる七星龍王の懐に一気に潜り込んだ士郎は、その一枚の凶悪な刃と化した右手を七星龍王の腰にある星形をした奇妙なベルトのバックルに突き入れる。
勢いよく突き出された士郎の拳はその拳の根本まで深々と突き刺さり、しかも士郎は尚もその力を込めて七星龍王の体内に埋まった自らの拳を反回転させる。
『お、おのれ、『天竜八部』、やってくれたなあああああっ!!』
「ああ、そうさ、君が言う通り、僕は『人造勇者 天龍八部』だった。だから、このベルトが・・いや、このベルトのバックルが何を示すもの何なのかよ~く知ってる」
『ま、まさか貴様の狙いは・・』
「そうだ、そういうことだ、タイプゼロツー!! このバックル・・『変身管理システム』をいじったらどうなるか!? 君ならわかるよね?」
『や、や、やめんかああああっ!!』
「やれっ!! 士郎!!」
「はい、ロムさん!! 今こそ僕の弟を返してもらうぞ!! 【緊急強制拘束解除】!!」
士郎の咆哮と共に、七星龍王から眩い光が放たれる。
七星龍王は、その直後自分の体内で何かの力に対するコントロールを失ってしまったことを感じ、それが何の力に対してかをすぐに悟ると、怒りの咆哮をあげて目の前の士郎を睨みつける。
『やってくれたなあ、『天竜八部』!! ・・だが甘い、甘すぎるぞ!!』
怒りの咆哮はすぐに嘲笑へと変わる。
無表情に自分を見つめる士郎とロムに対し、七星龍王は欝憤を晴らすかのように饒舌に2人の作戦の失敗を言い立てる。
『【緊急強制拘束解除】は、確かに我が体内にあるタイプゼロフォーに対する拘束力を無くしコントロールすることができなくした、だが、それだけだ。融合を解除できるわけではない、未だにタイプゼロフォーは我が体内にある。高速処理対応大脳の修復さえ終われば、またコントロールすることも可能だ。無駄な努力だったな、この下等種族どもっ!! あはははははははははははっ』
高らかと嘲笑をあげ続ける七星龍王の姿を、士郎とロムはうんざりした表情を浮かべて見つめ続ける。
そして、七星龍王の身体を挟んで顔を見合わせた2人は、なんとも言えない憐みの表情を浮かべて改めて七星龍王に視線を向けた。
「あのさ、気分いいところに水さして悪いんだけど・・僕達の作戦まだ最後まで終わってないから」
「まだ、真打ちが登場してないんだよ・・そう、俺達の軍師宿難 連夜が用意した最強の『切り札』がな」
『な、なんだと!? ・・いや、何を言うか、負け惜しみを!!』
『いいえ、負け惜しみではありませんわっ!!』
『なにっ!?』
Act.41 『魔王顕現』
2人の言葉を虚言だと否定しようとした七星龍王だったが、その言葉をさらに否定する美しい少女の声が、突如として森の中に響き渡る。
七星龍王は、声の主を探そうと、拘束されたままの状態で首だけを動かし周囲を見渡す。
だがどこに視線を走らせてもそれらしい姿がないことに、やはり虚言かハッタリだと口を開こうとした七星龍王だったが、次の瞬間、彼らを中心とする円状に次々と盛大な土柱が上がって行き、その土柱から飛び出した長大な何かが自分めがけて突っ込んでくることに気がついて驚愕の声をあげる。
『ぎ、銀色の大蛇!?』
四方八方から自分を取り囲むようにして迫ってくるのは銀色の鱗を持つ大蛇の群れ、その大きさは成人男性の身長をゆうに超えるものばかりで、それが一斉に自分めがけて襲いかかってくるのだ。
『な、なにいいいいいいっ!!』
「終わりだよ、タイプゼロフォー!! これで僕らの策は完成だ!!」
「宿難 連夜の策を甘く見るんじゃねえっ!!」
完全に策が決まったことを確信し、勝利の雄叫びをあげる士郎とロム。
連夜から託されていた策・・『瀧川四郎奪回作戦』の種はこういうことだった。
まず連夜は七星龍王と戦うにあたって、戦いに関しては素人に近いロム達が、七星龍王よりも有利にことを運ぶことができるようにと舞台作りをする方法を授ける。
それは七星龍王が闘いに集中することができず、常に気を散らし続けずにはいられない場所を設定すること。
その為の小道具が『精霊珠』だった。
連夜がまず注目したのは七星龍王が、他の『人造勇神』よりも多くの『害獣』の能力を得ていること。
恐らくその為にその戦闘力は半端な物ではないはずだが、『世界』そのものの使徒である『害獣』をそう易々とコントロールできるはずがない、むしろその性質に引きづられてしまっているに違いないと連夜は考えた。
そこで『害獣』の大きな性質である『異界の力』を駆除せずにはいられないという点を利用することにしたのである。
七星龍王と戦うであろう場所に、『力』を発動させた『精霊珠』をできるだけ多くばらまく、しかも、その『力』は微妙に中途半端なもので、放置しておいても問題ないが、意識には引っかかってしまい気になってしまうようなレベル。
具体的に連夜が用意したのは、『労働者』クラスの『害獣』なら見過ごすことはまずないだろうが、『兵士』クラスの『害獣』なら無視してしまうような程度の『力』を封じ込めたもので、しかも、戦いの舞台になるであろうこの植物の多い地域では、それほど目立たない『木』属性の『精霊力』。
自然に存在している『木』属性の精霊力とも相まって益々わかりづらくなるという目論見で、結果、この策は見事に大成功、結局七星龍王は珠の存在には気がついたものの、最後までその真意まで見抜くことはできず、自分では意識していないままに戦いに集中することができず、気を散らしたままその能力を半減させてしまったのだ。
ただ、この珠を戦場に士郎とスカサハがばらまいていた戦いの緒戦、ロム1人で七星龍王の相手をしなくてはならなかったためその時に若干危険な瞬間が存在していたのだが、ロムは見事にそれを乗り切って見せた。
『剣風刃雷』との差はここで生まれていたのだ。
『精霊珠』がばらまかれていた場所で戦っていたロム達と、そこから若干離れ、七星龍王が戦いに集中できる環境で戦ってしまっていた『剣風刃雷』。
結果は怖いほどに如実に現れた。
それがわかったから、ロム達はできるだけ『精霊珠』をばらまいた地域から離れて戦おうとしなかったのだ、ロムがランを連れて脱出しようとした時に、士郎が飛び出して足止めしたのも、『精霊珠』をばらまいている地域から離さないためだった。
こうして有利に作戦を進めるための策は成功したわけであるが、肝心のメインの作戦の問題があった。
彼らの目的は七星龍王を倒すことではない。
士郎の弟である『人造勇神』タイプゼロフォーの『メインフレーム』 瀧川 四郎を、今現在取り込んでいる七星龍王の体内から奪回すること。
どう考えても単純に倒してしまうよりも遙かに厄介極まりない仕事。
だが、それすらも連夜は考えていた。
士郎とスカサハ、この2人の力があれば可能であると連夜は自分の考え出した策をロムに託していたのだ。
確かに七星龍王の体内に隠された四郎を分離させ、奪回するのは容易ではない。
まず、連夜はロムと士郎には七星龍王を弱らせることを指示、そして、スカサハには、戦闘に参加せずひたすらに七星龍王を観察し分析することを指示した。
七星龍王を弱らせることについては、改めて説明する必要はないだろう、融合を解除し奪回するときに少しでも有利に事を運ぶための布石だ。
ではスカサハに与えられた観察と分析とは・・スカサハは七星龍王が体内に取り込んだ勇者達のエネルギーの位置を正確に感知する能力を備えていた。
それはスカサハの、『勇者』の天敵である『魔王』としての能力。
その能力を駆使すれば取り込まれている四郎の場所を正確に知ることができるはずだった。
とはいえ、いくらその能力を使っても瞬間的に割り出せるわけではない、ある程度の時間をかけて観察し分析しなければならない。
それゆえにスカサハには戦うことを禁じ、七星龍王を観察することに専念するように申し渡しておいたのだ。
勿論、七星龍王に気付かれるわけにはいかない、しかし、観察、分析するためには本来の姿である『魔王』の力を全てではないにしてもある程度解放しなくてはならない。
『異界の力』を遮断するハインドマントを使用してある程度誤魔化すことはできるが、それだって限界がある。
『魔王』が保持している『異界の力』である『魔力』は強大だ、下手をすると七星龍王どころか、『騎士』クラス以上の『害獣』すら呼び寄せてしまいかねない。
そして、ここで先程の『精霊珠』が生きてくる。
スカサハは本来の『魔王』としての姿、巨大な一つの龍の胴体から無数の大蛇が生えた『石眼多頭大蛇』にその姿を戻し、七星龍王に気づかれないよう地中深くにその身を沈める。
その後地中から大蛇の頭を四方八方へと張り巡らせて外へと解き放ち、あらゆる角度から無数の大蛇の目を通して七星龍王を観察し分析し続けていたわけだが、この範囲は『精霊珠』をばらまいた範囲と同じ。
実は『異界の力』は別の『異界の力』を阻害するという性質を持つ。
この場合、『精霊力』を解き放ち続けている『精霊珠』は、スカサハの『魔力』を大いに阻害する形になっており、特に『木』属性で場所が森の中ということもあり、その一つ一つの力は微弱であっても全体としてはスカサハの『魔力』を上回るため、結果としてスカサハの『魔力』の波動を打ち消すことに成功していたわけである。
おかげでスカサハは七星龍王に気がつかれることなく観察を続けることができ、完全に分析することに成功した。
あとはその大蛇の牙に隠された『勇者殺し』の毒を四郎が取り込まれていると思われる場所に打ち込むだけ。
この毒は規格外の化け物である『勇者』を滅ぼす為に、魔族の長たる歴代の『魔王』達が、己の部族を守らんと決死の覚悟で編み出しその遺伝子に連綿と託し続けている必殺の剣。
いくら『人造勇神』と言えども、逃れる術はない。
と、言っても勿論致死量を打ちこむわけではない、だが、それを打ちこまれた七星龍王は必ず己の保身のために四郎を排出するはず。
それこそがこの作戦最大の狙いであり、今、その策は成就しようとしていた。
『くらいなさい、『人造勇神』タイプゼロツー!! これが、対勇者用決戦奥義 『勇者殺し』!!』
禍々しい牙を剝き出しにして、四方八方から迫る大蛇の群れ、流石の七星龍王と言えどもここまでと誰もがそう思った。
だが、しかし・・
人間が作り出し、『世界』の先兵と化した狂った禍津神は、ロム達の想像を絶する力を発揮して力づくでその策をひっくり返す。
『うおおおお、まだだああああああああっ!!』
狂気の絶叫と共に、七星龍王の身体から無数の電光が走り始める、それはやがて徐々に広がりロムの身体を、士郎の身体を、そして迫りくる大蛇を、周囲の森までも包み込み、そして・・
『食らうのは貴様らだ!! 涅槃の向こうに旅立つ者に、行く手を照らす手向けの光!! 超機神絶対奥義!! 【超電磁サンダーボルトストーム】!!』
『ぎゃあああああああああああっ!!』
凄まじい雷光が七星龍王を中心とする一帯を包み込む。
まともにこの雷光を食らうことになったロム、士郎は、その身体を後方へと吹き飛ばされ、今まさに牙を突きたてようとしていた大蛇達も全て弾き飛ばされてしまった。
いや、そればかりではない、強烈無比な雷光は地中深くにその身体を隠していたスカサハの本体をも地上へと引き摺り出し、自らの分身である大蛇の分と合わせて存分に稲光をその身に浴びることになってしまったスカサハは、今や体中から白い煙を立ち上らせて瀕死の状態。
それでもなんとか懐から『神秘薬』を取り出して急いで服用すると、ダメージが回復しないままの状態であるがゆっくりとその身を立ち上がらせる。
「まだ・・まだですわ・・まだ終わっていません」
ふらふらとその身を立ち上がらせながらも未だに闘志衰えぬ熱い瞳で七星龍王を睨みつけるスカサハ。
『魔王』本来の姿である『石眼多頭大蛇』の姿から、元の少女の姿に戻ってしまっているが、それでもその歩みを止めることなく、恐れることもなく敢然と七星龍王へと向かっていく。
『そうか、貴様があの大蛇達の親玉か。まさか『魔王』だったとは・・少々驚いたが、種がわかってしまえばなんということもない。ひねりつぶしてやる』
自分自身もダメージが抜け切っていない身体でありなが、スカサハ同様にふらふらと前へと進み出て迎撃しようとする七星龍王。
一方、思いもかけぬ反撃に成す術もなく吹き飛ばされてしまったロムと士郎は、未だにそのダメージを回復させることができずに地面をのたうちまわっていた。
「くっそ・・あの電撃攻撃には麻痺の効果もあるのか・・」
「迂闊でした、まさかあんな隠し技をもっていたなんて・・『神秘薬』を服用したのでダメージそのものは治りましたけど、僕も麻痺が・・」
「やばいぞ、スカサハは武器らしい武器を持ってない、このままじゃあ」
「動け!! 僕の身体よ、動いてくれ!!」
優勢から一転、思いもかけぬ大ピンチに焦る2人だったが、身体に残る電撃による麻痺効果がいつまでたっても抜けきれず立ち上がることもできずに、雑草生い茂る地面の上を空しく転がり続けるのみ。
その2人の焦りをよそに、七星龍王とスカサハの激闘は始まってしまっていた。
自らの姿を蛇人間へと再び変化させ、髪の毛の大蛇と両手の指先から生えた鋭い爪を使って七星龍王と渡り合うスカサハ。
だが、やはり実戦の経験があまりにも少ないスカサハが、たった1人で渡り合うには相手は手強すぎた。
次第に追い詰められ、いつの間にかスカサハは逃げ場のない大木のすぐ近くまで押し込まれてしまう。
先程とは逆に、己の勝利を確信した七星龍王は、その赤と青の鋼鉄の腕をこれ見よがしにスカサハの方に向け、嫌らしい声音で最後通告を口にする。
『終わりだ現代の『魔王』。やはり『魔王』は『勇者』に倒される運命にあるらしいな。どうだ? 何か遺言があるか? あるなら聞いておいてやる。せめて墓標に最後の言葉を刻んでやるくらいの度量が僕にだってあるのだからな』
そう傲然と傲慢極まりないセリフを口にして必殺の構えを取り威嚇する七星龍王だったが、その様子を全く恐れると様子もなく澄んだ瞳で見つめ返したスカサハは、決意と覚悟に満ちた表情でなんの迷いもない使命感に満ちた言葉を紡ぎ出す。
「結構ですわ。私、ちょびくんやゆかりちゃんと約束したんですの。必ず、あなた達の兄弟を連れて帰ってあげるって。私には兄がいます。私にとっては掛け替えのない優しい・・本当に優しい兄がいます。私の掛け替えのない家族。絶対に奪われたくない大事な絆。だから、私には痛いほどよくわかる。あなたがその絆を奪い取ったことで、ちょびくんやゆかりちゃんがどれほどの悲しみと苦痛を感じているかを!! だから私は最後まで諦めない、あなたがあの子達から奪いとったものを・・必ず取り返す!!」
これ以上ないほど純粋で真摯な怒りと悲しみに満ちた声。
しかし、そこに涙はない、あるのは彼女の兄 宿難 連夜によく似た美しい決意と覚悟の光。
その瞳が宿す美しさの意味がわからずただ気圧されてしまうだけの七星龍王だったが、すぐに苛立たしげな声をあげるとその両手を天にかざし必殺の技を繰り出す姿勢を取る。
『わけのわからぬことをごちゃごちゃと・・貴様の声、言葉を聞いていると虫唾が走るのを止められぬ、だから・・その胸糞悪い言葉が二度と出せないように・・この超機神最終奥義で塵となって消えうせるがいい!!』
超機神最終奥義
それは先程プロの傭兵旅団『剣風刃雷』を一瞬で崩壊させた恐るべき必殺技。
まともに食らってしまっては流石の『魔王』と言えどもただではすまない。
だが、スカサハはキッと七星龍王を見据えたままその場から逃げようとせず、最後の突撃を敢行しようと姿勢を低くして構える。
『死ねっ、『魔王』!!』
「「逃げろ、スカサハ!!」」
スカサハの無惨な最後を予感して、悲痛な叫びをあげるロムと士郎、しかし、そんな2人の叫びも空しく振り下ろされる死神の鎌。
だが・・その死神の鎌は、目の前のスカサハに振り下ろされようとした瞬間、誰も予想しなかった人物の手で止められることになった。
『な、な、な、な、なぁぁぁにぃぃぃぃぃぃ!!』
己の身に起こったことが信じられず驚愕の絶叫を放つ七星龍王。
そして、スカサハは目の前に突如として現れた救いの主の姿を見て、思わず呆然と立ち尽くす。
その人物は・・七星龍王の背中から生えていた。
上半身濃い青色のボディスーツに身を包む姿で現れたそのダークブラウンの髪の少年は、背中から七星龍王に組みついて、先程ロムが押さえ付ける為に行使した関節技『片羽千鳥固め』を完璧に極めている。
いや、その異様な状態に驚いているということも確かにある、間違いではない。
しかし、それ以上にスカサハには衝撃的なある事実があった。
それはその少年の姿が、ツギハギだらけではなかったこと。
いつも見慣れている、いやついさっきまで見ていたはずの同級生の友人、優しい兄の『右腕』、様々な種族のパーツで構成されたツギハギだらけの外見をもつ合成種族の元『人造勇者』、瀧川 士郎と全く同じで、そして、全く違う姿の少年がそこにいた。
得体の知れない強烈な衝撃、心の奥底に直接突き刺されるような甘美な何か。
ふらふらとその少年に近づきながらスカサハは夢遊病患者のように口を開く。
「あ、あ、あなたは・・誰なの?」
スカサハの声に気がついたその少年は、顔は全然似ていないのに、まるで兄 宿難 連夜が目の前にいるような優しさと慈愛に満ちた笑顔を浮かべてスカサハを見つめ返す。
「僕の弟や妹を助けてくれてありがとう、あの子達に優しくしてくれてありがとう。そして、こんな僕を助けに来てくれて、本当にありがとう。でも、もういいんだ。僕はもうそんなに生きられない、だから、お願いだ。僕が彼を抑え込んでいる間に彼諸共に、僕を滅ぼしてほしい!! お願いだよ!! これ以上誰かが僕の力で傷つけられる姿を見たくないんだ!!」
真摯な表情で訴えかけてくる少年の目からは涙があふれて流れ出し、スカサハはその涙を美しいと感じた。
そして、その美しい涙を見たが故にスカサハははっきりと決意を固める。
勿論・・
「ふざけたこといってるんじゃありません!! 絶対私はあなたを助け出しますわ!! 宿難 連夜の妹を・・なめるんじゃな~~~い!!」