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第22話 国王夫妻は町を散策する


新年の幕が開け、祝いの雰囲気も緩やかに普段の喧騒へと変わっていた。


ハバルナ王国の城下町は城を囲むように円形に広がっており、城へと続く大通りを中心として東と西の地区に分かれている。

西側は主に食品や生活用品を売る市場、東側は建築関係や金属加工の工場などがあり、職人たちが住む地帯となっている。


モーラ一行は、城下町西側の賑やかな市場エリアに来ていた。


「うわあ、すごい人!」

「はぐれないように」


オリーヴはキョロキョロと辺りを見回して、あらゆる物に目を奪われている。隣を歩くラドは今にもオリーヴの首根っこを掴みそうな心配顔である。


「モーラ、私たちもはぐれないように手をつなぎましょう」

「はい」


アルヴェルはモーラの手をきゅっと握った。

モーラも握り返すと、目深に被ったフードの隙間から、ちらりと覗くように周りの露店を流し見る。


野菜と果物が並ぶ店の前で、搾りたてのジュースを売っている。


「アルヴェル、あのジュース飲んでみませんか?」

「目の前で作ってくれるみたいですね!行きましょう!」


4人分の注文を済ませ代金を払うと、店主のおやじが果物をわっしと掴んだ。


「うちは搾りたてだからね」


冬なのに半袖を着ているおやじは、熊の獣人らしい自慢の剛腕を4人に見せつけ、


「フンッ!!」


りんごを素手で砕いて見せた。そのまま容器に果汁と果実をぶち込み、ほらよ!とモーラに差し出した。

モーラはぽかん…と口を開けてあっけにとられている。

おやじは構わずモーラの手に容器を握らせ、次は梨を手に取って、同じように粉砕し、オリーヴに出来立てジュースを差し出した。


さて次は兄さん方の分、と店主が準備にかかろうとする。


「…ラド…」


アルヴェルが何かを訴えるように相棒を見つめる。おやじもつられてラドに視線を向けた。


「うん?おーう!そこの兄ちゃんも俺に負けず鍛えてるみてえだなあ!!」


ほいよ!とおやじがラドにメロンを手渡し、期待の眼差しでニカっと笑った。


「………」


ラドは不服そうにアルヴェルを睨み、溜め息を吐いてから右手にぐっと力を込めた。


「え、えっ?」


横で見ているオリーヴが困惑の声を出している間に、ミシミシと音を立ててメロンが壊れていく。


亀裂が入った所から、美味しそうな果汁が零れ出ている。おやじがはっとしてメロンの下に容器を構えた。


ボキボキッ!という聞いた事の無い音でメロンが割れ、ラドは慌てて売り場の机の上にあった皿にそれを置いた。


「お、おおおおっ!!」


おやじが驚きの声を上げると、周りで見ていた客も歓声を上げ、拍手が巻き起こった。


「兄ちゃん!俺はからかったつもりだったんだが…!!何人か試した事があったがメロンを素手で割るヤツは初めて見たぜ!!」


「え…」


ぶはっ!とたまらずアルヴェルが吹き出すと、モーラとオリーヴもつられて笑った。アルヴェルは特にツボに入ったようだ。


「ほ、ほんとうに、割ると、は…!」


アルヴェルはニヤニヤと笑いながらラドの肩をばしばしと叩いている。


「あなたも私をからかっていたんですか!?」

「本当にすまない…!!」


反省の色なく笑っている主人と他2人を見て、ラドも恥ずかしさとしょうもなさで苦笑した。


店のおやじは既に、「巨漢の男前が割った搾りたてメロンだよ!!」などと観客に対して商売を始めていた。


あんがとなー!!というおやじを後にして、4人はジュースを堪能しつつ散策を続けた。


道沿いの露店は人で溢れ、多種多様な獣人が道を闊歩している。獣人だけでなく、人間の観光客や商人も多く、店を出している者もいた。


人混みに慣れていないモーラのため、4人は町を見下ろす高台で休憩する事にした。

高台にはただベンチと、落下防止の簡単な柵があるだけで、城下町の様子がよく見えた。

風が気持ちよく吹いている。


「…ハバルナ王国は獣人族と人間族で格差などないように見えます」


モーラが言うと、アルヴェルは少し難しそうな顔をして言った。


「ここ百年の事です。もっと昔は人間族を忌み嫌っている者も多かった。……高齢の者の中には、今も距離を置いている獣人もいると思います」

「…そうですか……」


モーラと同じように町を眺め、アルヴェルは続ける。


「ここ城下町市場では、交易も盛んです。それだけ他の地域の文化にも触れる機会が多い。だから獣人・人間の間の隔たりも少ないです。……逆に、閉鎖的な田舎の地域では、他者への寛容さが育まれにくい。」


それにはモーラも心当たりがあった。

閉鎖的な環境……つまり、モーラが生まれ育ったフォレガドル王国の王宮。自分たちが選ばれた人間であるかのように高圧的に振る舞う王族たちは、今のモーラとアルヴェルのように町へ出かけて、民と交流する事など人生の中でたったの一度も無いだろう。これまでもそうだし、これから先も。


「……なんて寂しい事…」

「……! ……本当に、そうですね」


賑やかな町と、それを形作る市民を、国王夫妻は長い間見つめていた。



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