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第1章 5.月夜の逢い引き

 


「うー、もう一杯!」

  

 あたしは、天にものぼる思いで、幸せいっぱいの声をだした。

 

ーこのワイン、おいしい!!


 ワインなんて、はじめて飲んだが、こんなにおいしいとは!

 

 この世界、けっこういいかも・・。


 あたしは、空になったワイングラスを赤メイドの前に出した。


「あ、あの、アリスさま、もうこのあたりで・・。明日はティーガーさまが、お越しになるので・・」


「なーにいってんの、まだまだ、チェックが必要なんだから、ほら!」


 あたしは、さらにワイングラスをつき出した。


「アリスさま、もう顔がまっかっかですが」

 

 青メイドが、横から手鏡を見せて言う。

 うん、たしかに。

 トマトみたいな真っ赤な顔がある。

 ・・って、これ、あたしか。


「うーい、いいからいいから」


 あたしは笑って言うと、体がふにゃっと腰からくずれた。


「ア、アリスさま」


 緑メイドが、両腕であたしをささえた。

 

ーなんか、世界がぐにゃぐにゃしてる。

 いい気持ち。

 でも、なんか、農民のみんなが造ってくれた貴重なワインを自分だけで飲むのは、あたしは、悪い気がしてきた。

 そうか、もうこのへんでいいか。


「大丈夫よ。これなら、きっと、ティーガーさまも満足するわ」


 あたしがワイングラスをテーブルにおくと、三人とも、ほっとした顔。


「あ、アリスさま」

「え?」

「カール様が、いらっしゃいました」


 青メイドが扉をさしたので、あたしは、そっちを見た。


 なるほど、ちょっと頭がクラクラするが、カール王子が歩いてくる。

 となりに、ランをつれて。


「やあ、アリス」


「こ、こんにちは・・。うーい、カールさまもいかが?」


 あたしが空のワイングラスを出すと、カールさまは、キョトンとして


「どうしたんだい? 顔がまっかじゃないか?」


「ああ、これは、お酒がおいしくてー」


 赤メイドが、ぱっとあたしの手からワイングラスを取り上げて、カールさまに


「い、いえ。アリスさまは、熱を出されてしまいまして・・」

「熱? それは、本当かい?」


「そ、そうです、だから、足もフラフラして・・」

「そうなんです、アリスさまは、演説でお疲れで」

「わたしたちが、部屋へつれていこうと・・」


 三色メイドが、ぎこちない笑みをカールさまにむける。


「なるほど、それは大変だ。では、今夜は、ゆっくりと休むのがいい」


 とカールさまは、真剣なお顔を見せる。


「じゃ、お言葉に甘えて」


 あたしと三色メイドは、なんとか笑みをつくったまま蔵を出た。


ーカールさま、あなたは、なんて単純なお方なの。


 あたしは、ひとりで大丈夫よと三色メイドにいうと、ふらつきながら階段をのぼり、なんとか寝室にたどりついた。

 そして、ドレスの下に隠した小瓶を出して、思わずふくみ笑いをした。

 じつは、蔵をでる際に、この小瓶をこっそり棚からくすねたのだ。


ーごめんなさい、最後に、これだけ。

 

 あたしは、倒れるようにベッドにあおむけになると、あの森の少女の絵が目に入った。


 そうだ、この絵のこと忘れてた。

 この世界に転生してから、なんだかとっても忙しかったから。

 この森の中で、歌っている少女。

 やっぱり、どこかで見た気が・・。

 それに、この絵のすみにいる小さな動物って、なんか黒猫に見えるんだけど。

 この前は、気がつかなかったけど。


 あたしは、ベッドから足をおろしてカーテンと大きな窓を開けると、吹き込んできた夜風の心地よさに声をあげた。

 あたしは、小瓶の蓋を開け、窓から体を乗り出すときらびやかな街の灯りがあたしを出迎えてくれた。

 

ー素敵。美しい世界。


 夜風にあたると酔いもさめてきたので、あたしは、ふうっと息をはいて蓋をしめた。

 この世界の、どこかにナナがいるのか。

 あたしは、街のむこうを見ながら考えていると、下の方から声がした。

 なんか聞き覚えのある声。

 

ーん、あれは?


 カールさまとランが、城の庭にいた。

 二人とも、あたしに背を向ける姿勢で石のベンチに座っている。

 それに、声が聞こえる距離だ。

 

「ねえ、カールさま、今日は、満月で静かな夜ですよ」


 ランが、夜空を見ながら言う。


「そうだね。ラン、ボクは君と会えるのが楽しみだったよ」


「まあ、ご冗談を」


「本当さ。それで、わざわざ今日、アリスの法案成立パーティーを切り上げて来たんだから」


 ランがうれしそうにほほえみ、王子の肩に自分の頭をのせる。


ーおやおや、お熱いですな。

 せっかく、よいがさめてきたのに、また背中がゾクゾクしてきた。

 やっぱり、もう少し飲もうかな・・。

 あたしは、小瓶に手をかけた。


「ところで、アリスのことなんだけど。なんだか、少し雰囲気が変わったような気がしない?」


「そうですか? わたしは、いつものアリスさまと変わらないようにみえましたが」


とランは、すました顔。


「うーん、そうか。でも、ちがう人に見えるような・・。最後に会った時は、すごく繊細な感じがしたから」


ーじゃあ、あたしは、繊細じゃないっていうのかい?

 あたしは、ぐっと小瓶を持つ手に力が入った。


「ご安心を。アリスさまは、私が、お守りします」


 ランが、両手を胸で合わせカールさまを見る。

 

「ああ、君がそばにいるなら、なにも心配はないよ」


 カールさまは、笑みを浮かべ、ランの額にキスをした。

 ランは、はっと体をはなし、両手で顔をおおった。

 肩を震わせている。

 泣いているのか?

 すると、ランは走り出し、城の中へ戻っていった。


 カールさまは、しばらく立ち尽くしていたが、やがて、ぴいっと口笛を吹くと、白馬がどこからかやってきた。


 こんなとこまでくるの・・。


 そして、カールさまは白馬にまたがり、颯爽と街の方へと消えていった。


ーうーん。

 ここは、やはり、御伽噺の世界なのか・・。


 あたしは、完全に酔いがふっとんだので、窓から離れようとした。


 その時。


ードン。


 背後で音がしたかと思うと、あたしは、あやうく窓から下に体がかたむいていた。


ーあぶない、下に落ちる!


 小瓶が手をはなれ、地面へと、まっさかさまに落ちていった。

 ガシャン、と小瓶が地面で割れる音が、ひびいた。

 あたしは、いそいで両手で窓のへりをつかみ、なんとかふんばった。

 

 よかった、なんとかセーフ!


 あたしは、振り向いたが、部屋にはだれもいなかった。


 夜風が強くなり、カーテンがはためいた。 

 

ーいったい、あたしを押したのはだれ・・?

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