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Act.40 『超機神』

士郎が捨て去ったもう1つの士郎の姿。


赤と青に彩られた鋼鉄のバトルスーツに、同じ赤と青に彩られた鋼鉄の仮面。


まるで泣いているかのような表情のデザインをした仮面の目にあたる部分からは、強烈な殺意と憤怒の光。


戦慄してその姿を見つめながら、側に立つロムに声をかける士郎。


「ロムさん、気をつけてください。自分で言うのもなんなのですが、あの姿・・『天竜八部(J-ドラグナー)』の力は他の『人造勇神』とはわけが違います・・」


「だろうな。素人の俺でも奴の気配がはっきりと変わったことがわかる。危険な匂いがぷんぷんするが、さてどうしたものか・・」


油断なく構えながらも先程とは違い、七星龍王(X-カイザー)の間合いに入って行こうとしないロムと士郎。


ジリジリと七星龍王(X-カイザー)を挟み込むようにして周囲を展開する2人だったが、どう見ても飛び込む隙を見つけることができず、時間だけがいたずらに過ぎていく。


このまま千日手かと2人が焦りを感じ始めたちょうどそのとき、別の者が2人の間をすり抜けて七星龍王(X-カイザー)へと肉薄する。


鉄球(ハンマー)は壊されたが、私にはまだ片手剣が残っている!! 勝負だ、『人造神帝 七星龍王(X-カイザー)』!!」


復活した旅団きっての『療術師』フレイヤの手によりばっちり回復したバーンが、今度はフレイヤの防御術、メイリンの『原初の歌』という万全のサポートを受けて七星龍王(X-カイザー)に勝負を挑む。


かざした方形大型盾(ヒーターシールド)をそのままに、七星龍王(X-カイザー)に体当たりをぶちかましたバーンは、そのまま七星龍王(X-カイザー)の攻撃を自分に引き付けようとする。


全身の力を込めたバーンの渾身の体当たり、しかし、七星龍王(X-カイザー)は片手をかざしただけでその体当たりを止めて見せる。


よく見るとバーンの盾と七星龍王(X-カイザー)の掌の間にはある程度の距離があいており、何か目に見えぬ力場を七星龍王(X-カイザー)が発生させてその攻撃を防いでいるようであった。


「くっそ、よくもまあそれだけいろいろな特殊能力を詰め込んで持っているものだ・・しかし、特殊能力が戦いの全てじゃない・・行けっ!! ランッ!!」


「はい!! 早乙女(さおとめ) (らん)、行きます!!」


バーンの声に応えるようにして背後から飛び出してきた白い髪の少女が両刃の片手斧を叩きつけようとする。


無駄な動きのない、シャープな攻撃は明らかに七星龍王(X-カイザー)に届いたかに見えたが、叩きつけられる寸前でその鋼鉄の腕を横薙ぎに振い、片手斧の一撃をはねのける。


しかし、バーン、ラン共に攻撃の手を緩めない、片手剣と片手斧をそれぞれ間断なく振い、七星龍王(X-カイザー)に反撃の隙を与えない。


彼らの背後からはライフル型の大型『銃』から小型『銃』へと持ち替えたジャンヌがかなり近い距離まで近づいて援護射撃を行い、メイリンが『原初の歌』でバーンとランの身体能力をアップさせる、そして、隊長代理のフレイヤとリエが防御術、回復術を駆使して2人を守り旅団本来の見事なチームワークで七星龍王(X-カイザー)に襲いかかる。


「ちょ、ろ、ロムさん!! ヤバイです、このままだと四郎を助ける前に倒されちゃいますよ!!」


『剣風刃雷』のあまりにも見事な連携攻撃を目の当たりにして焦り出す士郎。


だが、話しかけられたロムは慌てる様子は全くなく、むしろ先程よりも厳しい視線で『剣風刃雷』と七星龍王(X-カイザー)の戦いをじっと見つめ続けている。


そして、しばらくバーン達と七星龍王(X-カイザー)の攻防を観察したあと、若干後方にいるスカサハのほうに振り向いて口を開いた。


「スカサハ、どうだ? 目処は立ちそうか?」


声を掛けたロムに釣られるように一緒にスカサハのほうに振りかえった士郎は、そこで異様な姿になっているスカサハに初めて気がついて息をのむ。


今のスカサハはいつもの美少女という姿ではなかった。


銀色の艶やかな髪は、銀色の鱗にびっしりと覆われた毒蛇の群れと化して蠢いており、美しい紅玉(ルビー)のような瞳は、今は血に濡れた爬虫類のそれ。


顔や、服の間から見える白い肌は全て不気味に光る銀色の鱗で覆われており、口からは長く鋭い牙すら見えている。


その姿は完全に蛇人間であり、彼女の普段の美しい姿に見慣れた『人』型系種族の者であればドン引き間違いない姿。


・・まあ、爬虫類型種族には逆に大人気であろうが。


「・・さっきまではぼんやりとしてて掴みにくかったのですが、今ははっきりとわかりますわ。恐らく四郎くんの能力を使っているからでしょうけど。逆にいえばまた違う姿に変身されてしまうとつかめなくなりそうですの」


『剣風刃雷』の面々と戦いを繰り広げている七星龍王(X-カイザー)の姿を、その蛇の目でじっと凝視しながら呟くスカサハ。


その言葉を聞いたロムは、大きく深い溜息を吐きだして表情を曇らせる。


「どのみち奴とは激突しないといけないわけだが、あの姿のあいつを抑え込まないといけないわけか」


「いや、ロムさんもスカサハも落ち着きすぎですよ!! このままだと僕らがどうこうする前にあいつ倒されちゃいますってば!!」


そう言って焦りに満ちた表情でロムに詰め寄っていく士郎であったが、ロムのほうは多少表情を曇らせてはいたものの相変わらず落ち着いた態度で士郎を見返し、次いで視線を激闘続く戦場へと向け直す。


「士郎・・おまえ、格上相手に戦った経験があまりないんだな」


「へ?」


「中学時代さ、俺が連夜達と一緒に喧嘩に明け暮れていた時は、格上の相手や人数で圧倒されるなんて日常茶飯事でな。おかげでそういう相手とやり合うと嫌でも相手のことがわかっちまうのさ。士郎・・心配しなくてもすぐに俺達の出番になるだろうよ。と、いうか用意しておけ。あの均衡はすぐに崩れるぞ」


視線を強め両手に構えた小剣を握る手に力を込めたロムは、士郎とスカサハに無言で散開するように手で合図を送り何かを警戒するかのように七星龍王(X-カイザー)との間合いを少しずつあけていく。


そんなロム達の行動とは対照的に、バーン達『剣風刃雷』の面々の攻勢は益々苛烈さを強めていく。


「いける!! 決定打はないですけど、このまま押し続けていれば司令官や紗羅達がいずれ来てくれるはずです!! みんな、それまでなんとか奴を抑え込みますよ!!」


『了解!!』


隊長代理フレイヤの言葉を聞いたメンバー全員が頼もしく返事を返し、七星龍王(X-カイザー)の動きを完全に封じ込めていく。


いやそれだけではない、足止めだけではなく徐々にその攻撃は七星龍王(X-カイザー)の身体に当たるようになっていっており、その身体にはすでに無数の亀裂が走り始めていた。


このまま押し切れば相手を行動不能にすることも不可能ではない・・『剣風刃雷』の面々の誰しもがそう思った、だが。


『戦力分析完了。これより防御態勢から迎撃及び攻撃態勢にシフトし反撃を開始する』


軋むような機械声(マシンボイス)が聞こえたかと思うと、七星龍王(X-カイザー)の赤と青に彩られた鋼鉄の両腕が光始める。


『行くぞ、『剣風刃雷』!! 【超機神刃拳(マシンダーハーケン)】!!』


指先を美しく揃え、まるで一本の鋭い剣のようになった手刀を電光石火の速さで閃かせる。


その閃きはバーンの片手剣の切っ先を斬り飛ばし、ランの片手斧の刃を粉々に打ち砕く。


「な、なんだとおっ!?」


「う、うそおっ!?」


無残な姿に成り果てた自分達の大事な武器を一瞬唖然として見つめるバーンとラン、だが、その一瞬を七星龍王(X-カイザー)は見逃さない。


両手を地面についてまるで逆立ちをするかのような態勢になったかと思うと、凄まじい勢いで身体を捻りながら両足を広げる。


赤と青の丸太のように逞しい足が巻き起こす旋風と共に、強烈な蹴撃が2人に襲いかかる。


『巻き起こせ嵐!! 【超機神蹴美闇マシンダースピア】!!』


「ぐおおおおおおおっ!!」


「きゃああああああっ!!」


咄嗟に手にした盾でその蹴りを防いだバーンはともかく、先程盾を壊されているランに防ぐ術はなくかろうじて十文字受けをしたものの、当然のように威力を殺すことができずにそのまま吹っ飛ばされる。


「ら、ランッ!!」


森の中を盛大に転がりながら遠ざかって行く白い髪の少女の安否が気になったが、そちらに注意を払っている暇はない、バーンはすぐさま目の前の七星龍王(X-カイザー)へと視線を向け直す。


すると、逆立ち状態の旋風脚から戻り、大地にしっかりと立ちあがった七星龍王(X-カイザー)は、赤と青に彩られた仮面の銀色に光る大きなレンズ状の目の部分をまっすぐにバーンへ・・いや、『剣風刃雷』の面々へと向ける。


『母なる『世界』を毒する『異界の力』、その危険な『力』を擁護する中央庁の使途達よ!! 今こそ断罪の時と知れ!! 我が身我が魂の全てを賭けて、お前達を・・倒す!!』


「ふざけるなよ、七星龍王(X-カイザー)・・『世界』云々以前に、貴様の存在そのものが危険なんじゃないか!!」


七星龍王(X-カイザー)の言葉を聞いていたバーンは、吐き捨てるようにそう叫ぶと盾を構えて突進していく。


だが、それを見越していたかのように両足で地面を踏みしめて宙へと舞い上がってその突進をよけてみせた七星龍王(X-カイザー)は、そのまま空中で見事な月面宙返りをしながら反対側へと降り立ち、後方で援護しているフレイヤ達のほうへと走り出す。


「しまった!!」


「いや、やらせないよ!!」


こちらに向かって七星龍王(X-カイザー)が走ってくることに気がついたジャンヌが、手にした小型『銃』で正確に七星龍王(X-カイザー)を狙撃しこちらに寄せ付けないようにする。


しかし、『弾丸』に当たり傷つきながらも七星龍王(X-カイザー)の速度は変わらない、それどころかその身体にこれまで以上の闘志を漲らせ両手を翼のように広げて構える。


『安易な『力』に頼り信奉する悲しき者達よ、『世界』の怒りと悲しみを受ける『覚悟』はいいか!? 右手に宿る『電界の力』、左手に宿る『磁界の力』、合わせ放つは超機神(マシンダー)最終奥義(ファイナルアタック)!! 今こそ・・終幕の時!!』


七星龍王(X-カイザー)の両手に集まっていくいくつもの光、そして、『剣風刃雷』のいるエリア一帯を強力な磁力が覆い、その場にいる者すべてを地面へと縫いつける。


「う、動けない!!」


「な、なにこれ!!」


「み、みんな、耐ショック姿勢!! くるわよ!!」


少しでもダメージを少なくすべく思うように動かない身体をなんとか無理矢理動かして防御姿勢をフレイヤ達がとったそのとき、七星龍王(X-カイザー)の両腕から眩いばかりのスパークが放たれる。


『【超電磁フィナーーーーーーーーレェェェェェェェェ】!! 涅槃の彼方へ旅立つがいい!!』


「「「「きゃあああああああああああっ!!」」」」


七星龍王(X-カイザー)の両腕から放出された凄まじいばかりの光のエネルギーが『剣風刃雷』の面々に襲いかかり、その光が消え去った後全員が全身から白い煙を立ち上らせながらバタバタと地面に倒れ伏す。


「ぎ、ギギギ・・な、なによ、これ・・め、メイリン、ジャンヌ、リエ、い、生きている?」


「な、なんとか・・」


「・・さっきあらかじめフレイヤが防御術かけておいてくれたからなんとか死なずに済んだけど、これ一番最初にやられていたら全滅だったわね・・」


「あれだけ『弾丸』を撃ち込んでやったっていうのに・・ば、化け物め・・」


首だけを動かして周囲を見渡したフレイヤは、全員がなんとか生きてはいることを確認してほっと安堵の息を吐きだしたが、みな立ち上がることができないでいることに気がついて顔を曇らせる。


なんとか『回復術』を駆使して全員を回復させなければと思うのだが、すぐに敵の追撃が来ると気がついて慌ててもう一度周囲を見渡す。


すると、七星龍王(X-カイザー)が自分達とは反対の方向へと走っていく姿が見えた。


一瞬逃げるのかと思ったフレイヤだったが、彼が走っていくその先にあるものを見て顔面から血の気を引かせて真っ青になる。


「あ、あいつランを殺すつもりだわ!! ば、バーン!!」


敵の狙いに気がついたフレイヤはすぐに旅団の頼りになる守護者の姿を探し始めたが、その姿を見つけ出して確認したとき目の前が真っ暗になるのを感じた。


白い甲冑姿の少年は自分達から少しだけ離れたところで倒れ伏していたのだ。


ぴくぴくとわずかに動いているので、まだ死んではいないのだろうが、このままではしばらく満足に動くことは無理だろう。


「ど、どうしよう・・け、剣児くん、隊長、私どうしたらいいの? た、助けて・・お願いよおおお」


絶望的な状況にフレイヤはこの場にいない者達に助けを求めるが、当然、助けが来るわけでもない。


涙に濡れてぼやけてきたフレイヤの視界の先で、満身創痍の白い髪の少女は七星龍王(X-カイザー)の手にかかろうとしている、少女は柄の部分だけとなった片手斧と半壊した盾でなんとか攻撃を避けているが最早それも時間の問題だった。


『光となって散るがいい、『異界の力』持つ者よ・・さらばだ・・ 【超機神刃拳(マシンダーハーケン)】!!』


高々と降りあげられた手刀で作られた死の剣がランの頭上に振り下ろされるかに見えたが、七星龍王(X-カイザー)はその手刀を真後ろめがけて横薙ぎに払う。


『パキーーン!!』


七星龍王(X-カイザー)の背後にいつのまにか迫っていたロムであったが、不穏な気配を感じて咄嗟に両手の小剣を防御に構え七星龍王(X-カイザー)の必殺の一撃を受けきる。


だが、そのおかげで小剣の刃の部分は見事に両断されてしまい使い物にならなくなってしまっていた。


『下衆らしい攻撃の仕方だな、奴隷種族。だが、この姿の僕にそんなくだらない戦法は通じないぞ』


呆れたような様子を隠そうともせずに呟く七星龍王(X-カイザー)に、ロムは使い物にならなくなった小剣を背後に投げ捨てて苦笑を浮かべてみせる。


「いや、こんなに早く割り込むつもりじゃなかったんだが・・いかんな、どうもこのお人好しの性格を直さないとほんとにいずれ死ぬかもしれん」


Act.40 『超機神』



『ほう、貴様ここから生きて戻るつもりか? 言っておくが僕はお前と『天竜八部(J-ドラグナー)』だけは生かして帰すつもりはない。お前達が帰るのは光輝く涅槃の向こうと知るがいい!!』


言葉を紡ぎ終わるや否や繰り出される七星龍王(X-カイザー)の鋼鉄の手刀、それをロムは太く逞しい片腕でいなしながらその横を通り抜けると、地面にへたりこんでいる白い髪の少女ランをもう一方の片腕で掴み上げ小脇に抱える。


「ちょ、ちょっと、何するんですか!? 私は一人でもこいつと戦える」


「黙れ!! おまえとは極力話たくない。死にたくなかったら口を閉じてろ!!」


荷物のように抱えられたランはロムの腕の中で抗議の声をあげながらジタバタと暴れようとするが、ロムの物凄い怒りと憎悪の視線を浴びて思わず黙り込む。


その様子にロムは鼻をフンッと鳴らしてその場を急いで離脱しようとするが、当然その隙を七星龍王(X-カイザー)が見逃すわけもなく、背後から剣と化した手刀が襲いかかる。


ざっくりと背中を切られる感触があり、次いで灼熱の棒を身体の中に突っ込まれたかのような激痛が体中を走るが、ロムはわずかに態勢を崩しただけですぐに走り出す。


『逃がさない!! 【超機神怒雷刃(マシンダードライバー)】!!』


この場から背中を向けて離脱しようとするロムの背中めがけ、七星龍王(X-カイザー)は身体ごと回転させまるで一本のドリルのようになって突っ込んで行く。


不穏な気配を感じたロムは咄嗟に飛び退りながらも、突っ込んでくる七星龍王(X-カイザー)の身体を弾き飛ばすように左腕を叩きつける。


「グオオオオオオッ!!」


なんとか七星龍王(X-カイザー)の軌道をそらせることには成功したものの、ロムの左腕の肉はごっそりとこそげ落ち、中から骨が見えてしまっているほどの大ダメージ。


それでもロムは走る速度を緩めず、戦場から遠ざかる。


『貴様、奴隷種族の分際で僕を無視するなああああああっ!!』


正面から戦おうとしないロムの態度に激昂した七星龍王(X-カイザー)は再び身体を回転させて今度は真横から体当たりを敢行してくる。


それを見ていたランは、顔を上げて走り続けるロムに声をかける。


「わ、私のことはいいから、逃げなさいよ!! このままだとあんたやられちゃうわよ!!」


「俺は黙れと言ったぞ・・大人数でなければどうすることもできない、下位種族や奴隷種族を平気で見下して切り捨てられる貴様らと違ってな、俺も、俺の友人達も一度助けると決めたら絶対に諦めんのだ!!」


その目に宿る深い怒りと悲しみと憎しみの炎、ランはその強い視線に身体を強張らせながらも、どこかでこの視線を見たことがある気がしていた。


それほど遠くない昔、どこかで自分はこの瞳を目撃している・・あれはいったいいつでどこでだったか?


しかし、そんな考え事もすぐにできなくなる、ほんのわずかぼんやりとランが物想いに耽っているうちに、すでに七星龍王(X-カイザー)は目前に迫っていた。


ランは今度こそ避けられないと覚悟し、自分を小脇に抱えている人物と自分が粉々に砕け散ることを予想してぎゅっと目をつぶる。


だが・・


「ヴァルヴァルヴァルヴァルウウウウウウウウッ!!」


雄叫びを挙げながら更に速度を上げて疾駆するロムは、傷ついた左腕を背中に回して白い警棒を取り出すと、それを前に突き出しながら猛然と七星龍王(X-カイザー)へと突進していく。


『砕けて散れ、奴隷種族!!』


巨大な一本のドリルと化した七星龍王(X-カイザー)が死の烈風を孕みながら眼前へと迫るまさにそのとき、ロムの細い目がカッと大きく見開かれ、満月のような黄金の瞳が現れる。


バグベア族の特性の一つ、【月光眼(グラムサイト)】。


金色の瞳に映し出される相手の行動を、秒単位で数分先まで読むことができるという恐るべき能力で、発動させておける時間はわずか九十九.九秒と非常に短いが、その間はほぼ無敵といってもいい能力。


だが、先のゼロナインタイプとの戦いの時に超加速の動きを見切ることで、使える時間の半分以上を使用してしまっており、残りは士郎の弟を奪回するチャンスを作り出す為と、ここまで温存していたわけだが・・


「仕方ない、緊急事態ってやつだ・・しかし、やるからには全力を尽くす!!」


一瞬ニヤリと男臭い笑みを浮かべたロムは、すぐに表情を引き締めると回転して突っ込んでくる七星龍王(X-カイザー)の先端部分に意識を集中する。


失敗すれば自分の身体は間違いなく木端微塵に砕け散り、ただの物言わぬ肉片へと変わるのは明白。


しかし、ロムは固い決意と覚悟を固めると敢然と自分の成すべきことを果たすために生と死の境へと飛び込んで行く。


月光眼(グラムサイト)】の能力のおかげでスローモーションのような回転として見えるその先端部分を確認したロムは、もう一つのバグベア族の特性【凶戦士化(ベルセルク)】を発動させて全身の筋肉や反射神経、動体視力を一時的に数倍に跳ね上げる。


(勝負!!)


心の中で気合いを込めて叫ぶと、七星龍王(X-カイザー)と接触する寸前まで引きつけ、一気にその肉体能力を爆発させる。


凄まじい殺意と死の匂いが立ちこめる嵐を跳ね除けて、これ以上ない絶妙なタイミングで手にした白い特殊警棒を真正面から突っ込んですぐさま手を離して飛び退る。


「ぐおおおおおおっ!!」


ロムの口から思わず苦痛のうめき声が漏れる。


無理な攻撃を行った代償をすぐに払わせられることになったからだ。


ただでさえ肉がこそげ落ちた左腕は血を失いすぎ、すでに青黒く変色してしまってとてつもない激痛が走り、力を入れることすらできなくてだらりと垂れさがってしまっている。


なんとか苦痛を噛み殺しながらも、ロムは小脇に抱えたランを落とすことなく走り続け、少し後ろに視線を向けて通り過ぎていった七星龍王(X-カイザー)の姿を見る。


そこにはロムの左腕の代償の対価として、両方の掌を完全に失ってしまっている七星龍王(X-カイザー)の姿があった。


ただでさえ高速で回転しているその先端に異物を突っ込まれたのだ、いくら強化された鋼の掌といえど無傷で済むわけはない。


地面に着地した七星龍王(X-カイザー)は、己の両手が見るも無残な姿になっていることに気がついて、絶叫する。


『ぐ、ぐああああああっ!! 手が!! 僕の手があああああああああっ!!』


そればかりではない、去りゆくロムと傷ついた自分の手で一瞬完全に集中力を切らした瞬間を作り出してしまった七星龍王(X-カイザー)に間髪入れずに別の悪夢が襲いかかる。


森が作り出す闇と影の中から、まるで伝説の殺人鬼のように突如としてその姿を現した赤と青の仮面の少年が、七星龍王(カイザー)の無防備な背中に凶悪な肉切り包丁の刃を叩きつける。


『うおおおおおおおっ!!』


鋼鉄に包まれ、常『人』とは比べ物にならない防御力を持つとはいえ、元『人造勇者』の情け容赦ない必殺の一撃である。


七星龍王(X-カイザー)の背中はぱっくりと裂け、そこから緑色の血飛沫が噴水のように噴き出す。


「ロムさんが手強いから集中したくなるのはわかるけどね、僕は君が無視してやり過ごせるほど弱くないよ。と、いうか、四郎の分だけでも腸が煮えくりかえっているのに、ロムさんにもずいぶんさんざんやってくれたね。四郎を返してもらわないといけないから、今すぐは殺さないけど、絶対ただではすまさない・・かかって来い、『人造勇神』!!」


士郎の頼もしい咆哮を聞いたロムは脂汗を顔から流しながらも満足気にニヤリと笑って見せ、そのままその場を離れていくとフレイヤ達が横たわっている場所まで辿りついて、ランの身体を下す。


そして、痛む身体を引き摺るようにして再び戦場へと戻って行こうとする。


「待ってください!!」


かわいらしい少女の声に一瞬振り返りかけたロムだったが、すぐにその声の主が誰かわかると足を速めてその場を立ち去ろうとする。


「ちょ、ちょっと待ってください!! 妹を助けていただいたお礼に回復だけでもさせてください!! 私、一応、『療術師』ですし回復しないとその腕が・・」


立ち止まることなく去って行くロムの大きな背中にかぶせるように、慌てて言葉を紡ぐのはランの双子の姉リエ。


その必死の言葉を聞いたロムは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべて、迷惑で非常に鬱陶しいという様子を微塵も隠すことなく振り返り、地面から動かぬ身体を必死に起き上がらせようとしているリエのほうに顔を向ける。


「『人』の心配よりも自分の心配をしろ。それに俺に術をかける余力があるなら、おまえの仲間達にしてやるがいい」


「いえ、私達なら大丈夫・・というか、旅団の隊長代理兼、この旅団のメイン『療術師』プライドにかけて、他のメンバーの回復は私がします。オースティンさん、あなたはリエの『回復術』を受けるべきだわ」


断るロムに対し、ふらふらしながらも立ち上がってキッと強い意志に満ちた視線を向けるのはハイエルフ族の少女フレイヤ。


彼女は横で倒れているメイリンとジャンヌにそのまま近づいて早速『回復術』をかけながらロムに語りかけるが、ロムは首を横に振ってみせる。


「悪いが、俺の意地にかけてもそれはできん。『なぜ?』とか言ってる時点で、おまえらとは折り合えない。そして、それは俺の友人達もそうだろう。きっと俺の事をバカなやつだなとは言うだろうが、決して奴らは笑わないだろうよ。じゃあな、今度は助けないぜ、悪いが後の力は友人の大事な家族を救うために使わせてもらう」


そう言ったロムは懐から取り出した中身が白い液体が入った薬瓶を取り出すと、蓋を取って一気に飲み干す。


そして、骨まで見えている左腕をぐっとフレイヤ達に見せるように突き出して見せると、その傷がみるみる塞がっていく、そればかりではない、それ以外の傷もフレイヤ達が唖然として見守っているうちに消えていき、気がついた時にはロムの身体に傷らしい傷は見えなくなっていた。


「ま、まさか、それ『神秘薬』」


「・・ど、どうして? 中央庁直轄の私達でも手に入れられない代物なのに・・」


呻くように呟くフレイヤやリエの姿を見たロムの脳裏に、過去の苦い思い出が蘇る。





(めぐんであげようか? 『どれいしゅぞく』の貧乏人には買えない、高いものなんだけどねえ)


(ちょっと、ゴキブリにあげないでよ、もったいないよ)


(見せただけ~、それにこいつもうすぐ死にそうだし、あげても意味ないでしょ)


(な~んだ、あっははははははは)


(うふふふふふふふふ)




疲れたように首を横に振ってその苦い思い出を振り払ったロムは、どこか寂しそうな表情でフレイヤ達を見つめて口を開く。


「見ての通り、俺を回復してもらう必要はない、いや、なくなったというべきか・・言っておくが恵んでもらったわけではないぞ、これは自ら取ってきた材料で我が真友が俺の為に作ってくれたものだ」


そう言って空になった薬瓶をその手の中で粉々に握りつぶし地面へと落とし、今度こそ振り返ることなく自らの戦場へと舞い戻って行く。


自分達のいる場所の少し先のほうで激しい戦闘が繰り広げている戦場へと真っすぐに向かっていくロムの後ろ姿を、嘆息しながら見送ったフレイヤは一回の回復術では回復しきれずに力なく地面に横たわったままとなっている友人達を治療しようと視線を横へと向けようとしたのだが、そのとき、自分の横に立つ新人姉妹の顔が視界に入る。


短い付き合いではあるが、見たことがないほど狼狽し困惑しきっているその2人の横顔がふと気になり、フレイヤは2人に声をかける。


「どうしたの? リエもランも?」


「あ、いえ、それがその・・」


声を掛けられてハッと我に返った2人だったが、2人して顔を見合わせるとますます困惑の色を強めていく。


その姿に何かを感じたフレイヤは、一瞬問いかけようかどうしようかと迷ったが今後のことを考えて思い切って口を開く。


「ひょっとして、あの彼が私達に怒りを向ける原因を知ってるの?」


「どういえばいいんでしょう・・」


フレイヤの問いかけにしばらくどう答えた者かと逡巡していた2人だったが、やがて姉のリエがその心の内を口にする。


「・・情けないことなんですが、私達もわからないんです。多分、その原因は私達にあると思うんですけど、思いだせなくて・・」


「じゃあ、やっぱり姉さんもそう感じていたんだ・・あの『人』のあの強い意思を秘めた『目』、私も見たことあるって思ってた。でも、どこでなのかさっぱり思い出せないのよ」



フレイヤの前で2人とも途方に暮れたような表情で悩み続けている。


しばしの間、そんな2人の姿を見つめていたフレイヤだったが、溜息を一つ吐き出すと表情を引き締めなおし地面で横たわるメイリンとジャンヌの治療を再開しながら、2人に声をかける。


「わかった、とりあえず、そのことについては後でゆっくり話し合いましょう。とりあえず、現状をなんとかしないとね。幸い、敵は彼らが相手をしてくれているし、その間に態勢をもう一度立て直すわよ。多分、司令官や紗羅達もすぐ側まで来ているはずだし、私達は私達のできることをしないとね。メイリンとジャンヌの治療は私でするから、リエはあっちでのびているバーンのところに行って治療してあげて。ランはリエについて行って護衛をお願い。あなた確か素手でも戦えたわよね?」


「大丈夫です。対『害獣』用の格闘術も会得しています」


フレイヤの問い掛けに頼もしくこっくりと頷いて見せるランの姿に頷きを返したフレイヤは、そのままリエに視線を移す。


「じゃあ、リエ、お願いするわね」


「はい、任せてください。行くわよ、ラン」


「うん」


雑草が生い茂り足場の悪い森の中を苦にするようすもなく走りさって行く2人の姉妹の姿を、実の姉のような温かい視線で見送ったフレイヤだったが、彼女達に背を向けてメイリン達の治療に入ると、途端にその表情を曇らせる。


あの姉妹同様に、ロスタム・オースティンという少年が、叩きつけるようにこちらに向けてきた激しい憎悪と憤怒がやはり気になっていたのだ。


自分達はこの対『人造勇神』作戦で、彼と顔を合わせるまではほとんど面識がなかった間柄だ。


一応同じ学校に通ってはいるが、彼とはクラスは違うし彼は部活や生徒会などにも入っているわけではないため、顔を合わせることなどほとんどない・・まあ廊下ですれ違ったことは何度かあるだろうが。


それにしてもあれほど激しい感情を持たせるような関わりが今まであったとはとても思えない、何よりも、ついこの間中央庁舎の作戦会議室で顔を合わせたときにはそんな素振りは全くなかった。


と、いうことはあれ以降で変わった何かで、彼の感情が激変したと考えるのが自然だった。


あのとき以降で変わったことと言えば2つ。


1つは、副隊長の龍乃宮 剣児の離脱。


しかし、彼は剣児とも顔を合わせていたが、彼と短い会話を交えていたとき憎悪も憤怒も見せなかった。


そうなるともうあと1つのほうになる。


その考えにいたり、深い溜息をフレイヤを吐きだしたとき、その胸の内を代弁するかのように地面に寝転がったままのメイリンが口を開く。


「やっぱ、あの子達と何かあったと考えるのが自然よね・・」


「メイリン・・ちょっと、発言には気をつけて、あの子達に聞こえちゃうわ」


不用意なメイリンの発言に、フレイヤは渋面を作って見せるが、メイリンは何とも言えない苦笑を浮かべてフレイヤを見返す。


「ここからだと聞こえないわよ。それに聞こえたとしてもいずれはあの子達と話し合わないといけない内容だしね」


「それはそうだけど・・」


「それよりも、いまさっき思い出したんだけど、あのロスタム・オースティンって以前は城砦都市『通転核』に住んでいたって話を聞いたことがあるのよね。多分、あの子達とはその時に何かあったんじゃないかしら?」


真剣な表情で自分の考えを言葉にするメイリンに、フレイヤはゆっくりと首を縦に振る。


「それについては異論はないわ。多分、きっとそうなんだろうけど・・本人達は思い出せないみたいだし、オースティンさんに直接聞いても絶対答えてはくれないわよね・・」


「と、なると、やっぱり・・事情を知っていそうな第三者に聞くしかないわよねえ」


「そうね・・で、それに該当する『人』って、それほど数多くないわけだけど」


「彼しかいないわよねえ・・」


2人はこっくりと頷きあい、ある1人の人物の名前を口に出す。


「「宿難(すくな) 連夜(れんや)くんに会いに行くしかない」」


あらかた治療が終わりむっくりと起き上がったメイリンは、ちょっと離れたところでバーンの治療を行っている白い髪の双子の姉妹と、さらに離れたところで激闘を繰り広げている七星龍王(X-カイザー)とバグベア族の少年達の姿を交互に見つめたあと、苦笑を浮かべて目の前のフレイヤに視線を移す。


「とりあえず、まずはこの戦いを終わらせないとね」


「そうね・・まずはこれが終わってからね。は~~、ほんと隊長代理なんてやるもんじゃないわ、気苦労ばっかりでなんにもいいことないんだから」


「あははは、でもさ、私達も手伝うから、『とりあえず、今日を乗り切ろう。明日のことは明日考えよう!』・・って、剣児くんなら言うと思う」


「ぷ、確かに」


ほんの少しの間、表情を緩めて笑い合う少女達。


しかし、すぐに表情を引き締めて頷き合うと自分達の成すべきことを果たすために、それぞれの作業へと移っていく。


激闘はまだ続き、決着はまだつかない。


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