第21話 銀狼の国王に溺愛されて、幸せです
ボロボロと泣いて嗚咽の止まらなかったモーラはアルヴェルに優しく背中をさすってもらって、なんとか呼吸を整えた。
下働きの者が食堂に駆け入って来て、ラドに耳打ちした。
「…たった今フォレガドル国王夫妻が城を出たとの事です」
報告を聞いたラドが、アルヴェルに言う。
「ああ。……報告ご苦労」
下働きに目を合わせてアルヴェルが言うと、その男も慌てたようにお辞儀をして、自分の持ち場へ帰って行った。
「モーラ…、落ち着きましたか」
「は、い、……すみません、……」
「大丈夫。よかった、守れて」
そう言ってアルヴェルはモーラの額にキスを落とした。
◇◇◇
モーラを休ませようと、2人は食堂から直接寝室へ向かった。
ベッドに腰かけると、モーラがまた謝る。
「…す、みま、せん……わたし……」
「モーラ、謝る事なんて何もなかったですよ」
「でも、私のせいで国交が…」
「ちがいます。モーラのせいじゃない。私の言葉を聞いていたでしょう?」
「でも…」
はあ、とアルヴェルが息を吐き、また吸い込んだ。
「あのですね、私は正直スッキリしました。モーラをいじめる奴なんて仲良くしたくないですからね」
それに、とアルヴェルは尚も続ける。
「外交の問題も解決済みです。フォレガドルはここ何十年、ほとんど成長の止まった国なんです。貿易の質も下がり、経済状況も悪くなっているはずです。国交を失って困るのはフォレガドル王国だけです。」
「民衆は…」
「ハバルナ王国では他国からの移住を積極的に取り入れていますし、もともと国民からの貿易は止めるつもりもありません。本当に困ったらいつでも民を迎える体制はできています。隣接するレガース領では実際に何万人も受け入れていますよ。……フォレガドル王国の現国王は辺境の政治には関心がないようですしね」
モーラはすらすらと出てくるアルヴェルの言葉をぽかんと聞いていた。
フォレガドル王国の教育係に聞いていた話とはまるで違う。
おそらくモーラには自国の良い情報を吹き込んでいたのだろう。
なんてつまらない国政だ。
そう思うとまた涙が出てきた。
何も言い返せなかった自分が情けない。
幸せに慣れて少しの嫌な事でさえ涙が出て、自分を不幸にまで感じて。
「…っ私は、何も言い返す事ができなかった…!今の生活に慣れて、ただ幸せだと……!!私は、よわく、なって…!!」
隣で手を握ってくれていたアルヴェルが、手を離した。
次の瞬間、体をぎゅっと包み込まれた。
アルヴェルの心臓の音が聞こえそうな、いや、本当に聞こえる……。
どくん、どくんという音は自分から鳴っているのか、密着したアルヴェルから聞こえるのか……
「モーラ。弱くなったんじゃない。ちゃんと、幸せを感じられている証拠だよ」
頭のてっぺんがちょうどアルヴェルの喉下、胸の上の方にあって、彼が喋ると低い振動と共に声が降ってくる。
いつもの大きな体にフワフワの毛じゃないのに、なんでこうも熱いんだろう。
「アルヴェル……大好き……ありがとう……」
今日はこのまま、寝てしまおう。
疲れた心と体を全部彼に預けていいのだから。
◇◇◇
「うわっ!!こらァッ!!!」
窓の外から聞こえる大きな声にはっと目を覚ます。
「な、なんだ」
隣で獣の姿に戻っているアルヴェルも目を開いて耳を立てている。
「あははは!!」
「オリーーーーヴ!!!」
窓から聞こえる声はどうやらラドとオリーヴのようだ。
2人でカーテンを開けて窓の外を見ると、一面が銀世界だった。
昨晩は大雪だったようだ。この冬一番の積雪になっただろう。
「いつもの指導のお返しです!!!」
「恩を仇で返すやつがあるか!!!」
「ほんとは楽しいくせにー!!!」
絵に描いたように雪合戦をしている2人。虎の巨体に雪玉を当てるのはさぞ簡単だろう。大きい的に大きい反応。オリーヴの餌食である。しかし次の瞬間、オリーヴはラドに捕獲された。
「ぷっ」
隣で同じようにアルヴェルが笑って、開けた窓から大きな声で叫んだ。
「おーい!!オリーヴもっとやれーー!!」
モーラはたまらず、声を出して笑った。




