キャッシュレス専門店
夜。とある繁華街の店にて……。
「ふぅー、うまかったなぁ……」
「ははは、ありがとうございます」
「はは、いや、どうも。じゃあ、お会計お願いします」
「あいよー! じゃあ、お好みの決済方法をどうぞー」
「はいはい、現金で」
「ああ、うちキャッシュレス専門なんですよ」
「え? ははは、あの、現金しか持ってきてなくて……」
「ええ!? それは困りましたね……」
「ええ、ははは。まあ、今回だけはということで、現金でよろしく……」
「だから現金使えないんですよぉ。それに特別扱いはねぇ」
「いや、え? 使えないことあるんですか? 通貨ですよ?」
「うーん、キャッシュレスなんでねぇ、クレジットカードとかでないとねぇ」
「いや、あの、今泊ってるホテルの近くだったんで、お札とまあ小銭だけ持ってけばいいかなって思って、ほら見てわかるでしょ?」
「うーん? ホームレスさん、ということがですかぁ?」
「違いますよ! 上下スウェット! ホテル泊まり! 取りに帰ればカードくらいありますよ。ちょっと待っててください」
「いやぁ、でも……そう言って逃げるでしょ?」
「逃げませんて……大体なんで完全キャッシュレス……」
「防犯面とまあお手軽さ、衛生面ですかねぇ。ほらぁ自分、ちょっと潔癖症な面があるじゃないですかぁ」
「知らねえよ!」
「店の方針に客が口を出されてもそれこそ『知らねえよ』ですがねぇ。ああ、客じゃないか。お金を払わないならね」
「いや、つい大きな声出したのは謝りますけど、違いますって……じゃあ、警察でも呼んだらいいじゃないですか。この通り、払う意思はあるんだから」
「呼んでくださいでしょう? スマホも持たざる者なんですからぁ」
「だからそれもほら、ホテルに忘れて来たんですよ……ねえ、いいでしょう? ほら、お釣りはいらないんで、なんなら有り金全部どうぞ、ほら」
「うーん、でもそれ、擦り付けてません?」
「はい? 擦り付け?」
「ゴシゴシ、ゴシゴシ、ゴシゴシとぉ! そのお札、股間に擦り付けてませんか?
したでしょ? シャワーを浴びたんだよね? じゃあその水分を取るのにちょうどいいやぁとか思って」
「しませんよ……なんですかその発想、怖い……」
「怖いのはこっちだよぉ!」
「な、なんなんですか、急に怒鳴らないでくださいよ!」
「いやね、たまにいるんですよぉそういう人……ニヤニヤ、ニヤニヤ、ニヤニヤと、どっかの店で、バイトの女の子とかを狙ってねぇ、はいどーぞポン! と汚ねぇモノを擦り付けたお札をさーあぁぁぁ! 肖像画の人の名前を呼んでシコシコ、シコシコ、シコシコォ! してたかは知らねぇけどよぉぉ!」
「いや、しませんて! そんなこと!」
「五百円玉もケツの穴の中に入れたりよぉ。ポンポン、ポンポン、ポンポン! ウミガメみてぇに出してよぉ!」
「してないっての! もういい加減にしてくださいよ! ほら、警察でも」
「ポリポリ、ポリポリ、ポリス! そう言やぁこっちが怖気づくと思ってんのか!」
「なぜポリスと……いや、別に怖気づくとかそんな」
「騒ぎを大きくして困るのはあんたもでしょう? 警察沙汰なんて会社に知れたら困るでしょうに」
「……困りませんよ別に」
「はぁ?」
「無職ですし」
「無職なんかい」
「あと、本当はカードも止められてますしね。スマホも売りましたし」
「キャッシュレスレス……」
「だいぶ前にクビにされたもんでね。おまけに借金。自殺する前にパーッとってやつですよ。で、呼んだらどうですか? 警察」
「呼べるかよ。うち違法風俗だし」
「違法かよ」
「カード情報とかも抜き取るしね」
「うわぁ、極悪」
「現金とか計算よくわからないし、この国の人間じゃないんで」
「へぇ、意外」
「ムカつくから擦り付けるしね股間」
「お前がやるのかよ」
「で、無職なんだって? 政府は何もしてくれないよねぇ。いや、ちょうどね事業広げようと思ってて人手が足りないんだけど、お、やる? いいねぇ、一緒にこの世の中を汚してやろうよ。ヌメヌメ、ヌメヌメ、ヌメヌメとさぁ」