第17話 猫股…ってそういう意味ではないですよね?
「えええーーーーーー!?猫!?猫だったんですか!!??」
「うるさい娘っこだにゃあ!?」
「わーーー!!喋った!!」
「モーラ!なんだこの騒がしい娘は!!」
驚きが波のように押し寄せているオリーヴに静かにしろと言うのは無理がある。
「私の親友で侍女長のオリーヴでーす」
モーラの後ろに隠れるように灰色の毛玉が揺れ動き、オリーヴはそれを追うようにすばしっこく左右に動いている。
まるで猫が増えたようである。
オリーヴのオレンジがかった茶色い髪がモーラの足元をウロチョロしていると、約束の時間通りにラドが扉を叩いた。
「入りますよ」
「はーい」
ラドの声に気を取られた猫の隙をついて、オリーヴが猫を捕らえた。
部屋に入ってきた上司に、オリーヴが言う。
「ラドさん!捕まえましたー!!ほら、すごいですよ、モフモフで!!」
「こら!オリーヴ、猫を持つ時は下も支えなさい!!」
「分かってます!!」
モーラは微笑ましいと言いたげな様子で2人を眺めていたが、それに気付いた大きな虎の獣人はゴホン、と咳払いし、オリーヴに言いつけた。
「その子の足や体、汚れているので洗います。連れて行きなさい」
「に゛ゃ!?水嫌にゃ!!」
ギロ、と自身より大きい獣に睨まれた猫はそれ以上逆らうのをやめ、静かに風呂場へ連行された。
◇◇◇
「嫌にゃ!嫌にゃ!!濡れたくないにゃああああ!!」
風呂場に入ると猫は大変な抵抗を見せる。
抱かれているオリーヴから逃げようと手足を動かし必死である。
その隣で何やら黙々と作業をしていたラドが、こちらへ、とオリーヴに声をかける。
「なんですか?これ」
オリーヴがラドの準備していた物を見てみると、大きめのたらいがあり、その中にかなりぬるいお湯が入っているようだ。
「猫は熱すぎても冷たすぎてもダメらしい。ぬるい温度に調整して、このたらいに入れれば溺れることもないし良いだろう」
「にゃんこ思いなんですねえ~」
後ろからついてきていたモーラがたらいとラドを見てにっこり笑っている。
「あ、当たり前です。生き物を育てるという事はそういう事です」
言葉の割にモーラから目を逸らして照れている…のだろうか、あまり顔に出ないのでよく分からないだろうが、たぶんそうだろう。
「ラドさんってお父さん感強いですよね!あれ?でも結婚はしていなかったんでしたっけ?あ!もしかしたら国王陛下みたいにずっと好きな人がいるとか!?」
マンツーマンの側近指導を受け、オリーヴとラドはだいぶ距離が縮まったようだ。少し前まであんなに怯えていたというのに、さすがオリーヴといったところか。
モーラがチラと黙っているラドを見ると、ラドは目を細め眉間の皴を深くしてかわいそうなものを見るような表情をオリーヴに返していた。いつもの光景にモーラはさらに顔を綻ばせた。
「…じゃ、お湯に入れますよ~」
オリーヴが猫をそっとお湯に下ろす。
「ミ゛、ミ゛ニ゛ャ~」
灰色の毛玉の足毛が面白い程ぺしゃんこになり、ボリュームが半分以下になった。
と、なぜか猫が急に静かになる。
「?」
3人が猫をのぞき込む。
「ン゛~!いい湯にゃ~~!!初めてあったかい水に入ったにゃ!!これはなかなかだにゃ~~」
「あんなに嫌がってたのに!」
「石鹸もつけますよ」
お風呂を気に入った猫は、シャンプーとリンスもしてもらい、上機嫌で浴場を出た。
乾かした後、毛がフッカフカになったので、猫はオリーヴとモーラに1日中モフモフされたのだった。
◇◇◇
初雪が降り始めた夜。灰色の猫はベッドでくつろいでいた。
温かい人間の足の間に入り込み、丸まっていい気分である。
「……で、なんで私の上なんだ」
「寝相がいいからにゃ。モーラよりあったかいしにゃ。」
「いいな~!アルヴェルさん!!」
アルヴェルはやけに温かい股の間に違和感を覚えながら眠るのだった。




