Act.39 『狂気と侠気と』
絶叫しながら吹き飛ばされていく七星龍王の姿を確認しようともせずにそのまま背を向けた野獣は、地面にへたり込む2人の姉妹を素早く小脇に抱え上げて、バーン達の元へと連れて行く。
「リエッ!! ランッ!! よかった、よかったわよおおお!!」
「「メイリンさん!!」」
バーン達の元に辿りついた野獣が2人を地面にそっと下ろすと、そこに涙でぐしゃぐしゃになった顔を隠そうともせずにメイリンが駆け寄ってきて抱きしめる。
2人もまた涙で顔を濡らしながら、優しい先輩に抱きついておいおいと泣き始めるのだった。
だが、そんな3人を見つめる野獣の目はどこか困惑の色をたたえ、やがてそっと溜息を吐き出して一人呟く。
「咄嗟だったとはいえ、よりにもよってこいつらを助けることになるとは・・これを連夜に知られたら、『またお人好しの悪い癖が出た!!』って怒られるんだろうなあ・・やれやれ」
そのまま表情を消してなんとも言えない微妙な雰囲気で3人の姿を見つめていた野獣に、メイリンの治療でようやくなんとか立ち上がれるようになったバーンが近づいて来て声をかける。
「すまん、助かった。たしか、ロスタム・オースティンくんだったか? 宿難の友達だったと記憶しているが」
明らかにほっとした表情で話しかけるバーンだったが、肝心の野獣 バグベア族の闘士ロムは、無表情のまま厳しい視線をバーンに向ける。
「礼など不要。結果的にそうなっただけで、俺は俺の中の侠義に従ったにすぎん。それに俺達は俺達で奴に用がある、それだけだ。士郎、スカサハ!!」
そう言ってぷいっとバーンから視線を外したロムは、自分が連れてきた仲間達の姿を探して視線をさまよわせる。
すると、ぐったりしているハイエルフの少女 フレイヤを背中におぶった合成種族の少年 瀧川 士郎と、ロムの大親友である宿難 連夜の妹で銀髪の美少女 スカサハ・スクナーが小走りでこちらに駆け寄ってきた。
「すいません、ロムさん。フレイヤさんを運搬するのに手間取っちゃって遅れてしまいました、申し訳ないです」
「違います、士郎のせいじゃないんです。本当にごめんなさい、私があまり『回復術』が得意じゃないばっかりに、治療に手間取っちゃったから・・」
口々に謝ってくる2人の姿に、ロムはバーン達に見せていたのとは全く違う温かな笑顔を浮かべて2人に視線を向ける。
「気にしなくていいさ、大事には至らなかったし、大事なのはこれからだしな。それよりも、すぐ側に奴がいる。仕掛けるから2人とも手を貸してくれ」
「「はい!!」」
そのロムの言葉を聞いた2人は、頬を紅潮させ決意漲る表情で力強く頷いて見せる。
そして、士郎はその後、背中におぶさっていたフレイヤをそっと地面に下ろすと、背中に両手を回して大きな肉切り包丁と赤と青に彩られた仮面を取り出すと、静かにそれらを身に着けて戦闘態勢へと入る。
それを見たスカサハも腰にさしている2本の小剣を引き抜いて戦闘態勢に入ろうとするが、ロムはその2本の小剣を無言で取り上げると首を横に振ってみせる。
「ちょ、ロムさん、何をなさるんですの? それは私の・・」
「スカサハ、お前の役目はそれじゃない。お前はお前の役目を果たせ」
「そんな!! また私に後方支援をしろって言うことですの!?」
ロムの言葉が納得できないスカサハは、ロムの逞しい腕にすがりついて抗議するが、ロムはニヤリと笑みを浮かべると困惑するスカサハに視線を向ける。
「いいや、どちらかと言えばおまえが一番危険だ、スカサハ」
「ヘ!?」
「連夜の言葉をそのまま伝えるぞ、スカサハ。よく聞くんだ」
「お、お兄様の!?」
「『勇者の天敵である君の『力』で士郎の弟を助けてやってくれ。多分、それができるのは君だけだ。『剣風刃雷』でも、詩織さんでも、凱おじさんでも、蒼樹や紗羅でも恐らく無理、彼らが先に出会ってしまったらきっと助け出すことなく倒してしまうだろう。でも、運良く奴が生きている間に君達が出会うことができたのなら、是非とも頼む。君にしかできない、君が持って生まれてきたその能力でしか、助け出すことはできないだろうから』・・だとさ。おまえの兄貴はなかなかキツイ注文を出すな」
呆気に取られた表情でロムの言葉を聞いていたスカサハだったが、やがて表情を引き締めるとこっくりと頷いて見せる。
その様子を頼もしげに見つめていたロムは、自身もスカサハに頷き返して見せて口を開く。
「チャンスは俺と士郎で作る。だから、あとは任せるぞ、スカサハ」
スカサハから奪い取った2本の小剣を慣れた様子で軽く振って見せて呟くロム、そして、そんなロムの大きな身体の横から、ひょこっと仮面をかぶった顔を出した士郎がぐっと握った拳をスカサハに突きつけて見せる。
2人がそれぞれの態度で自分に『信』を置くと示してくれたことに対し、スカサハも細く柔らかそうな腕と拳を突き出して応える。
3人はもう一度自分達の成すべきことを心に刻みこんで頷きあうと、森の奥で態勢を立て直しつつある七星龍王に向かって歩き始める。
目的は勿論ただ一つ、七星龍王の体内に取り込まれた元『人造勇神』タイプゼロフォーの『メインフレーム』で、士郎の弟にあたる人物 瀧川 四郎の奪回であった。
Act.39 『狂気と侠気と』
スズメバチ型のゴーレムとの死闘の後、クリスの起こした紫煙のおかげで敵の居場所を知ることができたロム達は、倉庫の守護をタスク達に任せてこちらにやって来たのであった。
今回の作戦の立案者である連夜は、この事態・・最後の『人造勇神』タイプゼロフォー、現在の『人造神帝 七星龍王』が自ら現れる確率は低いとしながらも、もし万が一現れてしまった場合、圧倒的な中央庁の戦闘力の前に瞬殺されてしまい、士郎の弟を見殺しにしてしまうことになりかねないと危惧し、密にロムに奪回計画を授けていたのであったが・・
「まさか、戦力的に圧倒しているはずの中央庁側がこれほど追い詰められているとは・・流石の連夜も想像してなかっただろうな」
苦笑する肉食獣とも言うべき笑みを浮かべて呟きながら、ロムはゆっくりと己の戦場へと向かって行く。
相手の戦力はほとんど未知数、下手をすれば『害獣』よりも厄介極まりない相手だと言うのに、不思議とロムの心は落ち着いていた。
『任せたよ、ロム』
彼の掛け替えのない『真友』の信頼に満ちた声が脳裏に響く。
(任せろ、連夜。おまえの大事な『右腕』の弟は、俺が必ず助け出してやる!!)
心の中で気合いをこめて返事を返したロムは、小剣を握る両拳に力をぐっと込めて走り出そうとしたが、ちょうどそのタイミングを見計らっていたかのように声を掛けられて思わず振り返る。
すると、そこには白い甲冑姿のバーンに支えられて立つ、傭兵旅団『剣風刃雷』の隊長代理であるハイエルフ族の少女フレイヤの姿が。
「ま、待ってください!! あなた達だけでは危険です。我々も攻撃に参加します」
「断る」
即答だった。
フレイヤの言葉が終わった瞬間間髪入れずにロムの口から出た協力否定の言葉に、旅団側のメンバーはもちろんであるが、ロムのすぐ側でそれを聞いていた士郎とスカサハも思わずあんぐりと口を開けてロムを見つめ返す。
士郎とスカサハはロムと知り合って間もなく、付き合いとしては本当にごく短い間しか彼のことを見ていないが、その短い間に彼がここまで敵意剝き出しで話をする様子を見たことはただの一度もない。
2人が持つロムの印象は、穏やかで比較的口数が少ないが、信義に厚く侠義を厳しく守り、女子供や年寄といった弱者に対して非常に優しい頼りになるアニキ分で、『人』の話を頭ごなしに否定したりせず相手の話を最後まで聞いて判断する人物であったはずなのだが・・
今日の彼は・・いや、この旅団の面々と話をする時の彼の様子はかなり厳しい、いや、厳しすぎる気がする。
しばし、唖然としてロムの否定の言葉を聞いていたフレイヤであったが、すぐに表情を引き締めるとロムに猛然と食ってかかる。
「ちょ、ちょっと待ってください。助けてくださったことには感謝していますが、一応この戦場は我々中央庁の者が預かっているのです。あなたが対『人造勇神』作戦に関わっていることは承知しておりますが、戦闘に関することまで許可はされていないはず!! おとなしく我々の指示に従ってください!!」
「断るといったぞ、『剣風刃雷』。俺達とお前達の目的ははっきり違う。お前達の目的は奴の殲滅だろうが、俺達が目的を達成するためにははっきり言ってそれは非常に都合が悪い。だが、お前達にはお前達の都合というものがあるだろう、だから、お前達はお前達で好きにしたらいい。俺達ごと奴を葬り去るというならそうすればいいだろう、お前達の得意技だろうからな。だが、俺達はそう簡単にはやられんし、俺達は俺達で好きにさせてもらう。そして、必ず、俺達の目的を達成させる。お前達はお前達のしたいように勝手にしろ、いつも通りにな。しかし、覚えておけよ・・いつもいつも一方的に力づくで『人』を蹂躙できると思ったら・・大間違いなんだよ!!」
小剣の切っ先をフレイヤ達に真っ直ぐに向け、怒りと憎しみに満ちた表情で断言して見せたロムは、くるりとフレイヤ達に背を向け今度こそ七星龍王へと向かって行く。
士郎とスカサハは、そんなロムの様子を呆気に取られて見つめ続けていたが、やがて顔を見合せて肩をすくめて見せると、ロムと同じようにくるっとフレイヤ達に背を向け急いで走り出しロムの横に追いつく。
ロムの横を疾駆しながらそっと2人が真ん中を走る年長者の顔を覗き込むと、そこには非常に後悔しまくっているとわかる表情を浮かべたロムの姿が。
「あ~~、やっちまった。久しぶりにキレちまったよ。自分では忘れていた、もう過去のことで自分の中で決着をつけていたと思っていたんだが・・覚えているものだなあ。2人ともスマン。あいつらの援護は恐らく受けられない」
片手で拝むようにして、左右の士郎とスカサハにぺこぺこ謝るロムからは、先程の凄まじいばかりの怒気や憎悪はもう感じられない。
「あ、あの『人』達と過去に何かあったんですか?」
「まあ、奴らのごく一部とな。ちょっとそこだけは許すわけにはいかないところなんだ、勘弁してくれ。俺一人の問題じゃない。俺や俺の嫁さんや、そして、おまえらの大事な『人』に関わることだから」
「連夜さんと!?」
「お兄様とですか!?」
ロムの思いもかけぬ答えに2人は再び顔を見合わせてしばし考え込んでいたが、不意に顔をあげるとどこかすっきりした表情でロムに頷いて見せる。
「わかりました、そういうことなら僕らとしても異存はありません。それにロムさんが仰っていた通り、あの『人』達の力を借りてしまうと四郎を助け出す前に倒してしまいそうです」
「そうね、私も士郎と同感だわ。それにお兄様に関わることで、ロムさんが援護を受けないというのなら、恐らくここにお兄様がいたとしても同じように『援護を受けない』と言っていたと思います」
「本当にスマンな、2人とも。出来の悪いリーダーで本当に申し訳ないが・・力を貸してくれ、頼む!!」
「「了解です!!」」
もう一度ぺこりと2人に頭を下げて見せたロムは、2人の頼もしい返事を聞くやいなや急激に走る速度を早めると、額から流れる緑色の血を拭き取ろうともせずにこちらを睨みつけて立つ七星龍王へと肉薄する。
「やってくれたなああああああっ、下等生物がああああああっ!!」
「ヴァルヴァルヴァルヴァルウウウウウウウッ!!」
2人の影がほぼ同時に相手の顔面めがけて拳を放つ。
それは傍で見ているとまるでストップモーションの動画を見ているような緩慢さに映っているが、その実、まだ映像としては拳が当たっていないというのに、凄まじい打撃音が森の中に何発も何発も響き渡る。
その目に見えない攻防はごく短時間の間であったが、それでもその短時間の間に見る見る顔を腫らしていくロムに対し、半分もダメージを食らっていないのか非常に奇麗な顔のままの七星龍王。
第三者からすれば明らかに攻防の趨勢が見えていた・・かに思えたのだが。
「ぐはああっ!!」
深々と腹にめり込み突き刺さった拳の前に思わず前のめりになり呻き声をあげるのは、あろうことか奇麗な顔のままの七星龍王。
「な、なぜだ・・僕の『Jの黄金の右腕』を何発も食らっているはずなのに、何故倒れない!?」
たまらず腹を押さえながらふらふらとよろめいた七星龍王は、すぐ側の大木に片手を当てて身体を支えながら、まるで化け物でもみるかのような表情で目の前に仁王立ちするロムを見つめる。
「元奴隷種族のド根性を舐めるんじゃねえっ!! 上級魔族の肉の盾になる為だけに生み出された俺達だ、その程度の拳で倒れるわけねえだろうが!!」
すでに顔面は見る影もなく真っ赤に腫れ上がっていたが、七星龍王と違い、よろめく様子もなくしっかりと大地に立ち尽くすロム。
手にした小剣のナックルガードを相手の緑色の鮮血に染め、牙を剝き出しにし、野獣と化して森に吠える。
「おまえこそ・・おまえこそ僕を舐めるなよ、奴隷種族!! 超技術『超加速』が作りだす時間外の空間『ゼロの領域』・・その時間の止まった世界で受けてみるかゼロナインの最終奥義『王者Jの黄金の旋風』を!! 『超加速』 『始動』!!」
常人には視認できない凄まじいスピードの世界に突入した七星龍王は、その狂気をはらんだ拳を目の前で仁王立ちして構えたままのロムへと叩きこむ。
「喰らえ!! 最終奥義『王者Jの黄金の旋風』!!」
旋風を巻き起こし、突き抜けるようにロムへと放たれた七星龍王の必殺の拳。
だがその拳はロムへと届くことなく、届いたのはわずかな風と緑色の大量の血液のみ。
顔面に大量の血液を浴びせかけられたロムは、何が起こったのかわからず呆然としている七星龍王に、ニヤリと笑いかける。
「おいおい、誰が俺一人でおまえとタイマンを張るなんて言った? おまえの自慢の右腕なら、俺の仲間がそこに持っているから返してもらったらどうだ? ん?」
「み、右腕?」
そう言って自分の拳を突き出しているはずの右腕を改めてみた七星龍王は、自分の肘から先が完全になくなっていることに初めて気づき呆然とした表情のまま、ゆっくりと顔を後ろへと向ける。
すると、そこには赤と青に彩られた仮面をかぶった少年が立っていて、これみよがしに主をなくした片腕を七星龍王に見せつけた後、ぽいっと後方へ無造作にそれを投げ捨ててしまう。
「ぐ・・ぐあああああああああっ!! き、貴様、『天竜八部』!!」
「ようやく気がついてくれたね。このまま無視され続けたらどうしようかと思ったよ」
大して面白くもなさそうに呟いた士郎は、緑色の血に濡れた長方形型の肉切り包丁をゆっくりと構えると、仮面の目にあたる部分の奥底に虚無の色をにじませてじっと七星龍王を見つめる。
「さてと、知覚してもらったことだし、この前の続きと行こうか。言っておくけど今度は逃がさない。珍しいことなんだけど、正直僕はこれ以上ないくらいに怒っているんだ。僕の身体の一部から生まれた弟妹達の中で、四郎は特に気弱で優しい子でね。自分のことよりも『人』のことばかり優先しちゃう本当に損な性分の子なんだよ。いっつも他の子供達におもちゃやお菓子を譲ってあげてさ、いじらしいくらいにいい子なんだ。まあ、君にしてみればいいカモだったのかもしれないけど・・そういうの本当にムカツクんだよね。言っておくけど・・手加減する気全然これっぽっちもないから、覚悟しなよ」
そう言ってゆらりと無造作に七星龍王に近づいた士郎は、その手に持った肉切り包丁をなんの予備動作もなく振ってみせる。
士郎が放つとてつもない殺気に背筋を凍らせた七星龍王は、慌ててその虚無の刃から逃れようとするが、緩慢に見えるその動作から何故か逃れることができず、肉切り包丁はまるで大根でも切り落とすかのように、すっぱりと七星龍王の太ももから下を切り落としてしまう。
「ぎゃ・・ギャアアアアアアアアアッ!! キサッ・・キッサマアアアアアアアアッ!!」
濃緑色の血液を大量にぶちまけながら、バランスを崩して地面に倒れ込んだ七星龍王は、そのまま苦しみ悶えながら地面を転がって行く。
「おいおい、士郎。頼むから即殺はやめてくれよな。俺、顔面こんなにしながらこいつを弱らせるようにめんどくさい攻撃してるんだからさ」
一片の容赦もない攻撃を放つ士郎に対し、真っ赤に腫らした顔で呆れ果てた表情を作って見つめるロム。
そのロムの言葉にハッと我に返った士郎は、恥ずかしそうに頭をぽりぽりと詫びながら謝ってみせるのだった。
「あ、そうでした。先に四郎を助けないといけないんでした。すいません、怒りのあまりつい」
「頼むぜ、おまえの弟だろ」
「そ、その、片腕、片足一本ずつ切り落としたことで大人しくなったわけですし、結果おーらいということで」
「まあいいけどな・・さて、それじゃあ、そろそろ返してもらおうか、おまえが奪ったものを」
そう言ってギロリと地面を転がる七星龍王に射抜くような視線を向けたロムは、士郎と共にまだ動けないでいる七星龍王へとゆっくり近づいて行く。
だが、苦痛に顔を歪めながらも七星龍王の表情に絶望の色はなく、むしろより強い敵意と殺意を込めて2人を睨み返す。
「この程度で僕の動きを止められたと思うなよ・・ゼロナインの能力データについてはすでにインプット済み。この身体もそろそろ限界が来ている頃だったし、それほど惜しいわけでもない。『幻鎧脱着』!!」
七星龍王が絶叫すると共に、黒い光があたりを一瞬闇に包み込む。
ロムと士郎は慌てて防御の構えを取るが、闇が晴れたあと周囲を見渡すと、地面には片腕と片足を切り落とされたミイラのような死体が転がるのみ。
「しまった、逃げられたか!?」
「逃げるものか!! 『異界の力』を垂れ流す龍乃宮 詩織や、そこにいる麒麟種の小娘どもを殺る前に、まず貴様らを血祭りにあげてやる!!」
「ロムさん、士郎、後ろよ!!」
スカサハの声に2人が慌てて振り返ると、黒髪の麗人の姿にもどった七星龍王の右手がロム達の前で一瞬で変形。
まるで回転式の拳銃の銃身部分のように変形したその右手の肘の部分が、七星龍王の声に応えて撃鉄のように跳ね上がる。
そして、七星龍王はそのままその右手を、己の左手の掌に叩きつける。
「回転式変異機構籠手 変異準備!! 銃弾選択 超機神!! 変異銃撃!!」
振り返った2人の目の前で、黒い光に包まれた七星龍王が、気合いの入った声と共に自らを包み込んでいた闇を振り払うと、そこには身体の中心線を境にして鮮やかな赤と青に彩られた鋼のボディを持つ戦士の姿があった。
その姿を見た、スカサハと士郎は思わず身体を硬直させる。
「あ、あれ・・変身した、士郎と同じ姿じゃないの・・」
「うん・・『人造勇神』ゼロフォーは僕をモデルに作られたから・・こいつ、とうとう四郎の能力までコピーしたのか」
なんとも言えない厳しい表情を浮かべて士郎とスカサハは新たな姿に変身した七星龍王を見つめる。
『数々の特殊能力を与えられて生み出された10体の『人造勇神』達の中で、戦闘力に特化して調整されたこのタイプゼロフォーは、純粋な戦闘能力だけならば、他の『人造勇神』の追随を許さぬ最強の実力を誇る!! もう、お遊びは終わりだ、強い『異界の力』を持つ者だけを淘汰するとは言わぬ、全員、まとめて光と散るがいい!!』
赤と青に彩られた鋼鉄のバトルスーツと仮面に身を包んだ凶悪無比な戦士が、今、戦場に新たな血風を巻き起こす。