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第1話 国王が迎えに来ました

 

「モーラ様、レガース領に入ります。」


 長旅で土埃にまみれた護衛が言う。

 モーラはこれから、獣人の国へ行く。


 レガース領は隣国のハバルナ王国の領地だ。

 モーラの出身、レガース領からこちら側はフォレガドル王国。獣人は滅多に見かけない。


「い、いよいよですね…。」


 ただ一人、連れて行くのを許された使用人、オリーヴが言う。下働きの女性という訳ではなく、モーラにとっては唯一の友人でもあった。


「……! オリーヴ、窓の外を見て」

「…? あ、迎えが!?」


 見え見えの政略結婚…もとい厄介払い。ハバルナ王国が、国境まで迎えを寄越すのは誰も想定していなかった事だ。


「こんな国境付近に迎えを来させるなんて、フォレガドルの偵察を兼ねているのでしょうか……?」


 オリーヴは真剣な面持ちで呟く。


「…そうでしょうね……。」


 ハバルナ王国は比較的近代にできた国である。フォレガドル王国で奴隷として生きていた獣人の民が決起し、やがて小さい規模ではあるが国となった。

 それから幾年月が流れ、当時を知る者は居なくなったが、両国が睨み合う仲は未だに続いている。


 モーラとオリーヴが乗った馬車に、ハバルナ王国の伝令兵だろうか。武装をしていない男2人が駆け寄る。フォレガドル王国の伝令兵と護衛が、受け答えをしている。


「モーラ様、私が先に話してきます。」


 オリーヴは唯一の使用人らしくモーラを気遣った。


「う、うん、お願い。」


 オリーヴが馬車の扉を開け、降りていく。窓の外から、オリーヴが「任せてください」というように頷いた。モーラも力無げに頷いて見せた。

 オリーヴが向かう先には先程の伝令兵と思しき2人が待っており、オリーヴを見ると丁寧に一礼し、二、三言葉を交わした。

 しばし後、3人はまっすぐにモーラの乗る馬車に向かってくる。先頭に立つオリーヴが真っ青な顔で馬車の扉を開けた。


「モ、モーラ様…その……。」


(どうしたの…?)


 そんなに怯えた様子を見るのはお城を出た日以来だ、とモーラは思った。目線をオリーヴの隣に動かすと、伝令兵がフードを外し、挨拶をした。


「初めてお目に掛かります。ハバルナ国王、アルヴェル・レガースと申します。」



 国王…?

 いくら小国といっても隣に並ぶ大国、フォレガドル王国の侵攻を防ぎ続け、昔から国家として存続し続けている国の、王……。その人本人が国境にまで来るとは如何なる事態か。


 戦争。


 その2文字がモーラとオリーヴの頭に浮かび、深刻なまでに脳内を支配していった。




 ◇◇◇




「だから言ったでしょう陛下。相手方を混乱させてしまうと……。」

 伝令兵もとい国王が乗ってきた馬車に移動し、その中は国王であるアルヴェル、その側近ラド、そしてモーラ、オリーヴの4人になった。

 オリーヴは、「一緒に馬車には乗れません!」と引き続き真っ青な顔で乗車を拒否したが、モーラが無理を言って引き入れた。モーラとて、国王とその側近と3人で居るのは無理というものである。


「……改めて、自己紹介をしますね。ハバルナ王国、国王のアルヴェルと申します。……こちらはラド。」


 ハバルナ王国の現国王が、隣に座る巨躯の側近を指し示す。モーラとオリーヴがフォレガドル王国から乗ってきた馬車より、今乗っている馬車の方が一回り大きいのだが、それでも天井に頭がぶつかりそうな程の恵まれた体格だ。ゆうに190センチはあるだろう。厳格そうな佇まいで、表情も、穏やかなアルヴェル国王とは違って固い。


「陛下の側近を務めております。ラドと申します。」


 柔和なアルヴェルがオリーヴに次を促し、オリーヴが恐る恐る口を開く。


「わ、私はオリーヴと申しますっ!モーラ様…、王妃殿下の身の回りのお世話をさせて頂いております!」


 オリーヴも膝に頭が付きそうな位のお辞儀をした。一仕事終え安堵が見える。続いて、モーラも自己紹介をした。


「…私は、フォレガドル王国の第一王女…モーラ・テーネルドと申します。この度は国王自ら国境まで迎えに来て頂き、心より感謝申し上げます……」


 名乗るだけの自己紹介が終わり、馬車という王族同士の初対面の場としては異質な状況に、改めて緊張が走る。


「このような場所で初対面となること、申し訳ありません。……ですが、どうしても、自分の妻となる相手は自分で迎えたかったのです。驚かせてしまった事、重ねてお詫びします。」


 アルヴェルが丁寧に謝罪する。頭を下げる国王を目の前にして、モーラは少し冷静になった。出会い頭の衝撃でパニックになっていたが、よく考えるとモーラにとっては婚約者であり、自身は大国の王女である事は確かなのだから、一応は胸を張っておくべきなのかもしれないと思った。

 眩しいほど容姿の整ったハバルナ国王を、気合を入れて正面から見据えた。


 獣人。獣の性質を色濃く残した種族。耳と尾、そして逞しい身体。嗅覚や聴覚に優れ、数の少なさから奴隷として長く抑圧されていた過去がある。

 知っている。アルヴェルとの結婚が決まってからのこの2年、宮廷付きの家庭教師に叩き込まれた。王族である以上、いくら邪険にされていても、国家の政治や軍事に関しての知識は厳しく教育される。国の威信のために。


 モーラは狭い馬車の中、向かいに座る2人を観察した。宮廷の教師や本で学んだ、獣人の特徴と違う。アルヴェルは、長く艶のある銀髪を肩の下あたりでまとめている。極めて端正な容貌は、誰が見ても「美しい」と言うだろう。

 ラドも隣に居て違和感のない非常に男らしく整った顔立ちで、2人との初対面があんな風でなければ、違う意味で身構えていた事は間違いない。


 フォレガドル王国で学んだ『獣人』は、まさに獣が二足歩行しているような体格。モーラと向かい合う2人の姿は、どう見ても自分と寸分違わぬ人間族のそれである。


 モーラとオリーヴの困惑は更に深いものとなっていた。


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