【第二話】突然タコと出会った日②
「あの、タコってどういうことですか?」
僕は目の前にいるタコっぽい女の子にそういった。
「読んで字のごとくですよ、タコ、蛸です。私タコなんです」
言っていることが分からない。私タコですってなんだ?
猫や犬と人間の混血である獣人は聞いたことはあるが、そのようなものなのか?そう聞いてみた。
「いいえ、私はタコそのものですよ。ただ魔法の力で人型になってるだけです」
...そういう事らしい。
「よくわかんないけど、あとで色々聞くから。 少し奥の客間で待っていてくれるかな?」
そういって作業場の奥を指差し、女の子を誘導した。
女の子は少し不満げな顔をしたが、「話したいことがあるので早めにお願いしますね」と言っていう通りにしてくれた。
今は時間がない。
大切な刀を作るために、練習品とレプリカを何本か作っておきたかった。
どちらも5本くらい作るとして、一本作るのに8日ほど。
納品予定日には半年くらいの時間の余裕があるが、万が一のことも考え早めに作っておきたかった。
あらかじめ作っておいた鋼を取り出し、溶かすために窯に入れる。
十分に加熱し取り出す。
そして、槌を振り上げ鋼を叩いた瞬間だった。
『ヌッチョリ』
さっき鋼を叩いたときと同じように、水っぽくネバネバで、柔らかい感触が伝わってきた。
なんだ? と思い鋼を見ると
『にゅるん』
また、鋼からタコの触手が出ていた。
「イィヤァーーー!?」
再び、喉が引き裂けるくらいの悲鳴を上げた。
なんでだ!? なんでいきなり鋼がタコになるんだよ?
今目の前で起こっていることに困惑し、頭を抱えていると
悲鳴を聞きつけた女の子が客間から飛び出してきた。
どうしたんですか? と聞く彼女に何が起こったかを説明すると、女の子はいたって冷静に僕に話し始めた。
「いいですか、信じられないかもしれないですけど聞いてください。あなたは今、刀を打とうとすると、打った刀がタコになる呪いにかかっているんです」
は? という感想が初めに出てきた。
この子は何を言っているんだ? と思ったが、彼女の真剣な表情を見て「もしかしたらそうなのか?」と思い
僕は再び鋼を取り、窯に入れ、槌で勢い良く打った。
すると
『ヌッチョリ』
打った瞬間タコの足が生え、見る見るうちに鋼が本物のタコになっていく光景があたりに広がっていた。
何度も試した、が、どう試そうと鋼がタコになるばかり。
試しすぎたせいで、いくつも用意していた鋼がすべてなくなり、いつの間にか作業場がタコで埋め尽くされていた。
「ね? 言ったでしょう?」
これは...、
刀鍛冶として独立してから早5年、いま最大のピンチにいることに気が付いた。
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