第9話 ふわふわ×ふわふわは、最強。
「あっ、これはですね、獣人の方たちの耳や尻尾にあこがれて……」
「あはっ!あははは! お姉様、何をしているかと思ったら……! さっきまで緊張していたわたくしっておバカですわね!!」
シェリーナはケラケラと笑って、すっと手を差し出した。
「改めまして、シェリーナと申しますわ。」
「モーラです。よろしくお願いします!」
モーラはシェリーナの手を握り、2人はしっかりと感触を確かめ合った。
シェリーナは初めて人間族の手を、モーラは初めて獣人族の女性の手を、それぞれ堪能した。
「シェリーナさん、アルヴェル様の手より小さくて手のひらもなんだか柔らかいですね。」
「女の子はだいたいそうよー。お兄様は剣術も得意だから、ちょっと固いのかも。モーラさんは、本当にすべすべね。シルク…は大げさかしら?もっとよく見せて。ふむふむ……。」
モーラは、実家にいた頃の継母の娘である妹姫と、こんな風に手を取り合っておしゃべりすることなど一度もなかった。
妹ができた、と聞いた時は無条件に嬉しく感じ、会いたいと父に懇願したこともある。
妹が物心ついてから初めて会った時、もう既に嫌われていたんだっけ。
「モーラさん、着ているお洋服を見せてもらってもいいかしら?」
「? どうぞ~。」
目の前の彼女は、モーラを嫌うこともなく純粋に興味をぶつけてくる。姉妹ってこういうものなのかな、と胸が温かくなった。
椅子から立ち上がって後ろを向いたり横を向いたり、シェリーナにくるくると回されながらひとしきり観察された。
「これは……」
「こ、これは…?」
「モーラさんにぜんっぜん似合っていませんわ!!!わたくしであればモーラさんの美しさをもっともっと引き出すお洋服を作れますわ!!ぜひわたくしに作らせてくださいな!!」
聞くと、シェリーナは服飾に造詣が深く、ハバルナ王国では名の知れたデザイナーだという。モーラがこの城に嫁いできた時に不在だったのも、他の獣人族がいる国に視察に行っていたかららしい。
「それに、モーラさんに似合うお耳と尻尾もわたくしが用意しますわ。」
シェリーナはモーラの付け耳と尻尾姿をとても気に入ったが、モーラに似合う耳と尾はこれではない!と確信していた。
「今身に着けているお耳と尻尾の姿は、アルヴェルお兄様にはまだ見せていない……のですわよね。」
「はい、これは今日初めて付けてみたものですよ。」
「ふふふ、私が絶対にお二人を満足させてみせますわ……。」
シェリーナは深く思案していた。
獣人の服は作り慣れている。しかし人間の衣服を作るのは初めてだ。
それに、モーラは獣人姿にあこがれがある。
それならば……。
―――後日、国王夫妻の寝室にて。
モーラはドキドキしながらアルヴェルが寝室に来るのを待っていた。
日中、シェリーナが出来上がった服と耳、尻尾を持ってやって来た。今、それを身に着けてアルヴェルを待っているのだ。
(私はすっごく気に入ってるんだけど、アルヴェル様はどうかな……。)
ややあって、アルヴェルの足音が部屋の外から聞こえてきた。
アルヴェルが扉を開ける。
「モーラ様――……」
アルヴェルが絵に描いたように目をまん丸にしてモーラを見つめる。
「どうですか…?」
「さい…最高です!!な、なんで…いや、どうし…どこで!!?」
落ち着いて、とモーラに言われ、アルヴェルは落ち着くように努めるがしきりに視線をあちらこちらにやっている。
アルヴェルの耳と違って、モーラの頭に付いているのは…兎の耳。ピンと伸び切ってはいなくて、うっすらとピンクみがある色。
尻尾は…たんぽぽの綿毛のような丸い小さなふわふわがモーラの腰元に付いている。
「シェリーナさんが作ってくれたんです。お洋服も…人間族用、と言って、それでもフェイクファーをあしらった可愛いものにしてくれて…!あ、もちろん、寝る時にしか着れないんですけど……。」
「よかった!他の者には見られていないんですね!?」
「え、ええ、シェリーナさんしか見てないですけど…」
「かわ、……う、美しすぎて他の者が見たら大変です!!私が唯一見られるんですね……!!」
喜んでもらえてよかった、とモーラは胸を撫でおろした。
アルヴェルは、モーラが初めてアルヴェルに触れた時のように、優しく優しくモーラの耳と尻尾を堪能した。
その日、2人はお互いのふわふわに包まれながら幸せな眠りについた。