第1章 3.神獣保護法
「わたしが、父の跡を継ぎます!」
あたしの言葉に、城の広場に集まった王族、貴族のみんなは、おどろきの顔をならべた。
「ア、アリスさま、本当に、よろしいのですか?」
最前列の、ひげのおじさまが、あたしに言う。
「ええ、よろしいですよ」
あたしは、にっこり。
王女スマイルで、かえす。
「信じられん・・」
「あの、ひっこみ思案なアリスさまが・・」
みんな、驚きの色を隠せない様子だ。
ーふっふっふっ、われながら見事な演説。
だてに、長く演劇をやってたんじゃないのよ。
あたしは、キラキラの水色のドレスに身をつつみ髪を束ねた姿で、広場中央の祭壇に立っていた。
だんだん、前世の記憶がよみがえってきた。
たぶん、本物のアリスの魂は、いま眠りについているのだろう。
あたしは、手をひろげ、胸の上においた。
だから、アリスの魂が目覚めるまでに、大事なことをすましておかなくては。
「アリスさま、なんだか、別人のようですわ」
と、次は貴婦人。
「そお? いつもの、わたしですのよ」
あたしは、髪を艶めかしくなでながら言った。
「では、諸君、聞いた通りだ!」
と、ひげのおじさま。
「アリスさまは、ベガ王さまのあとを継いでくださるとの決断をされた!」
わっ、とみんなから声があがる。
おたがいに顔を見合わせて、喜びの表情。
ーよし、このタイミングだ。
「それで、わたくしから、みなさまにお伝えしたいことがあります」
あたしが、大声で言うと、みながシンとしてあたしに注目する。
あたしは、コホンとせきばらいをして、息を大きくすったあと
「神獣保護法という、法律を作ります!」
とさけんだ。
しばらくの沈黙。
そして、また、おたがいに顔を見合わせるが、みんなこんどは、おどろきの表情。
「神獣保護法とは?」
「はい、わたしは、かながね、父の動物たちの扱いには疑問を抱いていました」
あたしは、両腕をひろげた。
「すべての生き物は、神が創られた神獣なのでのです」
みんなの視線が、あたしの手に集まっている。
「ですので、われわれは、神聖なものとして彼らに敬意を払い、保護しなければなりません!」
「そして、私たちは、森の動物たちと共存することが使命であると確信したのです!!」
「それが、この神獣保護法の真の目的です。みなさま、どうか、この法案にご賛同ください!!!」
あたしは一気に、伝えたいことを、ぜんぶ言った。
ながい沈黙。
春の風が、広場を吹きぬけた。
「なるほど・・、さすが、アリスさま」
「お父上も、きっと、お喜びになる」
ーうんうん、その調子。
しかも、リストの先頭に、黒猫を載せたし・・。
「アリスさまは、以前から、このような法案を考えておられたのですな」
ーいや、猫さがしなんだけどね。
「では、多数決を取りたいと思いますが」
あたしは、みんなの顔を見回した。
「いや、その必要は、ありません」
ひげのおじさまが、にっこり。
「?」
「満場一致です。この法案は、今、この場で採用されます!」
ーえ、本当に? こんなにあっさり?
「いや、さすが、アリス様だ」
「アリスさま、お見事ですわ」
貴婦人が拍手すると、まわりのみんなもつづいて拍手をひびかせた。
わああああああ。
広場が、拍手と歓声の波に包まれた。
「い、いや、そ、そうですわね。おほほ・・」
あたしは、なんだか、あとには引き返せないことになってしまった気がした。
ーでも、仕方ない。ナナを見つけるためだ。
たぶん、いまごろ、お腹を空かせてさみしそうに、丸くなっているのだろう。
待っててね、ナナ!
「ラン、レモネードを」
あたしは、後ろで控えていたランに言った。
「は、はい、レモンのハチミツ茶ですね?」
ーそう、それです。
あたしは、ランが運んできたレモネードをぐっと飲んだ。
でも、いきおいよく飲みすぎて、あたしは、ごほんごほんとむせた。
「大丈夫かい?」
見上げると、カールさまがいた。
広場でも、あいかわらず、白馬にまたがっている。
カールさまは、白いハンカチを、あたしにさしだしてきた。
「すごいじゃないか。皆の前で」
カールさまは、やさしげな笑みをあたしにむけて
「立派さ。キミは」
「そんなこと・・」
あたしは、白いハンカチを受け取ろうとした。
が、その時。
「こちらを、お使いください」
ランが、紫色のハンカチをさしだしてきた。
あたしはなんだか、無意識に紫色のハンカチを手にした。
そして、ランは、カールさまの手から白いハンカチを取りあげ、スタスタと広場の外に消えて行った。
あたしは、しばらく唖然としていたが、とつぜんカールさまが
「いやいや、そうか、きっと僕のハンカチが古かったんだね。ごめんよ!」
と天然たっぷりに笑いはじめた。
あたしは、内心ひきつりながらも、笑みを返した。
面白いと思った方は、
ぜひ、ブックマーク、下の評価を5つ星よろしくお願いします!
作者の、やる気につながりますので、たすかります!!