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第18話 冬の雷光


王宮の庭木に雪がうっすらと乗っている。

もう冬も本番で、朝晩の冷え込みは厳しくなっていた。

モーラは冷たい指先をこすり合わせ、はあ、と息を吹きかけた。


いつものように昼食を摂るため、食堂へ向かう。すると、モーラの目の前に見慣れた後ろ姿が見える。

ゆらゆらと揺れる銀色の尻尾が、窓からの陽の光を受けて輝いている。

モーラは愛おしいその銀色に飛びつくように駆け寄った。


「アルヴェルさんっ」


呼び止められた国王は振り向くや否や笑顔になる。


「モーラさんっ!!」


太陽のように明るい、まっすぐな笑顔は、国境でモーラを迎えたあの日から少しの曇りもない。


結婚式典が行われた日をきっかけに、城内の人々は変身薬を飲むことをやめ、ほとんどの者は獣人特有の獣を色濃く残した姿でいるようになった。

もちろん国王であるアルヴェルもそうで、美しい毛並みを惜しみなく披露している次第である。


「今日は寒いですねえ」


言いながら、モーラは夫の手を取った。フワフワの毛がモーラの手を包み返す。


「モーラさんは寒いですよね」


やはり毛の長い獣人たちは人間より暖かいようで、城内ではまだ秋の装いの者を見かける事もある。

アルヴェルの温かい手で暖を取っていると、後ろから人が来る気配がした。


規律正しい、重厚感を感じる足音。それと、聞きなれた軽い足取り。2つの足音が国王夫妻に近付いていった。

近くまできて、モーラの何センチも上の方から声が発せられる。


「ごきげんよう、陛下。王妃殿下。」

「モーラ様~!今日のお昼ご飯はなんでしょうねーー!」


間髪入れずに明るい聞きなれた声が続く。大柄な虎の背後からひょこっと覗き出るように、モーラの親しい友人が飛び出てくる。


いつかの昼食タイムから恒例になっている、4人での食事。今日も揃い、食堂で席に着く。談笑しながら美味しい料理を食べ、モーラは変わらぬ幸せを噛みしめた。



◇◇◇



その日の夜、初冬特有の雷雲が冷たい雨を伴って城内に轟音を響かせていた。


「ワ゛ーーーッ!!」


モーラがアルヴェルを待つ寝室で、灰色の猫は震えていた。

雷光がカーテンの隙間からでも眩しいくらいに瞬き、ゴゴゴ、という地鳴りのような音は椅子を揺らすほどだ。

モーラは怖がる猫を抱き、ふう、と溜め息を吐いた。


(アルヴェルくん、今日は遅いなあ……)


2人の距離は縮まり、モーラは心の中では国王に『くん』などと呼びかけるようになっていた。


猫を撫でながらアルヴェルを待っていると、すぐに足音が聞こえてきた。

寝室の扉が開き、愛する人が入ってくる。

……と、モーラはアルヴェルが浮かない顔をしているのに気付いた。


「……? アルヴェルさん……?どうしました……?」

「……それが……」


モーラはアルヴェルを向かいの椅子に座らせ、心配そうな顔をして彼の言葉を待った。


「……フォレガドル王国の、……モーラさんのご両親が、ハバルナに来るそうです……」

「え……」


(お父様とお母様が、来る……?)


それを聞いたモーラは一瞬で表情を暗くした。

みるみるうちに顔色を悪くするモーラに、アルヴェルはいたたまれない気持ちになり、次の言葉を継ごうとする。

励ます、あるいは慰める……浮かんでは消える言葉は、ついぞ口を出ることはなかった。


モーラは少し後、俯いていた顔を上げ、アルヴェルを気遣い「そろそろ寝ないと」、と言い、ふらふらとベッドに向かった。


「おやすみなさい、モーラさん…」

「はい、おやすみなさい。…また明日」


どんな言葉を投げかけても、ただの言葉にすぎないと、アルヴェルは何もできない自分に腹が立った。

過去を変えることはできないし、モーラの内から湧き上がる嫌な記憶を消してやることはできない。


それでも。


アルヴェルは隣に横たわる力のない妻の、いつも自分より冷たい手を握った。

いつもより優しく、そして力強く。「私がいますから」と、言葉ではなく行動で示す意味を込めて。


モーラは、アルヴェルが何を考えているのか感じたのだろう、力は弱いが、確かに手を握り返していた。

自身の頬を伝う涙が温かい事が、夫への信頼を示していた。



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