第13話 国王は東方兎妻がお好き
王宮の手入れされた庭木に雪よけの屋根や、枝の保護のための雪吊りが施される。
庭師や下男たちが寒空の中せっせと働いていた。
「モーラお姉さま、これを見てくださいな。」
シェリーナはモーラに、布の塊を渡した。
「わ、すごいボリュームね。」
「お洋服ですのよ」
モーラは言われるままに布の塊を広げ、目の前にそれを掲げた。
分厚い綿が仕込まれた、いわゆる半てんだ。
「見慣れないデザインね」
「先日の極東への視察で買ってきたものですわ。寒い冬にこれを着て、コタツという暖房器具を併用するととても暖かいそうですわ!」
モーラは半纏半纏をドレスの上から羽織った。
「……ドレスには、合わないのですよねえ……。」
「大丈夫。一人で部屋にいる時なら問題ないわ。」
もこもこで気に入ったわ、とモーラは付け足して、2人はその日のお茶会を終えた。
◇◇◇
アルヴェルはモーラの半纏に興味津々だ。
こんなに綿の入ったモコモコの服を見たのは初めてだった。
「温かそうですね…!!さらにこれにコタツなるものを併用するともっと温かくなると!!」
「そうらしいですねぇ~。アルヴェル様も寒いのは苦手ですか?」
「はい……体が動かしにくくなるのが嫌です。コタツについては、何か聞きましたか?」
「東方の国ではテーブルと椅子ではなく、ローテーブルと床に厚い敷物を引いているらしいです。そのローテーブルに半てんと同じようなものをかぶせて、ローテーブルでは火を焚くんだそうです。」
「んん……?床に…?」
「シェリーナさんも直接見たわけではないと言っていましたね。」
まだまだ知らない事がたくさんあるんだなあ、とアルヴェルが呟いた。
「それと、」
モーラは半纏のポケットから手のひらに収まる大きさのオレンジ色のものを2つ出した。
「柑橘系の果物……ですか?」
「はい。これもシェリーナさんが持ってきてくれました。みかんと言って、手で外側の皮をむいて……内側の白い筋も食べられるそうですが、気になるので少し取りますね。……はい、アルヴェルさんの分。」
2人でみかんを口に入れた。
「すっぱ!!」
「甘っ」
アルヴェルは顔をしかめている。反対にモーラは目を輝かせて手の中にある残りのみかんを口に入れた。
「モーラ様!そんなに美味しいなら私もそっちを食べてみたい……」
「んー…だめです…」
そんな……。と言いつつも素直にすっぱい方の残りのみかんを食べようとするアルヴェルに、モーラは冗談でもダメと言ったのをかわいそうに感じ、すぐに甘い方のみかんをアルヴェルの口に入れてやった。
「!!」
「ふふ、甘いですよね」
「こんなに甘い柑橘類があるんですね!!」
「フォレガドルやハバルナで食べている料理とは全く違うような食べ物がたくさんあるらしいですよ」
「いつか旅行に行きましょう!!ラドやオリーヴも連れて」
東方の国に行ったら何をしたいか、何を食べたいか……2人は知っている情報を出し合って、未知の国に想いを馳せた。
◇◇◇
アルヴェルがモーラに詰め寄る。
「モーラさん!!私は気付いてしまいました…!!これを!!」
アルヴェルはモーラに、半纏を突き出した。
「これとこれ!!合うと思うんです!!」
今日モーラが寝室で着ているのはフェイクファーの服で、アルヴェルは持っている半纏を羽織らせた。
「やっぱり……!かわいい……!!」
アルヴェルはご機嫌に兎カチューシャをモーラの頭に着け、盛大な拍手を贈った。
後日、シェリーナの元には珍しい織物と高級な菓子が国王から届けられたのだった。
「ふふ…さすが私の兄夫婦ですわ…」
シェリーナの手のひらの上である。




