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第5話 溺愛されて、幸せです

 


 モーラの真剣な顔にアルヴェルは一瞬驚いた。

 緊張しながらもはっきりと考えを伝えるモーラはあの日、一生懸命に花の説明をする横顔を思い出させた。


「……明日の朝、起きたら魔法薬の効果が切れていますから……。その時のお楽しみ、という事で、よいですか?少し、恥ずかしい…ので」


 長年の思い人にこんなにまっすぐに想いを伝えられると、一国の王もたじたじだ。


「それは……ロマンチック、ですね」


 2人は目を合わせて笑い、しばらくの間とりとめのない雑談を楽しんだ。


(アルヴェル様の獣人の姿、とっても楽しみ…)


 まどろみの後、モーラとアルヴェルは眠りに落ちた。




















 朝の光が心地よくカーテンから漏れ出ている。

 眠りから覚めたモーラの寝ぼけた脳は手のひらに何か触り慣れないものを触っている事に気付く。


(……ん…?なんだか……)

「……様!モーラ様!」

「はっ!?」

「それは私の尻尾です!!」


 アルヴェルのふわふわの尻尾をやんわりと握っていたようだ。


「…ふわふわ……!…あっ、すみません!」


 ぴくぴく、と尻尾が動いた。咄嗟に手を離したが、フワフワの触り心地が名残惜しい。


「……」


 モーラは期待のまなざしをアルヴェルの顔に向けた。銀色に艶めく毛並みの狼の獣人が、そこにはいた。

 アルヴェルは照れたように視線を下げて、モーラの言葉を待った。


「アルヴェル様、って感じですね」


 モーラのまっすぐで飾らない微笑みがアルヴェルを包んだ。


「……丹念に手入れしてあります。よ、よければ、どうぞ。」


 アルヴェルは尾と、頭、腕をモーラの方に差し出した。


「さ、触ってもいいのですか…?」

「もちろん。モーラ様に気に入ってもらえるとよいのですが。」


 そろり……とアルヴェルが差し出した腕に触れてみる。

 しっかりとした骨、筋肉。毛並みの上から軽く触れただけで分かる。手も大きい。爪は短く整えてあり、肉球が手のひらにあった。

 形容しがたい独特の触り心地はモーラを夢中にさせる。遠慮がちに、少し押してみる。ぷにぷに!!


 アルヴェルを見上げると、


「そんなに面白いですか?」


 照れ笑いする口元に、ちらりと犬歯が見えた。


「かわ……」


 は、と思ってモーラは口をつぐんだ。国王であり、男性。かわいい、と言ったら失礼ではないだろうか。


「ん?今、なんて?」


 アルヴェルはわざとらしく意地悪げに聞く。

 何を言ったかばれているようだ。ならば言ってしまおう。


「かわいい……です。すごくかわいいです!」

「ありがとうございます。」


 アルヴェルがにこっと笑って、尻尾がぱしぱしとベッドを叩いている。

 本当に喜んでいるようだ。


「かわいいーー…!」


 今のはアルヴェルが素直すぎて愛おしい、という意味のかわいいだ。


 徐にアルヴェルが頭をぐいと近づけてきた。


「?」


 アルヴェルの目がじっとモーラを見つめ、何かを訴えている。この状況から考えて、答えはひとつしかないだろう。


 顎の下に手を伸ばし、手のひらでアルヴェルの頭を包むように撫でた。そのまま腕の中で毛並みを確かめるように何度も手を動かし、最後はたまらずぎゅっと胸の中に抱いた。


 ああ、幸せ。


 2人は同じ気持ちだ。

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