第1章 1.王女への転生
初の、長編連載です。
よろしくお願いします!
「アリス、君は、すてきだ」
ふりむくと、青い瞳の美少年がいた。
美少年は、きれいなブロンドの長い髪をもてあますようになびかせ、ほのかな香水の匂いをまとっていた。
「は、はきっ?」
あたしは、思わず奇妙な声をあげ後ずさりをすると、その拍子にぐらりと体勢を崩してしまった。
すると、美少年は、いそいであたしの手をつかみ、自分の方へとあたしを引き寄せた。
「大丈夫かい、アリス?」
ー?? なぜ、あたしの名前を知ってるの?
あたしは、視線を下にむけるとハッとした。
なんだろう。この人は、まるで御伽噺に出てくるようなキラキラにかがやくまっ白な衣装をまとい、あたしを見つめている。
「すまなかったね。どうも、僕はまだ女性の扱いになれてなくてね」
とさらにキレイな顔を、息がかかるくらいそばに近づけてきた。
あたしは、恥ずかしさのあまり目をそむけると、視線の先にある鏡に映った自分の姿におどろいた。
ーあれ、そういえば、あたしもなんかひらひらの衣装を纏っている。
真珠をちりばめたピンクのドレスと、スカート。
そして、額にはティアラ・・。
な、なにコレ?
「気分が、悪いのかい?」
「え、ええ、ちょっと疲れてて・・」
「そうか、おい、だれか、アリスを連れていってくれ」
美少年は、パチンと指をならした。
「「「はい、カールさま」」」
鏡のそばの扉のむこうから、カスタネットのような声がひびいてきた。
すると扉が開いて、あたしの前に、メイドの格好をした12.13歳くらいの少女3人が横にずらっとならんだ。
みんな、かわいい。
左から青・赤・緑。
それぞれ、三色のメイド服に身を包んでいて、とってもわかりやすい。
三人とも小さくて、お人形さんみたいだ。
三色メイドというところか。
「アリス王女さま、どうぞ、こちらへ」
赤メイドの子が言うと、青メイドがあたしの右、緑メイドがあたしの左にそれぞれ立った。
あたしが、トライアングルの真ん中におさまる感じだ。
そして、メイド三人+あたしの四人は、ゆっくりと歩きはじめた。
ここは、お城の中だ。
白い石造りの壁と石柱、高い天井に輝くシャンデリアとステンドグラス。
まるで、美しい中世ヨーロッパの建築様式そのままの光景。
思わず、うっとりと見とれてしまう。
ーん? まって。
この光景、なんか、記憶にあるぞ。
そうだ、あの絵本!
たしか、あたしは、学校の演劇の練習帰り、図書室で借りたヨーロッパの古城を舞台とした絵本を読んでいた。
腕の中に、黒猫のナナを抱えながら。
あたしが絵本の朗読を始めるとナナは気持ちよさそうに目をつむり、かくっと首をおって眠りに入る。
その寝顔が、なんとも、かわいらしい。
そして、あたしもウトウトしてがくっと頭がたれて・・。
ーとすると、これは、夢・・だよね、絶対!?
ああ、そうか、とあたしは安堵した。
じゃ、もう少しすれば、現実の世界にもどるわけだ。
ーん??
あれ、じゃあ、ナナも、この世界にいる可能性があるのかな?
でも、ナナの姿がない。
あの、黒く小さなシルエットに、いつもふりふりした可愛いしっぽ。
しかし、所詮、これは夢なのだ。
たとえば、この石柱に頭をぶつければ、次の瞬間に目が覚めてるって展開に。
ようし・・。
あたしは、安心して、えいっと石柱にヘッドバッドした。
ーごつん。
ほらね、これは夢・・って、
「いったああい!」
あたしは、痛みで声を上げ、その場にしゃがみこんだ。
メイドの3人が、目を白黒させ
「どうなさったのです? アリスさま?」
「大丈夫ですか?」
「おケガは?」
赤・青・緑の順番に声をかけてきた。
「だ、大丈夫よ、なんともない・・」
正直、コブができた。
でも、その痛みよりも、これが夢じゃないという精神的なショックのほうが、足をふらつかせた。
その時であった。
「ベガ王は、出ていけ!」
そとから、叫び声が飛び込んできたと同時に、ガシャンと窓ガラスが割れた。
床に大きな石が、転がっている。
石が、外から投げ込まれたのか。
あたしは、われた窓ごしに外を見ると、派手なオレンジ色の民族衣装をまとった男たちが、こちらをにらんでいた。
みんな、石や槍を手にして、見たことない動物にまたがっていた。
ーなに、あれは?
「スレイプ族・・」
青メイドがつぶやいた。
ースレイプ族?
「ベガ王のせいで、われわれと森の動物たちは、苦しんでいる!」
そう叫ぶと、男たちは、槍を投げてきた。
「アリスさま、キケンです! はやくこっちへ!」
緑メイドが、かばうように、あたしの前に出た。
だが、あたしは、緑メイドの腕をつかんだ。
「なにいってるの、あなたたちが、先に行きなさい!」
あたしは、三色メイドのうしろへまわり、三人の背中を押して下り階段へと進んだ。
「「「?」」」
三人とも、おどろいたようにあたしを見ている。
「アリスさま・・?」
ーあたり前じゃない。
年下の子より先に逃げるなんて、できるわけない。
あたしたちは、階段を駆け下りて行くと、外からのまぶしい光がじょじょに見えはじめた。
「ほら、早く! 出口はもうすぐよ」
あたしは、三人に大声で言うと、最後の一段を下りて出口をくぐった。
すると、その時、目の前になにかが立ちふさがった。
「ヒヒイン!」
「わっ?」
「「「わわっ?」」」
あたしと、三色メイドの四人は声をあげ、その場で尻もちをついた。
「いたた・・」
「いったい、なにが・・」
「いたっ」
「いたあい・・」
あたしたちは、手でお尻をはたきながら前を見ると、大きな白い馬が、あたしたちを見下ろしていた。
あたしたち四人とも、目を丸くした。
「アリス! さあ、早く乗って!」
カールさまと言った美少年が、白馬に乗っていた。
ーこ、この展開は・・。
「は、はい、でも・・」
あたしが、三色メイドのほうへ視線を投げると、三人は、にっこり笑い
「アリスさま、お乗りください」
「私たちは、大丈夫です」
「すぐに、追いつきます」
「・・・・!」
あたしは、メイド三人とハイタッチをして、カールさまのうしろにまたがると、白馬は声を上げ走り出した。
ーおお、なんか、カッコいい。ドキドキしてきた。
「さあ、しっかりつかまって。飛ばすよ!」
白馬は、とてつもないスピードで丘を疾走した。
今まで見ていた光景が、どんどん遠ざかっていく。
そして、大きな森が、むこうから歩いてくるように、あたしたちに迫ってきた。
だが、カールさまは、スピードをゆるめることなく森の中に飛び込むと、次々と立ちはだかる大木や枝を風のごとくかわし、あっという間に森の外に出た。
そこには、青々とした平原がひろがり、白馬は、ややスピードを落とし平原を進んでいった。
「ようし、見えてきたよ」
やがて、平原のむこうに大きな古城が姿をあらわした。
ーこれって、あの絵本に出てきたのまんまじゃない!
さっきまでいた白亜の新しい城とはちがい、赤レンガの威厳がただよう古城。
ーなんて、ロマンチック。
「ここは、僕の城さ。ここまでくれば、安心だ」
「カールさまの、お城・・」
「ふふ、そうか、アリスは、はじめてだったね。好きにしていっていいよ。なんせ、主は、僕だからね」
ちょっと、得意げなカールさま。
カールさまは、白馬から降りると、あたしに手をさしのべてくる。
いや、自分で降りれるんですけど・・。
あたしがモゴモゴしてると、カールさまの背後の扉から、だれかが出てきた。
「おお、ちょうどよかった。ラン、アリスさまを三階の大部屋へ連れていきなさい」
「はい、カールさま」
まだ、15.16歳くらいの長身の少女が、あたしににっこり微笑んだ。
あたしは、ドキッと胸が熱くなった。
さっきの3色メイドとはちがい、とても落ち着いた雰囲気の美人で、紫色のメイド服が、なんともにあっている。
「アリスさま。では、私が、ご案内します」
ランという少女が、あたしに手をさしだした。
「は、はい」
この世界では、手をにぎるのが挨拶なのだなと思い、あたしは、自分の手をランの手にかさねた。
やらわかな感触だった。
そして、あたしは、ランの手をにぎったまま、古城の中へと足を入れた。
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