第3話 ずっと好きだったらしいです
「初めてお目に掛かります、アルヴェル国王の伯父でレガース領主を務めております、マルク・レガースでございます。」
昨夜はアルヴェルの配慮により、到着後の親族との挨拶を省き、モーラは早々に休んだ。今日は城に居る親族にお茶に招待されている。
マルクはアルヴェルの父、先代国王の弟である。
「マルク伯父様には昔から色々と世話になっているんですよ。今回も、首都の王宮から忍びで来られたのは伯父様の協力があっての事なんです。」
モーラはたまに相槌を打ちながら2人の話を聞く事に徹した。不要な発言をしない事が、すなわち安全に繋がると考えての事だ。
そうしていると不意に部屋のドアがノックされ、アルヴェルの側近であるラドが入ってきた。
「お話し中すみません。国王陛下に王宮から使者が来ています。少々お時間をいただけますか?」
アルヴェルは渋々といった様子で部屋の外へ出て行った。
2人きりになると、緊張で更に小さくなるモーラとは反対に、マルクは待ってましたとでもいうように話を始めた。
「いやあ、アルヴェルが自らレガース東端まで来るとは思いませんでしたよ!」
マルク伯父が豪快に笑いながら言っている。
「わ、私も驚きました……」
「そうですよなあ!ここだけの話、アルヴェルはこの結婚をとても強く望んでいましてなあ。アルヴェルは敵対ではなく、フォレガドル王国との同盟を目指していましたし、それを抜きにしても……いや、むしろ同盟よりも、誰でもないあなたをお嫁さんとして迎えるのが嬉しくてたまらなかったんでしょうなあ!」
「そう、だったのですか……?」
「そう。だからそんなに縮こまっておられなくても大丈夫です!」
またも大声で笑うマルクに、その後ろから咳払いをして現れたのはアルヴェル国王。使者を適当にいなし、早々に戻ってきたようだ。
「伯父様。私の妻に何を吹き込んでいるのですか。」
「おっと!思いの外早く帰ってきおった!何を隠そう、お前がモーラ様をかねてよりお慕……」
「お、伯父上!!そこまでです!!!!」
アルヴェルが目にも止まらぬ速さで伯父の口をふさいだ。アルヴェルは顔を赤らめてモーラと目線が合わないようにテーブルに視線を落とし、気まずそうにはにかんでいる。
「お慕い…?」
「あ、ああ、モーラ様!その話はここまでで…時が来たら全てお話しますから……!!私にも心の準備をさせてください!!」
必死の形相のアルヴェルの勢いに押され、モーラは頷くしかできないのだった。
(ひょえー!!!やっぱりアルヴェル様はモーラ様を歓迎しておられたんだ!!しかも昔からお慕いしていた、って…!!)
後ろで控えるオリーヴは一人、身悶えしそうに興奮しているのを必死で我慢していた。
◇◇◇
兼ねてより打診を検討していた、フォレガドル王国への縁談話。昔からアルヴェルの側近として育ってきたラドは、アルヴェルから飽きるほどモーラについて聞いていた。
元来よりのアルヴェルの朗らかで素直な性格に加え、兄弟のように育ってきたラドは次期国王のよき友人でもある。
「そんなに気になるのなら手紙のひとつでも送ってみたらよろしい。」
18歳で成人してからというもの、アルヴェルは各国の王族や名のある貴族から山のように届く縁談を全て断り、国政を担う者達は皆頭を抱えていた。当の本人、アルヴェルはどこ吹く風、「心に決めた人がいる」の一点張りである。
この数年、大臣達は大急ぎでフォレガドル王国との国交を回復するために奔走した。
少しでも信頼され、『心に決めた人』とアルヴェル国王が結婚できるよう尽力したのである。
それなのにこの国王は。ラドの溜め息は日に日に増えるばかりだ。
「もう輿入れの日取りも決まったのですから……」
「モーラ王女の負担になりたくない……」
この期に及んで手紙を一通送るのも一苦労する始末である。
「よし!私が国境まで迎えに行こう!!」
「はあ!?!?」
一体どういう思考回路で手紙から飛躍したのか、主人の突拍子もない発言にラドは苦悩した。2週間もの間、考えを改めるように説得したのだが、結局徒労に終わり、今日に至ったのである。